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【イントロダクション:真実への扉】 あなたは、改方高校をご存知ですか? ・・そう、服部平次君と遠山和葉ちゃんが通う高校です。 この学校、実はとんでもない秘密があるんです。 そして、和葉ちゃんはどうやらアクシデントに巻き込まれてしまったようです。 どうやら、改方高校ならではの事情が絡んでいるようです。 果たして、和葉ちゃんに何が起こったのでしょうか? *登場人物紹介 ・服部平次 大阪を代表する、高校生探偵。改方学園2年生、当時17歳。 ・遠山和葉 服部平次の幼馴染。気の強さと行動力では天下一品。平次に片思い中。 ・桜井菜穂 平次や和葉の同級生。放送部部長で、和葉とは幼稚園の頃からの知り合い。 おおらかな性格で、和葉たちを温かく見守ることが多い。 【ある嵐の金曜日19時57分、和葉の部屋】 「最後にもう一度だけ確認するね。今日の20時、あと3分やからね。」 「わかっとるって、菜穂。」 最後といいながら、これで5回目の確認だ。相づちも段々いい加減になってくる。 「しつこいのわかっとるけど、これまでの和葉見てたら心配なんやもん。」 「大丈夫やって、任しとき。」 「そうか・・。OK、じゃあ後はがんばってや。全て、あんた次第なんやからね。」 「はいはい。」 思わず苦笑してしまう。同級生なのに、なんだか子ども扱いされているみたいだ。 「じゃあ結果が出たらすぐに教えてや。」 「わかりました、桜井大センセー。」 「大センセーは余計やって。じゃね。」 「じゃあね。」携帯を切る。 (ハァーーッ・・・・。)彼女は思わずため息をついた。 きっかけは本当につまらない事だったのに。 なのに今、自分の部屋で、自分の携帯を眺めながらすごく落ち着かない気分になっている。 「あと3分かぁ・・。」もう一度部屋の時計を確認する。 答えがわかる。その事実は、ただただ静かに私をぎゅっと締め付けていた。 あと3分もこの緊張に耐えなきゃいけないし、 あと3分しか、答えは待ってくれないのだから。 さあ、残された猶予はあとわずか。今のうちに心の整理をしておこう。 何があっても良いように。そして、何の悔いも残さないために・・・。 和葉は、もう一度今日の出来事をを思い返すことにした。 【同日8時25分、寝屋川市改方高校】 ガラガラガラ。 教室のドアを開けて、まだ空気の冷たい室内をざっと見渡す。 「やっぱり今日も私が一番乗りか・・・。」 ちょっと重たいカバンを置いて、私はいつもの日課を始める。 学校の教室に一番乗りして、友達が来るまで一人小説を読む。 これが、最近はじめた和葉の日課だ。 授業前の良いウォーミングアップにもなるし、習慣になっている。 最近は”ソフィーの選択”がお気に入りで、 薄っぺらいカバンに無理やり詰め込んで読み進めている。 と、そこへいつもの足音が・・・。 「和葉ーっ、おはよう!!!」友人の桜井菜穂である。 「おはよう、菜穂。」顔を上げ、彼女の顔を見る。 菜穂とは幼稚園からの付き合いだから、顔を見れば何があったかすぐわかる。 「菜穂、楽しめたみたいやね。彼氏とのおデート。」 「おかげさんでバッチシ!!!」どんなもんだとVサイン。 「な、案外バカにできないやろ?昨日言うたこと。」 「私、もうホンマにビックリしたわ。あんなんで彼の機嫌直ると思わんかったもん。」 「やっぱり効果あった?」 「てきめん。仕事が一段落ついたら、どっか旅行でも行こうかって。」 そんな大げさに喜ばれても困るんだけどね。 ”仕事で煮詰まってそうな時は、余計なことを聞かず放っておいて”って言っただけやから。 「男って、なんか一人になりたいときがあるんやって。仕事がらみやと特に。」 「和葉は、ホンマこういうの詳しいよね。」菜穂、感心しきり。 「へへっ、まーね。」まさか、母からの受け売りだとは恥ずかしくていえない・・・。 こんなバカバカしい会話をしているうちに、バレー部の朝連のメンバーが合流。 そして、35分に予鈴がなる頃にはほとんどのメンバーが教室にスタンバイ。 まあ平次は今頃、正門前の”心臓破りの坂”をダッシュしとるんやろなぁ。 いつもの教室に、いつものメンバー。 今日の学校も、これまでと同じように楽しく始まった。 そしてこのまま一日が終わるはずだった。あの昼休みのミスさえなければ・・。 【同日12時25分、高校の学生食堂】 「あっ、今日のオススメってなんか美味しそうちゃう?」 「アラビアータか・・。そういや最近食べてないし、面白そうやね。」 「それにしても、まさかうちの食堂でパスタ食べれるなんて信じられへんわ。」 「そら言えてるわ。」一緒に笑い出す。 思い出すのは1年前。この学校に入学した直後のことだ。 コードがむき出しの蛍光灯に、うちっぱなしのコンクリの壁。 一緒にゆでたせいか、そばの味が微妙に薫るキツネうどん。 数少ない貴重なアンパンに群がる男子。そして、パン争奪戦で最強を誇るあの推理アホ。 「あの服部君の必殺技が見られへんなって、さびしい限りやわ。」 「怖いこと言わんとってや、菜穂。」和葉は顔をしかめた。 ”グランドクロス”・・・。それが平次の必殺技だった。 改方の全男子を絶望に落とし込んだ禁断の技。 あれは、うちの高校にとって最も恐ろしい記憶。 食料めがけてレジに群がる男子高校生約200名。 そして、その群集めがけてアンパンを放り投げるおばちゃん。 当然、アンパンめがけて何百という手がいっせいに伸ばされ、周囲は地獄絵図と化すわけだ。 そんな大混戦を経験して、平次は入学3日目にして必殺技を群集に披露した。 それは、空中に放たれたアンパンを100%の確率で獲得する技だった。 おばちゃんがパンを投げるために振りかぶると同時に、まず左の壁へダッシュ。 パンが放たれると同時に、壁を三角蹴りして天井すれすれまでジャンプ。 アンパンが群衆の手に届く一瞬前に、目標物を空中でつかみ、その勢いのまま食堂の右側まで素早く飛翔。 まさに、某サッカー漫画のゴールキーパーに匹敵する神技だった。 「しかし、全ての戦争は人民の基本的充足によって収束される・・・。」世界史が得意な菜穂が口ずさむ。 「そういうこと。」和葉は、この春からの平和を心から味わっていた。 とある事情のため、あの平次の必殺技は、現在半永久的に封印されている。 実は、うちの高校は去年の春に大改装を行ったのだ。 きっかけは、昨年平次たち悪ガキグループのささいないたずら。 【昨年10月、改方高校文化祭直前】 去年の秋、和葉のクラスは文化祭の出し物で迷っていた。 当時クラス委員だった和葉たちは、あいにく事件で忙しかった。 そのため、出し物にほとんど手間を避けなかった。 文化祭3日前になっても、まだ企画会議を行う始末。 せっぱづまった平次たちは、ある無謀な賭けに出た。 それは突貫工事の展示。テーマは・・・「ギャンブルの愚かさ」。 ある人は確率論のポスターを書き、別の人は賭博で身を崩した大富豪の逸話を描いた。 そして平次たちの班は・・・・なんと宝くじを自腹で購入していた。 「ちょっと平次、そんなんええの?」 「みんなに実物で示すんや。賭け事は身を崩すってな。」 「けど、これって教育上よくないって。」 「心配するなって。」 高校生がひそかに買った宝くじ、一人3千円、のべ1万5千円。 1枚500円だから、購入枚数は30枚。普通なら当たらない、いや当たるわけがない。 しかしその30枚の宝くじの中に、奇しくも”一等前後賞”が混じってしまったのだ・・。 しかも、宝くじを買ったこと自体は高校にばれていたから、もう全校大騒ぎ。 どう考えても、これを生徒達の懐に入れるには金額が大きすぎる。 しかも、文化祭の展示用としての購入なのだから、教育上とてもよろしくない。 ここに1億円をめぐる、生徒、教師、PTAの仁義なき100日戦争の幕が切って落とされたのだ。 【昨年11月、改方高校100日戦争】 戦いは壮絶なものだった。 美辞麗句を武器に、いつもと正反対の笑顔でせまりくる学年主任。 教室の入り口に黒板消しをはさみ、さりげない授業エスケープで抵抗する生徒達。 そして、こんな時だけ学校に足を運んでくるPTAの役員。 教師は苛立ち、うっぷん晴らしに生徒に宿題を乱発。 生徒も苛立ち、高校生なのに胃かいようの患者が続出。 間取りを知らぬPTA役員が、誤って女子更衣室に乱入する珍事も発生。 これではいかんと、さすがに校長も重い腰を上げ、3者の調停へと乗り出したのだ。 当初、中立を保っていた校長の調停により、事態はすぐに収束すると思われた。 しかし、PTA会長の厚化粧に校長が嫌気が指していたことから状況は一変。 よせばいいのに、中途半端に生徒の肩を持ち出したからさあ大変。 生徒対教師の構図は、いつのまにか校長対PTAへと舞台を移していた。 混乱の調停、失敗、そして戦乱の拡大・・・・。 ささやかな希望を踏みにじられた人民達は絶望した。がっかりした。ブチ切れた。学校に来なくなった。 教師は有給とって勝手に学校休むし、生徒は生徒でジャンジャン授業に出なくなるし・・・。 相次ぐ不手際とその連鎖により、改方高校は一気に壊滅寸前まで追い詰められ、 校内にはやりきれない不満が充満していった。 そこで生徒・教師側は協力して、ある調停案を持ち出した。 莫大な額を投じての、学校の改造である。 これなら、生徒も教師も恩恵を受けるし、PTAだって恥をかかずに済む。 「うーむ、わが校もこれからは21世紀なのだな。会長。」 「そうですとも、私達はオンデマンドを基本としての運営が試されるのです!!」 「そうだ、民意あってこその高校なのだ!!!」 「校長っ!!」 「PTAかいちょうっ!!!」 ひしと抱き合う両者、そして仮面のような笑顔で祝福する生徒と教師達。 この最後の停戦交渉こそ、改方高校改造作戦、 別名”プロジェクトX”の第一歩なのだった。 【今年3月、改方高校プロジェクトX始動】 停戦成立から1週間、期末テストの裏で生徒達は計画立案に追われていた。 崩れかけた校舎、ホコリだらけの理科室、穴だらけのグラウンド・・。 ざっと修繕箇所を数えてもかるく1000箇所は超えていた。 しかし、生徒達は燃えていた。 「俺達は負けるわけにはいかない。」 夢と希望とガッツを胸に、生徒達は立案しまくった。 そして、教師達は工事費用を値切りまくった。 そして、3月20日終業式前日に ついに大改造工事第1期が始まったのである。 廊下のペンキは塗りなおし、 グラウンドには各運動部専用更衣室を増設。 果ては野球部用に室内練習場を建設する始末。 文字通り、高校をひっくり返しての大工事が始まったのだ。 もちろん、学生の食生活を支配する食堂もその例外ではなく、 とんでもない額の資金をバックに大改造が施されていた。 まず、かねてから要求の多かった、麺類コーナーのメニューを一新。 うどんとそばとスパゲッティは別々にゆで、別々の皿に盛ることに変更。 しかも、「早い、安い、マズい」で有名なラーメンは、 ネギとメンマの他にチャーシュー2切れが追加。 ついでにコショー容器の穴も1ミリ四方から2ミリに拡大されて、オジサン達も大喜び。 ”聖域なき改革”を旗印に、食堂スタッフの反対を押し切って改革はまだまだ進められた。 男子達の内紛の原因となっていた、パンコーナーも物流・生産体制から一新。 毎朝9時に生徒にアンケートを回し、その結果を受けて全校単位で配給センターにパンを発注。 しかも希望者には、食後のデザートとしてアイスやパフェのサービスまでも開始。 クール宅配便で届けられるその品数は、おばちゃんがリヤカーで運ぶ昨年までをはるかに上回り そして、豊富すぎるその品数は、女子高校生の味覚を満たすに十分な質を誇るのであった。 これが人心を捉えずして何とする!! 配給センターと改方高校長の野望はまだとどまる所を知らず、 現在、携帯電話を用いたネットワークサービスも開発中らしい。 これが実現すれば、生徒や教師は24時間、いついかなる時でも 電話ひとつで優雅なランチタイムを確定することができるそうだ。 つまり、メールに食べたい料理とその品数、更に配達場所と時間を指定すれば センターお抱えのバイク便が5分の遅れもなしに出前を届けてくれるのだ。 これを使えば、「水泳で疲れた後にジュースを飲みたい」 「テニスで熱くなったあとでパフェを食べたい」等のセコくも切実な夢が現実となるのだ。 そして、その過剰サービスは、乙女達の新たな悲劇の始まりなのだった・・・。 【さて、元の日の昼休みに話を戻そう】 「ふーっ、食べた食べた、ごちそーさまっ!!」 「やっぱり、坂井シェフのリゾットは最高だね。」 「えーっ、陳さんのマーボー豆腐も最高だよーっ。」 「それを言うなら、道場さんのテッチリだって完璧やんか。」 高校で料理の鉄人を雇用すると、誰のが一番おいしいか、贅沢な悩みもあるわけだ。 「じゃあ、清算しよっか?」 「うん。あ・・・、カード忘れた。」 「しょうがないなぁ、今日は私が払ったげる。」 そういって菜穂が取り出したのはICカード。 二人並んでレジに向かい、センサーの真下に食事用のトレイを差し出す。 (ピッ♪) 「オ会計ハ、1200円デス。」お皿の形状から自動的に金額が出る。 専用口にカードを通す菜穂。これで支払いはOK。 そして、この後はお決まりのあの音声が流れる。 「食後ノでざーとハイカガデスカ?」 ディスプレイに鉄人の笑顔が料理とともに3人分映し出される。 中華の陳シェフは、プチ点心セット。 フレンチの坂井シェフは、得意の苺料理、冷たいルビーポタージュ。 和食の道場シェフは、バニラ風味の葛切り豆腐だ。 「なあ、たまにはコレ押してみいへん?」和葉は何の気もなく言った。 彼女が指差したのは”主宰のオススメ”ボタンだ。 鉄人シェフの派遣元、美食アカデミーの主宰がこっそりと一番いいものを教えてくれるのだ。 「エーッ、これ押すの!?」菜穂は反対した。 このオススメボタン、実はとんでもない罠が仕掛けられているのだ。 これまで、どれほどの乙女達がここで涙を飲んできただろうか・・・・。 「ええやん、ええやん。押してみよう♪」和葉、さっさと押す。 「あーあ・・・。」ガッカリするも、時すでに遅し。 「ようこそ、改方高校の諸君。私が今日薦めるのは・・・、プチ点心だ!!」 画面の中で、マントを羽織った妙な男が中華コーナーを指差す。 「中華かぁ・・・。まあ悪くないね。」 「でしょう?」和葉、ちょっとホッとする。 「このボタンを選んでくれたお礼に、今日は君達に特別にいいことを教えよう。」 特別も何も、いっつも誰にでも言ってるくせに。 「実は、中華の陳君は来週すごいレシピを携えてやってくる。 その要素をちょっとだけお見せしよう。」 「え、何なに?」二人で覗き込む。 「その料理とは・・・・・コレだ!!!」 (バシッ!!!) カメラのシャッターのごとく、一瞬だけメニューが見え隠れする。 「こ・・、これは!!」 「すごおい!!!」二人とも口が半開き。 わずかに見えただけでも、そのボリュームは学生食堂の枠をはるかに超えていた。 ボリュームたっぷりのフカヒレスープ、 伝説の黒豚”東京X”を用いたチャーハン、 柑醤油という独特の調味料を用いた、”芝海老とカニ脚肉の円舞曲”。 赤子の肌のようにぷるんとした杏仁豆腐・・・・・。 そしてトドメに・・・、陳シェフ伝説の海老チリソース炒め。 どれも、東京なら行列3時間待ちである。 「このメニューは改方高校のためだけの特別プランである。 食に興味のある諸君の挑戦を待っている。 1週間のメニューで、5日分合計・学生価格8000円で提供しよう。 完食した場合のカロリーは・・・・合計13000カロリーとなっている。 準備の関係上、今日の夜8時まででこの料理の予約は締め切ることになる。 急いで携帯でアクセスしてくれたまえ。では、来週会えることを楽しみにしている。では。」 「ちょっと、菜穂どうしよー!?」 「だから押すなって言ったのよ。」見ただけで食べたくなっちゃうでしょう? 「けど、コレ食べたら・・・。」 「絶対に太るね、おなかの辺りが。」ポヨポヨになっちゃうね。 1食あたり2600カロリー。確か、成人女性の基礎代謝は2000カロリー代だから・・・。 コレ食べたら、買い食いなんて絶対にできない。 食べたい、だけど太りたくない。 運動すればいいんだけど、試験勉強忙しくて時間がない・・・・。 「ああっ、どーしよー!!!」和葉は頭を抱えた。 「じゃあ、こうしようよ。今日の夜8時ぎりぎりに電話かけるから、それまでに決めておいて。」 「菜穂はどうするの?」 「あんたに合わせるよ。食べるんだったら二人分予約して。わかった?」 「わかった・・・・。」 【金曜日19時59分、和葉の部屋】 運命の20時ジャストまであと20秒。和葉は迷っていた。 食べるか、それとも戦略的撤退か。 着実に歩を進める秒針。緊迫の度合いを濃くする空気。 そして・・・・、和葉はついに迷いを捨てた。 <中華フルコース、二人分注文お願いします。> それは、和葉のダイエット作戦の始まりでもあったのだった・・・。 |