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【イントロダクション:愛と平和のために】 21世紀を迎えても、世の中があまり変化をしなかったりする今日この頃、 日本の大阪府寝屋川市で、一人の少女が頭を抱えておりました。 彼女の名は、遠山和葉。 寝屋川市に生を受け、両親の愛情を受けてすくすく育ち ちょっぴり空手が得意になった、どこにでもいそうな高校生。 彼女は普通の家に生まれ、普通の生活をすごし、 普通の高校生として振舞っておりました。 しかし、彼女には他人には言えない「裏の顔」があったのです・・・・。 *登場人物紹介 ・服部平次 大阪を代表する、高校生探偵。改方学園2年生、当時17歳。 歯に衣着せぬ関西弁と、何者にも縛られぬキャラクターから同性からの人気も高い。 ・遠山和葉 服部平次の幼馴染。気の強さと行動力では天下一品。平次に片思い中。 某事情により、ちょっぴりウエスト周りが気になるお年頃。 ・じいや 和葉を小さい頃から知っている男性。細身の体に温和そうな瞳が良く似合う。 髪は真っ直ぐな白髪。とても優秀な人物で、周囲からの信頼も厚い。 ・平松大佐 和葉を小さい頃から知っている男性。40を過ぎて、少し体にがたが来るようになった。 性格は猪突猛進型。起こると怖いが、仕事にはとても熱心な熱血派。ちょっぴり寒い頭が気になるお年頃。 【金曜日20時02分、和葉の部屋】 <中華フルコース、二人分注文お願いします。> 和葉は、数分前に自分の打ったメールを呆然と眺めていた。 何度も何度もかみ締めていた。 「ああ、なんで打ってしもうたんやろう・・・・。」 頭を抱えて、地団駄踏んで、後悔してももう遅い。 そう、彼女は打ってしまったのだ。 生まれ変わった改方高校食堂が提供する「悪魔の誘い」、 完食13000カロリーの中華フルコースの注文を・・・・・。 きっかけは些細なことだった。 友人の桜井菜穂と昼食を一緒に摂った帰り、 機械化されたレジのディスプレイの「オススメボタン」を 好奇心からうっかり押してしまったのだ。 最初は「見るだけ」なんて言っていたけれど、 一度画面から表示された「フカヒレスープさん」や「北京ダックさん」に ガラスのハートを鷲掴みにされちゃったからさあ大変。 地獄の選択か、それとも戦略的撤退か。 知性と食欲が交錯する中、二人のフルコースの注文の権利は 全て和葉に一任されたのである。 ・・・・そして、締め切り1分前にとった行動があのメールだったのである。 5日分間食で13000カロリー・・・・。 これは、おやつを抜いたり軽く運動するだけでカバーはできない。 いったいいかなる策をとるべきなのか・・。 放課後は部活で忙しいし、真夜中にジョギングしたらおっかないしなぁ・・。 「!!!」和葉の脳にあるアイデアがひらめいた。よし、アレをやってみよう。 ピンク色の装飾がかわいらしいベッドから起き上がり、本棚へ向かう和葉。 1m半ほどの本棚の、最上段の左端・・・。 高すぎて視線が届かないため、背伸びをして手探りで本を探す。・・あった。 『猫でもわかるヨガ』、それが彼女が手にとった本の題名だった。 和葉は、ずっしりと重いその本を胸に抱え、 月光の差し込む南窓へ向かった。 窓を空け、用心深そうに周囲を見渡し、閉めてカーテンをおろす。 更にもう一つの西窓からも周囲を点検し、こちらもカーテンを下ろす。 (よし、誰にも見られてへん・・・・。) 彼女は、厚さ10センチもあろうかという本の表紙を静かに開いた。 なにやら読書には似つかわしくない、機械音が本の内部から響いてくる・・・。 (ウイーンガチャ、ウイーンガチャ。) 歯車とモーターがかみ合う音がしばらく続き、 表紙の裏に現れたのは、小型の液晶ディスプレイだった。 そして本の厚みと思われていた箇所には、なんとテンキーつきのキーボード。 そう、この本はPDAだったのだ。 ディスプレイが青白く輝き、人の像が浮かび上がってくる。 黒いタキシードに、ぱりっとしたシャツを着込んだ初老の男性だ。 「いかがされました、和葉様?」 「じいや、夜遅くに悪いんだけど・・・。」 「フルコースをお召しになった件ですね?」 「うん・・・。」がんばって運動しなくちゃいけないからね。 「それでしたら、第二基地のジムを使われてはいかがでしょう? 道具も一式揃っているはずですし。」 「OK.じゃあ今からそっち行くね。」 「お待ちしております。」そう言って、相手の男性は通信を切った。 (よし、それじゃあ行きますか!!!) 和葉は気合を入れなおした。 8時を回った今から基地に向かうのだから、 ここに戻れるのは恐らく深夜12時。親はとっくに寝ているだろう。 (やっぱり、ウチの親には言うといた方がええやろなぁ。) 【20時12分:遠山家1階台所】 トン、トン、トン・・・。 和葉は少しガタのきた階段をそっと降りていった。 夕食の終わった居間をくぐって、台所の人影へ声をかける。 「なあ、今から基地行って来て良いかなぁ?」 「え、今から行くんか?もう夜遅いぞ。」皿洗いの手を止めて、父が振り返る。 「けど、どうしても済ませたい用事があるんやんか。」手を合わせてお願いする和葉。 「うーん・・。まあ構へんけど。ところで宿題はやったんか?」 「うん、来週提出の英語Uのレポートまでバッチリ。」 「わかった、行ってらっしゃい。ただし、日付変わるまでには帰ってきなさい。」 「はーいっ!!」途端に部屋にかけだし、準備を始める和葉。 (やれやれ・・・・。あいつの基地好きにも困ったもんやな。) 父は念のため、風呂場に向かって一声かけることにした。 「おーい母さーん、和葉が基地に出かけるそうや。日付変わるまでには戻ってくるそうやから。」 「はいはーい。」風呂場から、エコーを響かせた妻の声がした。 【20時12分:遠山家1階台所】 (さてと、準備OK♪) 和葉は荷物で膨れ上がったリュックを眺めてご満悦だった。 明日学校で使う教科書、ノートに運動着、 読みかけの小説に、ポテトチップス・・・。 彼女はリュックを背負いあげ、勢いよく押入れのふすまを開いた。 (ビュオォォォ・・・) ふすまの向こう、いや正確には向こう側の足元から冷たい風が吹き抜ける。 風の出所は、垂直方向に長く掘られた縦穴。 懐中電灯で照らしても向こうの出口が見えないほど、 それは、遥か闇深くまで続いているように思えた。 いつものこととはいえ、何度見ても迫力のある光景ではあった。 一度心を落ち着けて、リュックの中から長いゴムひもを取り出す和葉。 片方の端を自分の腰に、もう一方を備え付けの杭に結びつける。 やよい結びがきちんと出来ていることを確認し、和葉は再度穴の前にたった。 まずは深呼吸して、自らの鼓動を静める。 深く息を吸い、吐き出すことで心の揺らぎを取り除き、 精神を引き締め、体中の気を一点に集中させていく。 徐々に雑音が耳に入らなくなり、 周囲のあらゆる気配が、はっきりと肌で感じられるようになってくる。 そろそろ準備も整ったようだ。和葉はもう一度ゴムを確認し、カウントダウンを開始した。 (10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、・・・・) (GO!!)和葉は漆黒の闇の中心めがけダイブした。 【そのころ、「基地」の中央管制室では・・・】 ビービービー、ビービービー・・・。サイレンがけたたましく館内にこだまする。 館内の戦闘員は慌しく出撃準備を始め、ピリピリとした雰囲気がほどばしって来る。 戦闘艇を洗っていた整備員たちも休むひまなく動き回り、 非常自体に備え、ライフル、マシンガン、ロケットランチャー、グレネード等 ありとあらゆる武器を倉庫から引っ張り出す。 「何事だっ!!」責任者らしき人物が、中央管制室のドアを開く。 どこまでも男らしいその風貌と薄くなった頭が、過去に潜り抜けた修羅場の壮絶さを物語っている。 室内は「つけたら消そう」「昼休みは省エネタイム」「夏は暑いから夏なんだ」等 色あせた啓蒙の張り紙がべたべたと並び、ハイテク機器の醸し出す重厚感と 組織としての節約政策の同居する悲しさを無言で語っているかのようだった。 レーダーのオペレーターが責任者に駆け寄る。 「大変です、大佐。戦闘艇専用の非常トンネルから何物かが進入しました。」 「何ィ!?」室内中央の巨大モニターに目を向けてみる。 「画面中央よりやや左の・・、これです!!全長1.7mほどのミサイル上の物体が 時速70kmほどの速度でこちらに急接近しています。」 「その物体の映像を拡大するんだ、大至急!!」 「はっ。」 「これが、赤外線カメラからの映像です。」物体のどアップが大写しになる。 オペレーターがenterキーをたたくと、解像度は徐々に細かくなって行く。 「この画像を解析ソフトにかけた結果です。」・・・像の正体が明らかになってきた。 物体の全長は1.67m。 人型ロケット、もしくは人間そのものの形状に酷似している。 頭髪部は、長い髪を後ろで軽く結わえたようでもあり、 その瞳はあくまで勝気に輝いている・・・・。 大佐は思わず、解析結果のレポートを投げ捨てた。 ポニーテールで勝気な目、非常用トンネルに突撃といえば、 もうあれしか考えられない。 「あれほど非常トンネルでバンジージャンプするな、と申し上げていたのに・・・。」頭を抱える。 「大丈夫ですか、大佐?顔色が悪いですよ。」 「悪いが、ホットレモネードとホワイトチョコを持ってきてくれ。 今の私には気つけ薬が必要なようだ。」 「え、毛生え薬じゃなくて?」 「やかましい!!」頭を更に輝かせながら、大佐は怒鳴りつけた。 余りの大声に、室内の目がこちらに集中する。 「・・・とにかく、俺はつかれた。少し休んでくるから。」ため息をつきながら休憩室に向かう大佐。 (良かった、オレ大佐じゃなくて。) そんな上司を見つめつつ、オペレーターはひとりつぶやくのであった。 【5分後、バンジージャンプ中の和葉は・・・】 (ビュォォォォ・・・・・) 時速70Kmで非常用トンネルを自由落下する和葉は、 スカイダイビングのときに似た風音を耳栓ごしに感じ取っていた。 和葉は左腕の高度計を確認した。まもなく高度マイナス2000m。 あと数秒もすれば、トンネルの出口も見えてくるはずだ。 (キュオォォォ・・) 風音が若干高い音色に変化した。出口が近い証拠だ。 このユニークなバンジージャンプもまもなくフィニッシュだ。 漆黒の闇空間の中央に、ポツリと光の点が現れる。 それは徐々に大きく、そして最後は急激に広がって行く。 出口の向こうの基地が、そして床のタイルが見えてきた。 (今だ!!) (びよよよーん。) 和葉の体に装着されたゴムひもが、アホな音を立てて反動でちぢんで行く。 「イヤッホーッ!!」このビヨビヨ感がバンジーの醍醐味である。 トンネルの向こう側から、基地職員の声がする。 「和葉様、お怪我はありませんかー?」なんとも敵意のない声だ。和葉の到着を待っていたようだ。 「ううん、全然問題ないよー。」 「今からアームを伸ばしますので、掴んでくださーい。」 「はーいっ。」 職員が伸ばしたアームによって、和葉の体は無事基地へと運ばれていった。 【そんなこんなで、基地到着】 「時速70kmの不審物体」こと、和葉は無事目的地の基地へ到着した。 早速、基地職員達が和葉を出迎えるべく整列する。 「我ら遠山私設軍の総監、和葉様に敬礼!!」 シュタッ。全職員の右手が敬礼のポーズを取る。 そう、ここは地底2000mに建設された、遠山家お抱えの私設軍隊基地なのである。 和葉は高校に入学した去年、ここの第28代総監の座を父より受け継いだのである。 まあ、なんでこんな私設軍隊が存在するのかは、おいおい説明することにして・・・。 「お久しぶりでございます。」副総監が出迎える。 さっき、辞書型PDAで和葉が話していた男性だ。 じいや、もとい副総監はこの基地のナンバーツーである。 遠山家の家督を継ぐ歴代の総監たちを常に補佐してきた、最も頼れる人物である。 と同時に、和葉にとっては小さい頃から知っている「おじいちゃん」的存在でもあった。 「久しぶりって言うても、たった1ヶ月やんか、じいや。」 「いやいや、しばらく見ぬうちに随分と大きくなられました。」 「まあ、言うても成長期やもんね。」 「そうですな。後で最近の出来事などもぜひお聞かせ下さいませ。」 「OK、じいや。ところでさ・・。」 「何でございますか?」 「ひょっとして、大佐怒ってる?」 「残念ながら。もっとも今はショックの余り レモネードとホワイトチョコのやけ食いをしていますが。」 「そうっかぁ・・・。」まーた大佐に1時間ぐらい絞られるな、こりゃ。 「和葉様、常々申しておりますが、遠山家の方には専用エレベーターが用意してございます。 次回からはアレをお使い下さいませ。」じいや、にっこり。 「はーい・・。」 【大佐にこってり絞られた後、和葉とじいや、二人で総監室へ・・・・・】 「あーあっ、疲れた疲れた!!」ソファーに倒れこむ和葉。 「こらこら、まだ寝るには早すぎますぞ?」 「だって、あの大佐のお説教って長いんやもん。」ヘトヘトになっちゃったよ。 「まあ、あれは自業自得ですな。今度からはエレベーターをお使い下さい。」 披露困憊の和葉、しゃべる気力もない。だが、少し休んだ後で元気にたちあがる。 「じいや、基地の近況について報告して。」 「かしこまりました。」 じいやは、総監室のスクリーンを開き、プロジェクターの映像を投影した。 画面に映るのは、大阪府寝屋川市、和葉の家の周囲を上空から撮った写真だ。 「これは、2週間前の軍事衛星写真でございます。」 和葉の家の周囲200mほどがピンクに塗られている。 この領域が、遠山軍の基地である。和葉が見たところ、特に変わったところはないようだ。 「これがどうかしたの?」 「この写真に、もう1枚の写真を重ねて見ます。」 遠山軍から北西500m、寝屋川商店街のすぐそばに 淡いブルーの領域が重ねられる。この場所は確か・・・・。 「服部軍の地底基地?」 「そのとおりです。」 ここで、服部軍と遠山軍について説明しておこう。 話の始めは、16世紀前半、戦国時代にさかのぼる。 当時の日本は、”応仁の乱”という日本全土を揺るがす戦争が終わった直後だった。 当時日本を治めていた京都朝廷の権力は衰退し、日本全国で戦乱が繰り返し起こっていた。 ちょうど、織田信長とか秀吉が活躍した時代である。 戦乱の炎は全国で激しく燃え盛り、 信濃では上杉謙信、甲斐では武田信玄、広島では毛利元就などの 有力武将たちが、日本を統一すべく立ち上がっていた。 そして、経済の中心地、大阪の堺近辺でも戦いは起こっていた。 社会の教科書を見ると、堺を巡る争いは 織田信長と三好長慶のマッチレースと言う事になっている。 このとき、信長に課せられた圧倒的ハンデを跳ね返し、 逆転の原動力になったと言われるのが、現地の豪族服部家と遠山家である。 まあ豪族と言っても、武家ではなくて、むしろ商家だったのだが。 どちらにしても、地元の富を一手に担っており、スポンサーにはうってつけだったのだ。 この両家は、当初地元出身の三好に力を貸そうと 兵隊や兵糧の調達、鉄砲相場の情報提供などを行っていた。 だが当の三好は、京都を制圧した直後に両家を見限ったのである。 当時の経済の中心は堺でも、政治の中心は京都。 首都さえ制圧すれば、地方豪族の助けなど必要ないと考えたのだろう。 だが、両家がそれで満足するわけがない。 せっかく応援してやったのに、いきなり仲たがいされては 手柄を全部三好に持って行かれてしまう。これではただ働き同然ではないか。 怒り心頭の両家は、早速ライバルの織田家に使者を送った。 自分達の領地安堵と引き換えに、三好家の財務帳簿を売りつけることにしたのだ。 三好家と公家の連携プレイに苦戦していた信長は、すぐにこれを承諾。 堺周辺の米相場がやけに安すぎることに目をつけて、周辺の米を全て買い占めてしまったのだ。 いかに三好家の兵隊が有力といえども、食料がないのでは戦いにならない。 勢いを失った三好家は、あっという間に信長に滅ぼされてしまったのだ。 三好家を滅ぼし京都を手に入れた信長は、協力の礼として 両家を堺一流の商家に育て上げることにした。 兵糧、鉄砲、刀に槍、果ては茶器から安土城建築用の瓦まで 全て織田家からの注文は、服部家と遠山家が扱うことになったのだ。 当時の信長と言えば、いわば革新派政治家の第一人者。 当然お金持ちなわけで、発注額は売買ゲームで増加。 両家は瞬く間に、財閥もビックリするぐらいの富を手に入れたのである。 と、ここまでならハッピーエンドなのだが、なかなか世の中甘くはない。 数え切れない富を手にした両家は、次第に取り分を巡って対立するようになったのである。 元々両家に金があるもんだから、一度喧嘩が始まったらさあ大変。 両家とも時代の最先端、鉄砲を持て余すぐらい調達したり、 自分の家をお城みたいに改造したりと、とんでもないハタ迷惑な事態へと発展したのである。 そして両者の喧嘩はついに決着がつかず、21世紀の今日まで 舞台を地底基地に移して続いているのである。 ・・え、両家のPTAや、平次や和葉は仲良くやっているじゃないか? まあ確かにそうなのだが、アレには深い事情が関わっているのだ。 そもそもこの両家の争いは、戦国時代の金銭トラブルから始まったものであり 本来ならば、現在まで引きずるべき話題ではないのだ。 両家の当主もそれをよく承知しており、 それぞれの代で、出来うる限りの調停工作が繰り返し行われてきた。 服部家総帥の平蔵が、和葉の父、すなわち遠山家先代総帥と 共に警察へ就職したのも、その一環だった。 事情が事情なだけに、両家としても交渉のパイプを持つ必要があったし 警察の動きもそれなりに把握する必要があったからだ。 逆に言えば、両家としても平和裏に事を終わらせようという考えは一致していたのだ。 しかし、足掛け400年にわたる争いの中で、 両軍の中から巻き添えを食らうものが多数出ていたことも事実だった。 やれ親を殺された、やれあだ討ちだと、 時を越え、そして世代を超えて、両軍のメンバーは 当主の思いと裏腹にいがみ合ってきたのだ。 それを受けて、両軍の当主は 最悪の事態を避けるため、当主同士の会談を 「家族ぐるみの付き合い」というカモフラージュの元に 日夜続けているのである。 (※筆者注意・・・・現実の日本史では、こんな事実は存在しません。 あくまでコナンワールドの中だけの話です。誤解のないように。) 【さて、現在の寝屋川市に話を戻そう。】 和葉はスクリーン上のブルーの領域を見つめていた。 この形はまぎれもなく服部家の私設軍隊の基地領域。だが・・・。 「広がってるね、先月よりも。」 「そうです。南東部、すなわち我軍へ向けた方向を拡張しているようなんです。」 「つまり、ウチへの侵攻の準備?」 「まだそこまではわかりません。ただの牽制かもしれません。」 「フーーーッ・・・」和葉はため息をついた。まるで服部軍の真意が掴めない。 下手に手を出したら、それこそ両家の全面戦争になるしなぁ・・。 和葉は、自軍領土に存在する3つの赤い点を見つめていた。これさえウチになければ・・・。 「向こうのオッチャンは、このことを知ってるの?」 和葉は、服部軍の総監、平蔵のことを思い出した。 服部家では、家督は20歳の誕生日に継承されるため、 また平次は軍隊のことも、水面下の戦争のことも全く知らないのだ。 「赤い点のことですか?」 「違う。基地を拡張してること。」 「いえ、そのようなそぶりはありませんでした。」 「じゃあ、服部家の命令で拡張したわけじゃないんだ。」 「少なくとも、服部軍正式の命令ではないようです。」 だとすれば血気に走る何者かが暴走して、勝手に穴を掘り出したと言うところか。 それなら、最悪の事態は避けられそうだ。 「ただ、我軍の中でも血の気の多いものが、これを受けて躍起になっています。」 「返り討ちにしようって事?」 「はい。」 和葉は又ため息をついた。 そんなことになれば日本は、いや地球はどうなってしまうのだ。 「それだけは絶対に避けないとね。」 「もちろんです。」副総監も力強くうなづく。 彼らの憂いの元は、あの3つの赤い点だった・・・・。 「ねえじいや、あれっていつからウチにあったの?」 「私の記憶では昭和10年代前半だったと・・・。」 「太平洋戦争のころか・・・。」 「恐らくそのドサクサで入手したものと思われます。」 「全く、なんであんな怖いものがウチにあるんだよぉ!!」 和葉はなんだか悲しくなっていた。 あれは、当時遠山家に所属していた技術者から入手したものだった。 彼の父親も遠山家に所属していたが、 服部軍のクーデター未遂事件の際に、誤って殺害されてしまったのだ。 父を失った悲しみは大きく、その技術者は服部家への復讐を誓った。 そして、当時太平洋戦争の武器として開発していた、あるものを遠山家に寄贈したのだ。 いかなる解読法も通用しない、堅牢な暗号化通信システムを・・・。 うまく適用すれば、それは通信化社会の重要なインフラとなるはずだった。 しかし、昭和50年代にあるハッカーが、この技術と コンピュータウイルスを融合させたことから悲劇は始まる。 いかなる解読も通用しない暗号、これはすなわち いかなる方法でも解除できないコンピュータウイルスのDNAに他ならない。 もしこれが世に蔓延すれば、全国の信号機や交通インフラや 兜町の株式コンピュータ、銀行のATM、 果ては各国の各ミサイルの発射スイッチまでが汚染されることになる。 それがどのような事態を招くかは、説明するまでもないだろう。 今、その「厄介なもの」は、地図上に示された3ヶ所のサーバコンピュータに保管されている。 仮にいずれか1箇所が攻撃された場合、自家製のギガビット回線によって ウイルスが服部家に送信されるようになっている。 ただし、その感染力の強さから考えて、ウイルスが服部家だけに留まる保証はない。 いや、間違いなく全世界に広がると考える方が普通だろう。 そんなことになれば、遠山家以外の全てが壊滅する危険すらあるのだ。 「・・・ねえ、じいや?」 「なんでしょうか。」 「あのウイルス、捨てちゃダメ?」 「ダメです。服部家にも既に同様のものが。」 「だろうなぁ・・。」 仮にも両家は軍事基地だ。対抗するウイルスの開発ぐらい簡単だろう。 基本となるアルゴリズム自体は、既にあるのだから。 「両軍は、互いのウイルスの為に身動きが取れなくなっております。」 だからと言って、このまま睨み合っているのも限界が来ている。 両陣営の内部から、最終決戦を望む意見が出てきているのだ。 「ウチの内部からも出てたんだっけ?」 「はい。徐々にその数は増しているようです。なんとか頭越しに抑えてはいますが。」 「このパターンだと、恐らく服部家も・・・」 「ギリギリの状態でしょうな。」 限界まで引かれた弓矢がいつ放たれるのか、誰にも予測はつかない。 「その時が来るまでに、なんとか停戦協定を結ぶしかないみたいやね。」 「しかし、これまで両家の協定が遵守された試しがありません。」 むしろ、反故にされた回数が多すぎる。 今行っている停戦交渉すら、座礁の可能性が極めて高い。 「停戦もダメ、現状維持は内部からの突き上げで限界、だからと言って正面衝突は論外・・・。」 和葉は頭を抱え、人差し指で机をトントントンと叩いた。完全に煮詰まってしまった。 「和葉様・・・・」もはや心配そうに眺めるしかない。 和葉は財布から平次の写真を取り出した。 いったい彼ならどうするだろう。 どうやってこの事態を切りぬけるだろう。 (お願い平次、アタシに知恵と勇気を・・・!!!) 和葉は平次の写真に祈った。 とその時、和葉のバッグからなにかが落ちた。 「和葉様、これは?」 「ウォーターダンベル。ダイエットに使おうと思って。」 「そういえば、今日はシェイプアップに来られたのでしたな、忘れておりました。」 「やっぱりね、太ったままだと良くないし。」平次にも嫌われちゃうし。・・・・ンンン? 和葉の顔が真剣なものに変わる。 「どうされましたか?」 「ちょっと黙ってて。」もう一度じっくり考えてみる。 成功の可能性と、準備に必要な時間と予算を計算してみる。 まさか・・・、いや、これならいける、充分に可能性がある。 ・・・・・・いける!!!! 「一つだけ方法がある!!」 「あるんですか!?」じいやは半信半疑だ。 「アタシと平次が結婚したらええねん!!」 「ええっ!?」 「どうしたん、じいや?無理な話やないやんか。」 「しかしですなぁ・・。」そんなアイデア古臭くないですか? 「そんなことあらへん。」和葉は自信を持って答える。 「だって、多分政略結婚ぐらい過去に何度でもやってますよ。」 「じゃあ聞くけど、過去の政略結婚の組み合わせを言ってみて。」 「最近では、3代前の当家総帥と服部家の軍医の従姉妹ですね。」 「その前は?」 「服部家総帥と、我軍コックの娘です。」 「その前は?」 「服部家総帥と、我軍諜報係の孫娘・・・・あれ?」 「わかったやろ、私の言いたいこと?」 「総帥側は常に男性!」 「その通り。これまでずっと、両家の総帥は男性やった。 だから、必然的に政略結婚とは言うても、両軍総帥は二人とも男性。」 「つまり、総帥同士の結婚はありえなかったわけですな。」 「けど、今度ばかりは話が違う。服部家の時期総帥は平次。 ウチの総帥はアタシ。男と女やもん、結婚はもちろんできる。」 「なるほど・・・。」 「しかも、ウチは平次のことが大好きやもん!!」 遠山軍としては、特に問題はない。 「だとすると、残る課題は・・・・」 「平次とオッちゃんやね。」 「少なくとも、今の当主の方は楽勝ですな。」やけに自信たっぷりだ。 「オッちゃんを説得する方法とかあるん?」 「ありません。」 「じゃあどうして?」 「あと3年で服部家の家督が継承されるからです。」 20歳の誕生日を迎えれば、服部家の当主は平次になるのだ。 ・・・・和葉は首を横に振った。 「アカン。それはダメ。平次が家督を継いだあとでは遅すぎる。」 「なぜです、両家の当主同士が同意の上で結婚すれば良いではないですか?」 「だって、平次が家督を継いだら、軍隊のことも戦争のことも、全部知ってしまうんやろ?」 「だから?」 「あいつの気持ちになったら、何が起きるか明らかやんか。」 ウソでも高校生探偵なんてやってるぐらいや。 平次は小さい頃から正義感と責任感は人一倍に強かった。 そんな人間が、人類を滅ぼしかねないウイルスの事を知ったらどうする? 「・・・・すすんで、この戦争を止めようとするでしょうな。」 恐らく、三日と立たずに和平が成立するだろう。それのどこが悪いのか? 「だとしたら、平次は戦争を止めるためにアタシと結婚することになる・・・。」 「平和になるのですから、良いじゃないですか。」 「じゃあ、アタシの気持ちはどうなるんよ!!!」和葉は机を叩いた。 「・・・嫌なんですか、彼と一緒になるのが?」 「違う、そうじゃない!!!」そんな事言ってるんじゃない。 「じゃあ、何なんですか?」 「・・・義理とか責任感で、結婚するのが嫌なんや。」 「そんなの大した事じゃないでしょう。 結果として結婚すれば良いんだし、平和になれば言う事ないでしょう。」 「副総監のじいやにはそうかもしれへん。」けど、アタシには大問題や。 「何に引っかかっているのですか?」 「平次の気持ちや。」 「はあ?」副総監、論点を全く掴めていない。 「なあじいや、私は小さいことからずっと平次と一緒にいた。 軍隊とか、戦争とか、そんな事情で一緒にいるとか全然知らんかった。 とにかくアタシは平次と一緒にいるのが嬉しかったし、 ずっとずっと一緒にいたいと思ってた。」 「存じ上げております。」 「だから・・・・」 「だから?」 「私は、平次に愛されて結婚したい。」 「しかし、向こうは和葉様の事を心から慕っていますよ?」じいやの目は節穴ではございません。 「確かにそうやな。単に結婚の踏ん切りつけるだけなら、それで充分かもしれない。」 「まだ足りないことでも?」 「アタシはただ純粋に平次に愛されて結婚したい。 戦争とか関係なしで、アタシの事が好きで一緒になってほしい。 100の内、たった1%でも義理とか責任感が入ってたら、 アタシはきっと彼を許せないと思う。 そんなまがいものの愛情で結婚したら、 打算で納得する自分を後悔して暮らすことになる。」 「しかし・・・・」 「だから、彼が家督を継いだ後ではアカンねん。それより前に結婚しないと。」 責任感で結婚しても、きっとうまくいかないと思う。 そんなことになれば、また戦争が始まってしまう・・・。 ・・・じいやの動きが止まり、そしてしばらくの時が流れた。 「わかりました。それならば仕方ありませんな。」ついに副総監が折れた。 「ごめんね、じいや。ワガママばっかりで。」 「お気持ちはよくわかりました。そのような事なら、私もお手伝いいたしましょう。」 「どうやって?」 「・・・・そうですなぁ、とりあえずこの丸薬をお飲み下され。」懐の巾着から赤い薬を取り出す。 「何これ?」 「身体の新陳代謝を極限にまで高める薬です。これを飲んで眠れば、 一粒で10000カロリーを消費できるそうです。平たく言えば、やせ薬ですな。」 「じいや、そんな便利なものもってたの!?」それなら最初にくれてもいいじゃない。 「いきなりお渡しすると、人間怠けグセがつきますもので。」 「じいやのイジワル。」 「彼をあと2年で口説くとおっしゃるから、特別にお渡ししたまでです。お許しを。」 早くやせてもらわないと、平次君を口説きにくくなりますからね。 「フンッ!!」 「・・あ、そうそう。」 「まだ何かあるの?」 「明日から、彼を口説くための特訓をいたしましょう。」 「特訓!?」 「はい、まず”恋愛ソングの神様”松任谷久美さんをお招きして、 男心のレクチャーを毎日1時間ほど・・・・」 「ク、クーミン呼ぶの、ここに!?ちょ、ちょっと待ってよ。」 「更に」 「更に?」 「女優の松かたこさんによる、立ち振る舞いの勉強を週2回3時間ほど・・・」 「そんなの忙しくて無理だよ!!!」 「我慢してください。全ては両家の愛と平和のためです。 更に駄目押しとしまして・・・」 「な、何!?」もう、和葉の目は怯えまくっている。 「弁舌力の修行としまして、古館次郎さん主催の アナウンサー養成講座にも登録をしておきますね。」 「そんなぁーーー!!!!」 その後、和葉ちゃんシンデレラ化計画は、本人の意向を無視して 順調に実施されたのだが、その詳細はまた別のお話である。 |