作者近影

ベトナムのニャチャンというビーチリゾートの安宿にて(1994)



「ニャチャンは天国のようなところ」

そう語ったのは92年の3回目のベトナム旅行の際、サイゴンからハノイへ向かう統一鉄道で知り合ったS氏だった。

数学者である氏は途中のニャチャンで降りてしまったのだが、帰国後詳細な旅行記を送ってくれた。
それはバンコクのカオサン通り界隈にひしめく両替屋のレート比較表や
当時開通したばかりのプノンペンからサイゴンまでの国際バスの様子など驚くほど緻密なレポートだった。

そんな中に上記の記述があった。氏はニャチャンのヴィエンドンホテルのプールサイドに宿泊し、
毎日日向ぼっこ、暑くなったら水浴び、という仙人のような生活をしていたらしい。

翌年私はニャチャンへ行った。同じようにヴィエンドンホテルのプールサイドで日向ぼっこ、水浴び、子供と青空卓球、
お腹がすいたら併設のレストランでBGIビールをたらふく飲んでカニ焼きを頬張る。
歩いてすぐの真っ青なビーチでは「SPECIAL PRICE FOR YOU」と耳打ちするマッサージおばさんの
極上の全身オイルマッサージで夢うつつ。気候もいいし、人もいい。食べ物もおいしい。
旅行者と見るや露骨に吹っかけてくるサイゴンの殺伐とした風景から脱出してここへ来ると、まさに天国。

こういう良い思い出ばかりの街には二度と戻るべきでないと一般に言われる。
アナマンダラリゾートのような大型施設ができた段階で、古き良きニャチャンは変質をしているのかもしれない。
それでも、たとえがっかりしても、いつかまた行ってみたいと思わせる素敵な街だった。