平壌市内に帰ってきたバスは「高麗ホテル」へ。ここは北朝鮮随一のホテルで国賓級も宿泊する。時間がないのでエレベーターには乗らなかったが、ツインタワー状になった高層ホテルの最上階には回転レストランやすしバーがあるという。パチンコ狂のH氏はパンフレットに載っていた高麗ホテル内のパチンコ屋を探して奔走したが、あるべき場所はカラオケスナックに姿を変えており、がっかり。
ホテル前の出店で買い物をして約束の18時にバスに戻ったが、ここでこのツアー最大の事件が起きる。参加者のひとり(女性)がバスに戻ってこないのだ。普通の海外旅行なら、どうせどこかで買い物に夢中になっているんだろうなどと呆れていれば済むのだが、ここは北朝鮮なのだ。折りしも工作員による拉致疑惑が報道されるようになって、ツアー参加者も多かれ少なかれ「恐いもの見たさ」でこの国に来ているのだから一大事だ。「見てはならないものを見て、もしや公安に連行されたのかも」「お笑い北朝鮮を読んで参加したとバスの自己紹介で言っていたから、けしからん奴と思われて拉致されたんだ」「大体あの娘はいつもちょろちょろして危ないと思っていたんだ」などと、乗客は口々に叫びバスの中は騒然としている。心の中ではみんな「もしや拉致?」と思ってはいるのだが、仮にも在日の添乗員や北朝鮮の案内員もいる中で口に出してそんな失礼な言葉を発するのはどうかしていると思った。しかし、騒然としながらもどこか他人事のツアー客とは対照的に、案内員の慌てぶりは尋常ではなかった。諦めてバスが発車するまでの1時間、他のバスの添乗員や通行人に目撃者はいないかと奔走し、案内員は見ているのが気の毒なくらいのパニック状態であった。そのうち帰ってくるだろうとタカをくくっていた我々もまさか見つけられずにバスが発車してしまうとは思わなかったので、もはや他人事ではなかった。バスはしばらく走って夕食会場のレストランに到着したが、先に着いていた1号車の人々が路上で拍手している。何事かと思って2階に上がると、行方不明の女性は何と先に着いていた。人騒がせな話だが、乗るべきバスを間違えてドアも開けてくれないので途方に暮れていたところ、あるガイドがトラムに乗せてここまで連れてきたという。にわかには信じられない話であるが、事実を検証する術はなく、またこの話はその後公にはタブーとなってしまったので真相は知るべくもない。もし人民の乗り物であるトラム(おんぼろの路面電車。いつも溢れんばかりの人民をぶら下げるように走っている)に本当に乗ったのなら、うらやましくもあり悔しい(笑)。彼女の姿を目にした我が車の案内員はその場にへたりこんでしまった。万が一のことがあったらただでは済まなかったのだろう。お気の毒だ。
ロスタイムの分、食事時間が短くなった。何しろとてもハードなスケジュールなのだ。大急ぎで食べ終わってからバスでサーカス場へ。我々が遅れて到着すると、なにやら人民の一団がぞろぞろと出てきた。なんで途中で帰ってしまうのだろうと不思議に思いつつ席に着くと、何だか生暖かいのだ。我々が遅れるとの連絡を受け、彼らは動員されていままで席を埋めていたのではないか? 普通の国ならありえない話だが、どうもそう考えるしか合理的な説明がつかない。携帯電話もないというのにそのような連絡がどのようにして可能になるのかはまったくわからないけれど。サーカスは綱渡りあり、コントあり、と日本で見る木下サーカスとさほど変わらない。しかし、この会場はすごい。床が沈んだかと思うと突如アイススケートリンクに早変わりするのだ。それぞれ別の建物を立てるほうが高くつくのかもしれないが、とんでもないことを思いつくもんだと感心した。
![]() 乗ってみたかったトラム |
![]() トラムは大同江を渡る |
![]() 電話ボックスはたいてい塞がっている |
![]() 最初はアクロバティックなサーカス |
![]() 床が入れ替わって馬術演技 |
![]() そして最後はあっと驚くスケートリンク |
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