2人ずつ組になって交代する野営中の見張り番。今夜はクリフト&アリーナのサントハイムペアの番だった。
『姫さまとふたりきり、ふたりきり、ふたりきり……』
その思いではち切れそうなクリフトに、アリーナが話しかけた。

「勇者って不思議よね。作戦会議とか、戦いの最中以外、ほとんどまったくしゃべらないじゃない?  たいてい首を縦に振るか、横に振るかだけでしょ? どうしてなのかしら」

唐突な事を言われるのに慣れているとはいえ、意外な話題である。 クリフトはとまどいながら答えた。

「あれは……一種の失語症なのだと思いますよ。勇者さんは、村の皆さんが命を賭けて自分を守り、 ひとり残った事が忘れられないのでしょう。今でも自分を許しておられないのです。だから、村で剣や魔法の師匠に教わったという戦法に関する事は口に出せても、 日常会話は自分で封印されてしまったのではないかと思います」

「ああ……。戦闘中にときどきそんな事を口走ってるねえ。村で生き残ったのは自分1人だとか何とか……」

クリフトはうなづいた。戦闘中に『絶対にシンシアの仇を取るんだから』等とつぶやきながら戦う勇者は、痛ましくさえある。

「村を全滅させた魔物たちを打ち倒す、という目的だけが、勇者さんを支えておられるように思います」

「でもさあ、私たちは仲間なのよ? もう少し打ち解けるっていうか、会話に参加してもいいと思わない?」

「私たちと親しくなり、楽しい思いをすればするほど、村の人への申し訳なさが募るからではないですか?」

「クリフトには勇者の考えている事がなんでもわかっちゃうみたいね〜。ふ〜ん」

なにか、あらぬ方向に誤解しそうなアリーナに、クリフトは慌てつつ、できる限り普通に話を続けた。

「教会で日々皆様の悩みや苦しみをうかがっておりますので……推察してみただけです。 神官と言うのは、人々の心の裏側も知らなければ成長できないものですから」

「ふうん、クリフトもがんばってるんだ。教会で教典を読んでればいいだけじゃないのね」

「よろしければ、姫さまのお悩みだってうかがいますよ」
内心ドキドキしながら尋ねたクリフトに、アリーナはあっさりと言った。

「早く強くなる方法」
「は?」
「早く強くなる方法について、悩んでるの。でも、クリフトに聞いても無駄でしょ?だから聞かな〜い」
がっくりとうなだれるクリフトに不思議そうな顔のアリーナ。夜は静かに更けていった。

そんな日から長い時間が過ぎて。勇者たちは魔王を打ち倒し、平和をその手にした。

そして、故郷の村に凱旋した勇者は、復活したシンシアと再会を果たす。
「シンシア!」
抱き締めてぬくもりを確認する。勇者の凍り付いた心が溶けていった………


「みんな、わたすのシンシアだべ! 戻ってきたんだっぺ〜〜!!!」
……シンシアが戻った事で心の枷を外す事ができた勇者は、以降、信じられないくらい、とてもおしゃべりになったという。

「おしゃべりになったのはいいけど、どうして急になまっちゃったのかしらね?  戦いの最中はああいうしゃべり方ではなかったのに?」
「お国の言葉も封印しておられたのでしょう。本当の勇者さんは、今の言葉づかいをされる方なのですよ。 お国言葉の勇者さんは、とてものびのびしておられますからね」
「そうか〜。やっぱりクリフトには勇者のことがよくわかるのねえ」
「ですから姫さま〜〜〜」
クリフトの苦難は続きそうだ。

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