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パチパチと焚火が燃えていた。火の向こうにはぐっすりと眠るアルスとマリベルがいる。 野営の時には交代で見張りを行なうが、いつもアルスとマリベル、 キーファとガボの組み合わせになっていた。 「なあ、キーファ。なんでおいらいつもキーファと一緒なんだ? たまにはアルスとおしゃべりしたいぞ」 見張りをしているはずなのに呑気なガボの言葉に、キーファは思わず苦笑した。 「見張りはおしゃべりするための時間じゃないぞ。ちゃんと周りをよく見ていてくれよ? それに、マリベルと2人きりにずっと耐えられるのは、アルスだけだろ。 マリベルも悪いやつじゃないけど、あの毒舌をずっと聞いているのは結構ツライぞ」 「そうか〜? おいらもいろんな事言われるけど、キツイ言葉もマリベルの優しさみたいな気がするぞ」 食べ物の事以外考えていないのかと思っていたガボの意外に思慮深い言葉に一瞬驚いたキーファだったが、とりあえずはさらりと交わす事にした。 「ガボはお人好しだなあ」 「お人好しって何だ? うまいのか?」 「はははっ。ガボはすぐにそれだな」 「狼は食べる事が一番大事だからな。おいら、人間の姿になったけど、 狼の気持ちは無くさないようにしてるんだぞ」 「狼の気持ちかあ……」 ちっこい身体で敵に向かっていく勇敢さは、確かに狼らしいのだと思える。 でも、この丸くてひとなつこい瞳をみていると、ただただ元気なやんちゃ坊主に 見えるんだよな、ガボって。不思議な奴だぜ……等と思っていたキーファは、 以前から聞いてみようと思っていた事を口にした。 「なあ、ガボ。本当は育ててくれた狼と一緒にいなくて寂しいんじゃないのか?」 「………え??? さ、寂しくなんてないぞ。皆がいるからなっ。おいら、寂しくなんて……」 言葉と裏腹に泣き出しそうな表情をしたので、キーファは慌てた。 ガボは狼としてもまだ子供だったはず。 「ああ、ごめん、俺が悪かったよ。思い出させたりして」 「キーファは悪い奴じゃないぞ。おいら良く知ってるぞ……だけど、何でそんな事聞くんだ?」 「ガボはこの旅についてきて良かったと思ってるのかな、どうかな、って、ちょっと気になっててさ」 「う〜ん、おいら、きこりのおっちゃんと一緒にいたら、すごく幸せだったと思う。 でも、あの時、アルスを手伝わなくちゃいけないんだって思ったんだ。 せっかく封印してある悪いまものを解放して回っているやつがいるなんて許せないだろ? どんな悪いやつがやったんだか知らないけど、おいらはうんと強くなって、 それでいつかそいつを倒すんだ!だからちょっとくらい寂しくっても平気だ」 いつになく真剣なガボの瞳を見て、キーファは自然と身震いした。 普段はどちらかというとファニーフェイスなガボが、こういう表情を見せる時、 狼の鋭さを感じる。伝説の白き狼。正義の狼の子孫なのだと、実感させられる……。 「そうか、そうだよな」 「なんで急にそんな事を聞くんだ?」 「ガボが一緒にいて嬉しいけど、時々寂しそうだからさ、大丈夫かと思ってさ」 キーファはガボのアタマにぽんっと左手を乗っけ、髪をくしゃくしゃっとかき回した。 「おいら、大丈夫だぞ、いつも元気だぞ。うわあ、キーファ、頭ぐちゃぐちゃになっちゃっただろ〜。 せっかくアルスに頼んで綺麗にしてもらったのに〜」 乱れた髪を直そうとして、さらにぐちゃぐちゃにしてしまっているガボを笑いながら見やりつつ、キーファは心の底が冷えるのを感じていた。 ガボの旅は、オルフィーを襲った魔物の背後に居た存在(魔王だろうが)を 打ち倒すまで続くという事だ。その後は木こりの元で穏やかに暮らしてゆくだろう。 では、俺は? 封印された町を全て解放し、世界を分断している魔王を倒したら、その後は、 エスタードに戻り、親父の跡を継ぐ……いや、やはり何か違う。 自分を心配してくれる国民や家族に、それなりの愛情を持っているつもりだ。 でも、それだけでは満たされない何かがある。 王子としてグランエスタードに生まれた自分だが、どうしても「王になる事」を 「自分らしい人生」とは思えなかった。 全ての国民から慕われている偉大な父王の跡を継ぐ事に、畏怖がないとはいわない。 だが、それだけならこうまで迷うまい。 「王になる」以外の、何か違う未来が自分を呼んでいる気がしてならなかったんだ。 禁断の地と呼ばれた神殿に足を踏み入れた時の高揚感は、忘れられない。 自分を呼ぶモノがこの先にあるのだと信じられた。 そして、旅を続けている。自分を呼んでいたモノが何だったのか、まだわからぬままに。 「なあ、キーファ、ぼんやりしてんなよ。月がだいぶ傾いたぞ。見張り交代じゃないか?」 「ああ、そうだな。マリベルを起こしてくれ。俺はアルスを起こそう」 「うお〜、まおいらがマリベルを起こすのか〜、寝起きめちゃくちゃ悪いんだぞ〜」 「アルスが起こすとすぐに起きるんだけどな」 「アルスの起こし方とどこが違うんだ〜、今日は大人しく起きてくれよマリベル〜」 さっきまで気にしていたのに、自分で髪をぐちゃぐちゃにかきまわしながらマリベルを起こしに行くガボに、キーファは薄く笑った。 ---自分らしい生き方を探し続けたキーファが、ユバールの民と運命的な出会いをしたのは、翌日の事だった……。 |
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