闇が、ゆっくりと流れていく。
 淡いヴェールを纏った朧月が、時折優しく周囲を照らし出した。柔らかな月光は、闇を切り裂くことなく、包み、照らし、戯れる。闇と光の、密やかな供宴。
 ―――ふいに薄雲が途切れ、鮮やかさを増した月光が地上に降り注いだ。
 電燈すらない、薄汚れた裏路地。そこに、6人の男が転がっている。ある者は腹を抱えてうずくまり、ある者は顔面を血に染め、またある者はありえない方向に曲がった腕を抱えて呻いていた。唯一残った茶髪の男は、必死の形相で何事か叫んでいる。

 「く、来るな!こいつがどうなってもいいのか!?」

 男の右手には、月光を受けて輝くナイフがある。その刃は今、彼が左腕に抱え込んだ少女の首筋に当てられていた。少女は薬でも嗅がされているのか、ぐったりとしたまま反応もしない。すると、男が恐怖と狼狽の眼差しを向ける先から、涼やかな声が響いてきた。

 「そりゃあ困るな。俺の仕事は、その子を無事に連れ帰ることなんだから。」

 ゆらり。ビルの陰にたゆたっていた闇が揺れ、月光の中へと漂い出た。
 ・・・いや、よく見れば、それは闇ではない。全身を黒衣に包んだ少年だ。黒曜石のような双眸が、面白そうな光をたたえて男に向けられた。

 「もうあんたの味方は誰もいないぜ?おとなしくその子を渡してくれるなら、手荒な真似はしなくてすむんだけど。」

 これが手荒ではないというのか。足元に転がる重傷者たちを無視していけしゃあしゃあと告げられる台詞に、男の思考回路が停止する。気づくと、すたすたと歩み寄った少年が、意識のない少女の体を自分から奪いとったところだった。
 緊張の糸が切れてその場に座り込んだ男は、からからに渇いた喉から言葉を搾り出す。

 「お、お前は一体・・・何なんだよっ!?」

 少女を抱いたまま肩越しに振り返った少年は、秀麗な顔に不敵な微笑を浮かべ、答えた。

 「なーに・・・しがない《よろず屋》だよ。」

 

 

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