「しっかし、女の嫉妬ってのは怖ぇなぁ。俺、やっぱり結婚はしないでおこう。」
「安心しろ。30過ぎても出世の気配皆無な甲斐性なしなんざ、女のほうから願い下げだってよ。」
「レイ、決めつけてはいけませんよ。異性の好みは人それぞれなんですから。」
「・・・『甲斐性なし』についてのフォローはないのか、ユエ。」
いつもどおりの会話。レイたちと本郷は、依頼終了の報告のため、《The Plow》で待ち合わせをしていた。
結局、佐倉美沙を苦しめ続けていたストーカーは、女性――しかも、彼女の友人だった。
大学で美沙と同じゼミに属する、佐伯ちひろ。彼女は、3ヶ月前に、恋人に手ひどく振られていた。その理由が、男が美沙に一目ぼれしてしまったからだという。レイは、昨日の昼間、ユエが美沙の相手をしている間に、美沙の大学の友人たちに聞き込みをしたときのことを思い出した。
『・・・ちひろ、初めての彼氏だったからすごーく傷ついててね。美沙、すごく気にしてた。美沙はちゃんと断ったんだし、そもそもあっちが勝手に好きになったんだから美沙は悪くないけど、ちひろもかわいそうでね。・・・。』
初めての恋人に裏切られたちひろは、誰かを恨まずにはいられなかったのだろう。例え美沙に責任はないと分かっていても、止められなかった。
「ストーカーを装えば、女の自分は容疑者から外れるってわけか。でも、なんで美沙の行動がそんなにはっきり分かったんだ?彼女は。」
本郷の疑問に、ユエが答えた。
「盗聴器もないのに情報を入手しているということで、早くから佐倉さんの身近にいる人間を疑ってたんです。昨夜見たテレビ番組ていどなら、友人なら普通に雑談の中で知ることが出来ますから。」
「でも、食事の内容までいちいち言うか?」
「そういうのは、ゴミから推測したんだよ。」
レイがコーヒーを啜りながら補足した。
「ゴミぃ!?」
「ゴミというのは、かなりの情報量をもった資料なんですよ。飲食店のレシートからは何を食べたのかが、スーパーのレシートからはどんな生活用品を購入したのかが分かります。入浴剤の空き袋をいちいち切り刻んで捨てる人なんていませんしね。」
「そういうこまごました情報をつなぎ合わせれば、あの手の手紙の一通や二通や三通、軽くこしらえることができるってわけ。」
あとはゴミ捨て場を張って、犯人が彼女の部屋から出たゴミを漁るところを取り押さえればよかった。
美沙は、佐伯ちひろを訴えるつもりはないという。もう一度ゆっくり話し合い、友人に戻りたいと言っていた。元通りの関係になるのは難しいだろうと思うが、本人がそういうのなら、こちらが口出しする筋合いではない。自分たちが依頼された件は、確かに完了したのだから。
説明を終えると、本郷が懐から封筒を取り出した。ふたりに差し出しながら言う。
「たしかに、依頼は完了だ。ご苦労さん。ありがとうな。」
「どういたしまして。また何かあったらどうぞ。」
「よし、じゃあ帰ろうぜ、ユエ。じゃーな、勇。」
ふたりは、本郷を残して《The Plow》を出る。暖かな春の日差しが、ふたりを包み込んだ。眩しさに目を細めるレイを見やって、ユエが笑う。
「なんだか、お腹が空きましたね。お給料も入ったことですし、何か食べに行きませんか?」
「賛成!俺、永安のラーメンが食べたい!」
・・・・・・
どんな依頼も報酬しだい。
受けた依頼は必ず完了。
一部の世界では有名な《よろず屋》のふたり組みは。
「僕はせめて、副菜の置いてあるお店がいいんですけど。」
「ワガママ言うな!ギョーザでも頼めばいいだろー?」
今はラーメンのことで揉めている、ただの若者たちにすぎなかった。