―――遠くへ行こうよ。
先に言い出したのは、どっちだったっけ?
遠い街
久しぶりに、ふたり揃ってのオフ。
洗濯とか、掃除とか、ここ数日ご機嫌斜めなポンコツラジオの修理とか。やることはいっぱいあったけれど。
空は快晴。
さわやかな風が、木の葉を揺らす。
―――こんな日に、家に閉じこもってるのはもったいない。
顔を見合わせて悪戯っぽく笑ったのは、ふたり一緒。考えてたことも、ふたり一緒。
だから、どっちが言いだしっぺでも構いやしない。
着慣れたシャツを引っ掛けて、マンションを飛び出す。
溜まった洗濯物も、うっすら埃が浮いてるテーブルも、今は意識の外にシャットアウト。
マスターから中型のバイクを強奪して、喧騒と排気ガスに包まれた街を後にした。
地図なんていらない。気分のままに走り続けて、分かれ道ではコインを投げて。
感じるのはシャツを泳がせる風と、君のぬくもり。
キスしたいと言ったら、メット越しに?と笑われた。
知らない町並み。知らない人たち。
ふたりを知る人がいない方を目指して、ひたすらに進む。
逃避行みたいだと言った君に、そうだと返す。
最後は心中かなと笑う君。
―――別に、構わないよ。
―――君が望むなら、このままふたりでどこかへ旅立ったって構わない。
でも、こっちは君さえいれば、それでいいんだけど。
君はあの街に、色んなものを残してきてるだろう?
行きつけの喫茶店とか。
近所の仲良しの犬とか。
ぼろぼろになった年代もののギターとか。
みんなみんな、君にとっては大切なもの。
捨てることなんて、出来やしない。
だから、やっぱり帰るんだよね。喧騒と排気ガスに包まれた街へ。
そして、いつもと同じ日常が始まる。
―――明日は、また君の相棒に戻るから。
―――今だけ、君を独占させて。
そっと触れた手のひらは暖かくて。
ほんの少し、切ない気持ちになった。
←back
<2004.6.17 アップ>