―――真っ暗だ。
何も見えない。何も聞こえない。少年は眼を閉じて息をついた。どこまでも広がっているかのような、深い深い闇。
・・・だが、別に恐ろしくはない。
―――これは、俺の中に存在する、俺の欠片に過ぎないのだから。
澱んだ闇が、少年を喰い尽そうと口を開けている。黒い触手が、彼の手足に絡みつく。虚無に引きずり込もうとするそれを振り払おうとした時、完全なる静寂がふいに破られた。・・・誰かが、彼を呼んでいる。
『―――レイ。―――』
ああ、まただ・・・。少年はきつく眼を閉じる。見たくない。聞きたくない。・・・思い出したく、ない。
『―――レイ、どこにいる?―――』
懐かしい声。いつも笑いを含んでいるような、楽しげなトーン。
『―――ああ、見つけた。―――』
―――しょっちゅういなくなる俺を見つけ出すたびに、あいつは笑ってそう言ってた。
ゆっくりと眼を開けば、闇に浮かび上がるのは、過去の欠片。セピア色の髪を揺らしている、青年の姿だ。
振り向いた彼は、少年に気づいて嬉しそうに笑った。シルバーリングを嵌めた右手が、少年に向かって伸ばされる。
『―――レイ。―――』
・・・あの時には、手を伸ばしてはくれなかったのに。
『―――どうして、こっちに来てくれないんだ?―――』
青年が悲しげにそういった瞬間。
セピア色の頭が弾け飛んだ。
―――ざあぁぁ・・・ざぁぁああ―――
絶え間なく続く雨音に、荒い呼吸が混じる。頭の中に直接響くような、心臓の悲鳴。どくどくと脈打つそれが煩くて、暴れまわる心臓を、冷たい汗に濡れたタンクトップの上から押さえつけた。その手が小さく震えているのに気づき、思わず舌打ちが洩れる。
深夜の街並みは水のヴェールに包まれ、降り注ぐ雨粒たちが地上の全てを濡らしていく。空の泣き声を聞きながら、のろのろと身を起こした少年は大きく息をついた。
――また、あの夢か・・・・・。
ここ暫く、見ることもなかったのに。長い髪を大儀そうに払い除けながら、カーテンの隙間から外を見やる。降りしきる雨。煙る街灯が、表情の抜け落ちた美貌を薄く照らし出した。
――はやく、やめばいいのに。
ぼんやりと呟いて、少年は冷たい窓ガラスに額を預けた。透明な壁越しに微かに伝わってくる、雨粒がガラスを打つ振動に意識を任せ、目を閉じる。
――耳障りな雨音にひっかかれたように、左手が、ひどく疼いた。