導入

■「サンボ」とは何か

牛丼専門店『サンボ』

それは秋葉原の中央通りから路地を1本入ったところにある古びた食堂。
その歴史は長く、秋葉原にまだ神田青果市場が存在していた頃から営業を続けている。
そして現在も騒然とした秋葉原の中心地、それもパソコンパーツ店が軒を並べる激戦区の一角に店を構える。
「早い・多い・安い」の三大要素と、「一見するだけの客を躊躇させ寄せ付けない見えない力」を周囲に漂わせる、
なんとも独特の存在感を放つ「牛丼専門店」である。

知人曰く、「西部開拓時代にありそうな牛丼屋だ」
何ともトンチな意見だが、それこそこの店の雰囲気を的確に伝える表現である。
(カウンターテーブルでバーボンウィスキーの代わりに丼が滑るイメージ 但しそのように配膳することは断じて無い)
それだけこの店の中は別世界なのだ。

ちなみに「何故に店名が『サンボ』なのか」という疑問については今も解明されていない。

年期の入った壁紙、
いつもピカピカに磨かれている巨大な品書き、
剥がれかかった床、
季節を問わず熱気がこもった熱い店内、
店の周囲にまで漂う肉の匂い、
玉子の箱が雑然と目の前に積まれている壁際カウンター、
そして異様に静まり返った店内。

それは女・子供という客は最初から想定していないであろう、男、もとい熱い「漢」の為の食堂。
しかしここは独特のルールがある。


牛丼専門サンボは2008年11月中旬から12月中旬にかけて休業しました。
現在は営業再開されましたが、以下の記述は味や量などについて現在の牛丼専門サンボと異なる場合があります。


サンボな人達

■店員の紹介
・店主・・・いつも僅かに左右に揺れながら黙々と牛丼を作り続ける年配男性。魅惑の牛丼は彼の手によって作り上げられる。サンボ愛好家からは「ムッシュ」(仏語 英語のミスター[Mr.]に相当)の愛称で呼ばれているが、くれぐれも実際にそのように呼んではいけない。サンボ出店前は「吉野家」のとある店舗の店長だったという情報もあるが、真偽は不明である。また2008年11月の突然の休業は不確定情報ながら店主の体調不良という説が流れた。

・おばちゃん・・・黙々と注文を取ってその品を運ぶ年配女性。以前はどうにも物言いと愛想があまり良くなかったが、最近は丸くなったように思える。サンボ愛好家からは「マダム」(仏語 夫人の意)の愛称で呼ばれているが、くれぐれも実際にそのように呼んではいけない。店が空いている時間帯ではカウンター席に腰掛けながらよく新聞を広げているが、逆に客が新聞を広げると忠告を受けるので注意されたい。何故かと言われても私はそれが店内のルールであるとしか言えない。

・青年・・・上の2人との関係は不明だが、息子さんとの説が強い。「ムッシュ」「マダム」と同じ流れで「ギャルソン」(仏語 英語のボーイ[boy]に相当)と呼ばれているが、やっぱり実際にそのように呼んではいけない。おばちゃんが不在の時や、時として一緒に給仕を担当していたが、最近は店主と共に厨房に立つ姿が確認できる。


入店

■突入、サンボ。
サンボは個人経営の小さな食堂である。周辺に看板などは立っていない。Googleマップで所在地をマーカーで示すので参考になれば幸いである。
因みに「Google ストリートビュー」でサンボの店舗前の360度パノラマ写真を閲覧する事ができる。

営業時間帯は未確認であるが、おおよそ正午開店、午後7時閉店と考えておくとよいだろう。しかし閉店時間は一定しない事に留意しておきたい。その日の材料を全て使い切ると閉店時間前でも営業終了するようである。
定休日は不明で臨時休業する場合もある。


■常夏サンボ
店内は調理場の熱のせいもあって一年を通して暑い。特に夏場は深刻で、天井付近に年代物のエアコンが備え付けているのだが、これが本当に効果があるかどうかは疑問だ。そしてやはり冬でも暑い。入った瞬間に温度差を感じられる筈である。サンボの牛丼を食べれば冬でも汗をかくのだ。


■常に紳士的であれ。
店内は非常に狭いスペースに机と椅子が並べられている。1人掛けカウンター席が6席、4人掛けテーブル2卓、2人掛けテーブル3卓という構成。開店直後など混雑状況では相席は極当たり前である。
そのような事情から、周辺のパソコンショップで買ったPCケースや大量のPCパーツなど大荷物は持ち込むべきではない。
手荷物は自分が座っている席の下か、膝上に置くと良い。何故なら隣の席やテーブルに荷物を置いているところをおばちゃんに見られると注意を受けるからだ。空いている席に荷物を置いて何が悪い?と疑問に思う方も中にはいるだろうが、しかし紳士として他人の迷惑になるような行為は慎むべきという点に於いては納得されたい。
冬場ならば入店する前に予めコート類を脱いでおきたい。これは食事中の他の客に対する心遣いの意味もあるが、何よりもサンボの牛丼を食べれば冬でも体が温まるからだ。


■携帯電話の使用は厳禁
品書きの隣には携帯電話の使用を禁じる旨が書かれた紙が貼ってある。入店前には忘れずに電源を切っておこう。店内で電話をかけるなど御法度。おばちゃんにつまみ出されても文句は言えない。うっかり店内で着信音が鳴ると常連客に心理的プレッシャーを与えかねないので注意されたい。
勿論、メールやデータ通信も不可である。注文した品を写真撮影するのも、場の雰囲気では難しいがやはり慎みたい。しっかりその目に焼き付けてほしい。


■携帯音楽プレーヤーは注意
秋葉原に限らず、街には携帯音楽プレーヤーのイヤホンを耳に装着しながら歩いている人で溢れている。殆どの場合、ルールを守り音漏れなどの周囲への配慮を怠らなければ音楽の楽しみ方は個人の自由であるし、例えば普通の飲食店ならば客が音楽を聴きながら来店しても気にも留めないだろう。
しかしサンボでは入店時に音楽プレーヤーのイヤホンは外すように促される場合があるので注意されたい。
食事中も常に音楽を聴く方もいるかもしれないが、食事に割く僅かな時間だけ少し音楽から離れてサンボ独特の空気を耳で感じ取っては如何だろうか。


注文

■メニュー
もし貴方が初めてサンボに足を踏み入れたのならば、まずは正面の壁に掛けられた品書きを見上げて欲しい。価格表ではなく「定価表」という言葉を使う辺りが頑なに守り続ける営業姿勢を示しているように思える。

実物の「定価表」を再現

実にシンプルで硬派だ。有名チェーン店のように牛丼とは関係無いメニューは無い。ここは「牛丼専門店」なのだから。


■中身で勝負
21世紀初頭、国内の外食産業は挙って低価格路線を採ったことは記憶に新しい。その中でも大手牛丼チェーン店は軒並み牛丼並盛りの価格設定を平均400円台から200円台へ大幅に引き下げて、デフレの象徴として世間の注目を集めた。
しかしサンボは価格を変えなかった。価格ではなく中身で勝負、これがサンボの営業姿勢である。


■「お皿」と「牛皿」
(ご飯付き)という表現からこれが定食風のメニューである事は想像に容易い筈。「お皿」と「牛皿」はどちらも肉と一緒の皿に豆腐や白滝が入り、飯が椀に盛って出されるすき焼き風のメニューである。異なるのは量で、その差は金額的にも200円分の価値が十分にあるだろう。玉子を一緒に注文するとより美味しく頂けるので、好みに応じて試してほしい。

お皿と牛皿の量の違いに関して、何故「並」や「大盛」と表さないのか?それは至極単純な事である。「並」とは「牛丼の並」、「大盛」とは「牛丼の大盛り」を示す唯一の言葉であり、それが全てであるからだ。
因みに店側にお皿と牛皿の違いについて説明を求めても、肉と飯が別に出される事以外に明確な返答は無い。何故かと言われても私には分からない。本当に説明してくれないのだ。違いについては後述する。


■焦るな
入店後、適当な席につくと即座に熱い茶が出される。真夏でも熱い茶が出される。この時に注文するのだ。決して着席前に注文してはいけない。決して注文する品に迷ってはいけない。注文するタイミングを逃すな。


■裏メニューは不認可
牛丼チェーン各社の店舗ではメニュー表には書かれていなくとも暗黙として存在する裏メニュー、すなわち「つゆだく」や「ねぎだく」といった個別注文は、このサンボでは認められない。「そういうものはやっていない」の一言で一蹴されてしまう。個人経営と言えどもニーズに柔軟に対応するのが現代の飲食業だが、サンボは頑なに自己流を貫き続ける店なので個別注文は諦めて頂きたい。


食す

■いただきます
初めてサンボの牛丼を目にした者は必ず驚く。それはとにかく量が多いということだ。
サンボの「並」は他の牛丼屋の大盛に相当すると思ってよい。
「大盛」がどの程度か想像できるだろうか。迂闊に玉子をかければテーブルに滑り落ちる、とだけ言っておく。

「お皿」のボリュームも相当なもので、牛丼の「並」と50円違いだからと高を括って注文すると必ずやその量に意表を突かれてしまうだろう。とはいえ「お皿」は人気メニューなので、横目で量を確認するのもよいだろう。
「お皿」と「牛皿」では量の他に、盛り方にも違いがある。「お皿」は皿の半分に肉、もう半分に豆腐や白滝が盛られる。だが「牛皿」は付け合わせの上に肉が盛られる。察しの良い方は気付いたであろう、「牛皿」の肉は皿半分には盛りきれないのだ

くれぐれも「牛皿」に挑戦する際は事前に体調を整え、覚悟を決めておくことをお勧めする。あれは間違いなく平均的な成人男性が一回の食事で摂取する量ではない


■肉を見ろ
上質な肉を使っている事に気付いただろうか。一説にはオーストラリア産の牛肉を使用しているらしい。他の牛丼屋の肉のような筋が多く脂まみれの肉と明らかに異なり、一切れ一切れに味が染み渡っている。また丁度良い大きさに切られており、噛み切るような事はあまり無い。因みに大手チェーン吉野家と同様に調理にワインを使用している。


■タマネギを見ろ
タマネギにも抜かりがない。よく煮込まれており、柔らかい。それでいて箸で摘んでも形を崩さず、色は綺麗な飴色、見ただけでタマネギの味が口に広がるような気分だ。申し訳程度に添えられている牛丼チェーン店とは比較にならない。
繰り返しの説明になるがネギを多めに盛る「ネギだく」のような個別注文は受け付けていない。


■飯を見ろ
「掘っても掘っても飯」とは友人の言葉。この言葉に偽りは無い。いくら食っても減る様相を見せない凄まじい量の飯。そして異様に熱い。炊き立てのような熱々の飯が丼に詰められているのだ。これもサンボ牛丼の特徴だ。
因みに飯の水分は僅かに多めで柔らかい。この上に煮込まれた牛肉とタマネギが汁を少な目で盛られることで程良く調和するようになっている。


■玉子を試す
牛丼とはどんなに具材に魅力があっても、それが続くと全体の味が単調になりがちだ。テーブル脇の生姜や七味唐辛子を添えるのも一つの方法だが、それ以上の変化をもたらす絶好の具材、玉子を試してみては如何だろうか。もちろんこれは生卵だ。ゆで卵だったらどうしようなんて気後れする心配はない。
溶いてかけるかそのまま割ってかけるかは個人の好みだが、前述の通り迂闊にかけると溢れてテーブルを汚しかねないので注意したい。牛肉を少し退けて窪んだ所に玉子を落とすという方法もある。


■みそ汁に注目する
やはり牛丼には味噌汁がよく合う。サンボの味噌汁は機械で製造された味気ないものではない。その味は家庭的で、食事の満足感を増してくれるだろう。味噌の加減や具材などは人それぞれに好みが分かれるので、判断は難しいところだ。


■ひたすら食え
店内はとても談笑しながら食えるような状況ではない。目の前に注文の品が置かれたなら、黙々とそれを食らうのみだ。


ご馳走さん

■食ったらすぐ立つ
前述のように店内は狭く、椅子には限りがある。食べ終わってもいつまでも居られると他の客にも迷惑だ。速やかに、そして食事中の他の客を気遣い静かに席を立とう。食器や湯飲みはテーブルに置いたままでよい。

■会計
会計はおばちゃんの役目だ。自己申告して代金を支払う。

■ご馳走さん
店を出る直前に一言、「ご馳走さん」。通い続けて顔を覚えられる頃には返事をしてくれるかもしれない。


■最後に
秋葉原がかつての家電製品の街と謳われた時代、人口密集地であるにも関わらず飲食店が極端に少なく、また気軽に食事を済ませたいという要望には不便さを感じる街であった。しかしその頃からサンボはしっかりと営業を続け、その果たす役割は大きかった。
21世紀を迎えた現在、秋葉原には多くの喫茶店や有名外食チェーン店などが相次いで出店を果たした。そしてこの間に大手牛丼チェーン店が価格競争を繰り広げ、BSE(牛海綿状脳症いわゆる狂牛病)問題が社会を震撼させた。そんな中ではサンボの影は薄くなってしまったのか?断じて否。多くの愛好家に支えられ、サンボは営業を続けている。

興味を持たれ、秋葉原で食事する機会が巡ってきた時に是非足を運んで頂きたい。確かに店に入りづらい印象は依然としてあるし、その雰囲気に気後れして素通りしてしまうかもしれない。個性際立つ牛丼だけに、もしかすると貴方の口に合わないかもしれない。もう二度と訪れまいと思うかもしれない。しかしこの店の印象は強烈に残るだろう。
500円硬貨1枚で満腹になる食事がしたい、そんな貴方にも是非勧めたい。
秋葉原にサンボあり。それは昔も今も変わらずそこに存在し続ける店である。


■参考 Web Site Link

・牛丼(並)画像および店舗外観
@nifty:デイリーポータル Z 特集 フェティッシュの日曜日 2004年2月22日 「牛丼はまだここで食える」より

Wikipedia サンボ (牛丼店)


2001年12月 初版 「この魅力的な店を(勝手に)Webで広めたい、しかし一連の作法に於いてハードルが高すぎる」との思いが制作の経緯
2005年9月 店舗地図をYahoo!地図の仕様変更に伴いマピオンに変更
2008年8月 記述内容を現在の状況に修正 店舗地図をGoogleマップに変更 Googleストリートビューも参考にすれば迷うことは無い筈
2009年5月 最終更新 若干の追記

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