焦りと不安が、正樹の足を学校に向かわせていた。坂道を駆け上がり、学校の門をくぐり、校庭へと走り込んでいく。

―――早く、早くしないと。湊太に聞いてもらわないと。

クラブ練習でひしめきあう校庭の片隅で、ドリブルの練習をしている湊太を見つけ、正樹は名前を呼んだ。
が、息があがってしまい、声にならない。喉が苦しかった。
立ち止まり、夜間照明灯に手をついて、まずは息を静めようと深呼吸をした。

―――落ち着かないと、落ち着かないと。

「あれ、正樹じゃん。何してんの?」

顔をあげると、目の前に湊太が立っていた。顔も体操着も、みんな砂埃で土色をしていた。さっき別れて30分もしていないはずだが、相当練習をしていたらしい。

「練習見に来た?正樹、オマエ、運動神経いいし、結構サッカーうまいんだからさ。ちょっとやってみるか?」

ようやく息が静まり、湊太に向き合った正樹は、2,3つ咳き込んで、声を出そうとした。その、時。

「今から練習すれば正樹もきっと選手になれるぜ!来いよ、先生の所にいこう」

嬉しそうに正樹の腕を力強く引いた湊太の手は、邪険に振り払われた。勢い余って、湊太はその場に尻餅を付く。
見上げた正樹の顔に、何か冷たい物がよぎった。

「さわるなよ、泥がつくだろ、汚いな」

一瞬、ぽかんと口を開けたが、間髪入れず湊太が立ち上がった。

「…んだよその言い方は!」

怒りのあまり語尾を震わす湊太に対する正樹の、その顔に表情はない。

「汚い手で触ろうとしたからだろ」

瞬間、掴みかかろうとした湊太の腕を、誰かが押さえ込んだ。振り返ると、クラブの上級生が何人か立っていて、他にも数人が駆け寄ってくるところだった。

「何やってるんだ、高崎」
「ケンカはよそでやれよ、ここじゃ先生に見つかるだろ」

口々に窘められ、湊太は上げていた腕を降ろした。握り拳はそのままに。

「オマエ、最低だよ。なんだよ。心配してやってんだぞ」

苛烈な視線をうけてもなお、正樹の表情は変わらない。そして、ふ、と横をむいて、そのまま校門に向かって歩き始める。
その背に湊太の声が突き刺さった。

「オマエなんか、もう、友達なんかじゃねぇよ!」

正樹はそれでもいいと思った。

それでいいのだという声が、どこかで響いた。


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