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学校が終わると、たいていの場合正樹はまっすぐに家路についた。クラブにも入っていなかったし(4年になれば、必ずなにかに入らなければならないという決まりはあるようだったけれども)特に残っておしゃべりをする友人がいるでもなかったからだ。 が、今日は、違った。 ―――謝るなら、早いほうがいい。 今日は朝から頭がすっきりしていた。振り返ると、誰かに話しかけるのが今まではずいぶん億劫だったし、話しかけられるのもなんだか嫌だったのだ。 湊太は、だが、グラウンドにはいなかった。 「ああ、サッカー部?なんか今日は試合とかで、南部小学校だったかな、行くって昨日言ってたぜ」 がっくりと肩を落として、正樹は今度こそ家路についた。 その日の夕飯の時にも、母親からびっくりしたように「正樹、あんた、今日はずいぶん喋るわねぇ」と言われ、そうかなぁと笑うしかなかった。 「お父さんから昨日あずかったんだけど。新しい家の契約書」 正樹は、ぱっと顔を上げ、母親はそれをうけて嬉しそうに頷いた。 「ちょっと古い家だから、リフォームしないとならないみたい。半年くらいしたら、引っ越しよ」 家の中にも、暖かい風が吹いてきたようだった。 ● 「まぁ、あたしなんかが論評するのはどうかなーとは思うけど」 ベッドに腰掛けた女が、正樹に笑いかけた。手首に巻きつけた金色の装飾が、蛍光灯の明かりをうけて光る。短いスカートから現れた細い足は、見事な脚線美を誇っていた。 「多分、アレじゃないかなー。凰藍、あんた、ずいっぶん正樹にちょっかい出してたでしょ。かっわいそうに、友達もどんどんいなくなっちゃってさー」 魔法書から目を離して、凰藍はにがりきった顔を女に向けた。 「必要と思ったまでだが?」 あとすこしで調理師免許がとれるらしい獅子の姉は、不敵な笑みを見せる。 「人間の女の子が謝ってきたってことを、なんとか伝えようとしたって言ってたよね。まぁ、結果的には失敗してるんだけど。―――ちょっと、にらまないでよ。で、ね。今まで、正樹に伝える為には…なんていうかな。圧力?こうしろとかああしろとか、そういう方ばかりじゃなかった?友達つくるなーとか、余計なことに興味をもつなーとか。―――…なんで知ってるかって?だって珀氷は色々と教えてくれるんだもん。だから、さ。正樹に対するアプローチが、かなり違っていたんじゃない?正樹の気持ちを尊重しつつ、っていうのかな?」 だいたい、黄妃様は宝物殿の鍵をお貸しくださっただけで、何をしろとも仰ってないのよ―――蒼胡は自分の考えが正しいのだと、うんうんと頷いた。 が、湊太に会いに行くと決めた正樹を、とめることが出来なかった。 「今回はかーなーり偶然だったけど、効果としては上出来だわね。あたしは、対等になろうっていう気持ちが、正樹と凰藍を分離する鍵じゃないかって思うの。 あんたの心のどこかに、正樹を利用しようなんて気持ちがあるなら、まずそっちをなんとかするべきね。―――ああ、それから」 蒼胡の腕に、ふっと新聞が現れ、彼女はそれを大きくつきつけた。一ヶ月前の新聞だ。春日大和市の事件が大きく報じられている、全国新聞である。 「正樹の顔、バレちゃまずいっしょ?それもなんとかしなさいね」 はぁ、こりゃダメだわと蒼胡はおおげさに溜息をついてみせた。 「正樹の身体にはあんたの心だけじゃなくて、身体もついでに封印されちゃってるわけよ。完全分離は難しくても、元々融合しているものを一面だけ出すってのは、そう難しくないらしいの」 例えば、今の自分のように、か。 魔法書の厚みをちらりとみやる凰藍を後目に、蒼胡は、じゃ、明日あたし早いからと言い残し、窓を開けて外に飛び出した。 |
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