次の日の目覚めも、快調だった。
昨日は結局湊太に会えずじまいだったが、今日はかなりやる気になっている。幸も、やるぞーという気持ちが大切だといっていたのだ。

―――だいたい、どうして友達なんかいらないなんて、思っていたんだろう?

今までは、漠然とその答えがどこかにあったはずなのだが、何度考えても、見つからない。絶対に、いらない!…と、確かに思っていたはずなのに、だ。

パジャマから洋服に着替えて、両頬をパンパンと両手で叩いた。

「よし!今日は、湊太に謝るぞ!」

まずは朝ご飯を食べて、しっかりしないと。正樹は扉を開けて、元気良く居間の両親に向けて挨拶をした。

湊太の昼休みは、だいたいクラブの練習に決まっている。
1時間ほどある小学校の昼休み時間で、グラウンドに出て上級生に習いながら、下級生の指導も行う。もちろん、そこまでやらなくてもクラブには在籍できるものの、その1時間でかなり差が付いてしまうのだ。
湊太はレギュラーの座を狙っていたので、当然毎日かかさず練習には行っていたし、休みの日も出来るだけ町内のサッカーチームの練習に加わることにしていた。

だから、給食が終わって教室を出た時に、正樹に呼び止められた時に不機嫌な顔になってしまったのは、仕方がないというものだ。

「…なんか用?」

湊太の中で、この半年間の正樹は『なんだかじめじめした嫌なヤツ』でしかなかった。実際、他に友達を作ろうとしているようにも見えず、第一湊太を無視し続けていたのだから。
―――しかし。
振り返った湊太は、何かが違うことに気付いた。
今、湊太の目の前にいる正樹は、普段と様子が違っていたのだ。
伏し目がちにそして誰とも顔を合わせないように歩いていた正樹ではなかった。
しっかりと湊太を見据え、手を握りしめて立っている。

「湊太」

いうなり、正樹はいきなり頭を下げた。突然のことに、湊太はぎょっとして動けなくなってしまった。

「ごめん!」

廊下にいた子供達が、一斉に二人を見た。ごめんと言ったまま下を向いている正樹は恐らく気付いていないだろうが、湊太は一身に視線をあび、居所が無い。

「ちょ、ま、おま、んな目立つところでやって…」

おろおろと周りを見ながら正樹の顔をあげさせようとするが、まるで彫刻のように動かない。
湊太はこういう場面が一番苦手だった。
―――だいたい、こんな絵に描いたように謝られたのなんて、今まで一度もなかっのだ。

「正樹、顔を上げろ!」
「許してくれるまであげない!」

湊太は思いだしていた。
――― そうだ。コイツは、やたら強情なヤツだった。
幼稚園の頃、園内でタッグを組んで、いたずらのし放題だった。プールに絵の具を溶かしてしまい、園長先生にこってりと叱られた時でも、最後まで謝らなかったのは正樹だ。
いたずらを思いついたのは正樹で、その理由がすごい。
「どうせプールで泳ぐんだったら、色の付いた方が楽しいから」。
しかも自分が正しいのだと、なかなか譲らない。もちろん湊太が強烈に覚えているこの一件だけではないのだが。

何時しか疎遠に―――正樹を誘っても付いてこなかったり、声をかけてもこなくなって、そんなことすらすっかり忘れてしまっていた。

「…わかった。オマエの気持ちは」
「許してくれるの!?」

上げた顔に見覚えがあった。最近、ずっと見ていなかった、湊太の友達の顔だった。

「しょーがねーな!そこまでいうなら、許してやらねーこともねーな!」

腕を組んでふんぞりかえった湊太の前で、正樹は照れ隠しに笑って、そして言った。

「ありがと、湊太」


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