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それからの凰藍は、普段にも増して魔法書にとりかかる時間を多くとった。心の中での葛藤はまだ続く―――正樹にはっきりと告げる、その時期。 近頃、正樹は特に悩んでいるようだった。おそらく意識がなくなったりという事なのだろうが、それでは具体的にどういう事を悩んでいるのか、同じ身体を共有しているのに全く判らないというのも非常に不便で、それが凰藍の悩みを深くしていた。 そうして、凰藍が悩み続けている間も季節は容赦なく巡り―――夏。 夏休み初日の朝。 「湊太君を見習いなさい!サッカーの練習で、朝8時から学校に行ってるんですって」 それに付き合う高崎さんの奥さんも大変よねぇ、と一人ごちて、それに比べてうちのぐうたら息子はとねめつける。 「だったら毎日7時に起きなさい!湊太君と一緒にランニングしてくればいいじゃない」 折角の夏休みにそれはあんまりだと思ったのと、これ以上の反撃はあまりにも分が悪く、正樹は慌てて顔を洗いに行った。 さっぱりとして居間に戻ると、さっきは怒っていた母親が、今度はにこにこしながら何かを手に持って手招きしていた。 「す、すっげー!カイガイリョコウ〜!?」 母親が手にしていたのは、ハワイ旅行のパンフレットだった。 「すごいでしょ!?…なーんてね。これは、まだまだムリなのだ」 なーんだ、と脱力する正樹に、母親は一番下にあったパンフレットを見せた。極楽の湯とか、秘湯の宿とか、ずいぶんとリラックス出来そうな文字がパンフレットに踊っていた。 「…温泉旅行?」 図星であった。 「それに、もうとっくに申し込んじゃったもの」 母親はぬけぬけと微笑んでみせた。小悪魔的な微笑みだった。 「正樹だってもう10歳だもの、一人でお留守番出来るわよね?」 出来ませんなどと、口が裂けてもいえるわけがない。なぜなら、町内で仲良くなったらしいご近所の奥さんの子供を持ちだして、長々とお説教を受けるに違いなかったし、だいいち10歳にもなって留守番が出来ないようでは、確かに恥ずかしい。 母親は息子の無言を、肯定と受け取ったようだった。 「よし、じゃ、よろしくねー!」 彼女は颯爽と、会社に出かけていった。 |
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