午後は、湊太の持ってきたTVゲームでほとんど遊びつくした。
正樹もそのTVゲームを欲しかったが、引っ越しの時にマウンテンバイクかTVゲームかと聞かれ、マウンテンバイクを選んでしまったのだからしようがない。
気が付くと、日は西に傾いていた。

「うわー、なんか、久しぶりに遊んだ!って感じだなー!」

さすがに目が疲れてきたのか、湊太がコントローラーを手放してごろんと仰向けになった。
正樹も、丁度操っていたレースカーが何度目かの激突をした所だったので、手を休めて隣に寝そべる。

「サッカーの練習、毎日あるんでしょ。土日もやってるなんて、すごいよね」
「ああ、結構ハードだぜ。でもみんなやってるし、みんなライバルだから」
「すごいねぇ…」

溜息混じりに呟くと、湊太が歯をむいて笑った。

「オレ、Jリーグの選手になるんだ。で、海外に移籍してさ。世界でサッカーやりたいんだ」
「僕たちまだ小学生だよ?もうそんな事まで考えてるの?」
「サッカーやってる仲間は、みんな多分そう思ってるよ。あちこち情報集めているみたいだし」
「…そっかぁ…」

正樹にとっては海外でサッカーをするなんて、まるで現実感の無い事だったが、湊太達にとってはそんな遠い未来の事ではないのかもしれなかった。

「オレは…やっぱり、正樹が一緒だったらよかったな」

呟かれた言葉に、正樹は返事が出来なかった。
1年も前ではない。多分ではあるが―――凰藍が、そうやって誘ってくれた湊太を突き放すようにし向けた事がある。
自分がどういう感情を持っていたのか、そのときもよく判らなかったし、今となっては更におぼろげだ。

だが、少なくともあの時サッカー部に入ってしまっていたら、毎日の練習で、魔物と戦うどころではなくなってしまっていたことは間違いない。
サッカー部の練習は夕方日が落ちた頃に終わり、集団下校するか親に迎えに来てもらうかしているのだ。何かが起きた時に、すぐ駆けつけられない状況というのはなるべく避けなければならない、その事は、今になれば正樹にも判る。

だから、おそらくあのときも、凰藍はそれを心配してわざと突き放すような事をしたのだろう―――と、正樹は考えていた。

ふと、正樹の視界に何かが過ぎった。まるでスローモーションのように、飛び込んでくるそれは、手の形をしていた。まっすぐ、顔に向かってうち下ろされようとする手を、咄嗟に掴んで引き倒す。
一瞬のことだった。

「―――すっげぇ」

正樹の左手で床に縫い止められた手は、湊太の右手だった。

「あれ、偶然とかマグレかと思ってたんだぜ。お前、すげぇよ」
「いきなり、どうしたんだよ」
「いや、ちょっと、動体視力の検査」

自由になった右腕をふりながら、湊太が身を起こす。同じように身体を起こして、正樹は首を傾げた。聞いたことのない言葉だった。

「ボクサーとか野球選手とか、いるだろ。あれって、向かってくる球や手を、こう、コマ送りにしているみたいに見れるんだって。球がゆっくり止まっているみたいに見れる、それを、動体視力っていうんだ」

何時だったか、幸の振り下ろした平手をほとんど動かずに制止したのを湊太はまだ覚えていた。それがなんだったのか、あちこちに聞いて、判ったのだ。

「お前、動体視力がすっげあるんだよ。普通はなかなか出来ないんだぜ、あー、やっぱりもったいない!ていうかさ、なんでそうほやほやしてんのに、そういう時だけびしっと決めちゃうかな〜」

動体視力があるといわれても、さりとて使い道はなさそうだった。プロボクサーになるつもりも、プロ野球の選手になるつもりもなかったからだ。
―――もし、なるとしたら。

とくん、と正樹の心臓が波打った。

―――湊太にだったら、言ってもいいかも。

僕、すごい魔法使いになるんだ。魔物からこの街を守る、魔法使いに。凰藍がいなくなっても一人で守れるくらい、強い魔法使いになる。

「正樹、お前将来の夢とかってある?」

湊太は真顔だ。その顔に、嘘などつけようはずもなかった。

「僕―――」

躊躇いは一瞬だった。

「―――考え中」
「なーんだ、ま、お前らしいけど」

そうだね、と照れ笑いをした正樹の本心を、湊太はついに知ることは無かった。


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