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―――あの、決意の日から6年か。 足下を過ぎ去る風は、何も変わらない。天上に鮮やかな弧を描く月も、瞬く星達も、そして―――。 「どうしたの、凰藍」 いや、と凰藍は短く答えた。変わらないのは、未だ正樹の身の内にある、己だろうか。 「今日は、どうだろう。この前現れたばかりだから、大丈夫だとは思うんだけど」 細身の身体を、淡い金色の光が覆う。光が徐々に凝縮し、その背に五色の翼が現れる。 屋根の上に登った時にかけておいた姿消しの魔法はそのままに、翼を大きく震わせて、中空へと飛び立つ。 見晴らす街の情景は、ここ5、6年でかなり変わっていた。 そうして、眼下に広がるのは、宝石箱をひっくりかえしたような夜景だ。人が行き交う場所には、まるで日中のように明るい街灯が数多く備え付けられていた。 「綺麗だよねぇ…。一回、僕、ここからの写真を撮ってみたいと思うんだけど。きっとみんな綺麗だっていうよ」 高校2年生―――16歳になっても、相変わらずどこかがズレているのは、変わらないようであった。短く刈った髪、180cm近い引き締まった長身、顔もそう悪い方ではなく、女生徒からのラブレターや告白は、年に数回。 「あ!!」 突然、正樹は叫んで、振り返る。 『どうした』 凰藍にも察知できない、魔物の気配でも感じたのだろうか。緊張を走らせた凰藍に、正樹は溜息一つで答えた。 「…靴、履いてくるの忘れた…」 ―――これさえなければ、ちゃんとした魔法使いなのだろうが…。 凰藍はそれと気付かれないように、大きく吐息を漏らした。 正樹自身を巡る環境も、年を経て変化した。凰藍の思ったとおり、魔法のセンスは目を見張るものがあり、その習得の早さといったら、舌を巻くほどだった。 正樹がいうには、「学校で教えてもらう事は考えながらひっぱり出してこなきゃならないから勉強が大変だけど、呪文は頭の中に直接書いている感じで、それを読むだけ」なのだそうだ。どういった違いがあるのかは凰藍にはさっぱり判らないが、しかし刻まれた物が消えたり忘れられたりしないのは、一つの才能ではないかと考えられた。 呪文を覚えて魔法を使う毎に、魔力を貯める器も比例して大きくなる。魔法を使うときに、器がオーバーフローしたり、逆にいらない魔力を使ったりしないよう、指向性をもたせる必要に迫られた。 細かい文様が幾重にも彫られた細身の杖は正樹の手によく馴染み、しかし普段は1mほどもある為に持ち歩くことは出来ないので、左腕の骨と融合させてある。 一方の魔物の方は、これは少なくなるどころか、出現回数を増やしていた。半年周期だったのが3ヶ月に、そのうち1ヶ月に、今では新月の頃―――月に2度ほどは、現れる。 ただし、場所についてはお互いに法則性を見つけることは出来なかった。無いと決めつけることも出来ない為に、魔物が出ないと思われる時でも、巡回をすることにしていた。 正樹の家から、ビル群は近い。今度こそ靴を履いて、いくばもしないうちに、その谷間へと滑り込んでいった。 |
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