市立大和高校は、春日市と大和市が合併して春日大和市になる前からある、歴史の古い高校だ。校風は他の高校よりも自由度が高く、かといってそこそこ成績がよくないと入れないので(ちなみに県立高校は春日大和市には無い)市内でもトップクラスのレベルを誇る。
位置的には市の北側、市民公園から更に3kmほどあがったあたりの立地で、以前はネギ畑が広がっていたのだが、最近は大規模な住宅団地が近くに出来た事で、道が広げられて整備された。

1ヶ月半ぶりにいつもの通学路を自転車で走り抜け、生徒でごったがえす校門をくぐり、自転車置き場に自転車を置いて、ロックをかける。
背負ったバッグを手に持ち替えて歩き出した正樹は、後ろから声をかけられ、振り向いた。

「よ、ひっさしぶり!」
「祐介、おはよう。―――お前、また日に焼けた?」

にひ、と笑った顔で、歯だけが白い。
南祐介は、1年からの同級生で、大和高校のサッカー部に所属している。湊太が進学していった私立高校のサッカー部とは差があるものの、それでも県内では悪くない成績を残している。
当然、夏休みもずっと練習していただろう。小柄だが、機動力はいいという噂はきいていた。

「結構、合同練習とか合宿とか、内容濃くてさ。も、俺の夏休みはどこって。カノジョも欲しいのに、なんで俺はボール追いかけてるのって。追いかける対象ちがうんでないって」
「祐介だったら、ネットの裏側から結構女の子が応援してくれてるんじゃない?」
「甘い!甘いよ正樹君!」

祐介は大げさに溜息をついてみせた。

「俺なんてさぁ、170ないからさ。もう、歓声あびまくりなのは、背が高い奴らばかりなのだよ。いいよなぁ、手作り弁当、俺も一度食ってみてぇ」
「うーん、僕のでよければ作ってあげたのに」
「…いい。お前の弁当がうまいのは知ってるが、野郎の手作り弁当はサムイ」

たしかに。

生徒であふれる校内を二人は歩き、階段にさしかかった時、後ろから順に頭を何かで叩かれた。
何事かと振り返るまもなく、横に並んだのは同じく級友である横川司だった。右手に持っているのは、日直ノートだ。テニス部らしくスナップの効いた鋭いアタックが出来るらしい。

「おっは!元気だった?」
「お前なー、階段昇ってる時にやるんじゃねぇぞ、それ、危ないから」
「ははは、ごめん」

司は屈託無く笑い、正樹もおはようと笑って答えた。三人で連れ立って、階段を上がる。三人の教室は二階の奥にある。

「ところでさ、さっき職員室で見たんだけど、すっげ最新情報、アリなんだ」

司は言いたくて言いたくてたまらないというふうに、話し始めた。

「外人!外人来たんだよ。なんか、お父さんみたいなデカい男の人と、パツキンのオレたち位の年齢の」
「うおう!おい、司、それ、女?」
「ざーんねん。男です」

なーんだ、とあからさまに残念がって、祐介が溜息をついた。

「ヨッシーと話していたから、多分オレたちのクラスに入ると思うよ。日本語、ちゃんと話していたから、仕事で来たのかも」

ヨッシーとは担任の吉塚のことである。今年で45になるらしい、メガネの奥の目が狡猾に見える、男性教員だ。

「ヨッシー、一応英語教えてるじゃん?でもなんかオドオドしちゃってさぁ、ちょっとばかり見物だったぜ」
「へぇ〜」

そうしているうちに、三人は教室につき、久しぶりに級友たちと挨拶を交わした。
大和高校の制服は、冬はグレーのブレザーに紺系のタータンチェックのネクタイ(男女とも)と市内でも評判がいい、デザインに優れた物だ。夏はさすがにネクタイを締めるのも大変だろうということで、夏服にはネクタイはつかない。
冬服がかなり暗い色であるかわり、この時期―――夏服の白いシャツは、男女ともに特にさわやかに見えた。

外人が編入してくるという話は、あっという間にクラスに広まった。とりあえず英語圏であるらしい、男だ(男子からはブーイングの嵐が起こった。女子からはブーイングではなく歓声があがった)、日本語も簡単なら話せるらしいという情報だけで、おおよそ10分は盛り上がっていたかもしれない。
そのうちに、始業のチャイムが鳴り、全員が席に戻った。戻っても、わいわいと前後左右の席同士で話がはずむ。

と、教室の前のドアが開き、吉塚が入ってきた。
全員が姿勢を正し、日直の司が起立の礼をかける。形通りに礼をして、全員着席をしたあと、吉塚が軽く咳払いをして、簡単に挨拶をする。いつもは長くて飽き飽きする挨拶が、今日は短かった。

「ええと、今日は、転入生を紹介する。入ってきたまえ」

廊下で待っていたらしく、再びドアが開き、一人の少年が入ってきた。
長身だ。
185cmは軽く超えるだろう。吉塚はそう背が低い方ではないのだが、それでも隣の吉塚が彼を見ようと思ったら、目を上に上げなければならなかった。

特徴的なのは、銀色がかったくせのあるブロンド、そして青い目、整った顔立ち。切れ目がちの二重は、一瞬で女生徒達の心を虜にしたのではないかと思われた。
これで体重が多ければ笑い話にもなるのだが、男子にとっては残念ながら、彼からは余分な肉というものが完全に削ぎ落とされていた。

「チャールズ・アレン君だ、君たちと同じ16歳。イギリスから、お父さんの仕事の都合でこちらに越してきた」

黒板に、白墨で綴られたスペルは「Charles Allen」。挨拶を、と言われて、少年は口元に笑みを浮かべた。


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