次の日、学校は朝から昨日の事件でもちきりだった。講堂には昨日の午後に警察が入り、未確認生物対策班も調査に入った、というのが職員室から漏れ伝わっていた。

「てことはさぁ、やっぱりアレ、魔物だったってことじゃねぇの?」
「決まったわけじゃないわよ、だってここ10年近く、ずっと新月の夜にしか出ないんでしょ。いきなり昼間に出るかな、しかもこの前出たばかりで」
「都心の方はランダムだって言ってたぜ。そのうち、ここもそうなるかもな」
「うわー、やめろよ、不吉すぎるぜそりゃ」

正樹の教室でも例外ではなく、正樹自身も司や祐介にひっぱられて、適当に相づちを打っていた。
が、警察が入ったときいて、内心は穏やかではない。 警察が本物か偽物かを判断できるとは思えないが、何か証拠に繋がる物を残していたら、と思うと少しは気になる。

例えば、羽根。
凰藍の翼は実体で、正樹が借りる時には凰藍の身体の情報をそのまま自らに組み入れているため、やはり実体である。服の方に簡単な魔法をかけておけば、服が破れることなく、また服を脱がなくても翼を出すことが出来た。これは凰藍も同じ原理で利用している。

その実体の羽根は、普通の鳥と同じように、抜けおちることもある。
凰藍にとっては迷惑なことこの上ないが、たまにそれを拾って開運グッズとして売りさばく者もいるという。おそらく、警察にも数本が渡っていることだろう。それを鑑定したからといって、少なくとも地球上に存在するいかなる生物の痕跡も、見つけられようもなかったが。

しかし、あの講堂で羽根が抜け落ちていたならば―――それを確認する術はあのときも無かったし、今も勿論無いのだが―――少々面倒なことになるかもしれなかった。

司達のグループで上の空で相づちを打っていた正樹の耳に、突然女生徒達の黄色い歓声が飛び込んできた。はっと我に返って声の方向を確かめると、教室の入り口には、チャールズがいた。取り巻く女生徒にそれぞれ愛想をふりまいているのが、マメといおうか、なんといおうか。

「あいつ、もしかしてすっげ女ったらしっていうヤツ?」
「…イギリスの男ってああなのか?イタリアだったらわからんでもないが」
「悔しいが顔と背じゃ、ぜってー勝てねぇ…」

男子生徒が気が気でない様子であるのも、ムリはない。そんな男子の様子に気が付いているのかいないのか、女子はチャールズを取り囲んで話に花を咲かせていた。

「チャーリー、昨日怖くなかった?」
「びっくりしたでしょ、怪我は無い?」
「oh、みんなThanksネ!ボクはダイジョーブ。ところで、アレは何なの?」

自分で出したくせに、と内心むっとした正樹の心などわかるはずもなく、女子はあたしが説明する、自分がと競り合って、そのうちの一人―――相川光奈が説明権を得たようで話し始める。

「もしかして違うかもしれないんだけど。この町、魔物が出るのよ。判るかな、モンスター。ね。だいたい新月の夜で、人を襲うの。それが、出たんじゃないかって思って」
「コワイですね〜!」

チャールズが眉根を寄せて、身体を震わせる。わざとらしいと思ったのは正樹だけだろう。

「人を襲ったわけじゃないから、違うかもしれない。でも、私が見たわけじゃないけど、なんか金色の光が舞台にいた獣を消滅させたって言ってた子がいてね。だったら、倒してくれたのは、やっぱり翼の剣士様じゃないかって」
「ツバサノケンシサマ?」

一瞬、チャールズの視線が正樹を捉えた。
光奈はチャールズの様子に気付かないようで、息を切って続けた。

「結構有名なのよね。金色の翼があって、剣を使って、魔物を倒してくれるの。見た子の話だと、髪の色も金色で、ものすっっごくカッコいいんだって。しかも、とっても強いの!気が付くと消えていて、警察もよくわからないんだって」

そうそう、と別の女生徒―――中村佳枝が後をつぐ。

「うちの親、新聞社に勤めているんだけどさ。もう7年も現れてるのに、魔物の正体も翼の剣士様の正体も、ぜんっっぜん判らないって、この前話してくれたんだ。ま、身体をはって新月の夜に取材にいくっていう人もいないし、魔物を倒した後じゃ、もう消えてるしね。結局は判らない事だらけで、記事にもしにくいらしいよ」
「へぇ〜」
「あたしたちは、まぁ、新月の夜の何日かは夜遊びしないで、家にいればいいから。そうしているうちに剣士様が魔物を倒してくれるから安心なんだけど」

だって食べられちゃったらオシマイだもんねぇとその場の女子が肯き合う。

「新月の夜が危ないのですネ?ありがとうございマース。でも7年もその剣士様はみんなを守ってきてくれてるのですネ。ウーン、そうすると、最初の頃はカッコよくても、最近はオジサンなんじゃないですカ?」

よくぞきいてくれたと、光奈が大きく首をふった。どうやら光奈は「剣士様」のファンらしい。

「それがぜんぜん年をとってないみたいなの。大学生くらいじゃないかな。絶対、20越してても25じゃないってカンジらしいよ。最近見た子の話を総合しても」
「うちの親に聞いてもそうみたい。すっきりした面立ちで、日本人には見えないって。ま、とりあえず羽根なんかあるわけだし、人間じゃないだろーけど」

と、佳枝が何かに気付いたように、そういえばと小さく呟く。

「ねぇ、光奈って覚えてる?昔さ、剣士様が現れる前のこと。なんか、こうやって話したことあったよね、小学生の時。同じくらいの、子供の話さ」

光奈に限らず、その場の女生徒、そしてそれを聞いていた男子生徒達もそういえばと記憶を辿った。わからねぇよと言っているのは、他の市から転校してきた生徒くらいだった。
それほど、当時の彼らにはセンセーショナルな話題だったのだ。


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