「そういやあったよなぁ。正樹、お前何小学校だっけ」
「え?僕?春日大和小学校…」
「ああ、駅南だもんな。俺さ、駅の近くに住んでんじゃん?桂城小だったんだけど、近かったから、そりゃー大騒ぎだったぜ!」

祐介は身振り手振りでその時の事を話した。警察が来て、教師が全員手配書のような物を見せられて、該当する児童がいないかどうかを探していった事。たまたま祐介の小学校には該当する年齢の児童が少なく、剣道を習っている子もいなかったので、すぐに警察は別の小学校へと引き上げていったが、それでも子供達の中ではずいぶんと長く話題になったこと。

勿論、正樹の小学校でも例外ではなかったが、駅からかなり離れた山の上にあったからか、警察がきたという事は伝え聞いていない。
それよりも。

「へぇー、子供の時もあったんでスか」

佳枝や光奈からその事を聞いたチャールズは、口の端に笑みを浮かべていた。

「でも半年後にはもう今の剣士様だったわけだから、成長っていうにはちょっとおかしいかも。別人か、それか幻覚かっていうのが通説なんだけどね」
「人間じゃないならナンでもアリかもしれないデスよね?」

と、そこで本礼のチャイムが鳴り、入り口から担任の吉塚が入ってきたので、そこで話は終わりとなった。
がたがたとイスや机をならしながら席につく生徒達と同じく正樹も自分の席についたが、斜め後ろに座ったチャールズの事が気に掛かって仕方なかった。
ちら、と振り向くと、やはり目があった。
相変わらずハーイと手を振られ、曖昧に頷いて目線を元に戻すと、隣の司がまたしても声をかけてきた。

「…お前、気に入られたのと違う?」

それは違うと激しく否定したかったが、なにより面倒なことになりそうなのは確実だった。

その日は授業という授業はなかったが、午後にクラブ活動の時間が設けられていたので、弁当持参できていた。
普段の昼食は司、祐介、それと席が近い何人かと食べて、残った時間はそれぞれ部活だとか用事を済ませに別れてしまうのだが、今日は部活もないというのと、チャールズに話し掛けられるのが嫌だったので、正樹はそのまま友達と過ごすことにした。

一方のチャールズは販売に来たパンを買っていたが、女子からお弁当をわけてもらっていたりと両手に花状態で、しかしどうやら正樹と話したいようでちらちらと視線を送ってはいたものの、女子に取り囲まれて質問責めにあっており、どうしようもないといった所のようだった。

「女子も結局男は顔なんだよなぁ…」
「いや、背もある、背も」
「…祐介、なんか実感こもりすぎだよオマエ」
「テニス部のホープの司クンにはわかるまい!この苦しい胸の内!」
「―――とりあえず、話変えてもいいスかね?今朝、当番日誌取りに行ったとき、センセの話聞いちゃったんだけどさ」

司が机の周りにいた全員を集めて、声をひそめる。

「出たんだって。アレ」
「アレ…って幽霊かよ」
「アホか!」

げいん、と司が祐介の頭を殴った。

「羽根だよ羽根!金色した、羽根」

その場にいた全員が驚いた表情をしたので、正樹の驚きが―――口から心臓が飛び出るかと思うほどの驚きが、余人に知れることはなかった。

「じゃ、やっぱ、アレってそうだったのか」
「じゃねぇの?剣士が来たんだったら、間違いねぇだろ。あの風だったからな、かなり数が多かったんだとさ」
「ひぇ〜。それってチョ〜まずくね?昼間にも出ることになったなんて、ヤバすぎだぜぇ」
「だからトップシークレットなんだって。ヘタに広めるとパニックになるから、黙ってろってさ」

もうしっかり広まりを見せているのだが、いずれにせよ人の口に戸は立てられないのだから仕方がない。

「え、でも、それって間違いだったりとかしないかな?金色に塗られた羽根だったりとか」

精一杯の言いつくろいは、全員の苦笑を招いただけだった。

「正樹のボケボケぶりはもう、お腹いっぱい。んなはずないだろー、あっちはプロなんだから」
「そ、そうだよねぇ。…困ったなぁ…」
「ホント、困ったことになったもんだぜ」

正樹の困ったと他の困ったとは全然意味合いが違ったが、それを気取られることは無かった。

―――それにしても、どうしたものか。

正樹は心の中で大きく溜息をついた。
騒ぎの元凶は、まだ、女子と楽しく談笑している。
後ろからハリセンを食らわせてやりたい、と思った相手は、彼が初めてかも知れないと正樹は思った。


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