春日大和中央警察署に設けられた、春日大和市内の未確認生物対策班―――対策はほとんどしていないので、単に調査班と呼ばれることもある―――の構成人数は12名である。
警視庁に設けられた、やはり同じ未確認生物対策班からの出向が1名、あとは市内各警察署からの出向が5名、残りが中央警察署の担当者だ。

主に、新月の夜前後の見回り、事後調査、建築物が破壊されていればその残痕からの科学的調査などが任務である。
過去には屈強な者を揃えて立ち向かうという予定もあったのだが、都心、そしてこの春日大和市で数度警察官が襲われてからは、あえて未確認生物に直接関わることはしていない。
彼らの代わりに市民を守ってくれる、ありがたい存在がいるからだ。

これこそ触らぬ神に祟りなしという事で、警察としては安易に動かない事が得策とされていた。
いずれにせよ、そのありがたい存在―――市民の間では『翼の剣士』と呼称され、警察では散々議論をした結果、単に『剣士』とだけ呼ばれる―――の正体すら掴めていないのだから、コンタクトのとりようも、また、最低限の状況の確認すら出来ない。
結果としてどういうことかというと、市民はこの件に関しては警察をあまり頼りにはしていないが、それも致し方なし、という事で収まっているようである。

なにしろ、都心ですら、ここ16年全く同じ状況なのだから。

その、対策班の会議室で、6名の担当者が一枚の羽根を囲んでいた。
末席に座ってそれを差し出したのは、彼らとは一見無関係の、交通課の課長である。

「…それで、その話の証拠が、これというわけか、坂本警部」
「にわかには、信じがたい話ではあるが…」
「繰り返しますが、剣士は大和高校の講堂に呼び出されたのだと言っており、しかも暴風源は未確認生物ではなかったと」
「で、それは人間の魔法で作られた物体だった、のだろう。…まぁ、剣士がいて未確認物体がいる以上、今更魔法だといわれても、驚きもせんがね。それに、剣士のいうように人間に魔法使いがいても、我々にはどうしようもないな。相手が判らない以上、損害賠償も請求できまい。今後は、学校を舞台にすることだけはやめてほしい、と願うばかりで」

坂本より年若い同階級の警部が苦笑し、周囲もそれはそうだと破顔した。

「坂本警部、剣士は他には何か…言っていなかったのかね?」
「いえ、とにかく、未確認生物ではないから、その点だけ伝えたいと言いまして、自分はその証拠にこれを預かりましたら消えてしまいましたから、あとはなんとも」

ウソは一つも言ってないのが、この話のミソであった。坂本はウソが付けないタイプの人間である―――つまりはすぐにウソがバレる人間である。
しかし、この場合、わざと色んな事をぼやかしてあっても、対策班には「剣士の伝言なら仕方がない」と納得できる要素となっているようだった。

「まぁ、坂本警部の話は信じるしかありませんな。少なくとも、その時間、たまたま私が通りかかったら、柿元巡査―――今は巡査長だったかな?彼が、坂本警部をずいぶんと捜していましたし。トイレに行ったにしては遅い、とかなんとか。まさか、トイレ帰りに剣士を見つけて、剣士と話をしていたなんて、彼は思いもよらなかったでしょうな」
「いや、全く、剣士が警察署に忍び込もうとしていたなんて、驚きですよ。どうせだったらウチの班に直接相談に来てくれればよかったのに」
「そうだなぁ、一度挨拶をしておきたいとは思っているんだがね、なにしろナゾが多いねぇ、彼は」

すっかり和みムードになっていた。
ムリもない、と、一人冷静に観察していたのは、警視庁から配属されてきた、坂本と同い年の伊丹警部である。
新月に限って警邏していればよかったのに、いきなり朝も夜も関係なくなったら、自分たちが大変なのだ。それが無くなったということは、喜ばしい限りであるはずだ。
警視庁の対策班でも実際出来ることはほとんどなく、ノンキャリアの彼が春日大和中央警察に配属されたのも、人減らしのような所もあった。

「都心でも、彼らはほとんど我々警察と接触しませんからね。ヘタに近寄ろうとすると、牙をむかれますから」
「坂本警部の件は、まさに例外中の例外というわけだな。ま、とりあえず、この件はこれで終了ということで、諸君、よろしいかね」

異論は無かった。坂本は、一例して会議室を後にした。

1Fの交通課に向かう坂本の背に、伊丹が呼びかけた。足を止めた坂本の横に、伊丹が並ぶ。

「坂本警部、先ほどの話ですが…」
「私が剣士から聞いたのは、あれで全てですが?」
「―――もし、彼らの正体に…いや、剣士でなくてもいいんです。未確認生物の正体に、何か心当たりというのでしょうか、知っていることがあればと思いまして。…都心でも、彼らは時に現場の警官となら話をしているようなのです」

坂本は小さく首を振った。

「申し訳ない、お役に立てなくて。では」

一礼をして、きびすを返し、階段に向かって歩き始める。その背の向こうで、伊丹がやはり背を向けて、元の道を戻り始めていた。坂本は心の中でひとりごちた。

―――おおよそ、見当はついているがね。

伊丹は警視庁に戻りたいのだ。だから、ここの対策班も、向こうの対策班も知らない事実を掴みたいと切実に思っている。

―――売られてはたまらんな。

言葉少なであれば、ウソも通せる。剣士の正体など、口が裂けてもいえるものではなかった。未成年、しかも高校生であるなどと知ったら、伊丹がどんな手に訴えるか判ったものではない。

坂本は、手にした金色の小さな羽根を大事に胸元にしまった。
秘密を固く守るという、決意のように。


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