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次の日の朝。 「おはよー父さん母さん。 …なにか気になる事件でもあった?」 正樹の父親は、都心の出版社に勤めている。お堅い本から漫画、週刊誌まで手広く展開している大手の出版社で、その中で主にグラビア写真集の出版に関係した部署にいる。 正樹に気が付いて、おはよう、と言ったものの、目は新聞から離れない。 「…何読んでるの?」 後ろに回ってのぞき込むと、多くの記事に混じって、ひときわ目を引くタイトルが目に入った。 「昨日さ、俺、昔の友達と呑んでたんだよなぁ。やつぁカメラマンで、カメラは常に手放さないっていうスクープ記者みたいなこともやっててな。…これ見たら、悔しがるだろうなぁと思ってさ」 新聞に踊った文字―――『春日大和市に翼の剣士現る』『何故か走って逃走、忽然と消える』 。 写真がないので確たる証拠はないものの、しかし何十人もの人が逃げる姿を見て、追っている。そのただ中に消えたというのだから、本物であろうという事であった。 「剣士さんも大変ねぇ、あたしは見たことないけど、ずいぶん綺麗な子なんですって?ファンもたくさんいるでしょうし、こんなに騒がれちゃうんじゃ呑みに行きたくても行けないわねぇ」 正樹としては、更に別の意味で、そういう問題ではなかった。 ―――僕にはさんざん怒っておいて、なんだよ、自分も人のこと言えないじゃんか… 繁華街にいたのは、おそらく巡回の為だろう。 「…っとにバカだなぁ…」 気持ちが高じて、つい声に出てしまったらしい。慌ててなんでもないと首をふって、朝食の席についた。 ◆ 朝食を食べ終わって、片づけをし、さぁ今日は何をしようかと正樹が部屋に戻りかけた時に家の電話が鳴った。階段の下にある電話の近くにいたので、電話をとる。 「―――湊太!」 湊太の声を聞いたのは3ヶ月ぶりくらいであった。夏の大会に向けての練習、そして秋季大会に向けての練習などが立て込んでいて、別の高校に進んでしまったので、会うのはおろか電話すらかけていいのか判らない状況だったのだ。 『ああ、ま、結果オーライだったからな。ところでさ、お前に話しておきたい事があってさ。忙しいから電話でごめんな』 思わず大きな声が出てしまい、それを聞きつけ、なんだなんだと二人が居間から出てきた。 「イタリア、って何、サッカーの勉強しにいくの?」 電話の向こうで、へへ、と小さく笑う声が聞こえた。 『サンキュ、正樹。ま、行くのは来月なんだけどさ。準備とか忙しいから、そのままになるかも。落ち着いたらまた電話か手紙、書くよ。俺インターネットって出来ないんだよ、メールはカンベンしてくれよな』 電話が切れた。 今でさえ日本のサッカーの未来をしょって立つ有望な選手、という見出しでスポーツ情報誌や地元TVに紹介されているのだ。 「高崎君から電話?」 へぇ、という声が二人から漏れた。 「奥さん、何も言ってなかったけど…」 時間がうまくあえば、見送りにいけるんだけどな、と父親が腕組みをした。そうだね、と正樹は答え、それでももし見送りにも行けなくても、最後の日にはこっそり姿を見に行こう、と決めていた。 |
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