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魔法の感応は誰よりも優れている。
その自負があるから、安心していた。
感応できない魔法が発動していたら。
そんなことになど、考えは及ばない。
男が振りかける聖水が正樹の左腕に当たった瞬間、聖水が蒸発して煙を噴いた。
一瞬、見間違いか、と思うほどの小さな水蒸気。
え、と思う間もなく、目の前で、異変は起きた。
地面に向かってだらりと伸びていた左腕が、急激に振り上がり、指が空を指す。
チャールズが素早く唱え放った炎の矢は、正樹の体に届かない。音一つたてず、はじかれた。
慌てて後ずさった男達が見たものは、その腕から無数に伸びる触手のような白く細い枝。それが生き物のように宙に浮く体を囲い始める。
もう一度、今度はより強く練り上げた火尖を、チャールズは放った。
至近距離から放たれた炎の力は、か弱く見える白い枝を簡単に貫くかに見えたが、やはりそこに到達するまえにかき消えてしまう。
愕然と目を見張った術者達の目の前で、白い枝は止まることなく、幾重にも正樹の体を包み込む。
―――このままではおじいさまの命令が。
迷っている時間はなかった。距離を保とうとする他の術者達を後目に、更に、強い力を生むべく気を高める。
そのチャールズの目の前で、ついに、正樹の全身を堅く覆いつくした白木の檻が動きを止めた。
―――やるなら、今しかない!
腕を前方に突きだして、前方の空間に火尖を作り出す。
もしかしたら枝を突き抜いて、中の正樹すら消してしまうかもしれない、それほどの大きな固まり。
腕の延長上にいた術者が、慌てて駈け去っていく。周囲を固めていた術者たちは、芝生の上に伏せ、成り行きを見守るばかり。
―――消えろ!
空気を震わせながら、白光の固まりが白木の檻に向かう。凄まじい熱量と気の渦が、そこに逆巻いた。
が。
チャールズは自分の目を疑った。激しい風が収まった時、檻は無傷だった。
ばかな、と、目を見開き、芝生の上に両膝をつく。
しかし、それで終わりではなかった。
ふつふつと、枝の節々から光が零れ始めた。
まるで蛍のように白い檻を囲い始める。
枝の一つ一つが、脈動を始めていた。明滅する光が、徐々に強くなっていく。
いったい何が始まろうとしているのか。
息をすることも忘れて見守る術者の、そして、呆然と座り込んだまま動けないチャールズの目の前で。
周囲を漂っていた光が、急激に檻の前方に収束していく。円を描きながら、風を巻き起こしながら。
やがて無数の光の洪水が渦を巻き、そして、中心に黒い空間を作り上げた。―――チャールズには、そう見えた。
異質な。完全な、深淵の闇。
檻はゆっくりと、動き出す。
作り出された空間に向かって。
もう、チャールズには止めることは出来なかった―――その力も、もう無かった。
その場にいた誰もが、ただ見ていることしか出来なかった。
檻が闇に消え、光の渦が拡散し。
夜明けを告げる鳥が、一啼きするまで。
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