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● 「明かりを点けろ!」 ホルストの声と、オペレーターの動作とはほぼ同時だった。もとより用意していたのかもしれなかった。 「なんてことだ…」 ホルストは呻いた。 「聞こえるか、警備班!生きている者は手をあげろ!」 カメラが拡大した映像の中で、アナウンスに応えて手をあげたのはわずかに5名。あとは、手をあげられなくとも、多少足などが動いている者が1人。 そして、もう一つ重大な事。 「…逃げた…」 『クラブ』の姿がどこにも無かった。警備班が退路として確保していた、開け放たれた小さな扉。幼生だったら簡単に通り抜けられるだろう。 「艦内に第一級警戒体制を敷け!『クラブ』の反応を探査しろ!…それから、コーダイの艦長に、急ぎ報告を」 了解しました、と、オペレーター達の手が機器の操作を始めた。コーダイには、ほどなく連絡がつくだろう。 「艦長、早くお戻りを…」 戻ったところで実際どうにかなるものではない、という理性も勿論働いてはいる。だが、この事態を一人で支えるだけの気力も能力も自分には無いのだと、ホルストは悟っていた。 ● 「―――おい…これって…」 イオンと正樹、二人の視線がゆっくりと合った。 「…あれさ。卵の殻がレーザーを吸収していたんだったら、そのエネルギーをあいつは食っちまった、ってことになるんだよな?エサ食って、もっと強くなってたりして?」 凄惨な現場をこれ以上映すのは憚られたので、正樹は術を解いた。空気中に霧散していく水蒸気が二人をひやりと包んだ。 「そういうことだろうね。…でも、すごいな。あんな生き物がいるんだ…」 正樹の目が虚空を彷徨っていた。どこか畏れを持ちながら、それでいて、何かを期待している。 「お前―――お前なら、あいつを倒せるのか?」 口をついた言葉に狼狽したのは、当のイオンだけだった。 ―――こいつは、あいつと戦いたいと思っている。 どうやったら倒せるだろう。あれを壊すことが出来るだろう。イオンが正樹の視線から感じたのは、戦いへの高揚感だ。そして、おそらくは、歓び。 ―――慣れていやがる。 魔法を使って、何かを変えたりするだけじゃない。自身に向けられたことのある苛烈な瞳の色を、イオンは忘れることが出来ない。 ―――カマを、かけてみようか。 イオンは小さく喉を鳴らして、つとめて、明るく声を出してみた。 「なーんてさ。エイリアンとなんて、戦ったことなんてねーよな。お前、見たの初めてだって言ってたもんな」 そりゃそうだよ、と、笑った顔は、おそらく心からなのだろうけれども。 「でも、ほら、不死身ってわけでもなさそうだし。ちゃんと人間が作った武器が通じてるんだから、方法がないわけでもないかな。…思ったよりも素早いけどね」 大丈夫だった、か。イオンは心の中で苦笑した。 自分は『クラブ』と対等に戦える、と豪語したようなものだが、気負っている様子は全くない。 しかし、それほどの力がある事を、もし、軍が目をつけたとしたら。一人で戦闘機3機以上の破壊力を持つのだ、遊ばせておくわけがない。 「イオン?どうしたの?…怖くなった?」 はっとして顔をあげると、気遣うような顔があった。出会った頃よりも、ずっと柔和になったと感じる整った顔立ち。 「…ちげーよ、ばーか」 虚勢で振り上げた拳を正樹の脳天にくれてやると、イオンは立ち上がった。うーんと伸びをして、二、三度、屈伸運動をする。 「とりあえずさ、なんかアナウンスは欲しいよな。艦橋にはとっくに知れてるはずだぜ。まさか、握りつぶしたってことはねーだろーな」 突然、正樹が大きな声を出したので、イオンは思いっきり大きく、一歩退いてしまった。 「な、なんだよ、脅かすよ」 床の上に座った正樹は、いかにも、マズイ、という顔をしていた。ついで、軽くその右手が動いて―――部屋の中に、サイレンの大音響が鳴り響く。 その音でまたしてもイオンは体を強ばらせてしまった。 「…音、消していたの、忘れてた…」 イオンは弾かれたように正樹の脇をすり抜け、扉の開閉スイッチに手をかけた。 上半身を出して見回して、もう一度ゆっくりと左右を見回して、ようやく、イオンは部屋の中に上半身を戻した。 「…誰もいない…」 おそらくは集合命令がかかっていたのだろう。 |
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