衝撃と右フック
















「南南〜★」
「ん?」
振り向いた瞬間に『ぷちゅ』という音がした。
唇にカサついた感触。
目の前にある顔が千石だという事実に俺は逃げ出したいと心の底から思う。
ここは教室。
ギャラリーが多数。
「エヘヘ〜〜★南、奪っちゃった〜★」
笑顔で言う千石に眩暈がした。
好きな台詞。
だってナナコ好きだし。
だけど………千石に…男にノリでキスされた。
つうか……俺のファーストキス……。
ついでに理性が少し無くなったんだと思う。
ナナコと俺を汚すな!!
気付けば千石を殴り飛ばしていた。
盛大な音を立てて机や椅子が倒れる。
騒がしかった室内が一斉に静まった。
ヤベェ………やっちまった……。
後悔しても、もう遅い。
教室中から見られている。
しかも臨戦体勢のファイティングポーズを…。
ゆっくりと腕を下ろして、千石の元へ近づく。
「………千石……悪い……」
ボソリと謝ってみた。
クラスが静まりかえっている。
机と椅子の間で千石は未だに動かない。
ガラ……という大きな音がして教室のドアから亜久津が入ってきた。
「おい、英語のノート貸………あ?」
静かな教室に亜久津の声だけが響く。
誰も動かなかった。
誰も言葉を発しなかった。
「………お前…?」
千石を指差して亜久津が俺を見る。
「……うん………」
事実なので頷いた。
倒れた自分の机からノートを取る。
とりあえず、亜久津にノートを渡す。
「…ぁ……悪ィ…」
礼を言う亜久津は少し意外そうな顔をしている。
そして俺は千石を蹴り起こした。
「千石!!おい!!起きろ!!!」
誰も彼も何も言わない。
亜久津も、じっと俺を見ていた。
何だよ!!俺が悪者か!!??
そう思っていたら千石がよろよろと起きた。
「いひゃい―――……南のバカ―――…」
涙目で千石が俺を睨む。
「あぁ!?お前が悪いんだろ!!」
「何で!!?」
「俺に冗談でキスしたりすっから!!!」
「じゃあ冗談じゃなきゃいいの!!?」
「何でだよ!!男にキスすんなよ!!!」
「何で!!俺、南好きだもん!!」
「はぁ!!??」
千石が分からない。
ムカツイて殴ろうとしたら、奴が顔を歪めた。
「………南のバカ……歯、取れた」
埃に塗れた手の平の上に、プッと白いモノを吐き出す。
その上にのっていたのは赤い血の混じった歯だった。
「・・・・・・・・・・ダッセ」
亜久津がボソリと呟く。
うん。俺も思った。
「……謝んねぇからな」
千石の目を見ながら言う。
「うん。」
奴は俺の目を真っ直ぐに見る。
そして言葉を繋ぐ。
「でも……キヨも謝んないから」
はぁ!!??
「また歯を折るぞ?今度は2、3本」
俺の言葉に奴は笑う。
「それでチュウ出来るならいいよ。俺の歯折ってよ南」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
嫌だ。
友人だと思っていた男にキスするぞ発言とマゾ宣言を受けるなんて。
「亜久津……お前、今日部活来てくれ」
俺の言葉に、亜久津は無言で俺を見てた。
「ちょっと南!!俺の告白は!!?無視しないでよ!!」
「……おい千石、お前今日は部活来なくていいから。歯治して来い」
よし、忘れよう。
忘れてしまおう!!うん。
「え!??ちょっと!!?南!!?」
「悪い。亜久津、コイツ保健室に連れて行ってくれ」
「南!!??」
「・・・・・・・・・オラ、行くぞ」
俺を可哀想に思ってくれたのか、同情なのか分からないが亜久津が奴を連れて行った。
一人で教室に残った俺に、廻りの視線が集中する。
悪い……なんて言うか…見ないでくれ。
倒れた机や椅子を一人で元に戻していると、廻りの視線に泣きたくなった。
・・・・・・・・・俺、なんかしましたか?神様…・・・・・・・
俺は胸に溜まっているようなモヤモヤを吐き出すようにして溜息をついた。

















数日後――――……


「南〜★」
千石の声。
振り向くと、そこには奴の顔が在った。
ぷちゅ。
と、小さな音を立ててクチに嫌な感触が残る。
何か前にもこんな事があったなぁ…なんて考えた。
もう俺、いっそ転校しようかな…。
実は俺のこと嫌いだろ?神様。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
気付いたら、拳を振り上げていた。
鈍い音。
また奴は倒れそうになったが、踏みとどまる。
教室からは拍手が起こる。
何だ!!??何なんだよ!!!
お前等もコイツと一緒か!!?仲間か!!?
「フッフッフッ……甘いよ南…俺の動体視力舐めないでよ」
頬を押さえながら言われてもよ…。
「お前何すんだよ!!!いい加減にしろよ!!」
「だってキヨ諦めてないもん。………ん……あ…」
手の平に吐き出すソレ。
「・・・・・・・・お前馬鹿だ」
前に見た光景。
「差し歯取れたじゃん!!!南のバカ!!」
非難する奴の声を遠くで聞きながら。
俺はどこまで我慢出来るのかを思い浮かべて。
そしてあまりの馬鹿馬鹿しさに考える事を放棄した。







どうか、この馬鹿が俺と同じ高校には来ませんように!!!

















END













またテニサイトの中で異色なもの書いてる!!アタシ!!
亜久津がノート借りるなんてありえない!!←でもやりそう
歯が折れてもキスする男なんてありえない!!←キヨはしそう
ぶっちゃけ・・・マゾっぽいよ…キヨ……。
南君受難だよ……。
マタイ受難曲だよ……どうするよ…
たぶん、東方にメールか電話。
助けてコール。
……東方無言だよ…