天体観測と交通事故 (第1回)
 今回は、ちょっと変わったテ−マを選んでみました。profileにも紹介していますが、私K.Banは某損害保険会社に勤務している関係上、知人や友人からプライベ−トな交通事故相談を受けることが多々あります。天体観測は “徹夜” の趣味である上に、移動観測においては必ず“車の運転”が伴います。どうしても睡眠不足の状態でハンドルを握ることが多くなりますが、こんな時が事故に遭う危険な時間帯なのです。

☆ケ−ススタディ 1
 観測地からの帰宅途中、つい眠くなってしまい赤信号で停車していた前車に追突してしまった。

 これは、非常に多い事故形態です。相手の損害が物損(車や積載物などのモノの損害)だけならまだ良いのですが、人身損害を伴っていると大変です。一般的に、交通事故を起こした加害者には3つの責任があります。

 1.行政上の責任 ・・・ 運転免許資格の停止、取り消しなど公安委員会が行う処分
 2.刑事上の責任 ・・・ 業務上過失傷害罪、業務上過失致死罪など裁判所が行う処分
 3.民事上の責任 ・・・ 相手に与えた損害の賠償、弁済など(民法709条)

 ケ−ススタディ 1の場合、物損のみの軽微な事故であれば3の責任を全うすればよいのですが、人身事故の場合、1及び2の責任もかかってくるわけです。

 *民法第709条(不法行為責任)
  故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス

☆ケ−ススタディ 2
 交差点の信号が黄色の点滅だったのでそのままのスピ−ドで減速せずに交差点に進入したところ、赤点滅の交差道路から交差点に進入してきた相手自動車と出会頭に衝突した。

 こういったケ−スの場合には、過失割合というモノが問題となってきます。

 *民法第722条第2項(過失相殺)
  被害者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌スルコトヲ得

 過失相殺に対する法的根拠はこの民法722条2項の規定なのですが、現在ではこの条文を類推適用して交通事故における“過失割合”という概念が判例等により確立しています。
 ケ−ススタディ 2のケ−スでは、双方の車に次のような過失があると考えられます。

 黄色点滅側の車・・・徐行義務違反、前方左右不注視、安全運転義務違反などの過失
 赤色点滅側の車・・・一時停止義務違反、前方左右不注視、安全運転義務違反などの過失

 これらの過失の事故に対する影響度合い等を斟酌し、基本過失 黄色点滅車:赤点滅車=2:8 というような過失割合が決められる訳です。

☆ケ−ススタディ 3
 彗星観測のため道路上に車を駐車し、その傍らで機材を広げ観測していたところ、通行車両にはねられた。この道路は普段夜間の交通量がほとんどないため、被害者は安心しきっていたという。

 さて、このケ−スの場合、被害者に過失が有るか否かが問題となります。皆さんはどう思われますか?
 私はこのケ−スも当然に過失相殺がかかってきてしまうと考えます。というのは、まず、道路を占有して観測していたこと(道路はそのような場所では無い)、また、交通量が少ない場所とはいえ夜間通行車両が有ることは当然予測可能ですから、そのような場所で観測することは危険を承知で観測をしていたことになります。その意味において、2〜4割程度の過失相殺を受けてしまうのはやむを得ないのではないでしょうか。
 やむを得ず路上観測をする場合は、2台の車で前後を挟み、更に前後に三角板を立て、その車の間で行う等するべきでしょう。それでも事故は起こるときには起きるモノです。路上観測では、常にリスクを背負って行っているということを肝に銘じて行うべきでしょう。

☆ケ−ススタディ 4
 追突事故により観測機材に損害を受けた。長い年月をかけて収集したカメラや既に製造中止になって今では手に入らない機材もたくさんあるが、どのような賠償になるのか。

 さて、愛着のある機材か損害を被った場合、マニアにとってこれほど不幸なことはありません。加害者に対しては言いようのない怒りを感じるでしょう。しかし、その賠償においてはかなりの部分で諦めざるをえません。気持ちはわかりますが、損害賠償責任はそこまで及ばないのです。
 現行の日本の対物賠償の考え方では、修理代を賠償すれば足りることになってます。また、その“モノ”の時価が限度となります。たとえば、ある望遠鏡の修理に15万円かかったとしても、その望遠鏡の時価が10万円ならば、加害者は10万円賠償すれば足りる、ということになるのです。
 問題はその時価ですが、一般的には法定耐用年数相当の減価償却率(定率)から求めるのが普通だと思います。

   (式)   時価 = 購入金額 × 減価償却率

 耐用年数を何年で見るのか、定率で見るのか定額で見るのか等、いくつかの問題点がありますが4〜5年の定率で見るのが普通でしょうね。結局、この方法によれば新品の購入金額で200万円位の機材を積んでいても、賠償されるのは30〜50万円程度ではないでしょうか。

 最近は、TELETOなどで中古品の売買がされている関係上、そういった店のプライスリスト等を取り寄せて中古品の流通価格が形成されているのでそれに準じた金額の賠償を求めることも可能でしょう。ただし、この場合問題となるのは、中古車市場とは違い流通の絶対量が少ないためプレミアム価格になりやすいので賠償として馴染まないケ−スが考えられること、中古車のように年式により価格差が付けづらいことなどがあげられます。したがって、中古品流通価格を参照に賠償交渉する場合でも、表示の中古品価格から多少の増減を加味して賠償金額を決めるようになると思います。
 いずれにしても、機材に損害があったら、受けられる損害賠償というのはこの程度に止まってしまいます。しかし、これらの賠償の考え方は車などの賠償と同じ考え方なのであって望遠鏡やカメラの場合は特別な賠償をするわけでは無いのです。心情的に納得は出来ないでしょうが、後は諦めざるをえません。社会生活を営む以上、そこは割り切りましょう。


 交通事故の損害賠償等についてさらに詳しく知りたい方は、岡村久道法律事務所のホ−ムペ−ジ「Cyber Law Japan」をご覧下さい。


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