「魚の少年」について…
 
「魚の少年」は、奇想天外社から出た坂口尚さんの「COM」発表作品の多くを収録した初の短編集のタイトルでもあります。

ここでは、短編作品としての「魚の少年」について、頂いた情報を反映させながら、書き連ねてみたいと思います。

魚の少年は、雑誌「希望の友」(潮出版社)’71年3月号掲載作品です。

「COM」’69年9月号で、デビューした坂口尚さんの「COM」のカラーを全面に押し出した、COM時代の作品「シリーズ霧の中」の作風の頂点に「魚の少年」は位置していると感じている読者も多いのではないでしょうか…

その完成度は高く、見開きページの細密に描かれた、雲と大地の描写は、ついつい、じっと見つめてしまうほど描きこまれており、マンガのもつ可能性を広げた実験的作風・自由奔放さを感じます。

単行本が出た当時の雑誌での人気投票のランキングでもかなり投票があり、この作品と出会った事が「坂口尚ファンになったきっかけ」という人もすくなくないようです。

「魚の少年」が、単行本として、出版されたのは、’79年、雑誌発表から約8年の歳月がながれている中で、決して古びていないあかしではないでしょうか?

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雑誌WHAT’87年2月号より引用
(月光シャワー一挙掲載誌)
坂口尚の素・語録
月と光のドラマの関係より(抜粋)

時代をとりいれると読者と接点を持ってる、というメリットがありますが、時代が変わるとストーリーやテーマと関係なくわからなくなってしまうのってあるから。

僕は、時代が変わっても腐らないもの、鮮度を保つものを描きたいですね。

(坂口尚)

単行本「魚の少年」(奇想天外社刊)’79年

奇想天外社刊「魚の少年」’79年

「魚の少年」の初出とカットについて…
「魚の少年」(希望の友’71年2月号予告カット)
単行本収録の「魚の少年」と、「希望の友」掲載(初出)では、違いがあることが、宮内さんの投稿によりあきらかになりました。

また、「希望の友」’71年2月号での「魚の少年予告カット」は本編には収録されていない絵で、絵柄も若干ことなります。
横にある縦長の画像です。

さらに、「SFマンガ大全集−別冊奇想天外NO.9」’80年1月に掲載の単行本「魚の少年」の宣伝のための少年「ルフルヒ」の横顔のカットは、単行本収録時に描きなおされた部分であることがわかりました。
描線は、’79年当時のペンタッチになっています。

別冊奇想天外広告カット

引用画像は「SFマンガ大全集−別冊奇想天外NO.9」より

双葉社、月刊スーパーアクション’87年6月号掲載の、坂口尚作品集(双葉社)の紹介カットの「ルフルヒ」も別冊奇想天外と同じ絵が使用されています。

具体的変更点(初出との違い)

宮内幸浩さんより

貴重な初出の情報を頂きました。
情報提供に感謝します。

(「坂口尚BBS」より転載)

『魚の少年』の初出 宮内幸浩

『魚の少年』が掲載された、「希望の友」1971年3月号を手に入れました。

奇想天外社版単行本と初出誌との主な相違点を以下に記します。

13ページ目、2コマ目のネーム

  初出誌  ポロリ ポロリ……

  単行本  ポロリ ポロリ……
       まもなく世界は
       完全に 静まりかえるのか……

16、17ページ目

【17ページ目の1、2コマ目は単行本時に描き下ろされたものです。初出時にはそのコマのネームは16ページ(夜空と大地の1ページの大コマ)の長文のネームに組み込まれています。初出時に17ページは、渦巻きをバックに子供がシルエットで描かれているコマが右に寄り、左3分の1には次号掲載の漫画の予告が載っています。】
【初出誌】

     18ページ目のネームと絵
 

     3コマ目 初出誌  ルフルヒは成長した
     【ルフルヒの上半身の絵】
 
 
 

     単行本  ルフルヒは成長した
      そして大地を
     駆けずりまわった
     老人たちは大地に
     へばりついたまま
     目を細めた──
     【ルフルヒが大地を走っている絵】

  4コマ目 初出誌  【ネームなし】

       単行本  さあ 我々の偉大な財産を受継ぐのだ
 
【初出誌】

21ページ目のネームと絵

初出誌  ……?
     なぜ
     みんなぼくにひどく親切なんだろう

  単行本  やめて!
       ぼくは まだ
       ぼくは………

単行本時には1ページ全面ベタに、ルフルヒが駆けている姿が白抜きで表現されていますが、初出時はバックが白地でルフルヒが駆けている姿は、輪郭が実線で表現されています。

22ページ目の1コマ目

  初出誌  ぼくは飛び はね 駆けまわった
       思いきり
       とてもうれしかった うれしくて
       うれしくてしょうがなかった

  単行本  ぼくは飛び 跳ね 駆けまわった
       僕の心臓の血が花火のように
       飛び散るほどに

23ページ目の3コマ目

【魚を見上げている横向きのルフルヒの横顔の絵が描き直されています。】
 
【初出誌】

魚の少年24P

24ページ目の下段

初出誌

3コマに分割されていて、1コマ目に建物のバックに太陽、2コマ目にルフルヒの足、3コマ目にルフルヒの上半身。ネームはなし。

単行本 【横長の1コマにルフルヒの横顔】

月刊スーパーアクション 坂口尚作品集宣伝用カット
  
引用画像は「月刊スーパーアクション’87年6月号」
坂口尚作品集広告用カットより−該当リライト部分

29ページ目の2コマ目

  初出誌  【ネームなし】

  単行本  走れ!走れ!
       心臓の血よ 花火のように散れ!

30、31ページの見開き

単行本時に全面的に描き直されています。初出誌では中心にルフルヒを配して、バックに山と湖、空飛ぶ魚が描かれています。また単行本時のようにベタは使われず、画面全体が白っぽい印象です。

32ページ目のネーム

  初出誌  そしてぼくの中にも
       ピルルルー ピルルルー

  単行本  そうだ目を閉じれば
       ものおもいの森が無限に広がる
       ピルルルー ピルルルー

その他、若干の修正が見られます。

(転載ここまで)
 

坂口尚さんは単行本に再録する際、いつも必ずリライトする方でした。
初出の絵は、ご本人には不本意だと思えた結果、リライトをされているのだろうと思います。
そのあたりは、インタビューでも語られています。

FUSION PRODUCT(ひゅーじょん ぷろだくと)’81年7月創刊号(ラポート)より

描いて渡してしばらくは、まぁちょっとしたミスとか忘れみたいなものがあるにせよ、大体渡した時点から一ヶ月くらいはなんとか感じよかったかな、と思いつつ過ぎてね。
一ヶ月以上たってくると段々気持ち悪くなってきて…(笑)
一ヶ月以上もたって本になると、多少離れて冷静に見えるでしょ、しまったぁ、とか(笑)
(坂口尚)

決して自分を自慢したりしない。だけれど内面では激しく燃焼している方だった…
そして絵を愛しているからこそ自分の作品を大切にしてきたからこそ、いつも絵に手を加え、こうしてネームまで変更するまさに「職人」というべきこだわりをもった作家だったのだろうと思います。

「魚の少年」掲載の経緯

「魚の少年」という作品が生まれた経緯の歴史的証言として、紹介させて頂きます…

「坂口尚追悼文集…未来へ第2集」(発行・編集’99年12月22日 坂口いずみさん)
に寄せられたメッセージより…

「親友として永遠に」潮出版社竹尾修

入社二年目の1970年秋、私は「希望の友」編集部の漫画担当として、新しい漫画家を探していた。「COM」を見て、坂口尚という漫画家が描く、時代劇のシャープな絵柄に魅了された。また、叙情的な短編も印象に残った。

(中略)

外見はクールだったが、実際に話をすると、とても純粋でホットな「心」を感じた。この時から私は、坂口さんに対して憧憬の気持ちをもった。

「希望の友」の1971年3月号に、始めての作品『魚の少年』が載る。

原稿を受け取って帰社した私に、編集長は

「これは漫画かな?!イラスト・ポエムとして発表するしかない」と言った。
私には、この作品のテーマはわからず、ただ、少年の走る姿だけが目に焼き付いていた。

(後略)

記事・画像の引用は現在入手困難なものに限定し、研究の為の引用の範囲と解釈し使用させて頂きました。
「初出誌」と記載のあるものは 「希望の友」1971年3月号(潮出版社)よりの引用です。

2000/09/05加筆

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