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ボノボのこと
昨日のNHKスペシャルは、類人猿ボノボの話題だった。ボノボ(ピグミーチンパンジーともいう)はチンパンジーと並んで、遺伝的に人間と最も近いとされている類人猿で、その知性についての研究が進んでいる。また、人類の進化の過程を解き明かす意味でも注目されている存在である。
国立遺伝学研究所の宝来教授らはヒトと4種の大型類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ)のミトコンドリアDNAの塩基配列を分析し、その塩基置換数をもとにして進化の系統樹を作成し、それぞれの分岐年代を推定した。その結果によると、まず1300万年ほど前にオランウータンが枝分かれし、次に650万年前にゴリラが分かれ、そして残りのグループの中から約490万年前にヒトが分岐し、最後に230万年ほど前にボノボとチンパンジーが分かれたということだ。遺伝的距離だけをみれば、チンパンジー&ボノボのグループはゴリラよりもヒトとの方が近い関係なのである。他の研究者による分析でも、類人猿の分岐の仕方については同様の結果を示すことが多いらしい。
昨日の番組では人間の言葉を理解したり、相手の立場に立って物事を考えるなど、ボノボのさまざまな能力について紹介されており面白かった。また彼らの仕草や表情はとても愛らしく、見ているだけでつい笑顔がほころんでしまう。
ボノボに興味が湧いたのは、竹内久美子さんの著書でその野生の生活について紹介されているのを読んでからのことだ。その後、ボノボについて書かれた本をいくつか読んだ。TVなどでボノボが紹介されるときはどうしても知性の高さにスポットが当てられることが多いけれど、私が興味があるのは、知性はもとよりその温和な性格と平和な社会構造の方である。
ボノボとチンパンジーは最も近縁な存在でありながら性格は全く異なる。チンパンジーの方は、TVなどで見る愛敬のある姿とは裏腹に野生の社会では非常に残酷な一面をもち、決して平和生き物と言い切ることはできない。例えば仲間内での子殺しが起こったり、「原始的な戦争」とでもいえそうな近隣の他のグループとの殺し合いも観察されている。ところが対照的にボノボの社会はいたって平和なものらしい。その理由は定かではないけれど、ボノボには社会を平和に保つための何らかのルールがあるからともいわれる。そしてその一つが、性行為を利用した独特のコミュニケーションを発達させたことのようだ。
ヒトの女性は排卵を隠し、発情期というものが存在しないけれど、ボノボのメスには排卵を伴わないニセの発情期があり、生殖活動を目的としない交尾を頻繁に行う。つまり、対人関係(対ボノボ関係?)を円滑にするための性行為があるということだ。例えば交尾の代償として、メスがオスから食べ物を分けてもらうといった様子も観察されている。また何らかの諍いを調停したり、緊張状態を緩和する時、仲直りをする時、など、オス同士、メス同士での性行為(もちろん「交尾」とはいえないけれど、生殖器同士をこすり合わせるという行為はある)さえ見られるという。まさに「挨拶代わりに性行為」ということか。
もともとボノボは乱婚型社会を形成しているけれど、同じ乱婚型社会のチンパンジーの方はここまで性行為を活用したコミュニケーションは持たないらしい。ヒトの社会のルールを無理矢理当てはめようとするなら、実に「性が乱れている」という表現がぴったりのようだ。だからといってそれが悪いというわけではなく、そのことによって、殺し合いのない平和な社会が保たれているのだから、それはそれでバランスのとれた社会の形じゃないかなと思う。竹内久美子さんの著書、「浮気人類進化論」の中では、チンパンジーの社会は「きびしい社会」、ボノボの社会は「いいかげんな社会」と表現されていた。
それにしても490万年前にヒトと分岐したあとさらに2つに分かれた類人猿が、このように両極端な性格に分かれたというのはとても興味深い。ちょっと短絡的で乱暴な言い方かもしれないけれど、どちらにも、ヒトの持っている本性の一部を垣間見ることができるような気がする。
2000.2.14記
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