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ナイルの賜

この夏、関東近辺で、2000年企画「世界四大文明展」が開催されている。さすがに関東を中心に開催されている展示を観に行くのは難しいけれども冬にはそのうちのひとつ、メソポタミア文明展が福岡に来るのでこれは絶対に観に行くつもりにしている。有名な「ハンムラビ法典」も展示されるのですごく楽しみだ。また、これにともなって、NHKスペシャル「世界四大文明」が放映されている。毎回毎回本当に興味深い内容だ。CGを駆使した古代の街並みの再現映像も素晴らしかったが内容的にも質が高く、このあたりはさすがNHKと感心する。これは9月にビデオも出るということで、今日、書店で予約も済ませてきた。

NHKスペシャルでの第1集はエジプト文明だった。この回は、ピラミッドの建設が奴隷によって成されたものではなく、実はナイル川の氾濫によって農業ができない期間、農民に職を与えるための公共事業だったという興味深い説が紹介されていた。ピラミッド建設に携わった人々の遺体から高度な外科手術の跡が見つかったり、働く人々の出勤簿も見つかっているそうだ。この出勤簿では、かなり家庭的な事情や、二日酔いといった理由で仕事を休んでいる人もみられるとか・・・。とても奴隷として酷使された人々とは思えない内容だ。今後も発掘が進み、新しい事実が次々と明らかになっていくのだろう。今後の展開がとても楽しみなところだ。

さて、番組で紹介されていたが、ナイル川の氾濫というのは、一年のうちかならず決まった季節に起こり、4ヵ月は続いたという。この4ヶ月間は農地も水没してしまうため、農作物を栽培することはできないが、この氾濫のおかげで上流から肥沃な粘土質の土がナイル周辺に堆積し、一年の残りの期間エジプトでは肥料をまったく用いずに農業を営むことができたということだ。古代エジプトではナイル川の氾濫を、天災ではなく、神の恵みと考えていたらしい。

川の氾濫に無理に立ち向かわず、それを受け入れ、うまく利用する・・・自然を賢く生かす、古代の人々の知恵は本当に素晴らしいものだったのだな・・・と感心する。王朝の交代はあっても3000年以上も途切れることなく文明が存続できたのは、ナイルの摂理をうまく生かした農業形態があってこそだったろう。ギリシャの歴史家ヘロドトスの有名な言葉・・・「エジプトはナイルの賜」。ナイルの氾濫がもたらす豊かな国土・・・。今回の番組を見てそれを良く理解できたような気がする。

紀元前31年、プトレマイオス朝最後のファラオ、クレオパトラがローマの将軍オクタヴィアヌスに破れ、エジプト王朝の歴史は終焉を迎えた。しかし、ローマの属州となった後も、エジプトはまだローマの穀物倉庫でありつづけた。紀元1世紀、ローマ帝国のイタリア本土では穀物の自給率が極めて低く、小麦の生産はほとんどエジプトに頼っていたらしい。そして時代がずっとずっと下って、今世紀に入り、アスワンハイダムが建設されるまでこの農業形態が変ることなくに続けられていた、ということが非常に新鮮な驚きだった。

アスワンハイダムの完成により、ナイルの周辺地域が川の氾濫に悩まされることはなくなった。農地では一年を通じて農業を営むことができるようになった。しかし物事にはなんでもプラス面とマイナス面があるもので、一年中農作物を栽培するために土地がだんだん痩せてくるという問題が生じ、肥料に頼った農業に転換せざるを得なくなったらしい。現在の社会の中で食料を確保するにはそれも仕方のないことなのかな・・・とも思うけれど、やはり寂しさも感じる。残念ながら、自然の仕組みを上手く利用することにかけては、現代人よりも古代の人々の方が賢かったのではないかと思えてくる。文明は進歩したけれども、人間自身は決して進歩していないようだ。

しかしながら地球上で人間は唯一、過去の歴史を振り返ることのできる生物でもある。時には過去を眺め、学ぶべき所は学び、反省すべき点は反省するのも大切なことだと思う。来週の土曜日、NHKスペシャル四大文明のシリーズ最終回の「地球文明からのメッセージ」が放映される。このシリーズ、いったいどういう風にまとめられるのか、ひとつ興味のあるところである。

2000.8.5記


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