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最初に補足(2001.2.24.追記)
このページの雑文をアップして約1ヵ月後、2001年の年明けから、有明海の大量プランクトンの発生による海苔養殖被害のニュースが、連日大きく取り扱われるようになりました。この雑文を書いた時点と比べると海の状況だいぶ違ってきているようです。いや、本当は私が知らなかっただけで、書いた時点でもすでにこんな状況だったのでしょう。ここの文章も書き換えようかと思ったのですが、やはり干潟の素晴らしさについて書きたかったことには変わりないので、アップした当時のままにしています。ニュースで伝えられている状況と違う点がいくつかあると思いますがご了承ください。



干潟の効用

長崎・佐賀・福岡・熊本の4つの県に囲まれた有明海。この有明海の干潟にはトビハゼの一種であるむつごろうをはじめとする、他ではあまり見られない珍しい生物が数多く生息している。先日、佐賀市で行われたとあるフォーラムで、有明海の干潟のもつ自然の浄化作用に関する非常に興味深い講演があった。有明海の干潟は、一見するとまるでヘドロのようにドロドロで、視覚的には「汚い!」と感じてしまいそうな色。でも不思議なことに「臭く」ない。年に一度行われる、鹿島のガタリンピックでは、子供から大人まで泥だらけになりながら楽しんでいる様子をよくニュースで目にする。見た目の悪さとは裏腹に、干潟の土は思いのほかきれいなもののようだ。

有明海の干潟。(クリックすると拡大します)

果てしなく広がる泥の海ですが、むつごろうをはじめとするたくさんの生物が棲んでいます。真ん中のサギは、泥の海に棲む生き物を狙っているのかな。手前の方に穴がたくさん見えるのは、むつごろうの巣穴?でしょうか。
画像はめりさんからいただきました。どうも有り難うございました!

生活排水中には、悪臭の元となるアンモニア態の窒素(NH4+など)がたくさん含まれている。自然界の健全な物質循環の中では、NH4+の形で存在する窒素原子はやがて土中の硝化菌の働きで NO2-(亜硝酸イオン)やNO3-(硝酸イオン)の形に変化する。そしてさらに脱窒菌の働きにより、無害なN2(窒素ガス)へと変化し、大気中に戻る。一方、干潟の中には、窒素の循環に関与する硝化菌と脱窒菌の両方が生息していて、自然の浄化システムを作り出しているという。酸素原子のやり取りを見れば分かるように、硝化菌というのは酸素の豊富なところで働く好気性菌、脱窒菌は酸素のほとんどないところで働く嫌気性菌である。この、相反する環境ではたらく菌が、同じ土の中に共存しながらどのようにして浄化に関与しているのだろうか。

そのメカニズムの秘密は、遠浅の干潟の干満の差にあった。干潮時、干潟の土がむき出しになり、むつごろうをはじめとするさまざまな大型の生き物が巣穴を造ったり飛び跳ねたりして活発に動きはじめる。また干潟は乾燥してくると表面にひび割れもでき、土の表面は見事に穴だらけになる。このおかげで土の内部まで酸素が行き渡り、生息する硝化菌の働きが活発化して、NH4+をせっせとNO2-やNO3-へと変えてくれるのだ。一方、満潮時には、干潟は完全に海水で覆われ、土の中にほとんど酸素が供給されない。すると今度は嫌気性である脱窒菌の出番となり、NO2-やNO3-はN2へと変化する。

全国最大規模の面積をもつ広大な有明海の干潟、その干満のサイクルにより、実に巧妙な浄化のシステムが形成されているというのはほんとうに感動的だ。もちろん、硝化菌や脱窒菌のはたらきというのは、自然の浄化作用のごくごく一例に過ぎない。干潟の土の中には、他にもさまざまな役割を担ったたくさんの種類の微生物や、それを捕食するむつごろうやカニや貝類のような大型の生き物、さらに大型の生き物を空から狙う鳥などもいて、その全てによってバランスの取れた干潟の生態系が形作られている。所詮、人間が作っている廃水処理システムなんてものは、活性汚泥法とか生物膜法とか名前を付けたところで、自然に存在する微生物の力を借り、真似しているだけのこと。いかに高効率で処理を行えるのかという工夫はあるにしても。

講演会での話によれば、有明海の干潟全体で、人口130万人分の生活排水を浄化できる能力があるのだという。有明海は全国一の海苔の産地であるが、これだけの生産量を誇る海苔の養殖が可能なほど海水が健全でいられるのは、干潟のもつ、水の浄化力に依存しているところが大きい。干潟の周囲には、佐賀市や大川市、久留米市などがある。しかし、もし同じ場所に福岡市のような大都市が存在していたら、さしもの干潟も、浄化能力の限界に近いところまで追い込まれてしまうだろう。幸いにも今のところは健全なサイクルが保たれてはいるが、だからといって自然の浄化能力に頼りきるだけではなく、入り口部分で、つまりそれぞれの家庭で、できるだけ不用な排水は出さないような心がけは忘れてはならないと思う。

もういつ頃の放映だったか忘れたが、NHKのクローズアップ現代でも、干潟のもつ自然の浄化作用について紹介されていたことがあった。日本では、埋め立て処理などのために、ここ数十年でかつての干潟の面積が4割程度に減少しているのだという。それと同時に、沿岸部の海洋汚染の問題も深刻化している。そのため最近では干潟の効用が見直されはじめ、各地に人工の干潟を造ろうとする試みも見られるらしい。しかしながら、従来、干潟の存在しなかった場所に作られた人工の干潟はことごとく失敗しているということだ。ちょっと考えてみれば、もともと干潟というのは、海流の条件や地形的な条件によって、干潟になるべくしてなったのだから、全然違う場所に人工的に作ろうとしても上手く行くわけはないと分かりそうなものだが。数少ない成功例は、やはり元々あった干潟を復活させた場合らしい。科学技術すべてを否定することはできないけれど、あまり技術を過信しすぎると大きな過ちを犯してしまう。「自然の賢さ」に学ぶ姿勢は、決して忘れてはならないだろう。

上の画像を提供してくれたお友達が、掲示板の中で、干潟のところに座って海の音を聞いていたら、ピチピチと泡がはじけるような音が多くて、生きている海だ! と実感できたと言っていた。滅多に行かない海ではあるけれど、私も今度、干潟の有明海を眺めに行ってみようかな。自然のすごさ、生きている海を肌で感じてみたいから。

2000.12.9記


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