テレビやラジオのプログラム、仕事の始業や終業のチャイムなど、意識する、しないにかかわらず、秒単位まで正確に時が刻まれていく環境の中で私たちは生活しています。ただ、人間の感覚としてはそれを意識していることはほとんどなく、むしろ「何時何分」程度を目安として日々を過ごしているというのが実態に近いでしょう。
古代においては生活時間はもっとゆったりしていたと考えられ、例えば紀元前のエジプトでは日時計によって一日の中でのおおよその時刻をみていました。時代が下り、生活が複雑になってくるにつれて少しずつ細かい時間も必要になってきます。13世紀には1本の針で1日を24等分に分けた時間を指し示す機械時計が作られ、さらに大航海時代になると、航行の正確さを期すために「分」より小さな単位まで必要になり、「秒」という単位も使用されるようになりました。
SI単位系では「秒」のみが基本単位ですが、日常生活の中では「分」「時間」も一般的に使用しています。「秒」「分」「時間」の関係は、下の表にも示すように60進法であるという特徴があり、この点が他の単位と異なっています。
単位の名称 記号 大きさの関係 SI単位との換算 日 d 1d=24h 時間 h 1h=60min 1h=3,600s 分 min 1min=60s 1min=60s 秒 s (SI基本単位)
1日を24時間に分けるという方法はもともと古代メソポタミアの古バビロニアで考え出された方式で、天文学や占星術と深く結びついています。関連する話題を、同じ「趣味のデータ館」の「第一の部屋:暦のはなし」の中にある「七つの曜日」というページで紹介していますので、興味のある方はご覧下さい。
バビロニアでは、黄道(太陽の通り道)に配した12の星座や、黄道一周を360度とした角度の概念など、12で割り切れる数字がよく用いられていました。60は12で割り切れる数であり、360の約数でもあることから、60というのもまた重要な数の一つでした。そして1日の中での時間の分割は、もともと天体が動く角度をもとにしてなされたものなので、角度と時間というのは密接にリンクした単位であるといえます。度(°)という角度の単位が60進法であると同時に時間が60進法であるというのも、このようなメソポタミアからの流れであるといえそうです。
さて一方、日本ではどのような時間の数え方をしていたのでしょうか。江戸時代までの日本では、1日を12に分け、そのそれぞれに十二支の名前を配していました。12に分けられていますので、現在の時間で言えば、約2時間ずつに相当します。真夜中(現在でいう0時)が子の正刻で、0時からおおよそ2時位までが子の刻と呼ばれていました。そして順番に丑の刻・寅の刻・卯の刻・・・・と進み、昼の12時が午の正刻、すなわち「正午」です。今でも普通に使う「午前」「午後」という呼び方は、この、かつての時刻の呼称に由来しています。
ところで、「1日が12に分けられた」と書きましたが、その分け方というのは、実は必ずしも2時間ずつ均等に分割されていたわけではありません。江戸時代の時刻法は、夜明けを「卯の刻」、夕暮れを「酉の刻」としていた、いわゆる「不定時法」だったので、当然、夏至に近い夏場は夜明けが早く夕暮れが遅いために昼間の一刻の長さの方が夜の一刻と比べて長くなり、冬場はその逆になっていたのです。現在でも、「夏と冬では昼間の長さが違う」という表現がなされますが、昔はほんとうに「時間の長さ」が違っていたわけですね。
一刻はさらに4分の1ずつに分けられていました。仮に一刻が2時間だとすれば、30分ずつくらいに相当し、「草木も眠る丑三つ時」というのは、丑の刻の3つ時、つまり午前3時半くらいを指します。しかしこれも季節によって早くなったり遅くなったりしたのは言うまでもありません。
日本で時間を分割する名称に用いられた十二支は、もともと中国由来のものでした。古代中国では、十干十二支からなる六十干支という循環があります。古代バビロニアと同様、60という数字が一つの基準になったのは、偶然かもしれませんが、ちょっとスゴイ一致ではないかなと思えます。なお、「12」という数値の共通性については、月の満ち欠けが12順するとおおよそ1太陽年に近いことから、洋の東西を問わず、基準とされてきたのではないかと考えられます。
メートル法が制定された頃、時間についても60進法を廃止して10進法にしようという提案があったようですが、取り入れられませんでした。何か「時間」という単位には、形式のシンプルさや利便性といった尺度だけでは計れない、奥深い何かがあるようです。また、60という数字には、1〜10までの数字のうち、7、8、9の3つを除くすべての数字で割り切れるという、10進法にはない特徴もあります。例えば「3分割」といった、非常に単純な分割でさえ、10進法では10÷3=3.33333.....となってきれいに割り切れないわけで、その点、60進法ではきちんと整数に割り切れるという利点があるのです。