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(12/27)週刊文春(続き)
24日に週刊文春ミステリーベスト10の日本編についてコメントをしたが、海外編の情報を追加しておく。海外編は若干投票メンバーの構成が変わっていて、多い順に、
作家:42
書評・評論家(ライター含む):30
書店員:24
翻訳家:16
日本推理作家協会員:13
その他:4
投票者数が日本編より少ないのと、書評家、評論家が多いのは、海外ミステリーが玄人受けするジャンルになっていることを示しているのだろう。作家は日本編より減少しているが、海外編にしか投票しない方もおられる(同業者への投票を嫌って日本編では棄権したためだろう)ので、人数の多寡を単純に比べることはできない。翻訳家の増加はまあ当然か。書店員が日本編より明らかに少ないことがいちばんの問題。あまり海外ミステリーを読まれないのかしら。スティーヴン・ハンター『ダーティ・ホワイト・ボーイズ』だとか、スコット・スミス『シンプル・プラン』といったような作品がかつて売れまくったのは、書店員の力が大きかったように思う。出版社の広告宣伝に乗って売れ筋本を売るのではなく、自分の目利きでおもしろい本を発掘するのには、海外ミステリーというジャンルはもってこいなんじゃないですかね。われこそは、という方、ぜひ海外ミステリーの拡販に名乗りを上げてみてくださいな。読者の方も、海外ミステリーの棚が充実している本屋さんを見かけたら、おおっ、ここの店員はやる気になっておるわ、とご贔屓にしてあげてください。なんだか最近海外ミステリーが売れない売れないと言われてばかりいるので、ちょっと卑屈にお願いしてみました。
んでもって、ちょっと検証。今年の文春ベスト1といえば『ダヴィンチ・コード』である。2位の『荊の城』(このミス1位)をダブルスコアに近いほど引き離しての受賞だ。今年もっとも売れた本が1位になるというのは、あまりに納まりがよすぎると思うのですが、実際どんな投票者に支持されているんですかね。ちょっと調べてみよう。
1位(5点)投票:浅田隆さん(イラストレーター)、伊多波碧さん(日本推理作家協会員)、井原まなみさん(推理作家)、内山安雄さん(作家)、大野優凛子さん(日本推理作家協会員)、岡野麻里安さん(日本推理作家協会員)、片山奈緒美さん(翻訳家、日本推理作家協会員)、狩野洋一さん(日本推理作家協会員)、鴨下信一さん(演出家)、川又千秋さん(作家)、北原亞以子さん(作家)、鯨洋一郎さん(作家・精神科医)、郷原 宏さん(文芸評論家)、小松崎敦子さん(三省堂書店八王子店)、嵯峨野晶さん(作家)、白川浩介さん(オリオン書房ノルテ店)、田中喜芳さん(日本推理作家協会員)、玉置由香さん(ジュンク堂書店難波店)、典厩五郎さん(作家)、中島賢二さん(日本推理作家協会員)、夏野百合さん(作家)、西上心太さん(ミステリー評論家)、西脇義高(星野書店近鉄パッセ店)、伯方雪日さん(作家)、春口裕子さん(作家)、平岡 敦さん(大学講師・翻訳家)、福本直美さん(書評子)、麓 昌平さん(日本推理作家協会員)、細美遙子さん(翻訳業)、増岡和代・藤井美樹(紀伊國屋書店広島店)、松岡照美さん(平安堂飯山店)、山沢晴雄さん(日本推理作家協会員)、若菜等+Kiさん(イラストレーター)
2位(4点)投票:伊藤秀雄さん(日本推理作家協会員)、宇田川拓也さん(ときわ書房本店)、金久保茂樹さん(作家)、嘉屋由記子さん(ジュンク堂書店広島店)、高木久直さん(戸田書店菊川店・西郷店)、矢部潤子さん(リブロ池袋本店)
3位(3点)投票:相川司さん(ミステリ評論家)、小材綾吾さん(ブックストア談 浜松町店)、川田弥一郎さん(作家)、木村誠一さん(明正堂)、佐々木麻美さん(リブロ港北店)、村山 実さん(編集者、日本推理作家協会員)
4位(2点):堺 三保さん(雑文業)、関口晴生さん(トーハン)、鈴木綾子さん(長崎市メトロ書店本店)、芹澤 恵さん(翻訳者)
5位(1点):熊谷 独さん(小説家)、堺康麻呂(ミステリ研究家)、東野さやかさん(出版翻訳者)、星 真一さん(紀伊國屋書店梅田本店)
最初に私自身の『ダ・ヴィンチ・コード』評価を書いておく。「このミス」座談会でも発言したが、私はこの作品をいわゆる伝奇ミステリー(因縁話と言い換えてもいい)の文脈で読める、ごくあたりまえにおもしろい小説だと思っている。最近は冒険小説の秀作があまり翻訳されないので、これを冒険小説として評価した文章をいくつか見かけたが、正統派冒険小説、すなわち英国冒険小説の伝統からすると、決して褒められた出来ではない。主人公に克己の精神がなく、一貫したモチーフの提示によって何かを表現したり、人物の成長を描いたりといった、作家のプランが何もない小説だからだ。ただし、読ませる力だけは抜群にある。主人公巻き込まれ型のスリラーとしては良質の部類に入る作品だろう。サスペンドされた状況が醸し出す緊張感(すなわちサスペンス)はなく、追い立てられるようなスリルのみなんだけどね。だから「ハリウッド映画的ブロックバスター」(西上さん)、「ジェットコースターノベル」(矢部さん)という表現は大いに的を射ている。おもしろいのは事実であり、古代キリスト教など日本人になじみの薄い話題が多い小説であることを度外視すれば、海外ミステリー初心者にもお薦めできる作品だと思っている。ほかにお薦めしたい作品(『迷宮の暗殺者』とかね)をたくさん抱えているので、私のお薦めリストには入れていませんが。
作品のテイストは、どちらかといえばB級アクションのものだろう。老学者が全裸になってダイイングメッセージを残し、そこに主人公の名前が含まれていたために彼が警察に追われる羽目になり、といった冒頭の展開は「意図はわかるけど、それにしても全裸かよ!」「そんだけ暗号を考える暇があったら主人公に迷惑がかからない配慮ぐらいしろよ!」といった突っ込みを容易にすると同時に、軽い笑いを呼ぶ。私はオプス・デイの刺客が登場するたびに可笑しくて仕方なかった。傍目から見るとこの人、ものすごいマゾヒストにしか見えないんだもん。だから、「映画版『ルパン三世』っぽいと思ったのは私だけですか?」(小林さん)という意見には同感。インディ・ジョーンズより、むしろこっちの味でしょう。フランスの警察に追われた主人公があっさり脱出を果たす中盤の展開など、ZAZのコメディ映画的なご都合主義で、正統の冒険小説なら叱られるところだけど、私は笑った。
反面、知的読物としてはあくまで上っ面をなぜただけ、知的好奇心をくすぐるだけ、という作品である。だが、まあ、小説だからこれでいいのだ。もし本当に論文を書きたかったら、非小説の著作を出せばいいのだから。各所で指摘されているとおり、この本で展開されている論はダン・ブラウンの知見を示すというよりは、むしろ先人の業績を寄せ集めて作ったものであり、そこにオリジナリティは希薄である。また、寄せ集めの仕方も非常に単線的で、相反する意見が衝突・融合して新しいものを生み出す、弁証法的な読み方をすることはできない。しかし、まあ、それはいいですよ。真っ当な学者なら相手にしないようなものまで含めて、学説・仮説を寄せ集めて空中楼閣を築いてみせるのは作家の腕である。ただ、本当に知的なものが読みたかったら、ここで満足せず、ダン・ブラウンが借用した原典(邦訳されているものも多い)に当たられることをお薦めしたい。
で、投票者の分布についてです。もう一度上の投票者リストを見てください。1位投票者が多いでしょう。これなら1位になるのもうなずける。また、投票者で多いのは圧倒的に作家・日本推理作家協会員である(書評家・評論家筋は極端に少ない)。心なしか高齢の方が多いようだが、このランキングに投票される作家・協会員の年齢構成が、比較的高齢者に偏っているためだろう。
作家コメントでは、実作者の視点から適切な指摘をされているものが印象に残った。「サスペンスは分断されている」(川田さん)、「物語よりゲーム感覚を優先させたことに不満はある」(典厩さん)、いずれもその通りだと思う。逆に疑問符がついたコメントは評論家サイドのもので、「学術ミステリーとしてはエーコの『薔薇の名前』以来の収穫」(郷原さん)、「ダ・ヴィンチ絵画の謎に迫るという手法は歴史ミステリー小説の金字塔を打ち立てた。一番驚いたのはダ・ヴィンチだろう」(田中さん)。いや、私も驚きました。学術的(図像解釈学)なアプローチで絵画を扱った作品としては、たとえばマイクル・フレイン『墜落の風景』(創元推理文庫)などの秀作がある。『ダ・ヴィンチ・コード』で驚かれたというのは、おそらく前述のような作品成立の背景についてご存じないのではないのかしらん。「ネタ自体は、昔からのファンタジーと「とんでも本」で見慣れたもの」(岡野さん)というコメントは実に正しい。
また、冒険小説を系統立てて読んできた者としては、「かつて一世を風靡した冒険ミステリが、ここに大復活!」(相川さん)という意見には違和感を覚えた。繰り返しになっちゃうけど、冒険小説としては凡庸ですよ、これは。
正直すぎて笑ってしまったのは、熊谷独さんのコメント。「やはり一票を入れるべきか? 出だしの謎と暗号はまずまず。下巻になると読みおえるのに苦労する。途中なんども放り出しそうになった」。わはははは。なんでそんなに苦労しているのに投票しているんですか。愛憎半ばする気持ちが見えておもしろかった。また、書店員に「本屋としては感謝すべき本」「謎解き本など関連本まで売れた」という趣旨のことを発言される方が多かったが、これも正直なコメントと言えるだろう。「売れたからいい本」と言っているように受け止められる可能性があるので、ちょっと誤解を招きそうですね。まあ、本心からそうおっしゃっているのなら別に仕方ないんだけど。
そんなとこです。ではまた。
(12/29)NBA
というのは日本バカミス愛好会の略称です。「このミス」に連絡先の記載はないので念のため。なにをしているのかというと、優れたバカミスを読んでうわぁとかうひぃとか驚く会だ。これは本当のことです。
バカミスについては、小山正NBA会長が本年度の「このミス」にバカミス指標をわかりやすく解説している。また、小山会長が陣頭指揮を執った『バカミスの世界』は内外の名作をほぼ網羅している(共同執筆者は、霜月蒼、福井健太、杉江松恋)。ただこの本、担当者が退社してしまっているため、その後の手当てがまったく出来ていない可哀想な子なのである。この編集者退社についてはいろいろあって、原稿料の支払い手続きが遅れたり、貸していた本カバーが戻らなかったり(一部はまだ返してもらっていない)、たいへんだったのである。本の誤植も多いし、できればそれらを修正した上、増補版として出しなおしたいのですが。どちらかの出版社でやりませんか? もし増補版を出すとすると、霞流一さんの短篇「わらう公家」は『本格ミステリ02』に収録されているから、新作を書いてもらうことにしたい。題名は「曲がったオウムガイ」。勝手に決めてすいません。
んでもって去る12月15日には、NBAの会合があった。その席上で本年度のNBA最優秀作品賞が決定したので報告します。本年度もっともバカだったと認定されたバカミスは、ディヴィッド・アンブローズ『迷宮の暗殺者』でした。拍手。得票数は特に発表しないけど(憶えてないから)、断トツの人気。他のノミネート作には『キマイラの新しい城』『サウダージ』『馬鹿★テキサス』『生ける屍』『でぶのオリーの原稿』(『ハマースミスのうじ虫』みたいな話)、映画「ソウ」などがあったのだけど、個々のノミネート理由とかは憶えてないや、酔っ払ってたから(杉江松恋は反省しる!)。帰ってからメモを見たら、「『馬鹿★テキサス』はどうぶつ」と書いてあった。どうぶつ並みなのは私の脳味噌の方だと思う。
そういえば週刊SPA!の書評コーナーに4週間連続で2004年を振り返って推したいミステリーというのを私が紹介がすることになっている。一発目は当然ながら『迷宮の暗殺者』で、2発目は『生ける屍』の予定。なんだよそれ、2004年のバカミス紹介じゃないか、と思ったあなたは正しいです。でも編集者さんには内緒ね。
(12/30)滅・こおるさんにお会いしてきた
昨日は都内某所で開かれた滅・こおるさんオフ会に参加してきた。幹事の冬野さんにお願いして無理矢理仲間に入れてもらったので、部屋の人口密度を急激に上昇させてしまう。変な姿勢でずっと座っていたので、外に出たら足がつった。いや、それは日頃の運動不足のせいです。あれこれ片付けなければならない用事があるため、一次会で失礼する。どうもありがとうございました。
今年中に商業原稿はもう書かないのだが、一本だけ書評原稿を残している。豊ア由美さんが主催する書評講座に1月のゲストとして招かれているので、それ用の原稿だ。この講座、受講者と講師、ゲストが匿名で書評を提出し、それに対して全員で採点をするという仕組みになっている。なかなか厳しいね。12月の回を見学させてもらったが、3回目にして初めて講師が勝利したとのこと。勝利者が次回採り上げる作品を選んでいいことになっているらしいので、それを励みに頑張ろう。
そういえば、ちょっと変わった書評原稿を二つ書いた。一つは、今売っている「野性時代」に掲載された、擬似フィクションで『長恨歌 不夜城完結編』を紹介するというもの。一人称「俺」が歌舞伎町を散策するという形式なのだが、もしかするとこれ、ほかの作品でやってもおもしろいかも。暗黒館を歩く「俺」とか、葉村晶に尾行される「俺」とかね。どこかでやらせてくれる媒体はないかな。「ボクちゃん探偵」対「俺」とか、可笑しそうだ。
もう一つは、たぶん次の「小説すばる」に載るもので、小説すばる新人賞の三崎亜記『となり町戦争』を三人で同時に書評するというもの。別に勝ち負けを意識するわけではないが、こういう形式だと他の人の原稿が気になる。私がいちばん遅かったので(杉江松恋は反省しる!)見せてもらおうと思えば他の原稿も見られたのだが、それはしなかった。こういうのは、ネゴシエーションなしのほうが楽しいのだ。三人の書評で誰がいちばん読書欲をそそるか、実際の誌面で確認してください。ちなみに、この作品は近年の同賞の中でも群を抜いた傑作だと思う。下読みとして推していた作品はあったのが、これにはかなわないと思った(欠点はあるが、それは書評に書いた)。現実からちょっとだけ浮遊した感覚が楽しく、さらりと読み流せない箇所があちこちにあって、馥郁とした味わいがある。これは、読んで損はしませんよ。
とりとめのない内容になってしまった。そういえば、OKさんが昨日の日記について言及しておられたが、NBA大賞は「このミス」年度(10月末で一区切り)に準じているため、『パズル』は対象外なのでした。来年度大賞の有力候補。
そんなところでしょうか。明日もたぶん更新します。
(12/31)大晦日はテレビ朝日を観ないと
東京は雪の大晦日だ。昨日のうちに豊ア由美さんの書評講座用の原稿は書いてしまった。今日推敲して提出しようと思っていたのだが、〆切は2日に延びたとのこと。折角だから、もうちょっといろいろ手直ししてみようと思う。いつもこんなに余裕を持って仕事ができたら、私も真人間になれるのにね。本年最後の読書は、その課題作であるジョン・マグレガー『奇跡も語る者がいなければ』になりそう。でも可能なら大倉崇裕さん『やさしい死神』を読んでおきたいところだ。落語ミステリーの第三弾である。
そろそろ来年のことを書いても鬼は笑わないかな。仕事の予定なんかをここに書いてしまおう。単行本は、2月に『バトル・ロワイアル2 鎮魂歌』の補遺本『3−B 42Students(仮)』(太田出版)が出ます。前にもここで書いたとおり、『BR2』の登場人物たちが顔を出す掌編集のようなもの。『BR2』の世界を気に入っていただいた方にお薦めしておきます。また、その後に『プロジェクト荒木町もういっちょ』を予定。これは内容及び時期は未定です。がんばりますけどね。今年はフィールドワイ社で2冊ガイドの仕事をしたが、そういう内容で今仕掛かっているものは2つ。いずれも編者は私ではないので、刊行時期は作業者及び編者の奮闘次第ということになりそうです。こんなことここに書いておくと版元に叱られるかな。いや、これもがんばりますとも。
連載は、今やっているものにもう一つ月刊誌が加わる予定。これについては年明けに編集者の方と打ち合わせをするので、決まり次第お知らせします。またそれ以外にも月イチで何か書く媒体が増えるかも。池袋コミュニティカレッジでやっている小説講座は、4月以降も続ける予定。豊アさんや米光一成さんの講座みたいに、人数がもう少し多いとやりやすいんだけど。ええと、それ以外には文庫解説を一つ抱えています。たぶん3月刊行。
こんな感じかな。今年はオフ会やら何やらで、お知り合いが増えた年でした。来年はおそらくもうちょっと引きこもりモードを強化して仕事すると思います。しかしながら、お酒の誘いは歓迎です(杉江松恋は反省しる!)。
では、よいお年を。来年もよろしくお願い申し上げます。