2004年5月25日、東京・千代田区の東京會舘で第24回横溝正史ミステリ大賞の贈呈式が行われました。今回の大賞受賞作は村崎友『風の歌、星の口笛』(bk1/amazon)。優秀賞ならびにテレビ東京賞を射逆裕二『みんな誰かを殺したい』(bk1/amazon)が受賞しました。その他の最終候補作に佐枝せつこ『ベッド・イズ・バッド』、金沢整『Never
Let Go』があります。以下はパーティー会場における各人の発言を私独自の速記(なぐり書きとも言う。しかもビールを飲みながら)で残したものですので、細部については聞き違いの可能性があります。その段、ご容赦ください。
なお、選考委員4氏(綾辻行人さん、内田康夫さん、北村薫さん、坂東眞砂子さん)の選評は両受賞作の巻末などで読むことができます。ただし、坂東さんの選評は『風の歌、星の口笛』の結末について完全にネタばらしされていますので、これから読まれる方はご注意ください。
【選考委員を代表して北村薫さんの選評コメント】
まず全体の流れから申し上げます。選考会は、普通早く終了する場合は満場一致で決まることが多いのですが、今回は記録的に長かった、揉みに揉んだ選考会となり、各人の意見が鋭く対立いたしました。
本日は(選考委員のうち)内田康夫先生が会場にいらしてませんが、これは決して怒って来ないわけではありません(笑)。前々から決まっていた取材旅行でヨーロッパにいらっしゃいます。内田先生は今回で選考委員をお辞めになられると選考会の前からおっしゃっておられたので、「先生、今回の選考結果が気に入らないということで、テーブルをひっくり返して辞めたということにされてはどうでしょう」と申し上げたところ、「うん、それもいいな」と笑っていらっしゃいました(笑)。
候補作四作が私の家に届きまして、最初の一作を読んだときは「あ、これはちょっとダメだ」と思いました。昨年が受賞作なしになりましたので、今年はなんとか受賞作を出したいと考えていたのですが、とてもそれには及ばない感じでしたので危ぶんだわけです。ですがあとの三作を読みまして「これは大丈夫だ。どれかは出せるだろう」と安心いたしました。ところがいざ選考会の会場に来てみると、選考委員四人がそれぞれに「出したい」と思う作品が違っていまして、議論になったのです。結論から申し上げると、私と綾辻行人さんの本格派が意見を通した形となりましたが、ある選考委員の方が推した作品が他の三人すべてから否定されたり、ある作品については一人の方が「それだけはだめ」と拒絶されたりで、決定までは紆余曲折がありました。
候補作のうち『Never Let’s Go』は坂東真砂子さんが強く推された作品ですが、他の選考委員の賛同が残念ながら得られませんでした。この作品については女性の編集者の中にもおもしろかったという方が多く、女性に支持されるタイプの作品であるのかもしれません。受賞作となりました『風の歌、星の口笛』の作者は昨年も最終候補作に残りましたが、その作品(注:『夕暮れ密室』。選評を『文学賞メッタ斬り!』(bk1/amazon)で読むことができます)は、本格の謎としては魅力的なのですが、長篇としては破綻したところがありました。私はまるで、自分の子供が運動会の徒競走で走っているような気持ちで、子供が負けるのは口惜しいが、大人の理性として子供に手を貸すわけにはいかない、すなわち瑕瑾があるので強くは推せないということで残念な思いをいたしました。悦ばしいことに、その方が今回も最終候補に残りました。冒頭に複数の謎が提示され、それが相互にからみあいながら解かれていくという長篇としては魅力的な構成で、かつ最後に大胆な落ちがあります。
内田康夫さんは『ベッド・イズ・バッド』を支持され、評は大きく割れました。こうした場合、推す側のテンションが低いと、受賞作なしという結論に陥ってしまう危険があるのですが、揉んでいる最中の意見交換が楽しく、テンションが落ちなかったので、これは受賞作としてよかろうということになりました。最終的には他の選考委員の方もかまわないということで納得していただいております。
『風の歌、星の口笛』はSF小説ですが、そのテイストよりもむしろ大がかりな謎を長篇として成立させていく要素の方を重視します。まさに横溝賞にふさわしい作品でしょう。先ほど受賞者の村崎さんにお話をうかがいましたが「本格は大好きです。トリックは何十もあります」とおっしゃっておられたので、「ああ、いい人だったんだな」と(笑)、安心をいたしました。
横溝賞にはTVドラマ化を前提としたテレビ東京賞があるのですが、『風の歌、星の口笛』はロケットで星に行く話ですのでTVには向きません(笑)。そこで『みんな誰かを殺したい』が授賞することとなり、この作品はすでに優秀賞を与えられることが決まっておりましたので、同時授賞ということになりました。横溝先生にとって恩人であり、盟友でもあった江戸川乱歩先生は、トリック集成に力を入れられましたが、その乱歩先生がとても愛したトリックが本作では使われております。ちなみに外国のムニャムニャという作家がこのトリックを使っておりまして、乱歩先生もAhhhhhという作品でそれを見事な形で換骨奪胎され、Mmmmmという作品でも使われるなどたいへんに愛しておられました(会場内に、わかった! という声あり)。そういった複数の基本的なトリックを新しいパターンで使っているのが効果的であります。読み終えて実はこうなっていたんだということがわかったときにそういった先人の作品が頭に浮かびました。そういうところがたいへんに好感の持てる作品なのですが、長篇として破綻しているところがあり、『風の歌、星の口笛』に一歩譲ることになりました。全体として、今年は豊漁であったということが言えると思います。