メリーゴーランド

(もう一つの「蝶」)


高校3年生にもなると、皆彼氏が居たりする。
女同士でのレジャーの機会も減ってくる。
私には彼氏は居ない。
「もうすぐ、夏になるんだから、彼氏の友達紹介しようか??」
悪友のしほりが、通学電車の中で、話しかけてきた。
「彼氏って、そんなに良いもの??」
私は怪訝そうにしほりを見る。
「ま〜た始まった!!とにかくさ、一回会ってみてよ。いい男だよ。」
「あ〜〜〜!!もう、計画しちゃってるんでしょぉ〜」
私は、しほりに電車の揺れに便乗して、体当たりする。
しほりは、花にたとえると、薔薇の花のように、華やかな女の子だ。
恋愛をしないと、生きて行けない!!と豪語する彼女の周りはボーイフレンドで溢れていた。
私は別に男嫌いな訳ではない。
今までに何人かと付き合った事もある。
けど、一緒に映画を見たり、ご飯食べたり、ゲーセンいったり、kissしたり、sexしたり・・・・。
ただ、それだけの事で、自分自身を見失う事は全然ない。
そんな事をいうと、しほりは決まって
「あすみは、まだホントに誰かを好きになったことが無いんだよ。」
という。
「私は、いっつも本気。ただ、長続きしないだけ・・・・」
とも、言う。
今まで、私が付き合った人、終わりの時に必ず言われる事。
「おまえは冷たい女だ」
私の事を知ろうともしないで、自分の欲求だけを前面に押し出してくる御馬鹿な男達。
そんな人に、何をどう、自分を開放しろと言うの??
「とにかくさ。明日、彼氏の車で迎えに行くから!」
しほりは、にこにこして言う。
ああ、明日が憂鬱だ・・・・。

夜8:00。しほりと彼氏のヒデちゃんが迎えに来た。
後部座席には、私に紹介するつもりの男が座っていた。
見たカンジはそれほど、悪くない。
私は軽い会釈をして、その車に乗りこんだ。
「はじめまして。俺、久。あすみちゃんだっけ?」
男は上機嫌で挨拶する。
私も、ツラレテ笑顔で挨拶する。
「クールビューティーだね!やっぱり、しほちゃんの友達だけあって、可愛いね!」
男は馴れ馴れしく、肩に手を回してきた。
「ねね、ヒデちゃん。今日は、どこ連れてってくれるの??」
しほりが運転している、ヒデちゃんに助手席から声を掛ける。
「いつもの店でイイ?」
ヒデちゃんは左にウインカーを出しながら言う。
「ああ。先輩の植村さんの仕事してるバーね」
しほりが、やれやれという顔で言う。
「嫌なの?しほ」
ヒデちゃんが、心配そうに見る。
「え〜〜。う〜〜ん。そう言うわけじゃないけど。ちょっと先輩苦手なだけ・・・。」
「先輩、つっけんどんだからな〜〜。しほみたいな女にはムカツクんだろうな」
ヒデちゃんが笑いながら言う。

バッキーという名のバーは住宅街の中にあった。
店内はオレンジ色のライトが優しいフウインキだった。
バーテンダーが3人いた。
2人は明るく
「いらっしゃいませ〜」
と声を掛けてくれたのだが、一人だけ声を掛けてくれなかったのが居た。
「先輩。また来ちゃいました」
ヒデちゃんと久は、その無表情な男に近づいていった。
「あの人が、植村先輩」
しほりが私に、耳打ちする。
「あの人、ぶっきらぼうで私、嫌いなんだよねぇ。」
しほりは嫌な顔をして言う。
私から見ても、何だか無愛想な人に見えたので、気に留めることも無かった。
私達は円卓につき、ワイワイ騒いでお酒を飲んだ。
久は調子にノッテ私に抱き付いて来たりして、非常に気分が悪かった。
「なあなあ。俺と付き合おうぜ!」
久は私の耳元でささやく。
まったく自分に自信がある人は、遠慮が無い。
私は笑いながらごまかす。
そこへさっきの植村先輩が酒類を運んでくる。
相変わらず愛想が無い。
私と久の席の間から酒類をテーブルに置く。
運ばれてきたのはターキーとコップが4つ、氷とレモン、ミネラルウォーターだった。
「あ!私、カクテルがいいなぁ。」
しほりが、メニューを見ながら言う。
「いつものやつでイイのか?」
初めて植村先輩が口を開いた。
声のトーンは低いが、良く通る声だった。
相変わらず、ぶっきらぼうで、愛想の一つも無い。
「うん。カルアミルクで・・・・」
しほりが言い終わる前に植村先輩は席から離れて行く。
私の左隣に座っていたしほりは、
「ね、やな奴でしょ?」
と耳打ちする。
私は、ぼんやりと植村先輩を目で追ってみた。
仕事はキチンとしているようだ。
ただ、しほりみたいに、男にちやほやされるのに、慣れてる女には、自分を否定された感じがして癇に障るんだろう。

店内はしばらくすると、常連や初めてのお客などで賑わい始めた。
カウンターに座った男性と植村先輩は、親密そうに言葉のやり取りをしている。
男性の話しに耳を傾けしばらくして、植村先輩は笑った。
その笑い顔は、ぶっきらぼうな植村先輩のイメージとは、かけ離れたものだった。
私は驚きと、宝物を見つけたような目で、視線が釘付けになってしまった。
そんな私の視線を感じた植村先輩は、パッとこちらを見た。
植村先輩はにこっと笑った。
私は慌てて、視線をはずした。
不意に久が私の肩に手を回して引き寄せる。
「なな、俺達付き合うからさ〜〜!」
久は笑いながら言う。
「久君たら、あすみに一目ボレ〜〜??」
しほりがカクテルをテーブルに置きながら茶化す。
ヒデちゃんもニヤニヤしている。
「ねね、あすみ、付き合ってみれば〜〜??」
しほりが私の肩を叩く。
「え。でも・・・・。」
「え〜〜?!俺の事嫌い??」
久は私の顔を覗きこみながら言った。
「え。嫌いじゃないよ〜」
私は笑いながら言った。
「じゃじゃ、とりあえず彼女になってよ。損はさせないから〜〜!!」
損させないって・・・・。商品じゃないのに・・・・。
私が冷めた心で聞いているのを判っていない。
私は表向きは笑顔でいた。
すると不意を突いて、久の唇が私の唇にのってきた。
私はとっさに、久の胸に両手を押し付けた。
それでも久はkissを止めない。
私は顔を下に向けて何とか、これ以上久の好きにさせる事は、防げた。
ヒデちゃんとあすみはキャーキャー騒いでいる。
それを見ていた2人も、kissをしている。
「これで、あすみちゃんは、俺の彼女だからね!」
久は半ば強引に言う。
kissを止めたヒデちゃんとしほりが、私の答えを待っている。
私はもう、どうでもいいや。って気になった。
見た目が嫌いな訳でもないし、久の云う通り、もしかしたら好きになっていくかもしれないし。
「いいよ。彼女になるよ。」
私は、アルコールも入っていたせいも重なって、久に返事をした。

翌日は二日酔いも手伝って、家を出るのが遅くなってしまった。
学校へ行く為に駅への道を走っていると、不意に角から飛び出してきた自転車にぶつかって、私はそのまま後ろに倒れた。
「も〜〜〜!!気を付けろよ〜〜〜!!」
私は頭に来て、べらんべえ言葉で言った。
「ごめん。ごめん。・・・・・・あ。夕べの・・・・・。」
自転車の主の低い声が言う。
私がパッとそいつの顔を見上げる。
手を差し伸べてるのは、夕べバッキーで見た、植村先輩だった。
「あ・・・・・。おはようございます・・・・。」
私は顔に血が昇るのが解かった。
昨日、店で目があってしまった事が蘇ってくる。
植村先輩は私の後ろに来て、起き上がらせてくれた。
立ち上がると足首に鈍い痛みを覚えた。
「いたたたた・・・・・」
「どうした??怪我したか?」
「足首をひねったみたいで・・・・・」
私が言い終わる前に、植村先輩は私を抱き上げ、自転車の後ろに座らせた。
駅とは反対方向に私を乗せた自転車は、動き出す。
「え。あの〜。どこ行くんですか?」
「医者だよ。医者。」
「え?!ダイジョウブです。学校もあるし・・・・」
私は自転車から降りようとした。
「スカートも破けてるから・・・・後ろ・・・・今日は学校諦めろ」
植村先輩は、私の言葉をさえぎるように言う。
植村先輩は私の方に、ケイタイ電話を差し出した。
「ほら。学校に電話しとけ。」
私は言われるままに学校に欠席の連絡をいれた。

医者というから、どこだろう?と思った。
自転車が止まった先は、植村医院・・・。
え!?植村先輩と同じ苗字だ。
植村先輩は私を抱えて病院の中に入っていく。
「あら、司郎くん。どうしたの?」
受付のお姉さんがカルテから目を上げて、私を抱き上げた植村先輩に言う。
「オヤジ、もう居る?」
植村先輩が声を掛ける。
「ええ。もう診察室にいますよ。」
植村先輩は私を抱き上げたまま、診察室に入っていく。
診察室に居たのは、植村先輩に良く似た、スマートな白髪混じりのおじさんだった。
「どうした?司郎。ん?!そのお嬢さんは?」
「捻挫したみたいなんだ。見てくれよ。」
植村先輩は私を診察ベットにおろしながら、言った。
「どれどれ・・・・」
足をおじさんが触る。
「いたたたた・・・・・!」
私が言う。
「ふむ。一応レントゲン撮っとくか」
おじさんは看護婦に指示をする。
植村先輩は私を再び抱き上げ、レントゲン室に運んで行く。
私は植村先輩の腕の中で、ドキドキしていた。
「あの。ここって、植村先輩の家なんですか?」
私は、心臓の音が植村先輩に聞えてませんようにと、思いながら口を開いた。
「ああ。そうだよ。」
植村先輩は私の顔を見て、言った。
レントゲン室について、レントゲン台に載せられた。
私を降ろす瞬間、植村先輩は私のオデコにkissをした。
私は一瞬何が起こったのか解からなかった。
植村先輩はニコッと笑い、レントゲン室を後にした。

診察が終わった頃、植村先輩は待合室に居た。
私はと言うと、左足を包帯で巻かれ、無様だった。
植村先輩は私を再び抱き上げて、受付の隣にある、ドアを入っていく。
「まあまあ。ごめんなさいね。」
中年の女性の声が横から聞えた。
声のする方を見ると、ワンピースを持った中年の綺麗な女性が立っていた。
「じゃあ、これに着替えてね。制服は縫っておくわ。」
植村先輩は私を応接間のソファーに降ろすと、フイっと部屋を出て行く。
私は中年の女性に促され、着替える事にした。
「ごめんなさいね。ウチの司郎の自転車にぶつかっちゃったみたいで・・・・」
どうやら、植村先輩のお母様らしい。
「いえ・・・私も走ってたもんで・・・・」
私は恐縮して言った。
手渡されたワンピースに袖を通した。
ワンピースは白いレースのロング丈のものだった。
「まあ。私の若い頃のワンピースがサイズ合って良かったわ。」
お母様は嬉しそうに言う。
しばらくして、植村先輩が戻ってきた。
植村先輩は無言で、私を抱き上げ、2階へとあがって行く。
「司郎。帰りは車で送ってあげなさいよ。」
後ろから、お母様が声を掛ける。
「そうするつもりだよ。」
植村先輩はそっけなく答える。

植村先輩の部屋は、黒で統一されていた。
壁一面にある本棚には、難しい医療関係の本が所狭しと並んでいる。
部屋の広さはダイタイ8畳くらいだった。
植村先輩は私をソファーに降ろすと、CDをかけた。
ステレオから軽快なジャズが流れてくる。
植村先輩は私の斜め前のリクライニングチェアーに座った。
しばしの沈黙・・・・。
「あの。ごめんなさい。」
私は、沈黙が少し怖くて口を開いた。
「ん?俺が悪いんだからさ。気にするなって」
植村先輩はニコッと笑うと言った。
「あのさ、久と付き合うのか?」
植村先輩は、夕べの事を聞いていたようだった。
もしかしてkissしてるのも、見られた??
私は心臓が鷲掴みにされたような緊張を覚えた。
「え。・・・・・うん・・・・。押しきられるように・・・・そうなっちゃったんです。」
私は途切れ途切れに言う。
「なあ。俺とさ付き合わない?」
植村先輩は、さらりと言う。
私は一瞬耳を疑った。
今、何て言った???
すると、ドアをノックする音が聞えた。
お母様がジュースとケーキを持ってきてくれた。
私はお母様のお盆から、ケーキとジュースをテーブルの上に、置こうとしたが、イイのよ。とさえぎられた。
お母様はガラスのテーブルにジュースとケーキを置くと、ゆっくりしてってね。と言って部屋を出て行った。
再び沈黙・・・・・。
私のかばんからポケベルがなっている。
今時、ポケベルしか持ってない、女子高生もめずらしいと、私は常日頃思う。
私はポケベルを取り出して、メッセージを読む。
”どうしたの?二日酔い?”という、しほりからのメッセージだった。
腕時計を見ると、丁度1時間目が終わった頃だった。
「あの、電話借りてもイイですか?」
私はリクライニングチェアーで目を閉じてる、植村先輩に声をかけた。
「ああ。いいよ。」
植村先輩は部屋の隅にある、電話を指差した。
私はそこから、しほりのケイタイ電話に電話を掛ける。
「どうしたの〜??急に休むなんて〜〜!」
しほりの陽気な声が聞こえる。
「捻挫しちゃって・・・・。」
私は少し声のトーンを下げて喋る。
「なん?!だいじょぶ?で、今どこ?」
「え・・・・・・うん・・・・・・・今は・・・・・」
そこまで言いかけた時、後ろから近づいてきた植村先輩に、受話器を取られた。
「もしもし。・・・・・・・ああ・・・・・俺の自転車にぶつかっちゃって・・・・・今?俺の部屋だよ。」
それだけ言うと、植村先輩は電話を一方的に切った。
植村先輩は何事も無かったように、リクライニングチェアーに戻って行く。
私はあっけに取られて、しばし電話の前から、動けなかった。
いつもの私らしくない・・・・なんでこの人の前では、大人しい自分なんだろう?
いままで私に群がってきた、男達とこの人とでは微妙に違う気がするから?
「腹減らねえ?」
電話の前で動けない私を見据えながら、植村先輩は言った。
「出かけるぞ。」
リクライニングチェアーから植村先輩は立ちあがり、車の鍵を机の上から取り、私のかばんを持ち、私を抱き上げる。
「あの、私、自分で歩けますから・・・・。」
私は抱き上げられて、そう言う。
そんな声は聞こえないとばかりに、植村先輩は部屋を出る。
階下に降りて行くと、お母様がキッチンから出てきた。
「あら。もう帰っちゃうの?もっとゆっくりしてけばイイのに。」
お母様は残念そうだった。
「あ!制服持ってこなくちゃね」
お母様は、抱えられてる私に笑いかけながら言う。
「あの、私着替えますから・・・・。」
「いいのよ。ウチは男の子ばっかりで、着る人も居ないから、あなたに着てもらえると嬉しいわ。」
お母様は、それだけ言って、応接間の方に消えて行った。
植村先輩は私を玄関に座らせると、いったん外へ出て行く。
玄関の靴箱の上には、綺麗な花が活けられていて、その横には家族で撮った写真があった。
ああ、植村先輩は4人家族なんだなというのが、わかった。
植村先輩の横に小学校の子供が写ってる。
お母様が応接間から出てきた。
「あなた、名前なんておっしゃるの?」
お母様は紙袋に入れた制服を私に渡しながら、聴いてきた。
「あ。上原 あすみと言います。紹介遅れてしまって・・・すみません。」
私は、ペコリとオジギをした。
「それから、あの、これ、ありがとうございます。ホントにイイんですか?」
私はワンピースのウエスト下の部分を、持ち上げながら言った。
「あすみちゃんって言うの。よろしくね。ワンピースいいのよ。是非貰ってね。」
お母様はニッコリ笑った。
「あすみちゃんの髪って、天然なのね。緩いウエーブが掛かってて可愛いわね。」
お母様は私の腰まである髪を撫でながら言った。
「ねえ。あすみちゃんは、司郎と・・・・付き合ってるの?」
「え?!ち、違います」
私の頭に、オデコにkissしてきたり、付き合おうって言ってきたりした、植村先輩の顔がよぎった。
「そうなの??でも、あのこ、あすみちゃんを好きだと思うけどな。」
お母様はニコニコしながら言う。
バッと玄関のドアが開き、植村先輩が入って来た。
植村先輩は私を抱き上げ、お母様から制服の入った紙袋を渡してもらい、玄関を出た。
玄関を出ると、真っ赤なユーノスロードスターが止まっていた。

自宅の前に着いたのは15時だった。
植村先輩は、いきなり私の手を掴んで、引き寄せた。
ドッキリしていると、サンバイザーからマジックを取りだし、私の手の甲に何かしら書いている。
「これ、俺のケイタイ電話の番号。」
植村先輩は、そう言った。
自分の方に、手を戻してみると、確かにケイタイ電話の番号だった。
私は何だか笑ってしまった。
メモ帳なら持っていたのに、この人は何にも聞かないんだな。と思った。
「なーん笑ってるんだよ?」
植村先輩は私の横で不思議そうに言う。
「エッ?!何でも無いです・・・(笑)」
私は噴出しそうになるのを、押さえながら言う。
「ホントに、ここでイイの?玄関まで送るけど?」
植村先輩は私の足を気遣って、言う。
「いいんです。ここで。ホントにありがとうございます。」
私はニッコリと笑いかけながら言った。

誰も居ない家の玄関から、私は自分の部屋へ向かった。
私はベットに腰を降ろし、ポケベルをかばんから出した。
しほりのメッセージが1件入っている。
メッセージは、家に着いたら、電話してと入っていた。
私は枕元に置いてある、電話を取り、電話をかける。
「あすみ〜〜?!今どこ?」
しほりは1度目の呼び出し音で出た。
「今、家に着いたよ。」
「ホント、ビックリしたんだから〜〜〜!!」
「ごめんね。私もビックリだよ」
「にしても、今まで奴と居たの?」
「うん。ナンカね、あの人、おかしいね」
「え?!おかしいって・・・・?」
しほりは私の言ってる意味が解からないようだ。
「あの人って、イイ人だと思うけどな」
あすみは素直な気持ちをしほりに言った。
「ふーん。そうなのかな?私にはワカンナイケド・・・・。でも、ま、あすみが言うんならそうなんだろうね。ところでさ、来週、あすみの足が治ったら、久くんとヒデちゃんと私と4人でドライブ行こうよ。」
「え?!ドライブ?どこ行くの?」
「さあ、私もよくワカンナイケド・・・・。あすみ〜久君に電話しなね。」
「あ、うん。そうだね。」
私は自分が昨日、久と付き合うって事になったのを思い出した。
しほりとの電話を切って私は今日の出来事を思い出していた。
赤いロードスターに乗せられて、ついた先はファミレスだった。
そこで、植村先輩はモーニングを食べ、私はアイスクリームを食べた。
植村先輩は相変わらず、言葉少なく、それで居て、居心地は悪くなかった。
その後、映画館に行き、映画を見た。
スクリーンでは、海外のスターが迫真の演技を見せている。
私は、食い入るようにスクリーンを凝視する。
すると、私の左手をギュッと掴まれた。
驚いて、横を見ると、同じくスクリーンを食い入るように見ている、植村先輩が私の手を握っていた。
私はその手を振り払う事はせず、そのままにしていた。
何だか安心できた。

ふいにポケベルが鳴る。
メッセージを見ると、久だった。
私は深いため息をついて、久のケイタイに電話をする。
「もしもし!!」
元気な声が聞こえてくる。
「あすみです。何?」
「怪我したんだって?今ヒデちゃんから聞いたよ。」
久とヒデちゃんは同じ大学に通っていて、多分しほりがヒデちゃんに電話して知らせたんだろう。
「に、しても、植村先輩の自転車にぶつかるなんてね〜。で、怪我はダイジョウブなの?」
「うん、だじょうぶだよ。」
「ねえ、今日会おうよ。家まで迎え行くから。」
「え?!うーん。でも、怪我してるし・・・・。」
「いいじゃん。それとも俺に会いたくない?」
そう言われてしまうと、会いたくないとは言えなくなってしまう。
私は仕方なく承諾した。

20時ごろ、ポケベルが鳴る。
久からだ。家の前に着いたと言うメッセージが入っていた。
階下へ降りて行くと、父と玄関でばったり会った。
母は台所で夕食の準備をしている。
「どこいくんだ?あすみ。・・・それにその足どうしたんだ?」
父は私に言う。
「ああ、これね。これ、捻挫」
「そんな足でどこ行くんだ?」
「すぐ戻ってくる」
私は父の制止を振り切って玄関を出た。
家の門を開けて、外へ出ると10メートル離れたところで、久の車が止まっていた。
私は左足をかばいながら、歩いて行く。
「よお!」
久は私が助手席に乗り込むと言った。
「ダイジョブか?その足」
「うん、ダイジョブ。で、どうしたの?急に。」
「なあ、ホテル行こうよ。」
「・・・・・?!」
久はそう言うと、私の顔に近づいてきた。
私はその顔を背けた。
「ねえ。私のどこを好きになったの?」
久はkissを拒まれてむっとしていた。
「顔だよ。美人だもん。あっちゃん。」
あすみはその言葉に凍りついた。
顔?顔だけ?それだけで、好きって言うの?じゃあ私の心は??
「ねえ。性急過ぎるんじゃないの?」
私の顔からは、もはや笑顔は消えていた。
いつもそうだ。今までの男達も、私の顔が好きだという。
そしてkissだのsexだの、せがんでくる。
そして、私の心を見る事もせず、私の心が凍り付いて行く事も知らず・・・・。
付き合いが2ヶ月目ともなると、だんだん私の心に気付き出してくる。
そして、捨て台詞で終わる・・・冷たい女だと・・・・。
「ごめんごめん。怒った?冗談だよ。」
久はあすみの顔色を見て、言う。
「たださ、あっちゃんの顔見に来ただけだよ。」
明らかに嘘だとわかる事をいう。
そして、半ば強引にkissをしてきた。
もう、私の中で、この人を好きになれないと判断してしまっていた。

おはよ〜〜〜!!」
教室に入ると、しほりが声を掛けて来た。
「足だじょうぶ?」
しほりは私の左足を見ながら、そう言った。
「うん、もうだいぶイインダヨ。ただの捻挫だし。」
「それにしても、植村先輩の家から電話してきた時は、ホントビックリしたよぉ。」
しほりは、さらさらのロングヘアーをかきあげながら言う。
「あの人って、不思議な人だよ。しほり」
私は席に着きながら言う。
「ナンカね、おかしいの。一緒に居て、落ち着くんだよ。」
「・・・・・・・ねえ。それって・・・・。」
「え?何?」
しほりは私の心の動きを探るかのように、私の顔を見る。
「あすみさ、植村先輩の事、好きなんじゃないの?」
「え?!・・・・・わかんないなあ。」
私は鼻の頭を掻きながら言う。

家に帰ると、母親が居た。
今日は出掛けていないようだ。あの例の男とは今日は会わないのだろうか?
母は不倫をしている。
もう、何年も前からだ。
父も父で不倫をしている。
一見上手くいってる家庭にみえて、蓋を開けてみれば、こんなものだ。
お互いに、不倫し合ってるのも、承知の上で、離婚をすることは無い。
それは、何故なのか、私には理解できない。
自分の部屋に入ると、ポケベルが鳴った。
見ると久からだった。
私は枕もとの電話をとった。
すると、母が電話中のようだった。
切ろうとした瞬間、私は耳を疑った。
母の電話の相手は例の男だった。
一度、街で母と歩いてるところを見たことがある。
後姿だったが・・・・。
「あなたのあすみも、来年は高校を卒業するわ。」
?!あなたのあすみ?どう言う事??
「あすみを妊娠した時、どうしたらイイのか解からなかったわ。それでも、産んだ理由わかるかしら?」
「それは、僕らの証だからだろ?」
「ふふ。そうね。私たちが愛し合ったと言う証ですものね。」
私の体から力が抜けていくのが、解かった。

どうやって電話を切ったのか解からない。
どうやって家を出たのか解からない。
気が付くと、バッキーの前に来ていた。
私は制服のまま、店の前でうずくまっていた。
道を行き交う人が私を不思議そうに見ている。
「どうしたんだ?おまえ」
背後から低い声が聞こえる。
私は声の主を振り返る。
植村先輩が立っていた。
フイに自分の頬に涙が流れて行くのが解かった。
植村先輩は私の横に並ぶように、座った。
私の涙は止まる事無く流れて行く。
植村先輩はタバコを取り出して、吸い始めた。
もうひとつのあまった手を私の肩にまわし、引き寄せた。
「ちょっと待ってろ。」
植村先輩は私に耳打ちして、店内に入っていく。
私は空を見上げていた。金星が瞬き始めていた。
入りの明星・・・美の惑星。そしてルシファーの異名を持つ星・・・。
「いくぞ」
私の視界に植村先輩が入ってきたかと思うと、私を立ち上がらせた。
植村先輩の自転車の後ろに乗せられた。
「あの、仕事、いいの?」
「いいんだよ。気にするなって」
植村先輩は言った。

赤いロードスターで着いたところは、湘南平だった。
ここは、夜景がとても綺麗にみえるので、カップルの絶好のデートスポットだ。
至る所にカップルがいる。
仲良く肩を組んでるもの、手を繋いでるもの・・・そしてグループできてるもの・・・。
私たちは塔に登った。
塔の側面には人が落ちないように、策がしてある。
至る所にジョウマイが掛けられている。
これは、カップルの中で信じられている恋のおまじないだ。
ここにジョウマイを掛けると、結婚するという、おまじない。
植村先輩に手を繋がれ、私は夜景を見る。
街の明かりがとても綺麗だ。
植村先輩は、私が何故、泣いていたのか聞いてこない。
聞かれてもなんて答えればイイのか解からないけれど・・・・。
「俺さ、おまえを見かけるの、あの店が最初じゃないんだよ。」
沈黙を破って植村先輩が言う。
「おまえがさ、まだ中学生だった頃・・・アジサイが咲いてたから、6月かな?バスの停留所で泣いてたおまえを見てたんだよ。」
「?!」
私は記憶のページをめくり続けた。
思い出した・・・・。母が男と腕を組んで歩いている所を初めて見た日だ。
「強がって生きんなよ。な?」
植村先輩は私を直視して言う。
その途端、また私の瞳に涙が溢れた。
植村先輩は私を抱き寄せる。
「おまえって、声を殺して泣くんだな・・・。」

「もしもし?あすみ?今どこにいるの?」
受話器の向こうから心配そうなしほりの声が聞こえる。
「ごめん。今ね、植村先輩と一緒なの。」
湘南平の電話ボックスから私はしほりに電話をしている。
「・・・・・・そっか・・・・。さっき、あすみのお母さんから電話あったよ。」
「・・・・なんて言ってた?」
「あすみ行ってませんか?って心配してたよ」
腕時計を見ると22時を回っていた。
「だから私、あすみがウチに泊まるって言っといたけど・・・。電話口にって言われた時は、お風呂入ってるって言っといたからさ、電話しといた方がイイよ。」
「うん、わかった。電話しとく・・・・。」
「ねえ。あすみ・・・・。何があったか解からないけど・・・・辛くなったら何時でも言ってね。私はあすみの味方だからさ。」
「・・・・うん。ありがとう。しほり・・・・・」
振り返ると、植村先輩が少し離れたところで、タバコを吸っていた。
「ねえ、しほり・・・・。久君のケイタイ番号判る?」
私は意を決して、しほりに言う。
「うん、判るけど・・・ちょっと待ってて。」
「090−@@@@@@@@だけど・・・・。」
「ありがとう。しほり」
「とにかくさ、明日学校で話そう。そこに奴居るんでしょ?」
「うん。明日学校で・・・・」
私はしほりとの電話を切って、大きく深呼吸をした。
そして、久のケイタイ電話に電話をする。
3回目の呼び出し音で久が出た。
「もしもし?」
「わたし。あすみです。」
「おお!あっちゃん。今どこ?」
どうやら、しほりが私を探す為、久にも電話をかけていたようだ。
「ごめん。久君。別れてくれる?」
「なん、どうしたんだよ?急に・・・・・。」
久はビックリしている。まさか自分が振られるとは、夢にも思っていないのだろう。
「私、好きな人が出来たの。ゴメンナサイ。」
私は植村先輩、いや、司郎を振りかえった。
司郎は夜空を見上げていた。
ここは夜景がきれいに見えることで有名だが、実は星もきれいに見える。
「なん・・・・・。誰だよ?それって。俺には聴く権利あると思うけど。」
久はむっとした声で喋る。
私は一呼吸置いてから言った。
「植村先輩・・・・。」
「?!」
しばしの沈黙・・・・。
「そっか。植村先輩か・・・・。こりゃ相手が悪いわ。俺には勝ち目無いな。」
「ごめんね・・・久君」
「いや、いいよ。それよりも、あっちゃん、植村先輩に電話替わってくれる?」
「え?!」
私は司郎の方を振りかえる。
司郎は気付くと私の横に来ていた。
司郎は私の受話器をとり、久と電話で話し始める。
「ああ・・・・。今、湘南平だ。・・・・・・・あの子だったんだよ。うん・・・・悪いな・・・・。おお、また店に顔出してくれ。」
そういうと、私に受話器を渡してくれた。
「もしもし?あっちゃん?彼女じゃ無くなっちゃったけどさ、また遊ぼうな!」
久はそう言って、電話を切った。
司郎は私の肩に腕を回した。
その時、二人は星空の下でkissをした。

朝6時。家の前までロードスターで送ってもらった。
「ダイジョブか?」
司郎は運転席から言う。
「うん。平気・・・・。」
私は精一杯の笑顔で答える。
結局、司郎は私に何故泣いていたのか、聴いてこなかった。
シティホテルに泊まったけれど、kissしただけで、何も無かった。
ずっと司郎は私を抱きしめていてくれた。
「学校終わったら、電話してこいよ。」
司郎はぶっきらぼうに言った。

電車に乗っていると、途中の駅でしほりが乗ってきた。
「おはよ〜〜!!」
しほりは、元気な声で挨拶する。
「おはよう。昨日はありがとう」
私は照れながら言う。
満員電車の中で、私たちは色々な話しをした。
植村先輩、いや、司郎と付き合う事になった事、久とは別れた事。
さすがに自分が不倫の子だと言う事だけは、言えなかったが・・・・。
「そっか。植村先輩とか。・・・・・・私は少し苦手だけど、あすみが好きになったんならいいんじゃないかな?に、しても、愛想無い人だよね〜」
「うん、ぶっきらぼうな人だよ。でもね、私にはそういう人の方が合ってるんだと思う。」
「そっか〜〜〜。でで、昨日は泊まったんでしょ??なんかあったぁ??」
しほりは、ニヤニヤしながら言った。
「それがね、なんも無かったんだよ。」
「うそうそ〜〜。信じられないな〜〜」
「ホントだってば。自分でも信じられないけど。」
「ふーーん。まあ、でもそういう人って新鮮だね。」
「でしょ?」
周りの人達はさぞや、興味深く聞いていた事だろう。

季節は夏から秋に替わっていた。
私が司郎の家に行くのは何度目だろう?
玄関でお母様と会い、私は司郎の部屋へと急ぐ。
司郎は夜の仕事をしてるので、今はきっと寝てる事だろう。
部屋のドアを開けると、やはり司郎は寝ていた。
相変わらずの部屋。医学書が並ぶ本棚。
司郎は医者を目指していた。
医大にも通っていた。
それが、どう言うわけか、医者にはならなかった。
何度となく、理由を聞いたが、司郎は答えてくれなかった。
医者は弟がなるからいいんだよ。が一貫しての答えだった。
「あすみ。オカエリ」
司郎の机で宿題をしていると、司郎が声を掛けてきた。
「おはよう。」
司郎は私に手招きをする。
私は宿題をするのを止めて、司郎の寝ているベットへ近づいていく。
司郎は私の手を引っ張り、私を抱きしめる。
私は司郎に抱きしめられるのが好きだ。
司郎の腕の中だったら、何時間だって居たい。
でも、私たちはまだ、一線を越えていなかった。
kissはしてくれても、sexは求めてこない。
私は初めて、sexしたいと思った。
司郎と一つになりたいと思った。
正直、私はバージンではない。
バージンで無くなったのは、いつの事だろう?
そうだ、あれは、中学2年の時だ。
母の不倫を目撃した後だ。
自暴自棄になった私は、ナンパされ、そしてsexした。
それ以来、sexは私の中で、大事なもので無くなった。
言うなれば、相手が求めるから、応じるだけで、そこに自分の気持ちはなかった。
いつも冷めた目で男の後ろの天井を見ていた。
司郎は私を抱きしめたまま、kissを頬、おでこにしてくる。
「なあ。高校卒業したら、一緒に住まないか?」
司郎は私の顔を瞳を食い入るように見る。
私はyesの返事の変わりに、司郎に抱き付いた。

梅が咲いた頃、私は高校を卒業した。
就職も電器会社と決まり、引越しの準備も着々と進んでいた。
父も母も私が家を出て行く事は反対しなかった。
「がんばれよ、でも、辛くなったら、何時でも帰って来い」
と兄は言った。
兄は相変わらず優しい。
兄は知っているのだろうか?私が異父兄弟だという事を・・・・。
そして、父も知っているのだろうか?

私たちは一緒に暮らし出した。
でも、一向に私を抱こうとしない司郎。
私はだんだん不安になってきた。
しほりに相談すると、それだけ大事にしてるって事だよと言ってくれるが・・・・。
私も仕事が始まり、夜の仕事の司郎とはすれ違いの生活が始まった。
ますます、私は不安になった。
ゴールデンウイークが近づいたある日、司郎は酔っ払って帰ってきた。
明け方近かった。空が白み始めていた。
私が眠たい目を擦りながら起きあがると、司郎が抱き付いてきた。
そして、熱いkiss・・・・。
その日の司郎は、私の首筋にkissをしてきた。
お酒臭い息がかかる。
私は、望んでいた事が、これから起こるんだとドキドキしながら待っていた。
「だめだ・・・・・」
司郎は私の上から離れ、窓際へと行く。
私は起きあがり、司郎の言葉を待った。
「ごめん。あすみ。別れてくれないか?」
え?!今何て言ったの?
私は頭の中が混乱した。
「俺が出て行くから。」
司郎は窓際からまったく動こうとしない。
同じ部屋にいるのに、背中を向けた司郎は、とても遠くに感じる。
私は叫びたいのに叫べない。
涙が頬を伝う。
「ごめん。ごめんな。」
司郎はそれだけ言うと、部屋を出ていった。
それきり戻ってこなかった。

こういう時に仕事をしていて良かったと思う。
もし仕事をしてない学生だったら、私は、どう気持ちを紛らわすか判らない。
どんなに眠れない夜を越えても、会社だけはキチンと来ている。
自分でも不思議なくらいだ。
ゴールデンウイークに入って、しばらくして、私は突然、司郎がもう帰ってこないという、自覚した。
今まで、すれ違いの生活をしていたから、司郎がいなくなっても、自分の中では、認めていなかった。
私は、大きな声で泣いた。
ひとしきり泣いたあと、部屋の中にある、ものを端から、めちゃくちゃにした。
私は藁をも掴む気持ちで、しほりに電話をする。
「ねえ。しほり、呑みにいかない?」
「ええ?!どうしたの??あすみの楽しみにしてたゴールデンウイークじゃん。」
「いいからさ。ね。行こうよ。」
「うん、私は別に良いけど・・・。」
しほりは、不思議がっていたが、私に押しきられるように、okした。

夜の町を徘徊するのは、何ヶ月ぶりだろう?
そうだ、司郎と付き合い出してから、一回もなかったっけ。
街のネオンが自分にパワーを与えてくれるようだった。
私としほりは、昔行き付けだった店で、飲んだ。
私は、普段よりはしゃいでいた。
向こうの席の男が手を振ってくる。
私は笑顔で手を振り返す。
「ちょっと!あすみ!どうしたのよ!植村先輩に悪いよ。」
しほりは焦って、私の上げた手を慌てて、下ろしながらいう。
「良いの良いの。司郎とは別れたんだよ」
私は笑顔のまま言った。
「何?!別れたって・・・・・何時??!!」
「2週間前かな。」
「何で??すっごい上手く行ってたじゃない??!!」
「さあ?sexもなかったしね。ホント笑っちゃうよね。」
「話し合ったの?!」
「ううん。一方的にね。多分私が汚れてるから、嫌なんだよきっと。」
私はウイスキーをストレートで飲む。
悲しいのに、涙が出ない。
「行こう!あすみ!バッキーに行って話をしなくちゃ!」
しほりは、私の腕を掴み、立ちあがる。
「だめだめ。仕事辞めちゃったよ」
「!!いつ?何時辞めたの?」
「さあ?今日電話したら、2週間前に辞めてた。」
「!!!!!!」
しほりは絶句して、いすに座る。
私は相変わらず笑っている。
なんでか笑っている。
そうだ。私は所詮不倫の子。もともと普通の幸せなんか手に入らないんだ。
気が付くと、私はウイスキーを1本空けてしまっていた。
[あすみ。実家に帰った方が良いよ。」
しほりは心配そうに言う。
「実家〜〜?!やーねー私に実家は無いのよ。」
「何言ってんのョ。あすみが同棲する前まで住んでたとこだよ。」
「私ね、不倫の子なの、だから実家無いの。」
私はろれつが回らないながらも、笑いながら言う。
「私ね、お母さんが不倫して、出来た子なの。パパとは赤の他人なの。」
「何言ってんのよ。」
しほりは笑っている。
「ほんとだよ。ほんと。」
私の頬に涙が流れる。
しほりはようやく、ホントの事だと認めたようだった。
しほりは、私の横に来て、肩を抱いてくれた。

私は誰も居ないであろう、部屋に帰った。
しほりが私の肩を抱いてくれている。
階段を上り終えると、部屋に電気がついている。
「あ〜〜。電気付けっぱで来ちゃったかな?」
私はテンション高く言った。
しほりは私のカバンから鍵を探してくれている。
すると、ドアが開いた。
そこには、司郎が立っていた。
私は司郎にしがみ付き、そこで記憶が途切れた。

翌朝、二日酔いの頭痛で目が覚めた。
私の横には、しほりが寝ている。
TVの音がけたたましい。
しほりを私は揺すった。
「ちょっと、しほり、TV消してよ」
しほりは、むくっと起きる。
「植村先輩、TV消して」
な〜に言ってんだろ、しほりは・・・・。
「ごめんごめん。」
え?!今の声・・・・!!
私は布団から飛び起きた。
そこには、司郎の姿があった。

部屋の中は私がめちゃくちゃにしたままだった。
私としほりは、ベットに座ったままだ。
司郎は窓の外を見ている。
最初に口を開いたのは、しほりだった。
「夕べも言ったと思うけど、あすみの前でちゃんと話しなさいよ!」
しほりは、とても怒っていた。
もし、ここで司郎がカチンと来る事をいったら、しほりは飛びかかって行っただろう。
それくらいの怒りだった。
「司郎。答えて。私の事、汚いと思ってるんでしょ?私が、チャラチャラ遊んできたから・・・・。」
「違う!違うぞ!」
司郎は私が言い終わる前に、言葉を挟んだ。
「俺が悪いんだ。俺はきっと、おまえを駄目にしてしまう。」
「駄目になっても良い!!私は司郎を愛してる!!」
私は初めて愛と言う言葉を口にした。
そんな自分に驚いてしまった。
「俺は、おまえを通して、違う女を見てきていた。おまえは似過ぎてるんだよ。瑠璃に・・・・。」
瑠璃って誰?初めて聞く名前だった。
「昨夜、聴いたんだけど、瑠璃って植村先輩が前に付き合ってた・・・・。」
しほりは私に言う。
そこへ、フイにしほりのケイタイが鳴る。
しほりの新しい彼からの電話だった。
しほりは電話を続ける為と、私たちを2人きりにする為に、ベランダに出た。
「な・・・に・・・・。どう言う事?ねえ・・・・」
私はパニックになりながら、言う。
「俺が、殺しちまったんだ。瑠璃を・・・手術が失敗して・・・・。」
司郎は椅子に座り、頭を抱えた。
「私、そんなに似てるの・・・・」
「ああ・・・・・。似てる。」
「だから、私とは、これ以上一緒に居れないの?」
「俺は卑劣だ。あすみを通して、瑠璃を見ていたんだからな。」
「じゃあ、私が違う顔だったら?私を好きになってくれた?」
「・・・・・・・・」
「ねえ、どうなの?好きになってくれた?」
「・・・・・・・・・」
私は司郎に突進していった。
私は司郎に抱きついた。
「何で答えてくれないの?ねえ、何で・・・・。」
私は司郎の胸を力いっぱい叩いた。
司郎は私を抱きしめた。
「替わりでも良いの。一緒に居て。」
私は司郎の腕の中で訴えた。
司郎は答える替わりに私を力いっぱい抱きしめてくれた。

再び2人の同棲生活が始まった。
私は司郎と一つになった。
私は、司郎の抱えてる痛みを共有したくて、その最中、司郎を見つづけた。
司郎も私を見る。
司郎は私を通して、きっと瑠璃を見ているんだろう。
それでも、かまわなかった。

司郎は新しいクラブに移った。
私は会社が終わると、その店に通った。
今までは司郎を待つ女だったが、今は違う。
司郎に守ってばかりではいけない。
その事に最近気付かされた。
そして、今は瑠璃と言う、大きな壁があるけれど、それを乗り越えなくてはいけないことも気が付いた。。
そして何時の日か、私だけを見てくれる日が来ると信じて・・・・・。


                             おわり