出産体験記 その3 自宅出産



  • 1997年 長女
  • 神戸市・自宅座敷にて
  • 助産婦さん 1人、夫、母、息子 2人
  • 分娩所要時間(母子手帳記載) 56分
  • 出生時体重 2620g
  • アプガースコア 10点


かくして、3人目は助産婦さんに自宅に来ていただいて産みました。近くの団地に助産院を開業しておられる助産婦さんです。
妊娠中の健診は産科医院へ行きましたが、分娩に際しては医師のお世話にはならず、この助産婦さんだけでした。

昔は、すわ生まれる!となると経験豊かな近所のおばさん、いわゆる「取り上げ婆さんが産婦の家へ呼ばれてお産の介助をした、つまり自宅出産が当たり前でした。 その後、「助産婦」という国家資格を持った人が町中で助産院を開業したり、病院に勤めたりし始めますが、少々意外なことに、そういう施設内(病院、助産院など)でのお産が、施設外(自宅など)でのものより多くなったのは昭和30年代に過ぎません。
当初は病院でのお産でも医療技術の介入は少なかったようです。医師は基本的に見ているだけ。助産婦さん主導で進められ、万が一の事態になった時だけドクターのお出ましとなったようです。
それが次第に医療技術が「進歩」すると、主導権は医師に移り、設備の整った病院でのお産がほとんどになりました。小さな個人経営の助産院は激減してしまい、現在の開業助産婦さんの多くは、高齢のためお産の介助はできず、授乳指導などだけしている人です。
しかし最近になって、若手の開業助産婦さんが少しずつですが増え、機械に囲まれた病院でのお産に疑問を持った産婦の要望にこたえるべく、温かい家庭的な雰囲気の中でのお産、自宅でのお産の介助、母乳育児の推進などに奔走しておられます。


自宅出産の実際<私の場合>

では、自宅出産は実際にはどんなものなのか、私の経験を書いてみましょう。

妊婦健診
現在ほとんどの女性が、妊娠かな?と思ったら、産科医を訪ねて妊娠を確かめ、以後、定期的に医師の健診を受け、医師の立会いのもとで出産しています。
この一連の過程、医師ではなく助産婦さんに見てもらってもOKです。 ただし、全く医師にかからないわけにもいきません。少なくとも次の3回は医師に診てもらうように、というのがN助産婦さんの方針。
妊娠初期 正常妊娠であること(子宮外妊娠などではないこと)の確認
妊娠中期 貧血などの検査
妊娠後期 NST(帝王切開編参照)による胎児元気度チェック

M助産院の場合、中期まで医師にかかり、後半は助産院で健診、という人が多いとか。お医者さんが嫌いで助産院へ来るという人もあり、そういう人の中には妊婦健診をほとんど助産院で済ます人もいるようです。
私の場合は、やはり帝切のあとが気になりましたので、最後まで医師(N助産婦さんと親しく、自宅出産にも理解のある先生)のもとで診察を受けましたが、これは異例でしょう。こうしたお産では、病院での医師主導のお産と違い、産婦と助産婦さんの意思疎通が大切になりますから、お互いを知っておくためにも、健診などで助産婦さんとコミュニケーションしておくことが必要だと思われます(私の場合、以前から知っていた助産婦さんでしたから、それが省略できましたが)。

ただし、助産婦さんの仕事には法律による制限があります。それは、正常な妊娠、正常なお産に限る、ということです。妊娠中に何かトラブルが見つかったような場合には、医師の手に委ねなければなりません。 また妊娠中には何ら問題なくても、陣痛が始まってからトラブルが起きた場合には、医師の元へ移動しなければなりません。

用意するもの
助産婦さんによって違うと思いますが、特別なものはいらないと思います。
私の経験から言うと・・・
バスタオル、フェイスタオル とにかくタオル類は活躍します。バスタオルは赤ちゃんのおくるみやシーツの代わりにもなりますし、赤ちゃんの口拭きなどに小さめのも必要ですから、多めに準備しておいて損はないかと思います。
古いシーツ 汚くはないけれど、擦り切れてしまって捨てても惜しくないようなシーツを1枚準備しておき、お産の時の布団に敷きました(結局それほど汚れることもなかったんですが)。その下にはベビー布団用の防水シーツも敷いておきました(これから産む方、どうせ必要ですから買っておいて損はしません)。
椅子 お産の時につかまったり、もたれたりします。普通のダイニングチェアでOK。
大きなゴミ袋 わざわざ準備しなくてもあるでしょうが。産後の悪露の手当てに特大サイズのパッドを何枚も使用します。病院なら始末してもらえるこれらを、自宅出産では自分で(といっても、実際は夫?)処理しなければなりません。なかなかの量になりますので覚悟の程を (^^)

助産婦さんへの連絡タイミング
病院の場合とほぼ同じだと思います。
おしるし、破水などがあれば連絡し、指示を待つ。 陣痛が5分間隔くらい(助産院からの距離など、条件によって異なるでしょうが)に詰まってきたら、連絡を入れて来てもらう、ということになります。

分娩姿勢
「お産」というと一般的なイメージは分娩台に仰向けに寝て、足を広げて、ウーン!・・・でしょうね。
実は、この姿勢は医療スタッフ側にとっては好都合ですが、産婦にとっては力が入りにくい姿勢なのです。仰向けでウン○が上手くできると思いますか? それと同じです。赤ちゃんを押し出す方向を考えてください。産道は垂直ではなく、背から腹側へ斜めに傾いていますから、これが垂直に近い向きになったほうが、産婦としても力が入りやすいし、赤ちゃんも重力に逆らわないので出やすいのです。
自然の摂理を重んじるお産では、基本的に分娩姿勢は自由です。四つんばい、あるいは膝をついて椅子などにしがみつく、が一般的なようですが、横向きの人もいれば、病院型のあお向けが一番楽だという人もあります。いずれにせよ、産婦本人が一番楽なかたちが尊重されます。

もう一つのお産の形として、水中出産があります。
M助産院の分娩室には大きなお風呂があり、産婦はお湯につかりながら、お風呂のへりにつかまって産むのだそうです。もちろん、自宅のお風呂での水中出産体験者も多いようです。
お湯の中というのは痛みが和らぎますし、浮力で体も軽くなります。こうしてリラックスできるというのは陣痛を乗り切るのに有効です。赤ちゃんが溺れる心配? ありません。N助産院でのお産はこの水中出産の方が多いくらいです。

私の場合は、オーソドックス(?)に布団の上でした。最初は四つんばい、後半は椅子を持ってきてもらって(用意しておくつもりだったのが、お産の進行が早くて間に合わず)しがみつきました。なぜ?って、・・・・体が自然にそう動いたから、です。
強い陣痛の間、夫、母と助産婦さんが交代で私の腰のツボに手を当ててくれて、お陰でずいぶん楽になりました。「手当て」という語は、文字通り手を当てることから来ているそうですが、そうして手を当ててもらうだけで、不思議なほど陣痛の苦しさは軽減されるのです。病院では忙しい助産婦さんにずっとしてもらうわけにはいかないでしょうが、ここに家族がいてくれたというのは、そういう意味でも大きかったです。今後、お産に立会う予定のお父さん、よろしく(^^)

陣痛で辛いと言われるのが「いきみ逃し」。いわば、ウン○をしたいのに我慢している状態(?)。出産の本などによく書いてあるのは「いきみたくても助産婦さんのOKが出るまでは、いきまないこと。早くからいきむと、赤ちゃんを圧迫することになる」と。
でも、自分の本能に従って産もうとすれば、、陣痛で苦しくてもしかるべき時が来るまでは、体のほうがいきもうとしない、赤ちゃんを外に出そうとはしないのではないでしょうか。少なくとも私の場合はそうでした。
あ、そろそろだな、と自分でも思った頃、助産婦さんから「いきんでいいよ」の声。そこでさぁいよいよだ、と体のほうが自然と赤ちゃんを出そうとする、私も意識してウーンとやる。すると赤ちゃんがツルツルと出て来る。そんな感じのチョー安産、でした。やったぁ。

へその緒
病院のお産では、産後すぐにドクターがチョンと切っておしまい、のヘソの緒。 でも、助産院や自宅での家族に囲まれてのお産の場合、このヘソの緒を切る瞬間というのはちょっとしたセレモニーのようです。
助産婦さんが切ることもありますが、夫立会いの場合、これはたいていパパの仕事になるとか。私の場合も、夫、それに長男が手を添えました。長男に切らせたい、というのは私のこだわりでした。お父ちゃんは、事前には「絶対やらんぞ! 血を見るのは嫌いだ! 立ち会うのも嫌だ!」と言っていたんですが、結局全部やるハメになりました。思っているほど、血は出ないようです。


お父さんがへその緒を切ります。
大きい兄ちゃんが手を添えて。

胎盤
病院でお産すると、赤ちゃんが出てすぐにドクターが産婦のお腹を押して胎盤を押し出します(次男のお産の時、これが大変に痛かった!! 陣痛から開放されてほっとした矢先だったし・・・)。胎盤はそのまま助産婦さんの手で処理され、産婦の目に触れることはありません。お産の際の病院の領収書を見ると「胎盤処置料」というのがあるはず。実は胎盤は産んだ側がお金を払って、業者に引き取ってもらい、処分してもらっているんですね。
胎盤というのは、臓器、自分の体の一部ですよね。それが本人の目に全く触れることなく処分される・・・考えて見ると、すっきりしません。
私の自宅出産の場合、助産婦さんは胎盤が自然に出てくるのを待ってくださいました。 そしてその胎盤、みせてもらいました。
印象は「でっかい、生焼けのハンバーグ」 へその緒は太さが私の指くらいだったと記憶しています(いい加減な記憶ですが)。色は赤いと思いきや、意外と紫系というかグレー系というか。切り口にちゃんと、臍動脈1本と臍静脈2本が見えました。
とりあえず保冷材と一緒に発泡スチロール容器で保存した後、庭に埋めてもらいました。 庭に埋めるというのは西洋の習慣で、そこに記念植樹するのだとか。昔ならば桐の木でしょうが、我が家は白い牡丹を植えました。まだ丈は小さいですが5月になると大輪の花を咲かせます。

産後ケア
病院出産の場合、産後1週間くらい(特に問題がない場合)入院しますが、自宅出産の場合、同じくらいの期間、助産婦さんに毎日1回、自宅まで来てもらうことになります。母子の健康チェック、子宮の回復経過の観察、赤ちゃんのおへその消毒、沐浴、などをしていただきました。
産婦と新生児の1ヶ月健診も、病院へ行かなくても助産婦さんでOKです。

産後の投薬
次男の出産の後、いくらかの飲み薬が出されました。産褥熱などの防止のための抗生物質でしょう。
N助産婦さんからは何の薬ももらいませんでした。お産に関して使われた薬といえば、消毒薬くらい。少なくとも現代の日本の衛生状態ならば、特に薬のお世話にならなくても、大事にはいたらないのです。病院ではどうしても、不測の事態を防ぐ意味から投薬せざるをえないのでしょうが、薬漬け医療が批判されている今日、なくても済む薬はなくしてもらいたいものです。

料金
ところで気になる、自宅出産って How much?
助産婦さん一人で済むんだから、施設費いらないんだから、うんと安上がりだろう、と思われていませんか。それは違います。
一人の助産婦さんを長時間拘束するわけです。それも何日の何時と決まっているわけでなし、しかも大抵は真夜中。それ相応のお金は払ってしかるべきでしょう。病院でのお産と比べて格安、なんてことはありません。念のため。

かくして生まれた3人目。病院出産ならば、生後1週間は清潔に最大限の配慮がなされた新生児室にいるわけですが、いきなりホコリっぽい部屋で、兄ちゃんたちの喧騒と母ちゃんの怒鳴り声を聞きながらの生活が始まりました。病院出産が当たり前の現在、「えっ、それで大丈夫なの?」と不安になるかもしれません。でも本当に新生児がクリーンルームに入らなければならないほどヤワなら(未熟児などは別として)、人類の歴史はこんなに続きはしない、人口爆発なんて起きないでしょ?

結局、長男には生まれる瞬間を見せてやることができませんでした。熟睡していた長男がなかなか起きず、お産の進行があまりに早くて間に合わなかったので。それでも生まれた直後に起きてきて、後から起きた次男と一緒に不思議そうに見ていました。
次男が生まれた時、長男は弟とは1日1回、ガラス越しに会えるだけでした。でも、妹とは生後すぐからずっと一緒。妹に自分の指を握らせたり(生後しばらくの赤ちゃんは、手のひらに触れたものをキュッと握る反射がありますから)、オムツを取ってくる手伝いをしたり、早くもお兄ちゃんぶって可愛がっていました。
新しい家族も、それを迎える側も、必要以上に身構えることなく、ずっと前からこの子がこの家にいたような・・・そんな誕生でした。



医療のバックアップ

私は最初のお産で、お産の怖さをいくらか知ったつもりです。だから無防備なまま自宅でお産するなんて勇気はありませんでした。しかし幸い自宅近くに異常産に対応しうる大病院がありました。そういう先端医療のバックアップ、つまりイザという時の味方がいるからこそ、私も安心して自宅出産に踏み切ることができたのです。
最近、自宅出産を奨励している某団体では、「自然」を重んじるあまりでしょうか、医師はもとより助産婦さんの立会いをも否定しているようです。死産になってしまったケースもいくつかあるようで、そのうち何件かは病院へ掛けこんでいれば助かったかもしれません(私はこの件についてはよく知らないので推測にすぎませんが)。「過剰」な医療は私もお断りです。でも受けてしかるべき医療を、意地を張って受けないで、その結果赤ちゃんを死なせては、何にもなりません。現代科学を頭ごなしに否定するならば、現代文明そのものを否定して山奥で自給自足したらどうですか。
医学に限らず、科学技術の進歩は両刃の剣。産科医療の進歩は非効率的非科学的な多くのものを切り捨てました。それを大切に拾い上げようとしているのが、こうした自宅出産、助産院出産だと思います。けれども、こうしたお産もパーフェクトではない。最先端技術と、古き良きものを見なおした技術、それは一見対立するものですが、実はそうではなく、互いに補い合ってこそのものです。一つの信念に凝り固まることは文字通りの「命取り」ではないしょうか。



生後2時間くらい。兄ちゃん2人と一緒に。


これから出産される方へ
ちょいとおこがましいですが、自宅出産に興味を持たれた方のためにアドバイス(?)を。

自宅出産の条件
引きうけてくれる助産婦さんが近くにいること。 実はこれがいちばん難しいのではないでしょうか。開業助産婦さん自体が減っている上、自宅出産のために出張してくださる人となると、ごく限られます。
家族の協力と理解が得られること。
自宅出産=時代遅れ=危険、という偏見は根強いでしょう。けれども、自分がどうしてこういう形のお産がしたいのか、話して理解してもらう必要があります。その家族と暮らしている日常の空間がすなわちお産の場となるわけですから、病院出産なら「カヤの外」である家族にもそれなりに出番が廻ってきます。家族の協力は、どんな形のお産であれ必要ですが、自宅分娩では必須。というより、病院では「カヤの外」に出されてしまった産婦以外の家族を「カヤの内」に引っ張り込む、というのが自宅分娩の目的の一つともいえます。決して難しいことではありません、協力してもらいましょう。(私の場合、ほぼ強引に・・・^^;)
万一の時に掛け込む病医院が近くにあること。 特別な高度医療病院である必要はないと思いますが。「いざ」の備えがあるという安心感、これも大切ではないでしょうか。

自宅出産の利点
リラックスできる、したがってお産が軽い。 これが最大の利点でしょう。病院という、いつもと違う空間、「よそさま」の場所ではない。だから余分な緊張をすることはないし、親しい家族の支えがある。それが「本能」の力を無理なく十分に引き出すことになるようです。
上の子への影響が最小限ですむ。 第2子以降のお産だと、どうしても上の子のことが気になります。その点、自宅ですと上の子の生活のペースが乱されることは最小限で済みます。うちの長男はお産当日、いつものように幼稚園へ行っています。まぁその分、お父さんやおばあちゃんの負担は増えるのでしょうけれど。m(__)m
留守中の家の中のことをあまり心配しなくて済む。 一家の主婦が入院するとなると、後を預かる人が「砂糖の買い置きはどこ?」「この洗濯機、使い方がわからない!」などと混乱しないように、と考えておかなければなりません。自宅でお産すればそういう心配がありません。もっとも私は、万が一入院することになった時のことを考えて、いろいろ書置きはしておきましたが。

自宅出産の欠点
残念ながら(何でもそうですが)いいことずくめではありません。
万一のときは病医院へ移動する手間がかかる。 確率的には低いことですが、こういう事態もあるということを考えて準備しておく必要があるでしょう。
産後、つい家事をしてしまって回復が遅れる。  欠点、といっていいのかどうか。産婦(たいてい一家の主婦)が家にいるということは上記のように便利ではありますが、問題も。入院すれば産後は休養できるのに(実は入院中でも、沐浴指導だの母乳ケアだので決してヒマではないのですが)、家にいるとつい動いてしまい、十分な休養がとれなくなります。私も、産後それほど疲れた感じがしなかったのでちょこちょこ家事をしてしまい、結局あとになってめまいに悩まされました(前2回のお産では経験しなかったことです)。同じように第3子を自宅で産んだ友人は、耳鳴りがひどかったそうです。産後3週間は十分な休養が必要だとか。この点、産婦も家族も十分に心するべきでしょう。

家族とともに赤ちゃんを迎える楽しさ、産んだ!という充実感・・・私の拙い文章でどれほど伝えられたか・・・不安ではあります。
「案ずるより産むが易し!」、今はマイナーではあるけれど、決して難しいことではありません。興味を持たれた方、助産婦さん探しから始められたらいかがでしょう。



こうして私は三様のお産を体験することができました。これ、ちょっと珍しいことではないかと思い、つい長々と書いてしまいました。お付き合いくださり、ありがとうございました。
どれが良くてどれはダメ、と言うつもりはありません。ただ、あんまり知られていないようだけれど、お産にはいろんな形(もちろん、これ以外の形も)があるんだと言いたかったんです。どれを選ぶか、これからお産をする方のご参考になれば幸いです。