さようなら糠平のバス...
糠平営業所にて
↑ 糠平営業所にて

この写真には、バスが2台写っています。

えっ?!バスは1台しか写っていないじゃないか...
いいえ、確かに2台写っています。
まさか、左のタクシーがバス?... ハイ!そのとおり。正解です!!

 

 ここは北海道。帯広から北へ1時間程行った糠平温泉という場所です。その昔、帯広駅から十勝三
股駅まで国鉄士幌線というローカル線が走っていました。古くは山林の伐採で大変にぎわった終点
の十勝三股ですが、林業の衰退とともに人口は激減。昭和53年12月、国鉄は帯広駅〜糠平駅間
のみを鉄道運転にして、糠平駅〜十勝三股駅の区間(約19km)を鉄道休止、バス代行運転としま
した。

 ここで重要なのは、鉄道が廃止になってバスになったのではなく、乗客の極端に少ない区間だけ
をバスによる代行運転
としている事です。ですので士幌線の行き先表示は、ちゃんと「帯広〜十勝
三股 (糠平〜十勝三股 国鉄代行バス)」と表示され、本数も削減される事なく、線路もそのまま
残されたのです。代行バスは地元の上士幌タクシーが委託を受け、マイクロバスによる営業を続け
ることになりました。

 代行バスになってから約8年後の昭和62年3月。転機が訪れます。国鉄士幌線は帯広駅〜糠平
駅〜十勝三股駅の全区間を廃止。正式にバス代行になります。帯広駅〜糠平駅間は十勝バス(写
真右上のバス)、糠平駅〜十勝三股駅間は、これまで通り上士幌タクシーが担当と決まりました。
すなわち、休止路線の国鉄代行バスという任務から、廃止路線の代行バスという任務に変わったの
です。

 人口数世帯という十勝三股。公共交通という正確から残されたものの、採算は取れる訳もなく、1
997年には「乗り合いバス事業」から「乗り合いタクシー事業」に規模を縮小されました。事業名は
「乗り合いタクシー事業」に変わり、本数は激減しましたが、今まで通り時刻表の全国版には掲載
され、バスが走っている事実は残されています。

 それでは全国版の時刻表に書いてある時刻を書き出してみましょう。
バス   糠平〜十勝三股 450円
16:35 糠平 07:34
 
16:47 幌加 07:22
 
16:56 十勝三股 07:13

 この時刻表を初めて見た時、私は驚きました。1日に1往復!!しかも、山の上にある十勝三股か
ら早朝に山を降りてきて、夕方、山へ帰ってゆくダイヤ
なのです。一体、どんなバスが走っているの
でしょうか?!バスファンの血が騒ぎます。これは見に行ってみたい!!

 2002年の初夏。本当に偶然ながら糠平温泉に宿泊するチャンスが訪れました。時刻表通り、16
時35分に糠平のバス停に行ってみます。ところが、帯広行以外にバスは停まっていません。
「あれっ?変だな...時間なのに」...その時、1台のタクシーが現れました。そして運転士は
窓を開け言ったのです「十勝三股まですか?」反射的に「ち、違います...」と応えてしまった私。

 そうなんです。乗客がいないから「バス」ではなく、「タクシー」でやってきたのです(驚!)

 慌てて撮影した写真が上記の写真です。これが謎のバスの正体です。その後、乗客ゼロのまま
十勝三股へ向けて「タクシー」...いや、「バス」は発車していきました。本当は終点まで乗りたか
ったのですが、終点の十勝三股には宿も何もありません。(喫茶店が1軒あります)乗ったら最後、
帰ってこられないのです(恐!)

 こんなバスが日本にはあるんだ...!衝撃を受けた私は、その後2回もこの地を訪れる事に
なります。この不思議なバスを撮影するために!!

 

2002年 秋 
終点の十勝三股にて。この日はジャンボハイヤーがやって来ました。
まわりには「三股山荘」という喫茶店が1軒あるだけです。

 
2003年初夏
終点の十勝三股にて。この日はマイクロバスがやってきました。

1日に1往復しかないのに、タクシー、ジャンボハイヤー、マイクロバスと、
車種はなんでもあります。
 
2003年初夏
途中の幌加温泉入口バス亭にて
バックに写っているのは帯広で借りたレンタカー

糠平〜十勝三股は19kmもあるので、さすがに車が必要でした。
1日に1往復なので時刻表も単純です。

ちなみにバス停から幌加温泉まで約1km。バスは行きません。
2003年初夏
さすが北海道!直線が続きます。国道273号線。

たまにエゾシカやキタキツネに遭遇することも...
 
2002年初夏
糠平営業所前にて

コレはタクシーではありません!!バスでございます。
学校が休みの日は、こんなバスが来ました。

 

 この、とても不思議な路線バスですが、さまざまな理由があり、2003年9月いっぱいで廃止にな
りました。2001年のバス一般利用者は38名約10日に1人という驚くべき計算になります。

 もっとも、このバスの存在意義はスクールバスでして、学校のある日は十勝三股の子供さんが、
通学に使っていました。だから早朝に山を降りてきて、夕方、山へ帰ってゆくダイヤだったんですね。

 なお、バスの車庫は糠平より更に帯広寄りの上士幌という街にあるそうです。そのために実際は
早朝に回送で十勝三股まで山を登り、糠平行の便に充当。その後は上士幌へ回送。逆に夕方は
回送で糠平まで来て、十勝三股行の便に充当。その後、上士幌まで回送していました。なので
運転手に交渉すれば乗せてもらえる可能性もありました。ある熱心なバスファンは、夕方の十勝
三股行に乗車し、帰りはタクシー料金で良いと交渉したところ、運転手さんは快諾!しかし、終点
まで19kmある上に、ジャンボハイヤーが来てしまい、行きはバス料金450円帰りはタクシー料
金で7000円以上
という凄い人がいたそうです(笑)

 

 その後の糠平...

 上士幌タクシーによるバスは廃止されてしまいましたが、その代わりに帯広〜旭川を走る都市間
バス「ノースライナー号」が十勝三股や糠平に停車する事になりました。タクシーやマイクロバスでは
ありませんが、リクライニング機能、オーディオサービス、トイレ付きの観光タイプ車が走っています。

 十勝三股の喫茶店で楽しむのもよし、温泉で疲れを癒すのもよし、士幌線の線路跡を探すのもよし
、バスで、レンタカーで糠平へ行ってみませんか。
← 糠平湖に残る
    士幌線コンクリート橋

 ダムが満水の頃は沈んで
いますが、水が少ない時は
このような姿が見られます。
← 幌加駅跡に残る
   士幌線のホームと線路

 時期によっては画像のように
ルピナスが鮮やかに咲く素敵
な場所です。