低体温ハムスターの治療
低体温を示しているハムスターの救急救命法日常の診察において低体温に陥り動けなくなったハムスターが病院に持ち込まれる事は珍しくない。この際の救命法について私の理論を展開してみたい。
1 低体温に陥る原因
あらゆる事が考えられるが、今低体温を示している動物を前にして原因究明はさほど重要なことではない。もちろん、直ちに診断できるような明確な症状を示している時はこのことをカルテに記入しておく。しかし体が濡れているとき以外はその原因究明は回復してからでも良い。なかには、重度の肺炎、重度の感染症の末期、脳症状などもはや救命できない重篤な疾患の結果として低体温に陥っている場合は助けようがないかも知れない。
a 餌・水の不足
餌と水のやり忘れ。
体の一部が挟まれて餌場まで到達できなかった。
テリトリー争いに敗れてケージの隅に追いやられていた。
b 体がぬれて体温が維持できなかった。
ねぐらに持ち込んだ紙やティシュペーパーが濡れていた。
キャベツなど大きな野菜を持ち込んでその上で寝てしまった。
ウエットテイル(膀胱炎・下痢・子宮蓄膿症)や膿瘍が自壊して体が濡れた。
c重篤な疾患
重度の肺炎・重度の下痢
その他重度の感染症
踏まれたり、挟まって脳や内臓に重大な損傷を受けた。
2 低体温動物の体の中で何が起こっているか。
低体温は心機能、肺機能が今この動物が置かれている状況にぴったりの平衡状態で、しかも安定した状態であると考えられる。
1分間に1〜2回の呼吸数、辛うじて聞き取れる心音、停止した腎機能、動かない消化管等がそれである。
栄養補給の途絶 もはや自律的な採食は不可能で、流動食の強制投与が必要となる。
3 救命の方策
Aカロリーの補給
いきなりドライヤー等で急速に温めるのは愚策である。体温が上昇すると当然心拍数が増加する。しかし、体の何処にもそんな余剰のカロリーは存在しない。存在しているのであれば体温は下がらなかったはずである。従って、当然の帰結として間もなく心臓は停止するはずである。先ず取るべき方策は電解質とカロリーの補給すなわち輸液である。
温かい(30〜35℃)ソリタT1号,あるいは筆者が好んで用いるのは等張リンゲル液V注射液(日本全薬)である。これを皮下又は腹腔に1〜2cc/head注射する。必要があれば何回か繰り返す。もし咽頭反射・喉頭反射が残っている(口に綿棒を入れると舌で押し返してくる)時は濃く溶いた動物用ミルクに10〜20%のニュートリカルあるいはエレンダイド を加えた温かいものを準備する。5〜6freの栄養カテーテルを5cmの長さに切り、これに2ccの注射筒に付けて強制経口投与する。カテーテルの先端は食道深くまで挿入すること。ハムスターは嘔吐のできない動物である。他のどのルートよりも最も多くのカロリーが補給できる。咽頭反射・喉頭反射のないときは経口投与はできない。
上記の輸液材はブドウ糖は5%以下である。カロリー補給の事を考えるのなら20%あるいは50%ブドウ糖液を補給したくなるが、これは絶対してはならないことである。すなわち、カロリー補給が途絶している動物に多量のブドウ糖が与えられると血糖値が急速に上昇する。これはインスリンの分泌を促し血糖を下げようとする。一時的な糖の補給はその後に激しい反応性の低血糖を招来する。
B 保温電解質とカロリーが注射などで補給できたなら、次にするべきことは保温である。その目標はできるだけゆっくり温める事である。それには保育器が最も適している。ドライヤー・ペットヒーター等では急速に暖まりやすく不適である。
最短でも2〜3時間をかけてゆっくり温める為に、まず温度設定は28℃とした保育器に収容する。30分後には29℃とし、さらに30分後に30℃としてこのまま保温を続ける。
保温中は時々動物を観察して咽頭反射と喉頭反射が確認され次第、強制経口投与を開始する。点眼ビンに輸液材やミルクを入れて口の近くに持っていって飲ませることもできる。
体温低下による感染症の制圧のためにこの時からABPC、CPなどの抗生物質の投与を開始する。CP等の投与に伴う血小板減少や腸内細菌の死滅による下痢や栄養欠乏は筆者は経験していない。しかし抗生物質の投与が一カ月以上になったハウムスターで出血しやすくなり、膀胱出血がみとめられた。このときはビタミンCの投与で回復した。
保温と経口投与は排尿・排便が認められ、自立して採食できるようになるまで続けなければならない。
4 体温回復後の管理
体温が平熱に戻ったならば、低体温を誘起した原因を探さなければならない。筆者の30年を超える診療経験から80%の症例は低体温の原因の項目であげたaまたはbすなわち、餌・水がなかったか、もしくは寝床が濡れていたためである。これらの症例については上記の方法で救命することができる。呼吸状態の観察・糞便検査・尿検査・体表および腹腔の触診・レントゲン検査・超音波検査等を組み合わせて診断を進める。退院後再び低体温に陥る場合がある。飼い主の動物へのたゆまぬ愛情ある接触が必要で、充分原因について話し合って理解してもらうことが肝要である。ハムスターは明らかな夜行性であるから、朝に寝床を点検して持ち込んだティッシュペーパーが尿で濡れていないか、野菜等を持ち込んでいないかをチェック。
乾燥した所で寝かせるように努める。
低体温ハムスターの治療の要約
1 ソリタT1号または等張リンゲル液の1〜2ccの皮下または腹腔注射。反復投与。
2 30℃の保育器で保温開始
3 咽頭反射・喉頭反射が認められ次第、流動食の経口投与開始。
4 利尿・排糞の確認ができるまで保温。
5 原因の究明。
6 飼い主への看護法の説明と飼養指導
獣医師、獣医学博士 中津 賞
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