済んだ空に映えたのは。








黒。



赫。




白。







そして、流れ落ちたのは。


透明。
















































09 庇う












































其処には。



消毒薬の匂いと。

清潔感を伴う、辺り一面の白い壁が存在していた。




そして。

その中に漂う、重く苦しい空気は。


自分が最も忌み嫌う、モノ。





薄く明かりの灯されたその部屋の中。








目に痛いのは。



寝台の上に広がる。
白い。




シーツと包帯だった。












聞こえるのは。

規則正しい、寝息。










顔色を伺えば。
運ばれてきた当初よりは遥かに。


血の気が昇り、穏やか。








普段と変わらない寝顔のようだった。







ただひとつ違うところは。


今日で十日。

彼が一度も目を明けていないこと。







それだけ。







聞けば。


心の臓すれすれで怪我を負っていたらしい。





「息があったことが不思議なぐらいでしたよ」

と、安静になってから四番隊の卯ノ花隊長は微笑んでいた。











こうさせたのは自分。

原因を作ったのは自分。
















何も。


報いることなど出来ないのに。









どうして。


貴方は僕を庇ったりなど……したのでしょう。



そんな価値は貴方にこそ有り得。

僕には一欠けらもない。






「市丸隊長……」



寝台の横に膝をつき。


そっと、名を呼ぶ。






目を明けて、自分を見てはくれないかと。

叱責してくれないかと。













名を、呼んではくれないかと。

















「…………」




けれど。


聞こえるのは寝息ばかり。
やはり何の反応も返って来はしなかった。









シーツの上から触れる身体は。


温かく、生きていることを実感するのに。








名を呼ばれ。

笑みを見せてくれることがないだけで。




こんなにも。




自分には届かない。














やっと手の届く距離に来て。


喜んでいたのに。





この有様。














彼に任命され。

副隊長という地位を貰ってから。



まだ半年。










その経験不足は明らかで。






気が付いたら。


死の一歩手前まで来ていた。









相手が悪かったと気付いても、もう遅く。


覚悟したあの時。










貫かれるであろう身体を意識して。


目を明けていた自分に見えたもの……












それは。





「射殺せ、神鎗」



鋭い声と。

黒い袖、白い羽織の翻った姿だった。









次に見えたものは。


赫い、雨。


銀色の髪。





蒼い、空。













聞こえたのは。


今、まさに自分の身体を貫こうとしていたモノの。





絶滅の声だった。
















力なく自分の懐に落ちてくる。


羽織に包まれた細い身体を、支える。





その気配に気付いて。

何が起きたのか、未だ処理のできていない自分に。



「ボクも甘いわ…」


彼はそう呟いて、微笑んだ。






刹那。


カラン、と。

地に、姿を戻した斬魄刀の落ちる音が聞こえる。



見れば。


白いはずのその羽織は、胸の辺りから赫い色で染められていた。














それからの記憶は覚えていない。



三席からの話によれば。








自分は、取り乱すこともなく周りの隊員に指示を飛ばし。



彼の応急処置をしていたとのことだった。




















其れはおそらく。


取り乱していたんじゃなく。







それをとうに取り過ぎていただけのはなし。


























誰に話す必要もないから。



話さないけれど。































そして、その後。

駆けつけてきた四番隊長、卯ノ花隊長の指示で。



彼は四番隊、綜合救護詰所の特別治療室へと運ばれた。














それから十日。


意識が戻ったとの報告は受けていない。






毎夜。

執務が終わってから足を運んで。




明け方まで側にいて彼を見詰め続けているけれど。










やはり、その気は報告どおり微塵も感じられなかった。


















「………っ…」




知らず、流れ出す透明な其れは。




何度。


手の甲に落ち、シーツに染みを作ったか。















この人だけは。



何においても、失ってはいけない人なのに。







ましてや。

自分の命などで失うことは以ての外な人なのに。








原因を作っておきながら。



何も出来ない自分に。


無力な自分に吐気を覚え、憤りを覚えた。









其れを流すことも。

きっと許されてはいないのに。



暫く。



止まることを知らず、零れ続けてしまう。







すると十日目にして。

「……なんで泣いてんねや…イヅル?」


突然、声が届いた。




聞き間違えるはずのないその声。


口調。










面を上げると。




不思議そうな顔をして、自分を見詰める目と出会った。





「…た…隊長っ……」


驚き、声が震える。




「なんやイヅル。だれぞに叱られたんか?」



自分の置かれた状況が分かっているのか。



いないのか。









呆れるほどのマイペースさに、一瞬止まっていた其れが。






また。

溢れ出した。




「なんやの?イヅル。云うてみ」




シーツの中から出された手で。

頬を撫でられる。



その手はいつものように少しだけ冷たく。


これ以上ないほどに。

自分に馴染んだ。



「意識が戻られて良かったです……本当に、すみませんでした」






その手を掴み立ち上がり。

謝罪する。







すると全てを悟ったのか。


軽く笑い。


「強うなり、イヅル。側にずーっとおられるように」


そう、云った。






その言葉に答える台詞はひとつ。




涙に濡れた声で

「はい」

と、力強く約束した。











引き寄せられ。


そのまま、軽く唇を触れ合わせる。









十日間味わえなかったその感触は。





ようやく、自分に少しの安らぎを与えてくれた。

















































あの日見た。




済んだ空に映えたのは。








黒と。



赫と。




白。







そして、流れ落ちたのは。


透明。
















それらを。

忘れてはならないと強く、刻み込む。

































貴方のために。


強くならなくてはならないのだから。

























































お題9項目め。『庇う』。
イヅルに怪我させようか、ギンに怪我させようか迷いました。
でもココはやはり王道の「ギン、イヅルを庇う」を書いておくべきかとギンに怪我を負わせることにしました。
相手は誰だったのか……自分でも分かりません(笑)。
適当に作ってやって下さい。お任せします。

それにしてもギンイヅはどうしても暗い方向になりがちですね。
一度、すっごいバカっぽいのを書いてみたいものです。
ただのバカップルを。
恋次辺りに犠牲になってもらってやってみるの、面白いかも。企画倒れ80%ぐらいの確率ですけどね。



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