アジア雑記帳

カンボジアのイミグレーションに着いた。安部さん曰く「賄賂を要求されるかもしれん…」と。
第一関門、出入国カード提出の時は、人の良さそうな入国管理官のいる窓口に当たり、お互いにこにこと言葉を交わして難なく通過。

しかし、次の検疫の窓口で、「黄熱病の予防接種は受けてきたか?」と証明書の提出を要求される。阿部さんはブラジルに行っていたので、5年間有効の証明書を持っていたが、僕は持っていなかった。しかし、日本では、半年以上の海外旅行にのみ義務付けられている為、まだ旅立って1ヶ月も経っていない僕は問題ないはず…。
ない、そんなもの持っていないし必要ないはずだ、というと、「ダメだ!発行手数料1ドル払いなさい!」と言う。

なんだと!!だいたい、1ドル払ったら検診も無しで証明書を出す、という話自体おかしいんじゃないか?
腹が立ったが、ここはカンボジア、事を荒立てて厄介なことになってもしょうがない。
ぼろぼろでどこの店でも受け付けてもらえなかった1ドル札を出して、しかし1ドルの賄賂とはまたせこい話だなあ、などと思いつつ払おうとすると横から阿部さんが、
「だめだ!払っちゃいけない!こいつは味をしめて今後も日本人は金をすぐ払うと思って賄賂を取りつづけるつもりだ!後の日本人のことも考えて、絶対払っちゃいけない!」

よしきた!二人で「ジャパンヘルプカンボジア!ユーノウ?オブチオブチ!ODA!UNTAC!自衛隊!!」などととりあえず連呼してみるが、係官は笑ったままで聞いちゃいない。埒があかないので、残っていた3500ベトナムドンを怒りを込めつつカウンターに叩きつける。どうせ国外に出たらドンなんて紙くず同然だし。しかし、どうしてもドルで払え、と言い張る。
しょうがないのでぼろぼろのドル札を係官に投げて渡し、証明書をひったくって、
「日本の政府にお前のことを報告しておく!覚えていろ!」と脅しをかけて一度はその場を離れる。

しかし、どうしても納得いかないし腹が立つので、二人で少し離れたところから、「日本人以外の外国人から賄賂を要求しないようなら、行って金を取り返そう!」ということになり、二人でじっと見張る。
係官が飛んできて、「君達のバスはあそこに止まっているから、早く行きなさい!」と言ってくる。
「OK,OK.わかったわかった」と言いつつその場に居続けたが、他の白人達はもともとアジアを汚い場所だ、という偏見を持っているので予防接種を受けてきている。しょうがなく諦めてバスに乗りプノンペンに向けて出発。

カンボジアの景色。見事になにもない…
しかし、ここからが大変であった。カンボジアはいまだに道が未舗装ででこぼこな上に、大雨になって道がぬかるんでバスはすぐにスタックしてしまい、遅々として全く進まない。
道はずっとこんな感じ。
畑とニッパヤシで出来た家と牛と子供しか見当たらない単調な景色の中をバスは進む。
ぬかるんでいないところでは、かなりの悪路でもバスは猛スピードで飛ばす飛ばす。何度もバスは大きく飛び跳ね、一度などは大きく体が飛び跳ね、天井に頭をぶつけてしまった。いたい、いたい…。
しかし、安部さんはたいしたモンで、こんなバスにもかかわらず腕組みをしたまま眠っていた。これには僕も驚いたし、周りの屈強そうな白人達も驚いていた。

途中で昼食を摂り、メコン川を渡し舟で渡り、予定よりだいぶと遅いPM8:00頃にプノンペンのキャピトルホテル前に到着。キャピトルホテルはよい噂がないので(売春目的の腐った長期滞在者が多い)、隣のハッピーゲストハウスにすることにした。安部さんも同じホテルであった。僕は4ドルのシングルルーム風呂付。安部さんは2.5ドル風呂共同の部屋にする。風呂共同でも構わなかったのだが、2.5ドルの部屋は自前の南京錠がドアにかけられないようになっていたので、この物騒な街では不安を感じたので敢えて4ドルの部屋にした。

隣の部屋から若いベトナム女性を連れた根暗そうな小太りな日本人の男が出てきた。
「買ってるのかな?」「ああ、買ってるね。」

阿部さんと二人でロンちゃん食堂、という近所の日本食レストランに行き、トンカツ定食(2ドル)を食べる。蒸し暑かったので氷の入った水につい手を伸ばそうとしたが安部さんに、
「僕なら飲みませんよ。この国で生水飲むなんて、自殺行為ですよ。」と言われたのでやめておく。

安部さんと別れた後、キャピトルホテルの1階の食堂に行き、情報ノートを見る。しかし、ここのホテルの従業員は横柄なのには閉口した。注文しても返事もしない、飲み終わっていないコーラを下げていく、客待ちのバイクタクシーはうるさいし。こんな夜に声をかけてくるバイクタクシーにろくな奴はいない。すぐに売春宿に連れて行って仲介料を取ろうとするか、もっと下手すりゃ暗闇に連れて行かれてホールドアップされてしまう。
 
来て一日目にして、すでにプノンペンが嫌いになってきた。キリングフィールドとトゥールスレン刑務所を見たらさっさとアンコールワットのある街、シェムリアップに向かおう…。

6/26

昨日の移動でくたびれていたせいか、10時頃にようやく起床。
キャピトルホテルの1階の食堂で朝食を食べ、バスに乗りキリングフィールドツアーへ。
ベトナムのメコンデルタツアーで一緒だった、フィンランド人のオワンとトゥーカと偶然再会。行動を共にすることになる。プノンペンの町を出ると、やはり未舗装の泥道。揺られること30分。キリングフィールドに到着。
プノンペン市内

キリングフィールドには旅行者目当ての物貰いがたくさんいた。子供が大半だが、傷痍軍人、地雷で足がない人などもいる。2USドル払って敷地内に入る。どくろが8000個納まった塔や、人が埋まっていた穴を見る。
 

穴の中や未発掘の地面を見ると、まだ人骨らしきもの、衣服らしい半分埋まった布切れ等が見える。
フィールド内は音もなく、なんだか物悲しいような、怖いような空気が流れていた。僕は穴に向かって経文を唱え、オワンは線香をあげ、トゥーカは地面に突っ伏して泣いていた。トゥーカは身長2m近くある大男で、かなりの悪人面なのに、泣き出したのには正直驚いた。
お前、いい奴なのに悪人面でかわいそうな…。

フィールドの外に出て、たくさんいる子供達にアメやガムを配って、バスに乗り込む。
トゥーカが、「君はベトナムでもそうだったが、いつもたくさんアメやガムを持ち歩いてるんだな」と呆れていた。
「子供に金をやっても、どうせ親に取り上げられる。結局子供が欲しがるのは、金よりもお菓子のほうだよ」

バスガイドが俺達に「トゥールスレン刑務所には行ったか?まだだったらトゥールスレンで降ろしてあげるよ」と言うので3人でトゥールスレンへ。
トゥールスレン刑務所

ひどい…。廃墟同然の建物内部には、拷問や殺戮の痕が沢山残っていた。床には血が滴った痕も生々しく残っているし、先ほどのキリングフィールドよりもさらに強い寂寥感、ぞくぞくするような圧迫感を感じる。霊というものがこの世に存在するとすれば、このようなところにいるのだろうな。
拷問用の鉄ベッド。床には血の痕も生々しく…
 
独房内部。                                   倒されたポルポト像

人類とは、かくも愚かな生き物であるか、というのを痛感し、打ちひしがれて刑務所を出る。
ホテルの方向が違うので、オワンとトゥーカと別れ、バイクタクシーでホテルに戻る。この時乗ったバイクタクシーも、俺が日本人と判った途端、しきりに売春宿に行かないか、と勧めてきた。この街では日本人はよっぽど印象悪いんだろうな、と感じ同じ日本人として恥ずかしくなったし、怒りも覚えた。

昼飯を食べた後、街に出てセントラルマーケットに行く。しかし、ガラクタにしか見えないようなものしか売っていない、ひどい市場。戦後の日本の闇市って、こんな感じだったのだろうなあ。アヤシイ男が市場の中でずっと付いてくる。スリか…。

街を歩いていても、バイクタクシーや物貰い、アヤシイ詐欺師風の男などが声を掛けてきてうるさい。
はやくもこの街がいやになったので、明日のシェムリアップ行きのボートの予約をする。シェムリアップにはアンコールワットがある。もともと今回のカンボジア入りは、アンコールワットが目的だ。プノンペンには用はない。

しかし、できれば見ておきたかった場所が一ヶ所だけあった。
それは、プノンペン郊外にある、スワイパーという売春街だ。もちろん売春には興味はない。ただ、以前読んだ本にこの街の記述があり、興味が沸いていたのであった。

スワイパーの街には、ベトナムの貧しいメコンデルタ地方から売られてきたベトナム人売春婦がたくさんいるとのこと。なぜベトナム人かというと、カンボジアの主要民族であるクメール人の女性は外国人から見るとあまり美人ではなく、ベトナム女性のほうが受けがよいからだ、という。子供のうちに売られてきたベトナム女性は、そこでこき使われ、その大半が性病で死んでいくという。スワイパーの街自体が、ベトナム人が多いという理由で迫害を受けているので不衛生な湿地帯の上にあり、街の裏には死んでいった売春婦の墓が無数にあるという。ひどい話だ。だが、あえてそんな街をみてやろう、という気になった。この世に地獄があるとすれば、人間の悲しい性を凝縮した街があるとすれば、まさにその街がそうなのであろう…。

しかし、日本人がバイクタクシーを捕まえて、スワイパーに行くといえば目的は売春しかない。店を斡旋されたりしたら面倒なことになる。
そこで、近くに沢山いたバイクタクシーの中で、とりわけ気が弱そうで、喧嘩になったら勝てそうな冴えない顔の奴を捕まえ、
「スワイパーへ連れて行け。私はフリージャーナリストだ。スワイパーの取材をする。だから売春が目的ではない。街を見るだけだから斡旋しても無駄だ。いくらだ?」と聞く。
5USドルだと言う。
「高いな。」
「いや、でも君の取材が終わるのを待つ時間もあるし、スワイパーは遠いんだ。それに、君が置屋に行くのならば、俺も紹介料をもらえるからちょっとはまけてもいいけど、君は行かないんだろ?」
チッ…。そうきたか。しかししょうがないのでバイクの後ろに跨り、デコボコ道を30分ほど走りスワイパーへ。
バイクタクシーの男の名は、サミー。ネプチューンの名倉にそっくりな男であった。






サミーを連れてスワイパーを歩く。サミーから街の解説を聞く。街に住むのはほとんどがベトナム人。女は200人ほどいる。置屋の前にはイスが並べられ、薄着の女がそこに座って客定めをしている。
「サミー、みんな厚化粧で顔が異常に白いが、カンボジアの化粧とはこんなもんなのか?」
「いや、みんな性病を隠す為に顔を厚く塗っているんだ。」
売春婦が一人、俺のほうに客引きに寄って来た。近くでみると、厚化粧の下に一円玉大の斑点が見える。
「ここの女はみんな病気なのか?これじゃ客は来ないだろう?」
「いや、いい女で病気じゃない奴は表には出てこない。表に出ているのはもう使い古した女だけだ。だから、いい女が欲しければ、俺達に仲介料をはらって店を紹介してもらわなけりゃならないんだ」

サミーと二人で、路上のイスに腰掛けてアンコールビールを飲みつつ街を眺める。しかし、ひどく退廃した街だ。
すると、キャピトルの1階の食堂で見かけた、ひどく不健康そうに太った日本人が歩いてきて、向こうも俺を知っていたようで話し掛けてきた。

「やあ、どうも。どこの店に行ってきたんですか?」
「いや、見に来ただけですよ。そちらこそ、今からですか?」
「これからですよ。せっかく来たのに行かないなんてもったいないですよ。なんならいい子教えましょうか?」
ここでサミーが、「彼はジャーナリストだ。」と余計なことを言ってしまった。チッ、余計なことを…
「えっ?取材なんですか?なんの本の?もしなんならお手伝いしますよ。」
なんなんだ、この男は…と思ったが、面白いのでからかってやることにする。

「自分は旅行雑誌の出版社に記事を売っているフリーライターなのです。もっとも、旅行雑誌といってもいろいろある。今回はこういった場所の裏情報も盛り込んだ取材が必要なんですよ。ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?」というと男はペラペラと自慢げに語りだした。

ここの女は9割はなんらかの性病に罹っている。
自分は毎日昼間にここに来ている。夜に来るとかなりの確立で危険な目に遭う。
病気の女はまず治療も無しで死んでいくので、置屋の裏は墓地だらけだ。
値段は年齢によるが、2ドルから10ドルが相場だ。
などという内容であった。

「病気のことまで知っていて、なぜそこまで危険な思いをしてまでここに通うのですか?」
「ゴムを着けてすれば問題ないですし、どうしても心配ならば、ちょっと高いですけど処女とすればいいんですよ」
「…。 ところで、遊ぶお金はどうしているんですか?なにかこちらで仕事でも?」
「いいえ。こっちは物価が安いから、一年のうち3ヶ月くらいは日本に帰ってバイトをしています。で、あとの9ヶ月はこっちで遊んで暮らしているんですよ。

あほか…。こいつ…。
聞いていて気持ち悪くなってきた。同じ日本人にこんな男がいるのか…と愕然とする。
日本政府はこんな奴らの帰国は拒否してしまえばいいと思った。もしくは、こんな恥さらし日本人は海外に出してはいけない。

サミーに、「さあ、帰るぞ!」と促してバイクを出させる。
「もう一ヶ所取材にはいいところがあるのだが、通るだけ通っていかないか?」
「いや、今日はもういい。夕暮れが近いからな。夜の町は物騒だからな。」

しかし、サミーは俺の言った事を聞いておらず、気付けば今度はクメール人の置屋のある赤線地帯に突入していた。
辺りは夕闇に包まれ、置屋のアヤシイ赤いネオンの光だけが夜道に不気味に輝いていた。
土地勘がないので、ホテルの方向に向かっているとばかりにすっかり思い込んでいた。
「おいっ!サミー!てめえどこに連れて行く気だ!さっさとホテルに帰れ!」
「いや、取材がしたいだろうな、と思って…」
「余計なお世話だ!ここは有名な暗黒街だろうが!さっさと帰れ!」
「わかったわかった!そんなに大声を出すな!日本人だとバレたら強盗が来るぞ!それに強盗よりタチの悪いポリスが寄って来る!」
そうなのだ。この国では強盗よりもポリスのほうが悪行を働いている。
国家権力を武器に一般市民から賄賂、たかりを行っているのである。ひどい奴になると、制服姿のままで強盗に入る、という有様だという。つまりポリスがヤクザ化しているのである。
僕が聞いた話だが、市内のとある橋の上で、日本人がただ立ち止まって写真を撮っていただけでポリスがやってきて、「ここは写真撮影禁止だ!」と難癖をつけてカメラを没収していったという。

サミーは自分の被っていた帽子を俺に渡してきた・
「君の髪型と顔はクメール人には見えない。だから帽子で隠していろ!」
くそっ!だったら最初からこんなとこに来るんじゃねえよ!と罵りつつ帽子を引っ手繰る。
「カメラも俺に預けておけ。もし君がポリスにボディチェックを受けても、俺は多分チェックを受けないだろうから安心だ。さあ、俺を信じて!」
お前が信用ならんからこんなとこに来ちまったんだろうが!とも思ったが、たしかに一理あるので預ける。
正直、もうどうにでもなれ!といった心境であった。

暗い中をバイクで走り出す。たしかに沢山のポリスがいる。
「見るな!帽子を目深に被っていろ!」とサミーが言う。今となっちゃこいつを信用するしかない…。
こんなインチキクサイ、情けない男に運命を委ねている自分が本当に情けない…。

少し広い一本道を走っていたところで、大規模な検問が行われていた。これはまずい。
「ここで引き返したら怪しいと思われて追いかけられる。君は降りて知らん振りをして歩いていろ。俺が検問の様子を見てくる。」
「かまわん!検問に突っ込め!こっちはなにも悪いことはしていない!いざとなったら日本大使館に言えばいいんだ!こっちには日本政府がついていると思え!」
「なにを言っているんだ!この国の警察は君の想像以上なんだぞ!待っていろ!」
「待て!カメラは置いていけ!」
と、叫んだがすでに遅く、サミーは検問の方に走り去ってしまった。

まずい…。道端の塀際の暗い所に目立たないように立ってサミーの帰りを待つが、周りの人の視線がこちらに集まっているのが判った。
それに、俺はまんまとサミーにはめられたようだ。奴はカメラを持ち逃げしてきっと戻ってはこないだろう。
しかもここに来るまでの道がすごくホコリっぽく、コンタクトが片方外れてしまっていた。
知らない場所で、しかもそこが暗黒街で、さらに視界が不十分。
さて、どうしたものか…

ところが、バカ正直にもサミーは戻ってきた。
「ダメだ。道を変えよう」
「クッ…。しかたがないな。」
サミーが予想外にも戻ってきたので、こいつはバカだがもしかしたら信用できる奴なのかもしれない、と思ったので大人しく言う事を聞くことにした。

「ピピピピピ−ッ!!」
二人でバイクに跨り、走り出そうといた時、背後からけたたましい笛の音が!
ポリスが二人、バイクでこっちに走ってきていた。このばかサミー!きっちり警察に尾行されていやがった!

一人は警棒、そしてもう一人はご丁寧にライフルを持っていた。銃口こそこちらにむけていないが、明らかに俺を威嚇していた。ポリスが何事かをサミーに怒鳴りつけた後、俺の体を調べ始めた。
俺はこんなこともあろうかと、全財産はホテルに預けて出てきていた。ポケットに入っているのは50ドル札1枚、あとは小額のドル札と小額のリエル札だけであった。
ポリス共は、50ドル札をポケットに仕舞い込むと、サミーに何事かをクメール語で言って立ち去ろうとした。
「サミー!いま奴はなんと言った?」
「どうせ売春宿に行っていたのだろう。これで見逃してやるからさっさと行け、と言ったんだ。」
「なんだと!俺達はそんなやましいことはしていない、金を返せと言え!」とサミーに怒鳴る。
すると、ライフルを持った警官が俺のほうに走り寄ってきた。
サミーが慌ててなにかを警官に話し、立ち去らせる。何を言ったのかは結局わからなかった。
「だからこの国の警官を甘く見てはダメだ、といっただろう。」
サミーが困りきった表情で溜め息まじりに言った

ようやく街中の明るい通りを走る。ここまでくればもうほぼ安心だ。
「ところでサミー、俺のカメラはどこにやった?」
「それが…。さっきの検問でポリスに没収されてしまったよ。」
「なんだと!引き返せ!日本大使館に訴えてやるから、さっきの検問所まで戻れ!」
バイクを止めて、渋るサミーと押し問答になる。しかし、どうもサミーの様子がおかしい…。
「お前、隠しているだろう!どこに隠した?さっさと出せ!」
「じ、じつはこのバイクのモーターのところに…」と言うので出させると、このばかサミー!カメラがぼろぼろになっているじゃないか!
「お、お前!なにやってるんだ!こいつは400ドルもするんだぞ!」と怒り狂う!
「だ、大丈夫か?壊れていないか?」とサミーが必死に尋ねてくる。
壊れてはいない様子ではあったが、壊れていない、とこたえるとまた奪おうとするかもしれないので、
「もうこいつはスクラップだ。1円に価値もない鉄くずだよ!」と答える。
サミーは大変がっかりした様子だった。もうこいつは信用しないほうがいいな。

しかし、こいつの考えていることが全くわからない。
だいたい、カメラが目的なら検問で俺を置き去りにした時点で逃げればいいのになぜか戻ってきたり、俺の金品を奪おうと赤線地帯に連れ込んだくせに、一緒になってポリスから逃げ回ったり…。 全く行動に脈絡がない。

金もないし、カメラも壊れた。もうどうにでもなれ、とばかしにサミーを罵りつつプノンペンの町をバイクで走る。
ここでサミーが急にバイクを停め、またイカレたことを言い出す。
「さっきの検問で俺も80ドル取られた。運賃とあわせて100ドル払ってくれ」
「なにお!お前が80ドルもの大金を持っている訳がないだろうが!バカ!しかも、運賃は5ドルだって最初に決めていただろう!なんで100ドルになるんだよ!」
怒鳴りつけたとたん、サミーはしゅんとなって黙り込んだ。まったく、なんなんだこいつは…。

しばらくして、くるりと振り返り、
「ならば、50ドルでどうだ?」
「ふざけんな!だいたいさっきポリスに50ドル札取られたの見ただろう!黙って前見て運転しろ!」

しばらくしてまた停車させ、
「30ドルでどうだ?今払え」
ふと気付くと、ここは俺が昼間に歩いていた場所。ここからならサミーが居なくても帰れる。
ますます強気になり、「さっさとキャピトルに帰れ!さもなきゃ1リエルも払わんぞ!」

バイクはさらに進み、ついにキャピトルに到着。しかし、サミーは行き過ぎようとした!
減速した隙にバイクから飛び降り、
「お前!キャピトルで止まれっていっただろう!どこへ連れて行く気だった?」とついに本気で怒る!
「20ドル払え」
「なに言ってるんだ!5ドルだって言っただろうが!だいたい5ドルでもぼったくりなの知ってるんだぞ!」
「ならば13ドルでどうだ?」
「じゃあお前!俺のカメラを壊したから400ドル払え!今すぐに!ちょっとホテルまで一緒に来い!」
キャピトルの前で騒ぎになったらもうバイクタクシーの仕事は出来ないので(ポリスはいるし、他の旅行者も見ている為)あわてて、「ならば5ドルでいい。」と言うので5ドル札をくちゃくちゃに丸めてサミーの頭越しに遠くへ放り投げる。
サミーが金に気を取られて拾いに行った隙に、サミーのバイクを思い切り蹴飛ばして倒してやり、ちょっとすっきりしてホテルへ帰る。

キャピトルの1階のレストランでメシを食べつつ、同席した旅行者達に今日の出来事を話す。
話をした旅行者達はみんなアンコールワット〜ベトナム間の移動の為にしょうがなくプノンペンに来た、とのことで、みんな街には出かけずにホテルで大人しくしている、とのことだった。
そうだろうなあ、街にはなにもないし、危険だからあまり長居するメリットはないな。
ふとレストラン内を見回すと、昼間にスワイパーで会ったデブ日本人と目が合い、会釈をされる。
テーブルにはやはり似たようなアヤシイ風貌の男どもが集まっており、今日の昼間に買った女の良し悪しの話ばかりをしていた。

嫌な街だ…。明日にはもうこの街を出よう。
長居してもいいことはなさそうだし、万が一、サミーが報復してきたりしたら厄介だ。
腐った日本人の住む町とはおさらばだ。

明朝のシェムリアップ行きのジェット船のチケットを予約購入し、眠りに就く。

6/27

なんだかいろんなことに腹が立って、なかなか眠れず。
下手して起きれなかったら大変なので、灯りをつけたまま仮眠。六時に起床。荷物をまとめてシェムリアップ行きのボート乗り場まで行くバスが出発する、キャピトルの食堂へ行く。

朝食のオーダーをしようにも、なかなか店員が来ない上に、やっとオーダーできたと思ったらバスが来てしまった。
店員に、「もうバスが来てしまったから、さっきの注文は取り消しだ!」ややイライラしながら言う。
「じゃあ、水とフランスパンくら持っていきなさいよ」というので待つが、今度もなかなか持ってこない。
まったくマイペースなっ!怒ってバスに乗り込む。
キャピトルの従業員はみんな無愛想、えらそう、のろまで腹が立った。シンカフェの人たちとえらい違いだ!

バスで船着場へ。
ジェットフォイルの屋根の上にたくさんの外人が座っているのが見える。まさか…そう!そのまさかなのである!

「え〜!屋根の上かよ!しかも今日一日中でしょ?」

そりゃないよ〜…

しかも悪い事に来るのが遅かったので最後部のエンジンの真上の屋根しか空いていなかった…。
振動がヒドイ!しかもやかましくてなんにも聞こえない!

ほかの外人共もみんな諦め顔。まるで捨てられた子供のような顔をしていた…。さながら、これからどこかへ売られていく奴隷船のような雰囲気すら漂い始めた。なんなんだろう、この悲壮感と絶望感に包まれた空気って…。
ふと見ると、遠くに座っているトゥーカとオワンもただただあきれた顔して座っている。
俺と目が合ったトゥーカが「なんてこった…」という感じで肩をすくめて見せた。


小一時間もすると、エンジンの振動でおしりが痛くなってきた!だんだん腹が立ってきた!
ふと見ると、タイヤが一本転がっていたので、拾ってきてイスにする。ちょっと楽。

ところが後ろのクソ白人めが、僕がイスにしているタイヤを枕にして寝だし、しかも僕が動くと枕が動いて眠れない、とクレームまで付け出した!
「こいつは俺が拾ってきたんだよ!シャラップだこの野郎!」人は恵まれない環境になると、ほんと心狭くなるのね…
は〜…。このままあと五時間かあ…
寝ようと努力したが、振動と最悪の居心地で全然寝れない!ひたすらぼーっとしたり、あまりのエンジン音で周りに聞こえないので、大声で歌を歌ったりしてなんとか気晴らしをするようにする。

途中でトイレに行きたくなり船内に入る。
なんと!船内はエアコン付きで快適!しかも、頭に悪そうなものしか食ってなさそうなデブ白人が3席一人で占領していたり、荷物を置いているクメール人、クソガキが3席占領して手足伸ばして幸せそうに寝ていたり!
中は最高の居住性、で、屋根の上には捨て子のような目をした外人達が数十人…

なんじゃ!この貧富の差はっ!!

腹が立つけどしょうがない。
また屋根の上でひたすら耐える。ジェットフォイルは結構なスピードだ。
カーブを曲がるときなんか、遠心力で落っこちそうになる。おっこちたらトンレサップ湖にはワニがいるので大変!
また、おっこちたところで、この船が止まってくれるとも限らない。
はああ〜…



さらに言うとこの船、運が悪いと山賊化した旧ポルポト派のクメールルージュに襲われるらしい。過去に外国人旅行者に被害者も出ている。

途中で雷雨!ぬれねずみ!大粒の雨が痛い!痛い!うひゃああああ!!
と、思ったら今度はかんかん照り!じりじりと肌が焼けてくる!いてててててて!
火攻め水攻めなんでもありかこんちくしょうめい!

永遠のような長い時間の後、ようやく船はトンレサップ湖のほとりの船着場へ。
小船が寄ってきてすかさず宿の客引き。たくさんの船の中から、キャピトルツアーの案内人の船を見つけて乗り込む。もうキャピトルには関わりたくないが、自分で交渉して街中に向かうタクシーを見つけるにはくたびれ過ぎていた。
とりあえず街中まではキャピトルのツアーに同行して、あとは自分で宿を探すか…

その案内人は日本語が堪能な、18歳の男であった。名前はチェト。
今日は俺しか日本人客がいなかったようで、俺につきっきりで話し掛けてくる。
悪い奴そうには見えなかったが、キャピトルキライになっていた俺はふんふん、と聞き流していた。

俺はカオサンで同じ宿の旅行者に勧められた宿に行きたい、と告げると
「このツアーはキャピトルのツアーなので、まずキャピトル系列の宿へ行きます。そこで部屋を見てもらって、ダメならそこへ連れて行ってあげます。」

はあ?と思ったが、彼自身は悪い奴ではなさそうなので、彼の顔を立てるため、しょうがなく承知する。
しかし、昨日のサミーの例もある。あまり心を許すと、なにがあるかたまったもんじゃない!

ワゴン車は途中でオーバーヒート!するとドライバーはあらかじめ用意していたペットボトルに入れた水をラジエターにどぼどぼと流し込み、再出発。

なあ…。ペットボトルの水を用意する暇があったら、さっさと修理しろよ!直せよ!まだるっこしいよ!

宿に着いた。部屋はかび臭くてしかも自前の鍵が付けられない。
やっぱりこんな国だし、自分で用意した鍵が付けられないと安心できない。(泥棒従業員が多い)
「悪いけど駄目だよ…」というと、彼は洗濯がタダだ、とか3ドルでシャワーつきはなかなかないよ!と一生懸命言ってくる。外はどしゃ降り。
彼もあきらめたようで、「じゃあ、この雨がやんだらご希望の宿へ連れて行きます」と言ってくれた。

雨止みを待つ間、宿に日本人が数人いたので話を聞くと、彼らはここの7〜10泊しているが、特にこの宿に不満はない、と言う。数日前に泥棒騒ぎはあったが、それは日本人旅行者が貴重品を枕の下に隠したのを忘れてタイに向けて出発してしまい、慌てて戻ってきたところ、部屋の掃除をしたメイドが隠し持っていたらしい。
このケースの場合、貴重品をうっかり忘れたその旅行者が悪い、ということだ。まあ、そうだろうなあ。
そのメイドもきっちりとクビになっているし、まあ大丈夫だろうとのこと。

外はひどい雨。。この雨の中を送ってもらうのもチェトに悪いので、今日はここに一泊することにした。
雨が小降りになったので、散歩に出る。
朝から何も食っていなかったので、近所のレストラン「グリーンハウス」で3ドルのステーキを食べ、なぜか不相応な泥道の真ん中にあるきれいな、しかしやたらと物価の高いコンビニでジュースとポテトチップスを買う
つらい数日間だったし、ここでちょっと食い物で贅沢して自分を慰めるのだ!

昼寝して起きると夕方の6時頃。窓から見えるニッパヤシの森に夕暮れが迫る。
窓から夕暮れの匂いを乗せた冷たい風が吹き込んできて気持ちいい。

ふと床を見ると、食べかけのジュースとポテトチップスにアリがすごい行列を作っていた!なんじゃこりゃ!ドラクエ発売日のゲーム屋じゃないんだから!

あわてて部屋にあった箒でやたらめったら掃きだしてなんとかアリをすべて退治する。
こりゃひどいや…。やっぱり明日には宿を変えよう…。

散歩がてら、日本の友達に書く用にポストカードを買いに行き、戻ってくるとチェトと日本人旅行者が話しをしていたので参加する。
話を聞いていると、このチェトという少年、悪い奴ではなさそうだ。長期滞在に日本人と仲良くしているところを見ると、悪い事もしてなさそうだし、見た目にも大人しく、礼儀正しい。
この日の昼に、「自分はバイクタクシーなので、案内をさせてください」と言われていたが、サミーの件もあったのでもうバイタクは信用ならん!と思っていたので「自転車で移動するから、バイクはいらん!」と言っていたのだ。

彼は、しばらく仕事がなくて暇だ、と嘆いていたので、一日5ドルで三日間のガイドを頼む、と言うとすごく嬉しそうにした。うーん…、俺ってやっぱり甘いのかなあ…。

明日はいよいよアンコールワットだ!

友達に手紙を書き、部屋の中にいる大量のこおろぎ、アリと戦った後、眠りにつく。
寝てるときに、こおろぎが顔に飛んできたのには、本気で焦った…



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