船員訛り言葉



(1) ベアリングを出す 



海事用語 「BEARING」 には、(1)方位・方角 (2)軸受 
という二つの系統別けがある。

(1)方位・方角については
航海術に「CROSS BEARINGS」(交叉方位法)というのがあって
海図に2物標以上の方位の線を交叉させ船舶の現在位置を知る方法である。
これは通信衛星航法に変わっても、この基本は生きており
広い太洋で船の現在位置を知る元祖的存在である。
ここから船の現在位置を決めることを・・・派生して
船員が自分の現在位置を決める・知ることを「ベアリングを出す」という。

船員は始めての港で上陸する場合、時間が許す限り歩くことを第一としている。
見知らぬ地を歩くことは、その地を覚える手っ取り早い方法であり、
又久しぶりに陸の土を踏み歩くことは最高の健康法と信じ込んでいる。
ところが、見知らぬ地を歩くには目指す方向・目的地に対して
常に動物的なコンパス(磁石)の働きが要求される。 
この動物的な磁石は二人連れの場合 必ず相手と一致するとは限らない。
仕方がないので、どちらかに譲ってその指針に合わせ目的地に向かって
歩くことになる。 ところが、これがとんでもない所にたどり着くと腹が立ってくる。

「おまえのベアリングの出し方はなんだ!ヘタクソ!」
磁石を譲った相手に対する方向音痴の罵りである。
相手も負けていない、
「すまん!俺のベアリングは夜の街が専門だったんだ」

船では方向音痴は特に嫌われるが、夜の街になると俄然
「ベアリングの出し方が冴えてくる」奴がいる事は確かである。
これは持って生まれた感性なのだろうか、
たゆみない日頃の努力?の賜だろうか。
と変な感心をしてしまう。

(2) ベアリングが焼けた

(2)軸受の「BEARING」であるが
船には回転または往復運動する機械がいたるところに設置されている。
回転 往復運動する機構には必ずその運動軸を支える個所があり
この部分が軸受である。
軸受の条件は摩擦が小さいことである、軸受部中心線に狂いがないように整備し
また注油したりするが、こうした配慮が悪いと軸受部は摩擦が増大して
過熱を起こし、遂にはその機械は動かなくなってしまう。
軸受が過熱を起こすことを 「ベアリングが焼けた」 と言い、
これはその機械の取扱い、保守整備が不行き届きであることを意味し
大変不名誉な言葉である。

少し話がそれる。その昔 船内には「ボイスチューブ」=VOICE TUBEという
直径3センチほどの伝声管が設置されていた、
船内電話器の先輩にあたるものである。
この「ボイスチューブ」=伝声管は、船橋―機関室、船橋―船長室、
機関室―機関長室 という限られた俗にいう「ホットライン」だった。
「ボイスチューブ」の両先端キャップ部分は笛になっており
一方からキャップを外して息を吹き込むと相手側の笛が鳴り呼び出しとなり
キャップを外してお互いに用件を手短に伝える通信器であった。

ある港での碇泊中、夜間当直の船橋の甲板員と機関室の機関員は
内緒で夜食に「蒸し焼きいも」を作ることを企んだ。
機関員が、さつまいもを石綿布に包みボイラー外壁断熱材の中に入れて
見事な「蒸し焼きいも」を作り上げた。
機関員は喜び勇んで船橋で当直している甲板員に
機関室から「ボイスチューブ」を使って連絡した。
  「おーい! 焼けたぞ」     「なに?何が焼けたんだ?」
  「いもだよ さつまいも!」   「さつまいも?バカヤロウ!」
機関員は「バカヤロウ!」にびっくりして「ボイスチューブ」をよく調べてみると
なんとそれは機関室―船橋のラインではなく、機関室―機関長のラインであった。
この時代、機関長には「焼けた」は禁句であって
「ベアリングが焼けた」に通じる一番気にしている事柄であり
戦後の材質不良、工作不良で多くの軸受の過熱事故が発生していた。
ましてやホットラインを通じて夜中に機関室からいきなり 「焼けた!」の
報告は心臓のとまる思いであったに違いない。

その後、この甲板員と機関員は上陸禁止の懲罰を受けたという。








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