中国のエイズ村


 北京から南へ約一千キロ、河南省上蔡県には売血によるHIV感染者が異常に多い「エイズ村」が点在している。

 1990年代前半、県政府は貧しい農村で「血漿ビジネス」を展開、「血頭」と呼ばれる採血ブローカーと地方役人が手を結び、各地に採血センターを作った。一回400tの採血で50元(約750円)を支払い、農民から血を集め、血漿成分を製薬会社に売って収益を上げた。しかし、血液中の血漿のみを抽出し、残った血液を混ぜ合わせた上で複数の売血者に再び注入する方法をとったこと、採血に同じ注射針を何度も使ったことなどから、売血者の間でHIV感染が急速に広がったのである。

 陳偉さん(35)は95年頃、生活のため数十回も売血を繰り返した。2カ月前、突然体調を崩し、今は一日中、ベッドで過ごす。検査の結果待ちだが、エイズ発症にほぼ間違いない。無収入の陳さんは弟に生活上の面倒を見てもらっているが、弟もやはり感染者だ。

 この秋に小学4年に進学した宋雪燕さん(12)は母親が6年前にエイズで死亡、彼女自身も出産時の母子感染によるHIVキャリアである。親類によると、90年代半ばまで男女を問わず多くの村人が売血を繰り返していたという。その後、売血者の多くが体調を崩したが、原因がHIV感染によるものだと判明したのは2001年になってからである。彼女の母親も当時、発熱を繰り返したが原因がわからず、死亡に至るまでの治療で一家は3万元の借金を抱えてしまった。雪燕さんもその後体調を崩し休学したが、現在はなんとか持ち直し3年遅れで小学校に復学している。祖母は「村を出るとHIV感染者に対する差別がひどいから…」と、孫の将来の中学進学を心配している。

 中国政府は、河南省の38カ所の村をエイズ重点対策地区に指定、昨年の春節には温家宝首相が現地を訪問するなど、問題に取り組む姿勢を全国に示した。エイズで親を亡くした子のための孤児院の建設や、医療費の無料化措置など、確かに改善点は見られる。その半面、この夏には、中国政府からのエイズ治療支援金を県の幹部が横領していたことが明らかになった。元はといえば、地方役人による人災ともいえるエイズ禍なのに、この始末。エイズ孤児や若年エイズ感染者の生活支援、長期服用による薬の副作用対策など、問題は山積している。「エイズ禍」がこの貧しい農村地区を苦しめ続けるのは間違いない。 (文中の名前はすべて仮名、取材は2006年7月)

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母子感染でHIVキャリアーになった宋雪燕さん。母親は6年前に亡くなった。
ベッド脇に
抗エイズ薬「D4T」など大量の治療薬を常備している

HIV抗体検査で陽性と診断された
徐志同くん(5)。手にする「治療証」
で医療費や学費が免除される

一ヶ月前に突然エイズを発症し、寝たきり生活となった陳偉さん。90年代半ば数十回も売血を繰り返したという