エリック・マコーマック
1940〜。カナダの作家。
隠し部屋を査察して

「隠し部屋を査察して」東京創元社(創元推理文庫)、1巻
出版年・・・2006年5月
価格・・・880円
隠し部屋の囚人たちの過去の奇行を述べる「隠し部屋を査察して」、謎の溝が触れるもの全てを切り取りながら地球を一周する「刈り跡」、少年期に至るまで人工子宮の水槽で育った男の話「庭園列車」など二十篇の奇想小説集。
相当に猟奇的だったり猥褻だったりする内容を含んでいながら、というより、全篇エロ・グロ・ナンセンスの集成のような内容でありながら、ちっとも陰惨残酷ではなく、むしろあっけらかんとしていて笑いさえこみ上げてきそうな本である。たとえば「刈り跡」のジョージ・ファーガソンが、家族をみな飲み込まれ、自宅を真っ二つにされて、それでも刈り跡の光景を目にしてげらげら笑い出したように、あまりの突拍子のなさに我々読者も呆気にとられて笑ってしまうのだ。
パラダイス・モーテル

「パラダイス・モーテル」東京創元社、1巻
出版年・・・1994年9月
価格・・・1700円
それがベストセラーになりそうもないことはすぐにわかった。(173ページ)
語り手エズラ・スティーヴンソンの祖父ダニエルは、かつてともにパタゴニアを訪れた仲間・ザカリーから聞いた話をエズラに伝える。その話とは、ある外科医が妻を殺し、その遺体の一部を四人の子供に埋め込んだというもので、ザカリー自身も医師の子供の一人であるという。長じたエズラは、外科医の四人の子供がいかなる生涯を送ったかをふと知りたくなり、調査を試みる。
全篇これ奇想の塊といった感じの短篇集『隠し部屋を査察して』と比べると、長編小説であるためか、奇想の数と密度はやや後退している(それでも、たとえば外科医の息子の一人エイモスがジャングルの未開民族の間で体験した話などは、かなり奇抜奇怪かつグロテスクで楽しいのだが)が、構成の面白さでは『隠し部屋』に勝っている。複雑な入れ子構造、多重の語り――そういった仕掛けを使って、虚構性を強調しているのだ。
ただ字面を追って作者の奇想を楽しむも良し、この作品を通じて文学や語りものの虚構性に思いを馳せるも良し。一読必笑のよくできたメタフィクションである。