経済問題


 第9章

 2008年12月10日

<平成大不況> 米国発の金融恐慌は全世界に波及し、この騒動を未然に抑止できなかったグリーンスパン元F.R.B.議長の“百年に一度の危機”という言葉だけが公認された形で世を渡り歩いている。金融商品を世界中にばらまき、カネがカネを生む仕組みを作り上げたアメリカ型の金融モデルこそが経済繁栄の源泉であり、それに追随したイギリスやアイスランドなど金融に特化した国ほど勝ち組として評価された世界経済のルールはここ1年で破滅した。金融に特化したわけではなく、直接この責めを負ういわれの少ない日本も、例外なくこの大波に呑み込まれている。火元の米国ではリーマンブラザーズを救済しなかったことから一挙に恐慌が拡大し、その後遅れ馳せながら主要金融機関に資本注入してきたが、次には三大自動車メーカーが議会に救済を懇願する有様になり、全国的に失業率が急増している。
 これと歩を合わせて日本も主に海外市場の冷え込みを理由に自動車や電子工業など産業界を中心にリストラ、失業の騒動が年の暮れの迫るにつれて拡大している。しかしこの悪況もまだ序曲に過ぎず、本当の嵐はこれからで少なくとも3年は続くだろうという悲観的な見方が強まっている。  文芸春秋正月号は“緊急提言 2009逆転の日本興国論”と題して、税金・年金・医療・資産・官僚・会社・金利・格差をそれぞれのテーマとして8人の評論家が論文を掲げているが、読んでみるとどれ一つ取ってもこれは尤もだ、ぜひこれで行くべきだと勇気づけられる内容のものがない! 最近麻生首相が打ち出した2兆円の定額減税(多分にこの提案のために麻生内閣はこの半月で国民の支持率を半減させた)が愚策であることだけは何人も指摘しているが、この未経験の恐慌に遭遇して誰も実効的な方策なり心構えを提示できない様は、大風呂敷を広げたばかりにみじめとしか言いようがない。

 提案順に個別に見て疑問()も付言すると、
 ○ 消費税アップは15年後でよい(こんなのは消極論で対策にならない)、
 ○安心なさい、年金は破綻しない(これだけボロを出しておいて、誰に説いているのか?)、
 ○給付金より2兆円で医療再建を(急場に間に合う具体策なし)、
 ○投資より貯蓄が老後を救う(今頃そんなことを言ってももう株でスッカラカンになってしまった)、
 ○霞ヶ関の権益を排せば成長する(誰がどう方策を出すのか?)、
 ○ヒト重視、日本型経営が勝つ(昨今のリストラ全盛をどう見るのか?)、
 ○白川総裁よ、金利をゼロにせよ(雀の涙ほどの低金利を0にしていくばかりの効果がある?)、
 ○最大の景気対策は貧困退治だ(どうやって実現する?)

 総じての感想は木を見て森を見ずであり、時局に応じた雑誌の企画に応募した連中の原稿料稼ぎ以外の何物でもない。百年に一度の金融恐慌―しかもそれは世界(ロシアや中国も巻き込んでいる)を覆っているのに、生半可な対策が有効に機能するわけがない。資源の乏しい日本に世界と絶縁して鎖国などできる筈がないのに、提案者たちの眼は世界を見ずに(海外への働きかけなど所詮無理と思っている)、日本国内だけで対応しようとしている。どこからこの騒ぎが生じたのか、その原因を徹底的に究明し、責任追及もしないで有効な対策など立つわけがないだろう。アメリカに盾つかない姿勢もほどほどにして欲しい。また麻薬や戦争は国際的に追及しても金融犯罪にはどう手を出したらよいか分からないという金融音痴たちがこの事態を生み出したのではないか。直接の利害を受ける当事者たちだけに事を任せ過ぎた。金融界にも相応の国際的な法制を布き、必要あれば死刑も適用するぐらいの心構えがないと、百年後に同様な騒ぎが再発する懸念が消えない。

 2008年10月14日

<金融恐慌> 米国におけるサブプライムローンの金融商品としての債権は2007年に露呈した米国中下流世帯向け住宅ローンの負債破綻に伴って、複雑な内容の正確な分析評価ができず実態が判らぬままに日時の経過に伴ってその信用が低落していった。それに加えて証券業界では元手の30倍にも及ぶと言われる過重なレバレッジが常態化していたことが信用収縮の過激化を誘い、9月から10月にかけてリーマン・ブラザーズの倒産に端を発して、米国証券業界は救援を受けなければ総崩れになるという危地を迎えた。米国のみならず欧州・日本をはじめ世界中の市場で株式価額は軒並み急落し、遂に20世紀初期の金融波乱に準ずるような世界的な恐慌の様相を呈するに至った。このように事態が拡大した背景には大方の認識以上に近年実態経済に対して金融経済が急膨張・急拡大していた現実がある。そこには金融ブームが続く中での証券マンのおごりがあったことが否定できないだろう。

 ブッシュ米大統領は崩壊の危機を迎えた証券業界に対して公的資金を投入して救済するように米議会に要請したが、間もなく行われる選挙を意識した下院の与党共和党議員の造反によって法案は一旦否決された。株式相場の急落を受けてワシントンの危機感も深まり、公的資金の投入に抵抗感のある議員たちの譲歩できる条件を付帯した法案を上院・下院に再提出して可決に漕ぎ着けた。しかしこのニュースを受けた株式市場は予想に反し急落した。詳しい事情が日本では報道されていないが、法案の差し替えに際して公的資金の投入額と投入時期について市場側の失望が大きかったためと思われる。ニューヨーク株式市場ダウ工業株30種平均は10日8000ドルを割り込んだ。欧州株も週22%下げの過去最大を記録し、日経平均も9100円まで下げた。

 週末の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で各国が打ち出した金融危機打開策を受けて、13日の米国株式市場はダウ工業平均9390ドルと11%高の上げ幅過去最大を記録した。日本も10年以上前の金融機関に対する公的資金の投入で金融危機を打開した経験をもって事態打開の説得材料にしたが、最大50兆ドルとも言われる必要救済金額のいかほどをどのように投入すべきなのか、米当局と関係支援国の大きな課題が残されている。大方はこの危機がほぼ完全に落着するまでにはあと数年を要するだろうと見ているようだし、それまでに諸事情が更に大きな波乱を招く恐れは十分にある。

 経済問題に疎い私などから見ると、いつでも世の中には損をする人間と得をする人間がいて、全体としては両々バランスが取れている筈だと思う。今回の事態ではほとんどの関係者が皆大損をしたように伝えられるが、本当にそうなのだろうか。少なくとも事態の深刻さを世が認識するまでは、金融商品を作り上げては売りつけた連中は不当なことだがほどほどに儲けたに違いない。最近は株の暴落で右往左往しながら損を重ねる人は増えただろうが、証券会社に勤める人たちなどは会社が公的資金で救済されれば何も困らないだろう。破綻したリーマン・ブラザーズの日本支店の社員約5000名はこのたび野村證券に再雇用されてニコニコ顔でテレビに登場した。迷惑を蒙るのは多額の税金を公的救済資金として金融機関に持っていかれた納税者である。いつの世も権力のない一般大衆がワリを食うことになっている。このような事態を招いた実質的な責任者たちが世間が納得するように相応に且つ平等に制裁を受けるのであれば、正義が行われたことになるのだが、私にはそういう結末が招来されるとは信じられない。G7にも、間もなく辞めていくブッシュ米領にも決してそのような水戸黄門様的な裁きを決める能力はないだろう。

 この騒動の余波は思わぬところに現れている。私と同様にパソコン・トラブルで3ヶ月ほど休刊し最近復活した“アルミニューム・コラム”によれば、世界景気の低迷によりアルミニウムの価額は7月11日以降32%も急落したし、鋼、鉛、ニッケルなども急落しているという。先日までアルミ原材料価額の高騰を製品価額に上乗せできない業界の厳しさを嘆いていたのがとんだ様変わりである。もちろん需要も激減しているに違いない。不景気は自動車業界にも波及し、フォードばかりか、あのG.M.の経営危機も伝えられる。トヨタまで大幅な減益だという。うまく立ち回ればこういうところにも新たな商機があるのだろうが。

 二日後、株式全般に大幅な落ち込みが記録された。大方のはかない希望に反して実態経済の落ち込みが多くの分野で顕著であることを市場が改めて認識したためであると言われる。投入すべき公的資金の規模についてはまだまだ騒ぎが大きくなるだろう。この低迷―不景気は長期的に継続するであろう。折りしも3週間を切った米大統領選挙は、この経済情勢の悪化が8年間にわたるブッシュ共和党政権の失政の結果であるとして、与野党の交代、即ちマケイン共和党候補の敗北、オバマ民主党候補の勝利に帰結することがほぼ確実になった。


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