話題提供9


1999年10月


<地震> トルコ、ギリシャに次いで台湾で大地震が発生した。トルコの場合は多くの高層建築物の脆弱な構造が問題になったが、台湾の場合はそういう論議を超える激甚さだったようだ。マグニチュード7.6、低角逆断層が地表50KMに亘りほぼ南北方向に平均2M、最大7Mで現れた。大きな被害は台中県東勢を中心に断層より東の隆起した側に集中し、低角のために断層より東約40KMにまで及んだという。太平洋側のプレートが乗り上げたのだ。顕著な現象は南北に走る山脈の西の麓の15Mほどの崖(昔の断層)のすぐそばに新たに2Mほどの断層が生じたことでも分かるように、同じ断層線で過去に何度も発生していることだ。数十Mの幅の川に5M位の落差の滝ができてしまったのには眼を見張らされる。死者は2000名を超えるそうだが地震のエネルギは阪神大震災の10倍以上と推定される。

<戦艦大和> 大西洋で処女航海中に氷山に衝突して沈没したタイタニック号を見付けた深海探索船オーシャンボイジャー号(フランス)が今度は東支那海の水深350Mの海底で旧帝国海軍の象徴でありロクに設計図や写真も残っていない戦艦大和の悲惨な最期を見届けた。全長263M、65000排水トン、最高速度30ノット(55km/h)の戦艦は艦首から1/3のところで折れ、更に3基の主砲塔と艦橋が分離して海底に散らばっている。航空主体の近代戦技術に立ち遅れた大艦は出発時点で暗号を完全に解読されていて(何と言うブザマ)、沖縄の米軍に一矢を報いるべく片道燃料の決死の突入作戦に向かう途中で、1945年4月7日米空軍雷撃機の波状攻撃を受けてなすところなく乗員3000名とともに轟沈した。6階建ての主砲塔、直径5.5Mのスクリュー4基、当時の新技術であった球状艦首(バルバスバウ)、そして艦首の金色の菊のご紋章(直径1.5M)が悲しい。沈没直前にボイラの水蒸気大爆発を起こしたらしい。海軍はこの船を撃沈されたことで実質的に敗戦を自認した。同じ敗けでもこういう敗け方は全くこたえる。余談だが先日日本に寄港した米駆逐艦が全長270Mだと聞いた。

<蚊> 9月半ば頃家内が夕方庭で手入れをしている内に蚊の群れに襲われてとても敵わないと言った。今年は彼岸過ぎても暑さが止まず、今日は体育の日だが朝はとにかく昼になると半袖シャツでも扇風機なしでは過ごせないという有様だ。そして10月に入り目だって蚊が獰猛になり、出入りする戸の隙間などから何匹も忍び込み室内にいる私を襲う。普通はあの気になる「ウーーン」という羽音で周りを飛び回るからすぐ分かるのだが、今の蚊は黙って取り付き刺す。耳の辺りに違和感があるとまず刺す間際なのだ。寒くなって寿命が尽きる前に産卵の準備で躍起になっているのだろうか。

<アイボ> ソニーが数量を限定して発売した犬のロボットの育成日記がインターネットの毎日新聞に載っている。石塚浩子という女性の日記の9月分を読んでみた。ハッピーと名づけ実に愛情深くかつ研究熱心に育て、また人に見せるためにリュックに入れて連れ出している。時間とともに運動機能も向上し敷居などの障害物も楽にクリアして二足歩行するようになったと書いている。玩具を与えまた褒めてやるなどの飼育の積み重ねで表情がよくなるなどのA.I.学習機能は相当なものだ。飼い主は既婚で子供がなく公団住宅でペットも飼えず退屈気味だったから格好の遊び相手を得たことになる。壊したら大変と実に注意深く扱っている。ソニーのロボット技術も相当なものだが今回のこのような何人かのモニターの意見もふまえて改良し新製品を発売すれば大人気になるだろう。心配なのは子育ての難しさが話題になる昨今、これが日本の少子化に拍車をかけることになりはしないかだ。

<医者> 「やっと名医をつかまえた」下田治美著(新潮社)を読む。文筆を業とするこの女性には脳動脈瘤があることが分かり、友人の紹介の脳外科医の勤める病院に入院して手術を受けることにするが当の医者の言動への不信が極限まで高まり合わせてナースの無理解な処置に遂に意を決して手術の前前日に病院を脱走した。一旦自宅に戻ると肝心なのはよい病院でなく良い医者に頼むことだと友人たちに事情を話し協力を依頼し手分けして脳外科の評判の良い医者を調べてもらった。調査結果をファックスでもらい、12名の医者を選んで医者本人に電話でアポイントを取りつけ一人一人に用意した質問をぶつけた。結果として不必要なことは一切しない主義の医者を選んで直接執刀をお願いし承諾を得て無事に動脈瘤のクリッピング手術を終えるのだが、そこに至るまでの紆余曲折の中で彼女が掴んだノーハウを17の患者心得として書き出しているのがユニークだ。久しぶりに本にのめりこみ一気に読んだ。この世界は皆知っているようで良く知らないし患者は医者の世界に遠慮してしまうが、著者は胸のすくように合理的に判断し言い切っている。決して読んで損のない本である。

<パスワード> インターネットでどこかのメンバーに加入しようとするとパスワードを設定するように要求される。文字数に制約があったり文字の種別に条件があったりする。アルファベットで英語の或る普通名詞を登録した。別のグループでも要求されたから同じ文字を登録した。パスワードを変えたらそれを忘れてしまいとても困惑したことがあるから変える気はないのだ。嘗ては有効期限を勝手に決めて定期的にパスワードを変更するように要求してきたシステムがあったが、今はそういう意地悪は言ってこない。ただし(これは実はNIFTYだが)英字と数字と特殊文字の3種類の要素を組合せたものに改めるように要求された。なるべく簡潔に今まで使っていた英語の上から3文字と誕生日の月日そしTキーボードの中から特殊文字1文字にした。通常のログインの際には一々パスワードを打ちこまなくてよいようにしてあるのでそのまま忘れるともなく使わなくなって大分経った頃、特殊な領域で突如パスワードを要求された。記憶を辿って文字を打ちこむが違うと拒絶されて焦ってしまった。最後の特殊文字を何にしたか忘れてしまったのだ。仕方がないから最後の文字だけキーボードにあるだけ何度も打ち変えてやっとパスしため息が出た。結局2種類のパスワードを使い分けさせられている。私のように記憶力の悪いのは例外なのか。

<死に方> 文芸春秋に「うらやましい死に方」と題して30篇の読者投稿が載せられている。編者の五木寛之は804通の投稿を夜を徹して読んで鼻水も涙もぐじゃぐじゃになるように泣いたと、またこの島国に住んでいる人々は何とすばらしい愛すべき人々であろうかと書いている。比較的に人に面倒を掛けずに逝った人の記録が多いが、それぞれの覚悟の仕方と周りの対応に心を打たれる。生きている内に何をし、何を考えても最後は平等に訪れると今更ながらつくづく感じ入った。泣けなかったのは自分にはまだ少し余命があると思っているからかもしれない。エジプトの王たちのミイラを調べると病気で早死にしているケースがほとんどだそうだ。寿命が来てコトッと逝く幸せは何にも替え難い。

<宇宙> 高度600kmの地球周回軌道に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡(HST)の画像を見た。宇宙はアチコチに星が散在してキラキラ輝いているというという単純な図式の観念は完全に打ち破られた。解説を聞いても途方もないことばかりで地球の上の出来事に比較すると分からぬ次元が高すぎて戸惑うばかりだ。何本も黒い柱状雲が立ちあがりその中に赤く小さな星の胞子がいくつもきらめいているが、雲の先端は離れた位置の灼熱の恒星から発する強い紫外線によって吹きちぎられている。目の醒めるような青や透き通る赤などさまざまな色の不規則な形状の星雲やガス がほらこんなのもあるよと次々に提示される。ブラックホールはどこにでも沢山ありX線やガンマ線を発する高速ガスが噴出しているが、光も脱出できない巨大重力からどうやって逃れるのか分からないと言う。このあたりになるとカラー画像と解説の落差も理解の幅を越している。宇宙は146億年前のビッグバンで始まり、視認できる最遠の天体は142億光年彼方のクエーサだと言う。天体が高速で遠ざかる赤方偏移から宇宙の膨張速度に関わるハッブルの法則ができてこう言う数字になった。宇宙望遠鏡によって開示される事象があまりにも広遠で、世の中に分からぬことは多いが全体像を体系的に把握するには最も程遠い世界ではないかというのが私の正直な感想だ。

<不幸のない国> NHKのETV特集は東北の農村出身で国際協力事業団からケニアに派遣され25年ぶりに日本に帰国した岸田袈裟さんを紹介した。赤道直下ビクトリア湖の北20kmにあるビヒガ県エンザロ村は谷間の狭い土地を耕し自給自足で近代文明とは無縁の部落である。岸田さんはじかに川の水を使わぬための砂利と砂による簡易浄化槽を18ヶ所に作り衛生観念の普及を始めた。身の回りの材料でわらじを作る事を子供たちに教えた。病気で学校を休む子が減り、手作業が脳に良い影響を与えるのか県内でダントツの学業成績を挙げた。土のかまど作りを奨励し飲料水の煮沸、燃料の節約を図った。これはかまどを設けた家には真鍮の蛇口(原価100円のコック)を無料支給することで爆発的に普及した。コックをひねるだけで水が出る蛇口は憧れる文明の象徴だ。彼女の女性教育は生活改善グループに発展し、彼女を見る女たち全員の目は幸福感と無条件の信頼と服従を示していた。極端な男尊女卑の社会も変わり男たちも怠けていられず働くようになった。スワヒリ語には不幸を意味する言葉がないという。原始平等社会では差別がないからだ。おまけに彼女が来てから病気が激減し皆幸せ一杯だ。4年の現地滞在を了えて引き揚げようとする彼女の送別会は3000人が集まり、心から別れを惜しみ早く帰ってきてくれとせがむ。日本へ帰国した彼女の祖国についての感想は豊かさの中の貧しさと不幸に満ちている気がするというものだった。

<万里の長城> これもNHKからの取材だが秦、漢、明の三王朝にわたり建設された長城は在来総延長2700kmと言われたが最近の衛星観測で更に1000kmが発見された。匈奴といわれるモンゴルの騎馬民族が漢民族にとって如何に脅威であったか四方海で守られた日本人には十分に理解できないだろう。秦の始皇帝が作らせた長城は木製の板を仮固定してその中に黄土を堅く搗き固めて高さ8mの壁を作った。赤柳と粘土を加えて鉄筋の役を果たさせた。他に秦の直道と言われる道幅50m距離700kmの軍道がある。今でも草しか生えていない。長城と同じ技術で造られた。長城はこれを守る屯田兵と敵の襲来を狼煙で報せる警報とで成る防衛システムである。15の狼煙台の警報伝達速度は自動車より速いのだという。漢もこれを継続補強した。唐は外交が得意で長城に頼らなかった。元の侵略と支配の100年の苦渋をなめた後の明は防衛線となる長城を北から南へ後退させ、新たに2700kmの大要塞を築いた。ここでは土や石に代えて煉瓦を使った。蹄鉄型の釜で7日間1150℃で焼くと450kg/cm2の強度になりコンクリートブロックに匹敵する。台形に土を盛り外側に二重の煉瓦壁を設けた。煉瓦接着の白いモルタルは石灰と粘土に米の粉を混ぜて作った。長城を支えたのは米の接着力である。200mおきに見張り台を築き兵士を常駐させた。壮麗で威圧感のある姿は今北京から僅か車で1時間の八達嶺でも見られる。この強固に見えたシステムも人の結束が崩れて満州族の清に破られてしまった。明を疲弊させた工事の費用は3800億ドル相当(米高速道路は3000億ドル)、800万人の命を奪ったのだと言う。秦も同程度の犠牲を払ったのだろう。平和の代償は途方もなく大きい。

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