2月の話題


2000年2月


<混沌> たまたま舞い込んだ学士会報の中に"川喜多二郎の野外科学とKJ法"という論文があり、何気なく読んでこれはと思った。一昔前奥沢会館で研修室主催の研修会を受けたときにこのKJ法の紹介があったが、当方の問題意識の低さか講師の熱意不足か多分両方であまり後に残るような感銘を受けなかった。すべきことは調査した内容を個別にデータカードにする。カードの訴える内容に共通性のあるものを近くに置き何度も整理してカード群を納得できる配置にしてみると、データの全体像が見えてくるとただそれだけのことなのだ。こういう手続きを踏めば混沌から秩序が生まれる、方法論的に云えばdeduction(演繹法)でもinduction(帰納法)でもないabduction(総合)だという。神様なら何でもない筈だが人間は相互に関係のある情報が二つまではよいが三つ以上になると頭の中だけで整理するのが困難になる。多分これは頭脳の中の思考回路の制約によるのだろう。川喜多氏によれば近代文明が見落としてきたサイエンスの方法論に"総合"がある。定量的なデータも大事だがもっと大事なのは定性的なデータで、総合を担当する野外科学(フィールド・サイエンス)にこれを扱わせる。すなわち"混沌をして語らしめる"というわけだ。こういう風にして複雑な物事をまとめることを"一仕事をやってのける"と彼はいう。この手法は仕事の後で見ればどうということはないようにも見えるが、筋道をわきまえない扱いをしたら収拾のつかぬことにことになるだろう。パソコンが普及した現在においては手書のカードを大きい紙に貼り付けるのでなく画面の上で扱うソフトがあると便利だ。一仕事終えたら次ぎにダブルクリック一つで階層構造を降りていく複雑な体系も作ることができる。

<オンライン競売> 以下少し長くなるが"eベイ"という企業の新商売の紹介文を見つけて引用する。 ー在庫を持たず、商品について一切の責任を負わず、落札金額の一部を徴収するというeベイのビジネスモデルは、インターネット・ベンチャーにおいてまれな黒字経営を実現し、時価総額も米小売り大手Kマートの数倍にまで膨らんだ。同社の躍進は、もちろんその革新的なビジネスモデルや特許技術も理由だが、オンライン競売事業に真っ先に取り組んで、老舗の「ブランド」を確立したその戦略に負うところが大きい。オンライン競売を始めた95年当初から、同社はユーザーとの双方向性およびユーザー同士の双方向性に重きを置いた情報の「広場」を提供し、オークションを通じたコミュニティーの形成に力を注いできた。この理念が、99年末時点での登録者数1000万人、99年10-12月の取引額9億100万ドル(前年同期比192%増)、取引件数4100万件(同201%増)という事業拡大の成功を支えてきたのである。単に不要な物を競売で安く処分するだけではない。主人公はあくまでもユーザー自身であり、広場を通して多くの人脈を得られることが人気につながった。eベイは買い手/売り手の信頼度を等級にして公表しているため、無名企業はeベイ以外のサイトで商売をする際に、このフィードバックを一種の保証書として利用できる。等級が上がればeベイの販売手数料も免除されるため、一石二鳥となる。現在は週7日間24時間体制でオンライン競売を開催しており、競売品のリストは380万点にのぼる。商品の種類も車から書籍、記念コインに至るまで、総計2900のカテゴリーに分類されている。 こういったeベイの積極的な拡大戦略を見ると、オンライン競売サイトは今後もさらなる躍進を続けていくだろう。 自ら値踏みして売り手と交渉するスリリングな感覚は、値段の決まった商品を陳列するスーパーマーケットでは味わうことができない。競売を通じて友達になった相手と競り合う楽しさ、わざと最初に高値を打診して他者を煽(あお)る愉快さ、決まりかかったところで最高値を提示する爽快さ、すべては多くの現代人が麻痺していた新鮮な感覚のはずだ。そう思うとオンライン競売は、定価制が主流だった小売業界に、約1世紀ぶりの革命を 起こす可能性も秘めている。ー 試しにそのサイトhttp://pages.ebay.com/に入ってみた。初めての訪問者に対して懇切丁寧な説明を用意し、また対象のジャンル分けを細かく行っている。クレデイット・カードさえあれば誰でも参入できる。このような新しい企業形態は着想の斬新さで驚くほど多くの人の参加を招き、他者が追随困難な創業者利益をあげているようだ。

<ハッカー> Yahoo.com.から1日後れの米国時間の2月7日から8日にかけて少なくともAmazon.com, CNN.com, Buy.com and eBay.com.の4ホームページがハッカーに攻撃され、一般のアクセスが困難に陥ったと報じられた。F.B.I.が犯人探索に動き出したという。 先月も書いたがこのところ日本政府のサイトが次々とハッカーによって書き換えられ、どうやらパスワード管理だけの問題ではなくファイアーウオールとかバーチャル・ボルトなどという私もよく分からぬセキュリティ保持機構を設けなければダメだ論じられ始めた。一方上記の事件は技術的にはもっと単純で多数のパソコンから特定のサイトに一斉にアクセスをかけるとパンクしてしまうのだ。今米国で人気のホームページは何か否応なく分かってしまう。このところインターネットの人気株は株価もうなぎのぼりだし、猫もしゃくしもインターネットだからひねくれものが少し水をかけてやろうかと考える気持ちも分らないではない。しかしいたずらも一遍でやめないで折角の便利な世界がこわされてしまうのは困る。これから当分ハッカーという反体制側と体制側との知恵比べまがいの攻防が地球規模で続くだろう。

<秒読み> 棋聖戦第4局がテレビで中継されている。棋聖趙治勲と挑戦者王立誠だ。二日制の碁で二日目の夕方、碁は中盤たけなわだが趙治勲は持ち時間9時間をほぼ使い切って秒読みに入った。一方の王立誠はまだ3時間ほどをあましている。毎回見られるパターンである。趙治勲の場合凝り性で序盤に惜しげもなく時間を使い、自分の構想を確立して優位を築こうとする。やがて趙治勲は残り時間を使いきって残り1分になった。普通の人だとこうなったら盤面の形勢が互角なら大いに不利と断じられるところだが、趙治勲の場合はこうなってからが無類に強く、挑戦を受ける大事な碁をこの形で何十局と制してきたのだ。解説者によれば形勢は趙治勲にやや厚いというところで王立誠は凌ぎに見通しがハッキリしないような一杯の打ちまわしを試みた。趙治勲は身を沈めて必殺の一撃を狙った。解説者は全体の形勢は未だしだが何とか危うい石を凌ぎ切るギリギリの手順を示した。ところが王立誠の着手は解説者の示す手順をふまず、間髪を入れず趙治勲はそれを咎めた。王立誠の石は大きくちぎられ無残な形になった。しかし結果的にはそれが誘いの隙だった。数手進んだときにそれまで盤面の中央で独立した眼形が三つあって厚いことこの上なかった趙治勲の石が欠け目になっていた。そこでの容赦ない秒読みに追われ7,8,9で打ち下ろした石は辺との連絡に不備があり、王立誠は即座にそこを突いて切断に成功し中央の大石を捕獲した。早い進行に解説者も説明がおろそかになる状況でまさに肉を斬らせて骨を斬るドラマだった。時間がないとメロメロになってしまう私は平然と秒読みをこなす趙治勲が羨ましいが少しばかり憎らしく思っていたが、これで彼も人の子と少々溜飲を下げた。

<韓非子> 秦の始皇帝に仕え後に讒言によって失脚した韓非子という男の説話を読んだ。彼は他人にわが言葉の真意を伝えることがいかに難しいかを口を極めて説く。多弁を用いず簡略に話すと無知と軽んじられ、古今の例証を挙げ連ねれば冗漫と疎まれる。へりくだれば小心者と、はばからず意見を述べると横柄だと思われる。よほど長年月を経て相手の十分な信用を得るまでは諌言などはしてはならないと。尤もです。電子メールでのやりとりの中でのお説教などくれぐれも慎まないといけない。

<枕> 随分前から枕を使用していない。あおむけに寝たときは枕をすると枕の高さの分だけ首が折れ曲がり不自然だ。横向きになった時は理屈からすれば肩の高さだけの枕が有った方が自然な気もするが、私の場合いかつい肩でないこともあり、首を肩に埋め込む形になって枕なしでなんら不自然さを感じない。昔会社へ行っている頃は整髪料をつけている頭髪による汚れを枕カバーの洗濯で済ませる便利さもあったが、今はそれも使っていないからなおさらだ。ましてや昔の人が木製の四角い箱のような枕を使っていたなどというのは拷問のような気さえする。枕を使わないのは私だけかと思っていたら先日黒柳徹子が私は枕を使わないと云っていた。

<生き甲斐> 定年で年金生活に入った今の私は人生の収穫期に入ったとつくづく思う。考えてみれば長期にわたる会社生活はそれに慣れてしまったために、そこに浸かっている内は特別の不満を感じなかったが、今から考えると何と不自由だったことか。ウイークデイは季節天候に関わらず毎日通勤ラッシュを避けて早朝定まった時間に家を出なければならない。睡眠不足などによる体の変調を避けるためによほどのことがなければ10時には就寝し、目覚ましの時計に起床を頼る。身体が不自由なために歩くのが遅いし空いた普通電車を利用するので、車で直接帰宅する時を除き往復4時間を通勤に消費する。自分が自由に使える時間は帰宅夕食後の2時間ほどと土日だけだ。土曜日には9時からの2時間その週の出来事を報道するテレビ番組を見ないと時代おくれになりそうで気がすまない。こういう自由の少ない生活に比して今は日常のほとんどの時間を自分の勝手につかうことができる。やりたいことが多くてつい安易に流れてしまうが、最小限自分として手を抜かないことをいくつか決めておき、後はその時の気分でこれに追加していく。その中でパソコンはいくつかの面で今の私の欠くべからざる相棒となっている。自分の日課もしくはそれに準ずる事項の実施状況をパソコンの10近いファイルにメモしておく。旅行は身体の不自由な私には無理に近いが、最近のN.H.K.系のテレビは日本と世界のあらゆる地域の珍しい事象をくまなく紹介してくれる。あと何年生きるか神のみぞ知るだが、今まで制約が多くて楽しみが少なかった分をここで取り返すべく、なるべく自分として満足できるようにエンジョイしていこうと思っている。収入を求める意味での仕事はもう一切願い下げだ。

<蛍> 毎日スコールの降る熱帯パプア・ニューギニアのラムスムス村に樹齢60年のマンガスの樹があり、新月の夜ここに蛍が集まる。村は海岸の漁村で伝統的に追いこみ漁で生計を立てている。このところ不漁続きで大雨を待っていた村人は新月の日に待望の雨を得て更に大漁をもたらす蛍の発生を期待して、夜になると大樹の下に集まった。やがて地面から光が飛び立ち樹に集まってくる。沢山の光の点滅がバラバラだったのがやがてリズムが揃ってくる。その内上から下へと光の波が揺れ動き、次に時計回りに回転を始める。よく見ると1秒間隔で黄色に点滅するのはオスで連続する黄緑色の光はメスである。メスが近づくとオスが激しく点滅し午前3時ごろには光の競演は最高潮に達する。やがてアチコチで光が流れ星のように落下する。蛍の交尾だ。メスはその後飛び立ち地上に降りて50ヶほど産卵して朝になると樹下に力尽きた姿を曝す。新月の夜のドラマである。

<ホームステイール> 東京都の大手銀行を対象とする外形標準課税という耳新しい新税構想を発表したとき、内容は広く知られるようになった通りだが、石原慎太郎知事がこれはホームステイールのようなもので機を計るには密をもってすべしだと云ったのが印象に残った。報道を受けて絶対反対を唱えている銀行業界には勿論外部に事前に漏らさぬように秘策を練った3人の都の幹部は半年間随分気を遣ったようだし、都の財政建て直しのためとはいえ合法性については入念な検討をした。税率3%は好況時に平均的に都が銀行業界から得た税収を参考にしたという。世論調査は賛成66%、反対5%と、この不況の中で公的資金の導入を受け政府から厚く保護され続けるかに見え、長い間ロクに預金の金利も払わないくせに未だに給与水準の高い銀行(幹部)に対する庶民の反感が絶好のテーマを得て噴出したと見る。国会で国の財政再建方策を問われて二兎を追うものは一兎をも得ず、今は景気対策に専念するとバカの一つ憶えのように繰返す小渕首相へもいい面当てだ。この事件がわが国の中央集権的体質を改める流れのきっかけになることを期待する。

<マンホール> 毎日散歩する自宅周辺の街路には多くのマンホールがある。転ばぬように気をつけて絶えず下を見て歩く身にはいやでもこれが眼に飛びこんでくる。注意してみるとマンホールの蓋はいずれも鋳鉄製で上水道、下水道、雨水と消火栓の4系統がある。雨水・下水用の蓋には平仮名で「あめ」「おすい」の鋳出し文字と横浜市のマークが設けてある。雨水用は同心円上に10ヶの、また下水用は3ヶの通気孔がある。一方上水道の方は小さいセラミックで青の背景に白い噴水が表示されているマークが鋳物の蓋に埋め込んであってちょっぴりスマートだが「仕切弁」と漢字表示があるのは古めかしく更に「YOKOHAMA」は横文字だ。下水は道路の一方側に寄せてあり上水道と消火栓はその反対側、雨水は道路の中央に設けてある。設置間隔はあまり規則的ではないが、狭い順に下水、雨水、上水、消火栓となっている。消火栓の蓋は黄色に着色してあり更にまわりの路面を正方形の枠で囲っているので、なるほど緊急の際に速やかに見つけられるようにしてあるなと思っが近所の4箇所(相互にかなり離れている)の消火栓の内蓋に着色してあるのは2箇所だった。ほかに下水の家庭への分岐点にコンクリート製の大小さまざまな蓋が設けてあるがすべての家庭用にあるわけではない。要は事情はあるのだろうが設置のルールは一律ではないことが分った。


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