5月の話題


2000年5月


<寛容> 世にいくつかの宗教があるが、概ね多神教は他に対して寛容であり、一神教は他を許容せず狭量であると考える。多神教の典型は仏教であり、支配力の強い一神教としてキリスト教とイスラム教がある。偶像崇拝を否定するイスラム教は西・中央アジアで多くの仏像の顔面を破壊した。キリスト教はカソリックをはじめ多くの宗派に分かれ互いに深刻な争闘を続けている。一神教は戒律においても信者に厳しく日常生活の中に礼拝などの拘束をもちこむ。他の宗教を一顧だにすれば地獄に落ちる。仏教の場合も出家すればそれなりに厳しいルールに従った生活をするが、それにも段階があってあくまでも本人の自主的な意思によって選択される。在家信者にはほとんど日常生活上の義務はなく、儀礼的な行為を強いられるのは人が死を迎えたときだけである。親鸞は「善人なおもて往生す。ましてや悪人をや」と述べ、過去にどんな所業をしても一旦心を改めて「南無阿弥陀仏」と唱えれば永らく信心深い生活を送った人より優先して仏は救ってくれると説く。世にこれ以上の寛容があろうか。本来仏教は釈迦が開祖だが、世に仏像としてあがめられている姿はさまざまあり、普賢菩薩、観音菩薩をはじめ修業を積んだ高僧を模した数々の像がすべて差別なくあがめられている。このたびNHKの日本名作百点を編集したが、こういった画像・彫刻が多いのに少し驚いた。先日普段様々な職業に従事していた人たちが皆揃いの装束で遍路として雨の降りしきる四国の田舎道を歩いていくテレビ映像を見た。その人々は揃って経文を唱え数珠を手繰っていた。私は信仰深い仏教徒ではないが日本人として祖先から伝わる仏教の影響が体内に脈打っているのを感じるし、父の菩提は浄土真宗の寺に託している。最近は仏教が大好きになり、帰依する宗教に関する選挙でもあれば(そんなものはないが)強い熱意をもって仏教に一票を投ずるはずだ。広い心で他に接し、さまざまな人の在り様を認めて、心を開く人はすべて受け入れていく、こういった多神教(仏教)でなければ世界平和は実現できないだろう。

<将棋のソフト> パソコンの環境整備をしたついでに「AI将棋」というソフトを入手し早速対局を試みた。ランクを「強い」に設定すると結構序盤はしっかりしている。癪に障るのはこちらが時間をかけて考えて着手を指すや否や画面が動いて相手(コンピュータ)の着手が返ってくることだ。どういうアルゴリズムかは知らないが、時間消費だけで見れば段違いの相手と戦っている錯覚を覚える。居飛車・振り飛車いろいろ試みたが、こちらが穴熊に組めば相手もそれに倣うなど一応相手もさるもので一通りこなすのである。流石に中盤肉を斬らして骨を斬る手法を試みると成功度が高いが、漫然と指しているとうまく弱点を突かれてしてやられる。また序盤同一局面で向こうも手を変えてくる。ひとつご愛嬌はこちらが相手の王を追い詰めたときにしばしばそのまま投了するのでなく、やけっぱちのように主要な手駒を次々に王手王手と打ち捨てて手駒が尽きたときに投げる。この時ばかりは今までの思慮深い着手が嘘のようである。10局指して4敗した。私はアマ初段より少し弱い程度の実力だが、もう暫く経てばパソコン・ソフトにしてやられることは確実だ。

<遊牧民> 農耕定住民族と対比する形で騎馬遊牧民族が論じられる。地球上には古来より前者の比率が確実に増えてきたにも関わらず、後者は保守的・退嬰的な匂いのする前者に対し進取的・行動的なイメージで好意的に語られることがある。ある時期の彼らの侵略に伴う大虐殺は現代の核爆弾にも例えられ、この世の終わりとまで語られたのにである。英国の作家ブルース・チャトウインの旅行記を読む。さまざまな国の人たちの多様な生き様を描いているが、就中「西暦376年の春、ドナウ河沿いの国境を守るローマ駐屯軍は、遊牧民が迫りくることを知った」で始まる熱のこもった記述は遊牧民族に関する彼の並みの人を超える理解と関心を証している。彼は言う。「遊牧民族は目的もなくただあちこちとさまよっているわけではない。彼らの"なわばり"は季節ごとの牧草地を結ぶ道である。テントに住む者たちは定住者が自分の家や土地に抱くのと同じような愛着をこの道に対して抱いている」と、また「人間は本質的に広い意味での移動に対する止むに止まれぬ衝動をもっている」と。自分自身が遊牧民族に属するわけでは勿論ないが、常に旅を愛したこの男の心情は日本では西行や松尾芭蕉と相通ずるものがある。自分では決して真似ができないだけに憧れはある。

<文科と理科> 一橋の学長を勤めた阿部謹也氏の著書にこういうことが書いてある。原子力発電所の優秀な技術者たちが専門家として些細と考えられる事故が一旦マスコミで取り上げられると、国民の反響は彼らの予測を遥かに超えた大きいものになり、これに驚いてついには隠せということになる。これら専門家が一般人ほどにも社会科学の教養を身につけていない(欠陥人間である)ことが決定的なのだと説く。科学技術庁には専門職としての社会科学者がいないのではないか、またその原因は明治以降の日本の学問教育体制に根ざしていると指摘される。確かにそういうことがあるだろう。もっと突き詰めれば人間を無理に文科か理科に二者択一させて狭い分野の専門家に育てるという教育制度の根幹に大きな欠陥があると私は信じている。π型人間と言い複数の専門をもつのがよいとも言われるが、更にこの二本足が文科と理科に分かれているような人材をなるべく多く育てるべきだ。若年で科学者だったフランスのパスカルは偉大な思想家になって「パンセ」を遺した。

<深層水> デパートやスーパーなどで深層水飲料が大宣伝されていると言う。海洋深層水の特徴は低温安定性・富栄養性(窒素やリンなどの無機栄養塩が多い)・清浄性などだが、"クローズアップ現代"でこの水で生育した昆布類が通常の表層海水で育った場合に比して断然大きく立派に育つし人にも悪いわけがないと報道しているのを見て待てよと思った。あの辛い海水をそのまま飲むのかというとそうではない、とても辛くて飲めないから逆浸透膜で濾過するのだと言う。それでは蒸留水みたいに味もそっけもなくなるから今度は塩分を除いた成分を添加するのだそうだ。大体深層海水をどのような方法で取水するのかも簡単な話ではない。こうなると海洋のどのような地点でどのように取水し、その後如何にそれを運搬してどこでどのように加工し貯蔵・パックするのか、品質管理面を含めてはっきり説明・保証してくれないと商品として信用できない。一般に流通しているものはとてもそこまでしていないようなので、低温安定性をはじめ深層水の特徴はほとんど期待できない。紅茶きのこなどよりずっと早くこの流行はすたれるだろう。

<美しい国> テレビの徹子の部屋で写真家ジョニー・ハイマスを知った。英国人だが30年前に訪日して日本の風景の美しさに惚れこみ、以後日本各地を回って撮影を続けている人である。「田んぼのジョニー」とも呼ばれ見事な田園風景の写真とともに紹介された。興味を覚え20冊ほど出版されているという写真集の中から「美しい国」を買い求めた。本の副題が/日本の四季、その72の季節を日本の誰よりも美しく撮る/とある。ページをめくって1枚ごとの写真の美しさに息を呑んだ。当然かも知らないが画面のどこにもいささかなりとも余分と思われるものはない。これだけ完璧な画像を得るために陰でどれだけの苦労があったかと考えた。巻末近くの日本地図の中に個別の写真の撮影地点を記入し更に黒白のミニチュア写真とともに撮影個所の県名地名を表示している。裏に秘められた想い出は測り知れない。危ない目にも遭っているのではないかと思ったら、果たして巻末に真冬の北海道の原野の深い雪の中で脚の靭帯を切って立ち往生し凍死を覚悟した夕暮れに、どこからともなくスノーバイクに乗って現れた若者に救われた話を載せている。画材を求めまた最適なタイミングを求め危険も忘れる彷徨の中で命があってよかった。

<イソップ> 以前に混沌をして語らしめるというKJ法について書いたらそれを読んだ友人がパソコン用のプログラムがあることを教えてくれた。そのまま暫く経ったがふと興味が湧いたのでこのほどイソップ社という販売店から同名のソフトとして購入した。早速パソコンにロードし、半年以上前に家庭の情報通信環境について知人たちから集めたアンケートと自分の想いを1枚づつのカードに入力してみた。1枚のカードには単一の情報なり主張だけを40字以内にして記入する。さまざまな内容について100枚以上のカードができた。これらのカードをグループ化するための分類を考えて同一の範疇に入るものだけを取り皿に取り込む。私のように手指の不自由なものにはパソコン画面上でできるこの操作は至極都合がよい。グループごとに見出しを付け、もう一度これら小グループ群のグループ化と見出し作りを行う。この段階を終えると"図解化"に進み、島(グループ)の配置(相対的な関係)を考えて対象全体がよく把握できるようにグループ化を部分修正する。次に"文章化"を選ぶと大中分類ごとに色の変わった見出しで鮮やかに全体が文章表示されて、それなりに全容が見えてくる。私のやったことは現状把握までで、本来ならこれを基に今後どう対処すべきかという議論に発展させるのだが、まずソフトの実用性のチェックがしたかったのでここまででとりあえず満足とした。このソフト使えそうだよ。

<森の旅人> ジェーン・グドールという英国の女性(私より1歳下)が高校卒業後の20歳でアフリカに入り更にチンパンジーを身近に観察するために25歳で現在のタンザニアのジャングル、ゴンベの森に入って2.3週で音を上げるだろうという人々の予想を裏切って定住して観察を継続した。その後ケンブリッジ大で博士号を取得して英国とアフリカを往復する忙しい日々を送り、ジェーン・グドール研究所(J.G.I.)を設立してチンパンジーを始めとする野生動物のフィールド研究と保護に情熱を注いでいるが、表題の森の旅人は現在に至る彼女の活動報告書のタイトルである(チンパンジーでなくグドール自身のことだ)。彼女によればチンパンジーは仲間同士で残酷な闘争をすることを含め、感情的にも人とほとんど差異がないが、人間との唯一のかつ決定的な相違は言葉をもつか否かだという。子供のころのナチによるユダヤ人大虐殺を始めとして現在に至るも世界中で争闘の絶えず、また激しくなる環境破壊などをも合わせて動物と対比しながら人類の所業を悲しむ彼女だが、希望はあると主張する。それは@人の脳、A自然の回復力、B世界の若者に見られるエネルギと意気込み、C人の不屈の精神の四つだそうだ。肉も魚も食しない彼女は修道女のような清貧な生活で、講演料・印税などをすべて貧しい人とチンパンジーにささげている。興味のある方のためにJ.G.I.のホームページU.R.L.はhttp://www.janegoodall.orgである。

<なのはな> 長野県飯山市。深い雪に閉じこめられた冬が終わり春がくると畑に菜の花が咲きそろいこどもたちの声が高くなる。「いちめんのなのはな」を繰り返す詩があった。「菜の花ばたけに入り日薄れ」という童謡があった。関東平野の都会に住んでいて春の有り難さがいまひとつだが、テレビが紹介する奥信濃の風景に忘れていたものを思い出した。あの菜の花は私の好物の野沢菜だということを知らなかった。油菜とか雑種の花粉が飛んできて原種を保存するのに現地の農家は苦労しているようだ。喫煙で痛めに痛めた後、半年かけて徹底的に歯を治療したおかげで今は何の懸念もなくバリバリとかみ砕ける野沢菜は甘い菓子などに比し実に後味がいい。

<ネットバブル> 今度は"ネット・バブル"と言うのだそうだ。そう言えばもう自明と思うがこれは金融緩和政策による異常な金余り現象がもたらしたあだ花で、個々の企業の業績や財務内容は吟味されず、「アメリカで上がったから、日本でも上がるだろう」といった憶測だけで金融機関も、景気動向や自己資本比率規制を理由になかなかお金を貸せないと言っている一方、系列のベンチャー投資会社を創設し、IT関連企業出資に一役買ったようだ。5月に入って米国で始まったIT関連中心の株式急落はたちまち日本をはじめアジア全般に波及し、極めて多くのインターネット・ビジネスが破綻に瀕しているという。今やインターネット・ビジネスなら金を出すという時代は終焉を迎え厳しい選別の時代に入った。思えば当然だがこうなるまでに相当の日時が経過し、人間社会の甘さが露呈された。大手金融機関の不良資産がまた増加したのではなかろうか。

<当世書生気質> 何とも古い小説だが永六輔がこれを例に挙げて現代青年を論じていた。昔に比べてすべてに便利になって食っていくだけなら苦労はない。だがどこを見てもできあがった世界ばかりで、創造性を発揮して人に先んでた地位を掴み生き甲斐を求めることが今の若者にとって容易ではない時代になってしまった。多くの人が大学まで行く昔より長い教育期間の中に必ずしも意欲を高めるように育っていない。このところ少年法の限界ぎりぎりの年齢の青年たちが続けて利害関係のない人の命を危めるような凶行に及んだ。動機は目立ちたいということでやけっぱちに近いようだ。こんな極端でなくてもいじめとか授業の崩壊とか枚挙に暇がない。少年法の適用年齢引き下げとか教育の抜本改革などが論じられているが、根本解決は望めないだろう。歴史の教えるところでは社会の制度が定まって長年月が経過すると若い人々はそれに倦んで変革を求めるようになる。内戦の終わったカンボジアではこどもがなけなしの教材の下で活き活きと教育を受けている。明治維新の日本、第2次大戦直後の日本もそうだった。生き甲斐を求める人間の本性は単純ではない。どうしたらいいのか。

<戦争犯罪> テレビ・ドキュメント番組で立花隆が冬季のシベリアで第2次大戦直後に大陸に出兵していた多数の日本軍人がソビエトによって強制連行された荒涼たる原野の収容所跡を訪れた。これは何も目新しい話ではなく、今までに何回も語り継がれている事件だが、辛うじて生き延びた体験を何枚もの絵にした画家の作品を通して、寒さとひもじさと厳しい労働ノルマに仆れた約7万人の恨みが改めて紹介された。文字も消えた木の板の現地の墓標の前に立った立花隆は説明途中に絶句して涙を拭った。ようやく許されて帰国の船を待つナホトカでなお5千人が亡くなったという。ロシアとの国交回復が昨今論じられるが、軍人と一般人との差異はあれナチスの強制収容所さえ連想させるこの事件が何故戦争犯罪(実は戦後だ)として糾弾されずに不問に付されているのが私には納得できない。勝者だからか。 ロシアと平和条約を締結するのならまず北方4島の領土問題とともに上の事件を心から詫びてもらわなければならない。

<幸福の手紙> いつものように夕方になって受信トレイを開きその日到来したメールを眺めると一通怪しげなものがあった。"収入に結びつくのがすごく早いです"というタイトルでー詳しく知りたい人はタイトルに『詳細希望』と書いてメール下さいーとあるので試しに返事を出してみた。すると長文の手紙が来て何やら同封書類まで付いている。最近うっかり開くととんでもない悪さをするメールがあるそうだが、新たに私のパソコンにインストールしてもらったOUTLOOK-2000では開かずにメールの文章を読む機能があり、これで全文のコピーを取ってメモに移して落ち着いて読んでみた。するとまず ―Eメールを送ることによって、今から2、3ヶ月後には200万以上の副収入を得ることができる、無理だと思いますか?―とあって、次に ―これは、合法的なお金儲けのチャンスです。誰にも接触する必要がなく、ハードな仕事をするわけでもありません。銀行に記帳に行く以外は、すべて在宅したままでできます。―と来た。 メールに記載のある5人の人の銀行口座に各2000円振り込むということを含め、メールを受け取った人が5人の名簿を順に前にずらし最後に自分の名前を加えて発送する具体的な作業方法の詳しい説明の後で、試しに2000通のメールを指示どおり出し、受け取った人の内0.3%すなわち6人が応じたとすればということで、後に続く人たちの5段階の対応があるとすれば
合計人数は: 6+36+216+1296+7778=9332
合計金額は: 9332x2000=18664000
―この"18,664,000円!!!"という収入は、あなたが2000通メールを送ったうちの1994人が全く何もせず、プログラムをごみ箱に入れてしまった場合の金額です。もっと多い人が答えるかもしれないし、あなたはもっと大勢に出すこともできます。思い切って行動しませんかーというわけだ。 理屈は一応合っているが、利害関係のない2000人のメール・アドレスなど私には入手できない。大体全く生産的ではない。それにしてもまあ世の中にはいろいろ考える人もいるものだ。


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