11月の話題


2000年11月


<神々の復讐> 一度取り上げたがサミュエル・ハンテイントン教授の「文明の衝突」を再度読み返している。米国の熱心な仲裁に関わらずエルサレムを発火点とするユダヤとアラブの対立は次第にエスカレートしようとしているからだ。イスラエルに加担する米国へのイスラム諸国の反感が結集する動きも出ている。同書は書いている。20世紀前半、知的支配階級は近代化の進展で人類への宗教の重要性は低まると予想した。あに図らんや20世紀後半、世界のすべての大陸・文明圏での宗教の復興がその誤りを証明した。例えばイスラム国家の近代化は近代性をイスラム化することに変質した。共産主義諸国のイデオロギの崩壊による空隙は宗教復活の嵐で埋められた。韓国・タイ・香港・シンガポール諸国での急激な宗教の興隆は、短期間での工業化の中で人々が味あうストレスを自己のアイデンテテイを宗教に求めることで解決しようとしている証と説いている。  もう一つ同書が指摘し心ならずも認めざるを得ない事実は"人間は敵意を抱く存在で、自己を規定し動機づけるために人は敵を必要とする"ということだ。異なる文明や文化をもつ民族間には必然的に非融和性が生じ、それが近接した地域に断層を作れば紛争の発生は不可避になる。明らかに宗教は異文明との差異を際立たせ、そこでは人類を救済する本来の使命(?)とは対極の働きをして敵対関係を助長し平和をつきくずすから皮肉だ。

<空爆> 既述の宮崎俊三の随筆の中に大戦末期の米空軍による本土爆撃の記録があり、遠い昔を久々に思い出した。昭和20年3月9日東京江東地区は300機、焼夷弾2000T、焼死8万、焼失26万戸、100万人が焼け出される。次いで3月13日大阪、17日神戸、19日名古屋、4月13日東京北部(豊島・板橋・王子・四谷)、15日東京南部(大森・蒲田・目黒)、暫く措いて5月25日東京西部。私は昭和19年3月末両親に連れられ父の生まれ故郷岡崎郊外の農村に疎開したが、ほぼその1年後自分の幼年期に住んだ大田区六郷の街は4月15日の夜完膚なきまでに焼失した。当時周囲に住んでいた人々、学友の誰一人その後の消息を知らない。昨今小学・中学・高校・大学の同窓会案内は毎年のように来るが、この小学4年以前の係累だけはさっぱりと切れている。年若い当時には思い及ばなかったが、老年になってこのような災害をまともに受けた人たちが如何に辛い思いをしたか察して余りがある。

<ゴミ> あくまで私の平生の居住空間の中の話だが、絨毯の上に異物としての塵芥の類があるとどんなに小さいものでも気になって指でつまんで屑箱へ移す。電気掃除機は独特の騒音が私は大嫌いで一切使用しない。もう視野の中にゴミはないはずだと思いながらもう一度見回すと、ないはずの小さなゴミがまたしかも複数見つかる。そうなると気になるからまた丹念に拾う。ゴミといっても黒い小さな異物から綿ボコリのような目を凝らさないと視認しくい物までおよそ4種類ほどあって、平均直径は1mm以下だから一度に全部は見分けられない。そういう作業を三度ぐらいやると私の当面の居場所にゴミが見当たらぬ状態が実現できる。ところが半日ぐらい経つといつの間にかまたゴミが絨毯の上に現れる。浮遊してくるのか衣服のどこかに付着していたヤツが落ちたのか分らないしあまり身に覚えはないのだが、とにかくまた気になるヤツがアチコチに見つかる。本来私の生活は椅子に座って過ごしているが朝夕の新聞は絨毯の上に広げて見る。この際にゴミ拾いは重要ではないが欠かせない日課になっている。

<近未来予測> Foresightという月刊誌が「次の10年に何が起こるか」という特集号を発行した。Foresightというのは米国系なのかと思っていたが、新潮社がからみ日本人だけで運営している事を知った。それはとにかく、特集号の多彩な記述を要約すれば世界の大きなうねりとして人口の増加、コンピュータ・ネットワークの拡大、科学技術の進歩と宗教・文化との相克を採りあげ、注目点として次の三つのCをキーワードとして紹介している。
1 China 世界の南北対立における南側の旗手を自認、共産党一党独裁を持続、急速な携帯電話の普及やサイバー戦争能力向上などの情報化
2 Computor Chips IT革命の推進の核として万能携帯電話の可能性やネットワークの支え役としてのNTTドコモやYAHOOなどのメデイア、またLINUXなど新たなOS環境
3 Clone ヒトゲノムの解読と6500に及ぶ遺伝子特許の申請、バイオ臓器による移植治療の一般化、遺伝子差別の発生
 上記の大きな流れに対するものとして米国経済の先行き不安、日本の教育問題激化と少子化、第三地域での核戦争の懸念などを挙げている。 様々なビッグニュースの種100件を選びその発生可能性を数字%で記しているが、激動の現在、10年という期間設定は如何にも長すぎるように感じられる。10年後に多分半ば以上は上記と別の話題が入り込んでいるだろう。それを私が生き延びて検証できる確率を40%と見る。

<マニュアル> 直木賞作家海老沢泰久の随筆集を読む。ゴルフで90を切れない理由とかいろいろ書いている中に朝日新聞の編集委員をしている男に薦められて読めば誰にでも分る家電製品のマニュアルを書く羽目になる話がある。マニュアルというものはその機械のことを良く知っている人間が書くから、知らない人間が何を知らないか分らない、そういう人間に誰にでも分るマニュアルが書けるわけがないと作家は云ったのだ。なるほどそうだではということで諸方を折衝の結果、NECの"バリュースター"というパソコン新製品のマニュアルをやってもらいましょうという話になった。NECではパソコンの個人購買者の4割が機械を買っても動かせないのでその苦情に頭をかかえているという。作家はそれまでパソコンはおろかワープロも一切使ったことがなかったが、心配して予備知識を与えようとするNEC側の配慮を一切辞退して、新製品の梱包を開くところから目の前でやってくれればその手順を誰が読んでも分るように書くと言った。後はメーカーとしてパソコンのユーザーに何をさせたいか尋ね、ワープロとパソコン通信とインターネットの三つはやらせたいというので、それを目的に定めた。素人ならではの質問を重ねて作ったマニュアルの出来具合をパソコンには全くの素人の例の編集委員氏に試してもらい、結局半年弱で作業はは完成したがとてもユーザーに好評らしいと自慢している。
丁度我が家も2年前にバリュースターに買い直したところだったので改めて「分る、できる、役に立つ!!」という副題付きの5冊のマニュアルを眺め直した。なるほど読者が迷わないようにこれでもかというほど懇切丁寧に書いてある。但し我が家の場合セットアップをA氏のお世話になったので、私自身導入時にロクにマニュアルを見ていない。以前に会社でMACを扱った時に感じたが、よい機械はインストールにしろ操作にしろマニュアルなどロクに見ないでバカチョン式に使える。今使っているO.S.のWINDOWS95は使っている内に次第におかしくなり不規則な変調を来たして困っている。残念だがご自慢のマニュアルもここまではカバーできていない。

<火山> 地震・雷・火事・親父なんて平和な時代の想像力の乏しい人々の唱えるコワイものだが、西暦535年の大噴火というのは地球上の人類を破滅の瀬戸際まで追いやった恐ろしい事件だったらしい。今までそんな話は聞いたことがなかったが、英国のジャーナリストで考古学にも詳しいデイヴィッド・キーズ氏が多数の専門家の協力を得て断片的な史実をつなぎ合わせ、約1500年前に恐らくインドネシアのスマトラ島とジャワ島の間で発生した大噴火が如何に大きな後遺症を残したかを記述した(訳書文芸春秋社刊)。
 この大天災は1年半空中に浮遊した塵埃が地球全体を蔽って太陽の光と熱を遮り、以後10年余にわたる気象の混乱を招き世界史に劇的な変化をもたらした。歴史的に闇の時代とも称される以降の百年の契機と以下に述べる一見バラバラな諸事象の遠因がすべてここにあったことを今まで史家は見逃していたように思われる。
 アフリカ東部に発生したペストが紅海を経て地中海沿岸諸地域を席巻した。アジア高原地域の旱魃は蛮族(遊牧のアヴァール族や定住のスラブ民族)を近東や欧州へ駆り立て凄惨な殺戮の連なる民族大移動となった。イスラム教が誕生して急速に中東を抑え、救済に無力なキリスト教にすがる地中海沿岸の東ローマ帝国を衰微させて急拡大した。トルコが勃興し以後千年余にわたるオスマン帝国を繁栄させ、またユダヤ教を奉ずるハザール帝国をも生んだ。ブリテン島は気候変動とペストの大打撃を受けた後、アングロサクソン人の征服が始まりイングランドを成立させた。中南米ではテオテイワカンの都市国家、マヤ文明とナスカ文明が没落した。分裂していた古代中国は打撃のよりひどかった南部が北部に屈することによって秦以来の再統一がなされた。三国に分裂していた朝鮮半島は同様にして新羅により統一された。天然痘が流行り政治が混乱した日本へは朝鮮から多数の避難民が流入したが、導入した仏教をよすがに国家的な政治統一を果たした。
 考証の結果発端は小惑星や彗星など天体の衝突ではなく火山が原因だったことが裏付けられたが、1年半もの間薄日がせいぜいで青空と燦々たる太陽が仰げなかった時代に生きた人々の不幸は察するに余りがある。おまけに大飢饉と危険な疫病、他民族の襲撃などが重なっては中途半端な在来の信仰などふっとんでしまうだろう。記録などないが地球の人口は半減したかもしれないし、動物は更に大打撃を受けた筈だ。いずれ地球にそのような不幸な時期がまた訪れるだろうか。

<捨てる> 最近ベストセラーになったらしい「'捨てる!'技術」(辰巳渚)*を文春で立花隆がケチョンケチョンにやっつけた。捨てるためのテクニック10ヶ条を唱え、思い切って捨てて初めてモノにとらわれない豊かな暮らしができるという原著に対して、人間の脳は過去から逃れられない、思いがけない時に過去の資料が必要になるのは当然で、ヒトは'捨てない'ことを基礎原理としてそれによって形成されるストック中心の社会を発展させてきたのだと説く。特に死んだら後で何の役にも立たないと他人(例えば夫―原著者はそれをやった!−)の所有物まで捨てるというのは他人の聖域に踏み込む不遜な行為で、ひとには分らない主観的なポテンシャルが本人以外に評価できないのは当然であり、こんな人が自分の親でなくて良かった、もしそうなら殺意を抱くとまで立花隆は述べている。もちろん自分の住む環境空間は適当に整理しなければいけないから、悩みながら何とか少しづつ選んで捨てていくのが人間らしいので、立花がこんな本*こそ真っ先に捨ててしかるべきだと言うのには我が意を得たりと思った。だがそう云いながらもeメールが毎日たまっていくのをどう整理するか私はいつも気にしている。

 

<IT革命> 昨今猫も杓子もITというし、これによって景気回復を実現したいと政府は公共事業予算をこの方面に集中する気らしいが、どうもこのような総花的な認識と施策には基本的な間違いがあるように思えてならない。アメリカの最近の統計によればIT革命によって企業や個人の生産性が却って低下しているというし、ネット関連企業株の乱高下により国民の貧富の差が拡大しているという。情報をもたぬ人間が株に手を出しても儲けられるわけがない。インターネットによる商取引が喧伝されているが、これとて私のように身体が不自由で出歩くのが困難な人間にさえあまり魅力的に感じられない。森首相の主導するIT基本戦略会議で10年後に世界最強のIT国家を目指すなどというが、既に官僚が足を引っ張っているらしいし10年後に省みて先見の明があったと評されるような成果を挙げるとは思えない。ラストワンマイルへの対応として最近ではレーザー光線を無線通信のように利用してデータ送受信を行なう技術も出現した。公共事業で10年かけて光ファイバを引きまわすなど笑いものになるかもしれない。

<せんべい> 暇のある私のような生活では喫煙を自ら禁じている以上間食を全くしないというのもむづかしいことだ。最近の体重測定の結果気をつけているつもりだったにも関わらず、2年前の退職直後に比して5kg増加していることを知った。これ以上の体重増加を防ぐために間食の対象を選択すると、せんべいは大きさの割に内部は空気が多く軽量な故に好ましいものだが、これを食すると如何に噛み方を注意しても多数の砕片が飛び散ることに気が付いた。最初から小さい形状で口の中にスッポリ入ってしまう場合はよいが、10cm以上の円盤に噛み付く破砕行為によって机の上に数十個の微細なピースが飛び散って、丹念にこれを拾い集めないと以後の机の上でのマウスによるパソコンの作業を妨げてしまう。一方で小さいせんべいではその心配はないが、身体の充足の点から続けてつい何個も口に入れてしまいがちだからかえって問題だ。小さな葛藤の種は尽きない。



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