6月の話題


2003年6月

<超大陸パンゲア> 子供の頃から世界地図を眺めて南米大陸とアフリカ大陸の南端の形状が極めて類似しており、北米大陸の南端もやや類似していわくありげな形で南米大陸に繋がっていることに気が付いていた。インド南端もやや似ている。地理に興味のある人なら誰でも多かれ少なかれ同様な感想をもったに違いない。
 約100年前にドイツの気象学者アルフレッド・ウエゲナーは南米大陸とアフリカ大陸の輪郭がジグソー・パズルのように組み合わせられることに気が付いた。彼は地球上に離れて存在する6大陸は昔は一つに固まっていたという大胆な仮説を発表した。


 近年プレート・テクトニクス理論によってウエゲナーの仮説は裏付けを得て、嘗ては地球上の大陸は超大陸パンゲアとして一つにまとまっていたが、約2億年前から分裂を開始して現在の姿になったことが信じられるようになった。パンゲアはまず南北の2ブロックに分かれた。北側のブロックがローラシア大陸で、現在の北アメリカ、アジア、ヨーロッパが含まれ、南側のブロックがゴンドワナ大陸で、アフリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極大陸、インドなどが含まれる。この二つの大陸の間に大きな入り江があり、テチス海と呼ばれている。
 地表から約3000mの深さからマントル流が上昇し、地殻付近で左右に拡がる水平流になる。分裂によって大西洋が生まれ、現在も大西洋中央海嶺(海底火山山脈)を中心として大西洋は拡大中である。北米大陸と南米大陸は西に押しやられ、東に押しやられた南半球のアフリカ大陸から南極大陸とオーストラリアが分離し、次いでインド亜大陸が分離し赤道を横切って北進しユーラシア大陸に衝突してヒマラヤ山脈を造成しつつある。更にはアフリカ大陸東部には南北に縦断する大地溝帯が発生して、新たに大陸を裂きつつあるのが現状だ。
 興味は更にパンゲア大陸成立以前に遡る。マントルの上昇と下降は周期的に優勢・劣勢を繰り返し、それに伴って地殻の集合による超大陸の出現と分裂・離散が繰り返されたようだ。10億年前にロデイニア超大陸、5.5億年前にゴンドワナ超大陸ができた。このゴンドワナ大陸は主として南半球、赤道付近から南極に拡がり、大きな氷河を造成した。この時代には北半球に陸地がなかった。
 こういった大陸の消長以上に地球上の生物に大きな影響を与えるのは気温の変動だ。地球は10〜8億年前に赤道まで氷河が覆うという全球凍結の事態があったという。太陽の光も氷によってほとんど反射されてしまって2度と回復しない筈だったと言う。全生物の96%が死滅した。それを救ったのはやはりマントル流の上昇による地球内部の熱の噴出だった。こういった変動のからくりは明らかになっていないが、中長期的に再び地球は寒冷化の方向に向かうとされている。過去に何度も起きた民族大移動は寒冷化による農作物の不作が誘因となった。そうしてみると昨今騒いでいる地球の温暖化で平均気温が2度上がるなど物の数ではないのかもしれない。

<時代の変遷> テレビで息抜きの“みんなの歌”をやっている。毎日やっているので聞き流していたが、ふとオヤと思って注意して聞いてみた。画面では二人の少女の人形が踊っている。
 「テレビが来た日、それは歴史に残る日 テレビが来た日、この僕は学校を休んだ 電気屋さんの来る道に赤いじゅうたんを敷いた ご近所の人も集まってテレビの到着を待った テレビは何故か床の間に ドンとすわった テレビが来た日、八帖の部屋は劇場に変わった 八帖の部屋はすし詰めで、立ち見さえもあった」・・・一体これは何だ。最初は最近躍起になってN.H.K.が宣伝しているデイジタル・テレビのP.R.かと思ったが、歌詞を聴いているとそうではない。どうも昔々(もう50年近く前)一般にテレビが普及し始めた頃の状景のようだ。“ご近所”とか“床の間”など団地や高層ビルの現代住環境とは異なる昔からの長屋の感覚らしい。
 ただし踊っている女の子の姿は50年前のそれではなく、現代の少女の風体をしているから変に錯覚してしまう。今の若い人がこんな歌詞を作るわけがない。どう考えても作ったのは我々の世代の人だろう。調べてみると阿久悠作詞作曲で復活したピンク・レデイーのケイこと増田恵子が歌う。大学3年の頃街角に街頭テレビが設置されて、大相撲の放送の時などは人山ができたことを憶えている。次第に手の届く価額になって急激に一般家庭にも普及した。しかし歌詞にあるような感慨は明らかに過去のもので、いくら開局50周年記念だと言っても感情は若い人には復活しない。
 「兎追いし かの山、小鮒釣りし かの川」(“故郷”の一節)という歌詞が多くの人にとってもう実体験としての馴染みがなくなっているように、環境や文明の変遷は懐旧の情まで遠く押し流してしまう。たまに昔の歌として口ずさむのはいいが、そういう内容を“みんなの歌”として毎日流すのは私にはどうにも奇妙に感じられてならない。それとも若い人たちは自分らの知らない昔にそういう状況があったのだということを認識して興味深くかつ快く感ずるのだろうか。ただしこういう企画に反対しているのではない。私自身懐かしく思ってもいるのだから。

<生命の歴史> 今月冒頭の話題に次いで、宇宙船地球号に芽生え育った諸生命の来し方を考えてみたい。教材は「生命40億年全史」 著者は地質学者リチャード・フォーテイ(草思社)。如何にして無生物の世界に生物が生まれたかという謎には流石に著者もまともには答えられないが、熱心に論じてはいる。彼は「無生物を生物に転ずる生命の火は一度、たった一度だけ火花を散らした。その理由は存在するすべての動・植物の遺伝子を構成する分子を調べても、すべての系統は一つの共通の祖先から分かれたことを示す証拠しか見つからないからだ。」と言っている。また彼は地球上に最初に出現した細胞は細菌で、それは深海底で高温の熱水が噴出している中央海嶺で発生した嫌気性細菌ではないかという。生命は宇宙から飛来したのではないかという説もあるが、何の裏づけもない。

 最初に繁殖したのは藍藻(藍色細菌)で、光合成によって小さな酸素の泡を吐き出した。凡そ35億年前の岩石から現生する藍藻そっくりの糸状体微化石が発見されている。当時の大気には炭酸ガスはあっても酸素はなかったが、以後の厖大な時間をかけた光合成作用によって大気中の酸素は増大して現在に至っている。現在もオーストラリア周辺浅海域でマット状のストロマトライトに太古と同じ藍藻の生態が見られる。細胞は他の細胞を捕獲することでそのサイズと複雑さを増大させた。多様化は性の分化によって加速された。両親から受け継いだD.N.A.を組み合わせる方法によって遺伝的多様性は容易になる。
 菌類に次いで植物が先行して発達し、動物はその後に続いた。植物は光と水さえあれば生育できるが、動物は食物の確保という難題を背負い、生存競争に負ければ絶滅が待っている。まず海洋にクラゲや多様な軟体動物が発達した。だがカンブリア紀の始まる前(約10億年前)に有史以後最大規模の環境激変があり、動物群の継続性は途切れている。その詳しい状況は不明である。全世界中のカンブリア紀の地層からは代わって炭酸カルシウムの固い殻をもつ動物が発見されている。そしてこれらの生物は生き延びるために爆発的な進化を遂げた。
 オルドビス紀(5億年前)になるとサンゴが出現し大量の礁が発達した。だがこの紀の終ごろは氷河時代に入り、代表的な動物三葉虫の大部分が死滅した。シルル紀(4.4億年)に入ると植物は上陸を開始した。陸に上がった植物は樹木として自立するために管を束ねた構造をとり、リグニンで組織を補強するようになった。植物を追って動物も上陸したが、初めは大型の動物ではなく、土中の有機物を細かく砕き食べて分解し糞にして再び土に返すリサイクル活動に従事する土壌分解動物群である。これらは目立たないが大事な役割を果たして植物と今日に至るまでよい相互依存の関係を築いている。


 石炭紀(3.6億年)には樹木は亭々と聳え立つようになる。植物間では光の争奪をめぐる競争が激化し、そのため樹高は30mにも達し下枝はない。光合成を行なう樹冠と水や養分を吸い上げる根の間は強度をもった幹の中を束状の仮道管が通っている。著者は葉の表面からの水の蒸散を補うべく毛細管現象で水が吸い上げられるのだと説いていて、大気圧では10mしか押し上げられないからこの地質学者は明らかに誤っているが、それを咎める私も代替原理の説明ができないのだから同罪だ。このような昔から人の知恵のなさをあざ笑うかのように営々と植物は炭酸同化作用による炭素の固定でエネルギの蓄積を行い、現代人が石炭・石油の形でそれを利用させてもらっている。
 この頃動物では昆虫と両生類が発達した。大型のトンボが飛翔していた。海ではウニの一種ウミユリとサンゴが栄え、腕足類(貝)の全盛期だった。先に述べたように石炭紀の終りには世界中の大陸が一つに合体した。その大陸塊をパンゲアと呼ぶ。石炭紀は生命が満ち溢れた世界だった。巨大な大陸を囲む浅海、特にテチス海には多くの海生動物が生息していた。陸上では爬虫類が繁栄しまた哺乳類も生まれるなど脊椎動物が揃い始めた。
 こういった繁栄は2億5000万年前、ペルム期末のすさまじい大量絶滅で世代交代を迎えた。原因は諸説あるが、いずれも決定的な根拠がない。超大陸の形成によって気候は悪化し、大陸中央部には広大な砂漠ができたし、氷河が発達したことは確かだ。海水の塩分濃度が激減したという説もある。いずれにせよ変化はジワジワと来た。テチス海では最も顕著な大量絶滅が起こった。三葉虫は消滅しサンゴも消えた。プレートの配置によって海流や気団の流れが変更され、気候のパターンを大幅に変えた。海水と気候の物理化学的要因が結集して、パンゲア上および周辺の生物たちを締め上げ、選別にかけた。
 中生代の三畳紀に入るとパンゲア大陸は分裂を始めた。陸では爬虫類が繁栄し、海ではアンモナイトが出現し、サンゴ礁が復活した。貝類、魚類は食うか食われるかの争いの中で、新しい攻撃法と防御法の発明を行い、白亜紀に入ると(1.4億年前)攻防は更にエスカレートして軍拡競争のように自らを変容し多様性を増した。陸上では花と昆虫が様々な形で相互に働きかけ、相互依存の関係を深めた。恐竜のあるものは飛翔能力を得て空を飛んだ。いわゆる翼竜で鳥の祖先とされる。

 今から6500万年ほど前の白亜紀と第三紀の境界(これをK.T.境界と呼ぶ)で激変が勃発した。いわゆる恐竜の絶滅であるが、もちろん多くの生物が一度に死滅した。この件については20世紀半ば過ぎから全世界で綿密な探索がなされた。その結果該当する地層のイリジウム濃度が周囲の10倍近い値と判明した。更に1981年以降何十ヶ所のK.T.地層を調べた結果、イリジウムの他に何箇所かで衝撃変性石英が発見された。これで疑いなく巨大な隕石の衝突が原因ということになった。衝突の衝撃で巻き上げられた塵からなる雲が長期間地球を覆い日光を遮断し、寒冷化し植物は枯れ果てて動物たちの食物も消滅したに違いない。なお隕石の衝突跡は熱帯の森に覆い隠されているが、ユカタン半島のチクチュルブにあり、クレーターの直径は200q(200mではないぞ)と推定されている。
 陸上を支配していた大型爬虫類(恐竜)が滅んで、それまで日陰者だった哺乳類が何とか生き延びて表舞台に登場する。温血動物は気温変化に対応しやすいこともあり、哺乳類の適応放散が急速に進行した。その後哺乳類が辿った歴史はプレート・テクトニクスという駆動力によって引き裂かれた大陸塊に乗船して運命を共にし、それぞれ隔離されたことで独自に進化する道を選んだ。
 オーストラリアは早期にパンゲアから分離し孤独な航海に出発した。他の大陸と異なりこの大陸の主たる哺乳類は有袋類であってカンガルーなどは他の猛獣の不在な環境で栄華を極めた。南アメリカでもナマケモノなど奇妙な動物がいくつも存在したが、やがて離れていた北米大陸との連繋がパナマ地峡の形で復活すると雑多な肉食獣たちが北からやってきて南米に住み着いた。マダガスカルはアフリカ大陸から離れて多種のキツネザルを育てた。南極大陸は極寒の地域に移動しペンギン、アザラシ以外の動物を死滅させた。かの大陸が氷床に覆われる前に哺乳類がいた証拠がある。
 最後に人間である。人間とチンパンジーの系統が分離したのはおよそ500万年前というが、人類とおぼしき二足歩行の足跡は360万年前のものが発見されている。その後発見された頭骨から進化の順の命名はホモ・エレクトウス(北京原人)、ホモ・サピエンス(クロマニヨン人)、ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)。もう少し近くなって約3万年前に人類はアフリカからアラビア半島、中東からアジアへ移動した。一部は15000年前に結氷による海水位の低下によって生じたベーリング海峡の陸橋を通り北米大陸まで渡った。更にはパナマ地峡を経て南米大陸に至った。別グループは島伝いにインドネシアからオーストラリアへ到達した。これらの人類の記録にとどまる活動は地球上の生命誕生以後の時間に比べるとまだその10万分の一にも満たない。
 実に壮大で興味の尽きないドラマではないか。長大な時間軸の中では何度もの温暖化と寒冷化のサイクルがあり、その都度海水面は上昇と降下を繰り返した。それだけではなく地殻の大移動に伴う大陸の配置変更が海流・気象の激しい変動を呼んだ。更には宇宙からの招かざる訪問者もあり、まさに天変地異の舞台で生命が運に身を任せて生まれ育ち、なおかつ健気にも環境への適応・進化を続けてきたわけだ。

<気象予報> このところ天気予報の外れが目立つ。前にも触れたが、長期・中期予報はおろか次の日の予報が外れる。最近は翌日指定時刻の雨雲の分布状況を日本地図の上に重ねてテレビ画面で見せることができるようになったが、これが当らない。ああやって推定結果を具体的に画面表示するのだから、裏ではスーパーコンピュータによる3次元流れ解析を繰り返しやっているのだろうが、入力データが杜撰なのか或いは計算ロジックの適用方法に不備があるのか。
 毎日夕方に気象予報士であろう専門家が素人の女アナウンサーにやんわりと昨日の予報が当たらなかった旨指摘され、あまり納得しにくい弁明をするのは格好が宜しくない。その癖に明日の予報になると性懲りもなくシャアシャアと断言する。少しは自信のない様を見せてくれと言いたくなる。
 一般的な傾向としては気象の変化が予報より遅れることが多い。予報より変動が早いことは滅多にないのだから、計算結果に対して統計的な手法で修正を加えたらよいのではと思う。私のような素人が見ていて計算結果にある程度自信がもてるのは6〜8時間後までではなかろうか。またこれだけずれの大きい手法をそのまま中・長期予報にそのまま適用しているのではないと思うが、一度その内幕を公開してもらえないだろうか。
 素人のアナウンサーが明日は携帯用の傘を持参したほうがいいでしょうなどと言うのは適当に聞き流せばいい。昨夜はテレビ朝日のニュース・ステーションで上山千穂アナが「梅雨入り宣言が出たので明日は肌寒く長袖がいいでしょう」なんて言ったが、予報に反して今日は日差しもあったし蒸し暑かった。

<通信社会の混迷> 昨年9月に自宅のパソコンが壊れて、すったもんだの挙句パソコンを新調するとともにインターネットへの接続をISDNからADSLに改めた顛末は既に詳しく書いた。当時N.T.T.はまだISDNの宣伝をやめていなかったので、そのN.T.T.にADSLを利用するために一旦ISDNを止めて通常の接続に戻してくれと申し入れるのに時代に逆行するようないささか奇妙な錯覚を覚えた。だが結果的に見るとそれまで月々2万円台かかっていたN.T.T.への支払い費用が2千円台に激減し、なおかつインターネットに1日に何時間入ろうと費用は変わらないという通信事情の激変振りである。
 また昨今電話がかかってきて「お宅の電話を“BBフォン”にしませんか、電話代がただになります」と言う。取り敢えず断ったが、別の新しい事態が進行していることは察知できた。
 関連して今回読んだのは「通信崩壊」(藤井耕一郎・草思社)、その副題に「“構造改革”で通信業界は死滅する」とあって“I.T.革命と規制緩和の結末”という解説が付いている。この本(報告書)に沿って通信業界の現況とその混乱の要因に立ち入ってみよう。
 まず世界的に見て大規模な通信事業者は軒並み巨額の赤字に転落している。先ずこれから詳しく述べるN.T.T.は前年度にやや持ち直したものの、前々年度は史上最悪の8000億円の赤字を出した。K.D.D.I.、日本テレコムも同様である。N.T.T.と同様に国営事業から民営化への道を辿ったヨーロッパの電話会社ブリテイッシュ・テレコム(英)、ドイツ・テレコム(独)、フランス・テレコム(仏)も皆赤字だし、米国のAT&T、ワールドコムは破綻または破綻寸前になっている。
 こういった事実は一般にはあまり知られていないが、端的に言って通信業界は崩壊直前にあり、その理由に1)各国が採っている国際レベルの競争政策、2)インターネットにからむ通信技術の加速度的な進化、3)政策立案・推進者間の利害関係が挙げられる。
 通信業界に森内閣の時から“IT革命”なるスローガンが登場し、やがてこれはインターネットの高速化を目指す“ブロードバンド革命”に変じて国策として推進する政府の“IT戦略本部”のメイン・テーゼとなった。これは経済危機からの脱却に成功した韓国の先行に追随し直輸入する形で行なわれた。もともと通信の規制改革を進めたのはW.T.O.で、それに従う本部の政策の基本は“アンバンドリング”で通信に関する諸機能を“分割”して競争を促進する。以下は日本における最近の主要な変化の特徴に注目してみる。

 まず2001年春から夏にかけて“マイライン”騒動があり、N.T.T.東西と新電電各社が消費者の登録獲得をめぐって激しい値下げ競争を演じた。結果としてN.T.T.は従来の顧客の大部分を取り込んだが、電話代は下がった。
 次に携帯電話だが、激しいモデルチェンジを繰り返して昨年夏には契約数が7000万を突破した。その内5000万を超える人たちは“iモード”に代表される“携帯IP接続サービス”によって電子メールやインターネットサービスを申し込んでいる。
 N.T.T.は全国津々浦々を網羅する電話線網を所有しているが、他の事業者に接続を申し込まれれば断れない仕組みが法制化された。これが“アンバンドリング”の第一歩であり、“マイライン”騒動の基になった。脱線するが日本語ワープロ・ソフトは市販のパソコンに自由に組み込めるようになり、在来のワープロ専用機の販売が停止されたのも“アンバンドリング”の結果である。“アンバンドリング”によってユーザーは今までより安くサービスを受けられるようにはなるが、今までのように一括まとめて面倒を見るところがなくなったので、得失を承知して自分で適正に選び裁かなければならない。


 N.T.T.がISDNをインターネットに適した回線として営業に力を入れている最中にADSLが登場した。ADSLは一般の加入電話線(銅線)を使い音声通話に影響を与えずに高い周波数帯を使ってデータの授受を行なう。ADSLの事業者はインフラ投資の必要なく参入できるので、これは究極のアンバンドリング技術である。通信速度でADSLはISDNの10倍以上あり、しかも使用時間に比例した回路使用料もとられない。
 N.T.T.の言葉を信じてアナログ回線をISDN回線に切り替えた1000万人の利用者はN.T.T.に裏切られたことになった。N.T.T.自身もISDN化のための巨額の投資が宙に浮いた。通信を生業とし、日々その技術革新に取り組んでいる筈の通信事業者が次になる技術を見誤り、恥ずかしいことに巨額の不良資産を発生させたのだ。

 通信事業者N.T.T.を襲う技術革新はこれにとどまらなかった。これまでは新しく開けたインターネットの分野で電話通信事業者が新たな事業利益を得そこなった話だが、今度は本業の電話事業に火がつく話であり、“IP電話”と呼ばれる新たな通話方式だ。“IP電話”は広い意味では一般のインターネット網を使う電話やパソコンにヘッドセットをつないで通話するいわゆるインターネット電話も含むが、ここで取り上げるのはサービスを提供する企業が管理する専用のIP回線網を使い、電話機から電話機へかける見かけの上で在来の電話と変わらぬ通話方式すなわち狭義のIP電話についてである。
 専用の回線を利用するにも関わらず従来の電話のように通信回線を占有せず、音声データをパケットに分割し空いている回線経由でやりとりするので、通信効率は在来の固定電話を上回り、通話料を大幅に安く設定できるという。長距離や国際電話でも高い料金は不要だ。このIP網は一般のインターネットと繋がってはいないが同じ仕組みで動いているインターネット技術による通信なのだ。
 遂にN.T.T.は在来の固定電話網につながる交換機への新規投資を停止し、インターネット技術を活用したIP電話網の構築に全面移行する。だがこの新たな投資がN.T.T.の収益を改善する保障はない。N.T.T.社内の大量リストラは避けられそうにない。在来N.T.T.から大量受注していた交換機メーカNECや富士通は大打撃を受けた。かかる変化を通じて在来の独占事業者N.T.T.はいわゆる構造改革“IT基本戦略”のターゲットになった。著書ではその旗振り役は竹中平蔵で、浮かび上がったのはソフトバンクの孫正義だと書いてある。
 一方で既にIP電話をスタートさせているフュージョンや「圧倒的に安い」と宣伝しているヤフーBBの“BBフォン”にも不安材料は多い。ネットワークに障害があったりすると自動的にN.T.T.など他社の回線に切り替わってしまうとか各種のトラブルが絶えないようだ。未だに固定電話の回線網がバックアップとして欠かせないというし、ファクシミリもまだ接続できない。第一現状では110番、119番の通報が不可能という。このように通信業界では既成の秩序が壊れ、なおかつ新秩序は未整備の混乱状況にある。国際電話など滅多にしない一般ユーザーはもう少し様子を見るのが賢明のようだ。

 他方で高速の無線LANの実用化が始まった。空港や駅など人の集まるところに無線のインターネット網が設けられ、その特定の地域では高速インターネット・サービスが受けられる。これをホット・スポットと呼ぶがこれが急速に増えてきた。これによって固定電話とIP電話の間に生じているのと同様のせめぎあいが携帯電話と無線LANを利用したインターネット電話との間にも起こり始めた。この世界は実に変化が早い。

<阪神と巨人> 阪神タイガースが今年もスタートから突っ走っていて、どうせ昨年と同じようにいずれ息切れするだろうと思っていたが、6月下旬になっても勢いは衰えず貯金は26、2位巨人とのゲーム差は11と開いた。阪神ファンの応援は甲子園にとどまらず、東京ドームや神宮球場でも相手チームを圧倒する勢いになってきた。私は以前からアンチ巨人だが、ここへきて大の阪神ファンになってしまった。隠れ阪神ファンというのは結構多いらしく、この度は福井新日銀総裁が星野監督と30分余にわたって歓談・激励したという。
 これだけの差がついた第一の原因はやはり2位巨人の不振で、対阪神4勝11敗と大きく負け越したことだろう。スタート直後から故障者続出でこれがチームの足を引っ張った。清原も高橋も頑張ってはいるがまだ完全な体調には程遠いようだ。ペタジーニも脚を痛めた。原監督は長島の後を継いで2年目だが、逆境に関わらず暗い表情を見せず采配は誤ってはいないしよくやっていると思う。ただチームの攻守のバランスを見るとき長島巨人の時から尾をひいているが、投手陣に不甲斐なさがあり今年は特に目立つ。上原をはじめ桑田も工藤もダメだし中継ぎ陣が頼りない。河原、岡島などスッカリ精彩がなくなってしまった。長島も原も打撃重視の内野手出身で、投手の替え時はよく分からないだろう。それにも増してよいピッチャーを育てることが苦手らしい。斉藤も投手コーチとしての力量は疑問だ。指導者として苦労が足りない。
 その点投手出身の星野の方は勘所を抑えられる。阪神投手陣は多数の補強を行なったわけでもないのに見違えるほど強力になった。米大リーグの落ちこぼれ伊良部は復活した。藪、井川、下柳なども頼りになる。打撃陣は金本が加わっただけだが、この人が強力な反撃を行なうチームのつなぎ役を兼ねた原動力になっている。老兵八木の活躍まで引き出した。逆転勝ちが続くのは投打が理想に近いほどうまくかみ合っているからだ。バックの熱狂的なファンたちは18年ぶりの優勝をまさに待望している。勝ちがまた期待を高めるいい循環に入っている。球場をゆるがす声援には選手も応えたくなろう。
 やがて夏の高校野球が始まると阪神はいわゆる“死のロード”に出る。ここで腰砕けにならず折角の貯金を増やさずともあまり減らさぬようにできれば、今年の優勝は決して夢ではない。阪神が優勝すると景気がよくなるという説がある。人間思わぬことが起こると発奮するから、マンネリ打開は確かに効果がありそうだ。星野仙一さん頼むぞ。




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