
<杖> 日課の散歩をする度に自分の体に問いかける。今日は調子はどうだいと。腰から下の筋肉が硬く弾力性に欠けるので、二本足での歩行はバランスを崩した時の立て直しが利かず往々にしてそのまま倒れこむことになるから、必ず杖を突く。歩行中には必ず両足と右手の杖の3支点の中に重心が落ちるようにする。左足のつま先が路面からほとんど持ち上げられないので路面の凹凸に常に気をつけていないとつまづく。路面から目を離すと危ないので周囲を見渡す時は一旦止まる。歩行開始時には右足の筋の硬直度が強いために左右の揺れが大きく杖を持つ腕の負担が一段と大きい。100mほど歩くとその硬直が一応ゆるんで少し安定した歩行ができるようになる。足場の悪いところでは慎重を期すためにへっぴり腰になり歩幅が縮まる。その態勢を立て直すためには腰を伸ばすのが有効。腰を伸ばすと歩幅が伸びる。そのためには杖が決定的に重要だ。杖がなければまさしく腰は曲がったままになってしまうだろう。夢の中で杖を持たずに歩いていて「しまった、どこに杖を置き忘れたのだろう、いざというときにどうしよう」と思い、目が醒めて「ああ夢で良かった」と嘆ずるのだから情けない。
<道路> 堺屋太一の近作「秀吉」で信長の上洛の描写。―荷駄を含めた織田軍約5万の列は長さ6里に及び出陣だけでも午前7時から午後5時に及んだ。岐阜から近江に抜ける何とか整備された道路の幅は1間、本陣や前線からの注進を届ける騎馬武者が通れるように右端を空けると騎馬は1列、徒士は2列の縦隊となるー 私の住んでいた岡崎の家は東海道の街道筋に面していて、家並みが切れると松並木が続いているまさしくこの昔の道路幅を私は体で憶えている。これでも2間ほどで大型トラックのすれちがいは困難だ。今川義元も大軍を率いて東海道鳴海付近を西進中長く伸びた隊列の薄みを信長に突かれた。ムダとも思えるようなゆったりと広い道路などというものは昔も今もない。人や車がどっと出れば渋滞するのが当然ということになっている。たまに100m道路などといっても中央部分は花壇にしてしまう。
<爆撃> NATO Air Attacks on Power Plants Cross a Threshhold By MICHAEL R. GORDON
Broadening the scope of its air strikes, NATO attacked Yugoslavia's electrical system, cutting off power to millions of civilians as well as military units in the field.
これは5月4日ニューヨークタイムズ国際欄の冒頭記事である。現代の文明社会における最も基本的なインフラである発電設備の破壊は明らかに軍事専用の目標という一線を越え、長期にわたり一般市民を苦しめる重大な行為である。ユーゴのミロシェヴィッチ大統領の翻意を促す代償は遂にここにまで及んだ。コソボ紛争に関する連日の報道は他愛ない話題を口にするのがはばかられるほど暗い気分にさせられる。嘗て笹川良平が「世界は一家、人類は皆兄弟」と唱えたが、これは人のさがを知らぬたわごとか、あるいはそれを意識しながら容易に達成できぬ理想を敢然と掲げたものなのか。

<富士山> 1年を通じてカメラを富士山に向けその画像を常にインターネットで提供しているホームページがある。そこでは富士山が良く見える日には電子メールで報せてくれるサービスをしているということを知って半信半疑で申し込み、忘れかけていたら5月7日にそのメールが届いた。早速サイトを訪れると30分置きの今日一日の過去の画像がとってあり、麓ははっきりしないが7合目辺りから冠雪した美しい映像(8.30AMが最も鮮明)を見ることができた。伊豆半島の西端戸田港から駿河湾を隔てて望む観測点である。関連データとして 山頂の気温 −8.1'C (6:00am) 山頂の積雪 156cm とあった。申し込んでから2週間以上経過していて、春は霞など水蒸気が多く気流が不安定ということか。
<生き方> シンガーソングライター小椋 佳。今と違って花の銀行マンと言われた時代に一流銀行を役員就任直前に自己都合退職。美空ひばりの「愛燦々」など数々の名曲を世に出した。彼は座談で大和言葉に詳しいところを披露した。曰く「ふるまい」とは振りと舞いから成ると。日本人の右へ習え的な性癖が話題になると、「和」というのはなれあいではない、違うものがうまく組み合わされた状態を言うと。「ことわり(理)」とは違いを明確にし区別して考えることと。そしてこれからは「個」の時代、「創造」の時代だと説く。学校で訓えるべき「学び」とは答えの用意されていない問題を解くことだと。最後に自分で自分なりの生き方を探すことだと述べた。彼は彼なりに立派にこの答えを出しているが、彼ほど多才でない凡人はそこで悩むのだ。
<竜巻> 米国中央部の平原でこのところ超大型の竜巻が荒れ狂っている。暗雲の中から黒い漏斗が降りてきてその下に垂れ下がった鮮やかな黒いホースが揺れ動くのが遠望される。竜巻の大きさの等級はF1(テレビのアンテナが飛ぶ)からF5(自動車や列車が飛ぶ)まであるそうで、このところこのF5級で1日に百人近い死者が出たと言う。通過した跡の空撮では住宅地が平等に1軒残らずなぎ倒され残骸と化している。住民はお手上げだ。対策としては予報をよく聞き目で確かめながら車で別の方向に待避するしかない。道はどこも空いている。これを他人事としてテレビで観ている立場としては吸い込み水槽の渦発生実験を思い出した。ポンプの吸い込み水槽の形状モデルを作り没水深さを減じていくと、始めは断続的にやがて連続の鮮やかな渦糸が現われる。この渦の発生、成長を防止するのに吸い込み口と水槽壁面との距離を変えたり旋回流防止壁を設けたりする。竜巻が何も遮るもののない大平原で跳梁することを考えると、東西南北に一定の間隔で万里の長城のようなものを建設し渦流のエネルギを消費させるのはどうかと思う。但しその壁の高さと間隔はどのくらいにしたらよいかはそれこそ実験が有効だろう。勿論吹き倒されないような基礎工事と壁の強度が必要だ。道路の幅ぐらいは開けて構わない。とてもダメだと思うより小規模でもやってみるとそこだけ竜巻が避けて通るかもしれない。

<ロボット> このたびソニーが発表したエンターテインメントロボットは「AIBO」と名づけられている。「AI」は人工知能(Artificial Intelligence)から、「BO」は「ROBOT」から取った。「アイボ」という発音を「相棒」にかけ、ユーザーの伴侶にしてもらいたいという希望も込められている。 メーンのCPUは64ビットRISCプロセッサー▽16MBのメーンメモリー▽頭部に18万画素CCDとステレオマイク、タッチセンサー、測距用赤外線センサー、発声用のスピーカー▽胴体部に、温度センサー、3軸加速度センサー、3基の角速度センサー▽4本の足先にスイッチを備える。また、あご部1、くび部3、脚部3x4、尾部2の自由度を持ち、普通の四足動物とほぼ同じ動きができる。まるでセンサーとコンピューターとモーターのかたまりだ。感情、本能を持ち、さまざまに成長する。 国内3000台、米国2000台という限定販売で、受注もインターネット経由のみ(6月1日受注開始)。価格は25万円で、現段階ではマーケティングのためのテスト販売で一般への普及を狙った商品ではないと言う。 第一感これはソニーが新たな流行の先陣を切ったことになる。犬や猫など生きた動物と異なって面倒な世話が要らず、タマゴッチなどに見られる様に好きな時に自分なりに育てて愛玩したい人間の欲望に応えるすぐれた商品が出れば大ブームになるだろう。新産業のスタートだ。
<悪名高き> 塩野七生著「ローマ人の物語」第7巻「悪名高き皇帝たち」を読んでいる。題名からこれはローマ帝国を没落させた皇帝たちの話だなと思ったがさにあらず。ジュリアス・シーザー、アウグストウスというそれぞれ7,8月の月の名として後世に伝えられた名君の後を継いだテイベリウス、クラウデイウス、ネロ(最後は職務不履行で追いたてられるが)という皇帝たちの業績が記されている。これらの皇帝たちは広汎なローマ帝国を実によく治めている。ただしよくやる割には民衆を酔わせ敬愛させるようなパーフォーマンスには欠けていた。著者に言わせると人間は心底では心地よく欺かれたいと望んでいる存在であり、それなきが故に誠実に政治を遂行したこれらの皇帝に不満を漏らし嘲り、果ては愛想を尽かした。しかしその治世の間ローマ帝政は揺るぐ事無くむしろその機能を高めていた。現代では国の政府が組織的に実施する政治を近東を含むほぼヨーロッパ全域について軍事面を含めて皇帝は個人の力でやらなければならなかった。立法府である元老院の信任を受けることも含めて皆よくやっていたと感心する。最高の責務感をもたされた人は孤独な環境の中で、非の打ち所なくとはいかないまでもそれぞれかなりのことをするものだ。
<故人追憶> 先月村上文祥氏が逝去された。2年先輩であり営業と技術に分れて仕事の上での付き合いはほとんどなかったが、囲碁の師になってくれ、いつも気安く好意的に接してくれて私が会社の中で最も大きい影響を受けた人である。このほど「棋道」に2ページの特集記事が組まれ元気なころ(アマ十傑戦最後の優勝―15年前)の写真で往時を想い出した。囲碁というゲームを社会人としての企業人生にも巧みに応用した人と思う。彼が折々考えたことを文書にできていたら随分人の参考になる語録になったと思う。独身寮時代から碁は逆立ちしても敵わなかったが、将棋は一度だけ平手で負かしたことがある。尤もその後で紫の袱紗から取り出した将棋駒(逸品らしい)で容赦なく打ちのめされたが。負けず嫌いのくせに人に憎まれない人だった。人徳というべきか。研究心が強く井目置かせる碁を進んで打つのに感心したものだ。社内の事務屋さんにして技術分野への理解が最も深かった。歳を取るとほどほどに逃げるのが普通だが人並み以上の好奇心を隠さなかったことに私は率直な好意を持った。お互い暇になったのでこれから改めて碁を教えてもらおうと思っていた矢先で残念だ。肝臓は酒席の多いウチの営業幹部の宿痾である。

<ハッカー> Hackers Invade FBI and Senate Sites By MICHAEL JANOFSKY
Internet sites for the Federal Bureau of Investigation and the Senate remained inaccessible after hackers launched a series of electronic attacks against some state and federal government computers.
F.B.I.の取締りに怒ったハッカーが際限のない回数のホームページ訪問を仕掛けて一般のアクセスを不能にしたというN.Y.TIMESの記事である。誰がやったか簡単には突きとめられない。世はインターネット時代というがこういう秩序破壊が防げないのは皮肉だ。
<近代日本史> 街頭にくりだした若い人たちに無差別にマイクを向けて「日本とアメリカが戦争をしたことがあったと思うか」と訊くと明らかに焦った表情で連れの友人の顔を見ながら「知らない」と答えるケースが相次いだ。60%強がそうだという。この人たちに罪はない。こういうことも教えない学校教育というのは一体どうなっているのだ。愚かな人間たちが昔何をやったかを記す歴史を知ることは何よりも大事なことなのに。
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