―囲碁―


 第7章

<第34期名人戦> 

○名人戦 第34期名人戦は2009年10月15日第5局が行われ、井山裕太挑戦者が4勝1敗の成績でタイトルを奪取し、20歳という史上最年少の名人が誕生した。振り返ると第1局は張栩 名人が半目勝ちしたが、その後はすべて中押しで井山挑戦者が圧勝している。実際打ちぶりを観察すると、井山挑戦者は極めて積極的で、張名人を気力で圧倒しているように見えた。従って決着が着く前の第3局あたりからタイトル戦の行方が予見できるようにさえ思われた。相手は現在日本囲碁界の5タイトルを独占している無敵の張栩なのにである。

 第4局では既に第1日目に井山は明らかに優勢に立ったが、第5局でも第1日目の折衝の中でいつの間にか優位に立ているし、一旦そうなると不思議なことだが決してその優位を譲りそうにない雰囲気が生まれてくる。当方はPANDA-NETで着手の進行を譜面で見ているだけだが、度重なる対局で井山は張に対して自信をもってきたことを感じた。中盤では中央の一群の白石に根拠がなく、もう一方の石とも容易には連絡できず、二群の石がからまれそうで私ならたちまち潰れそうな局面だった。しかし井山は落着きはらって強く相手に迫る手を打ち、張の当然の反撃(ツケコシ)を受けてから十数手にわたる井山の打ちぶりは芸術のように感じた。まず相手の黒石の弱点を突き、相手に一杯まで手を渡し、ギリギリまで選択肢を残す。時期到来と見れば相手に乗じられないようにすかさず決める。変化の幅を拡げて再び相手の出方を見る。相手の動きに応じて今度は相手を選択の余地のない領域に追い込む。結果として二群の石は若干の地さえ持って鮮やかに連絡してしまった。この折衝は読みきりだったのに違いない。猟師がウサギを巧みにワナに追い込む技を見ているようだ。

 この気合を井山は第3局の執拗なコウの折衝の中でつかんだように思う。この第3局ではコウ争いでは日本一という評価がある張を向こうにまわして井山は一歩もひかず頑張った。この碁は始めから終わりまでコウ移しを含めてコウに次ぐコウの争いが続いた。中盤から終盤にかけて移り変わるコウの決着を眺めると、張はアジの悪いところに手を入れたりしているうちに相手だけにしっかり得点を稼がれてしまっている。いつの間にか井山が優勢に立っていたのである。

 第5局も張はいつの間にか井山にしてやられている。恐らく今後別の棋戦で張は井山と顔を合わせることと思うが、要領をつかんだ井山は何度も張を負かすことになるだろう。若くして張に圧勝した井山は今後日本のホープとして今まで負け続けてきた国際舞台で活躍して一矢も二矢もむくいてくれることを期待したい。(棋譜は第5局の総譜)


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